死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸

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第1章〜塔の上の指揮者〜

第10話〜迎撃フェーズ:セリアの布陣〜

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村の南端――。

 そこに広がるのは、わずかな起伏を持つ開けた草地。

 そして、その向こうには、森との境界線が迫っていた。

 

 木々が密生する森のふち――

 そこからの進攻を見越し、俺たちは地形を活かして布陣を整えた。

 

「報告を。現在の防衛配置を確認します」

 

 セリアの冷静な声が、塔の中に響く。

 

◇◆◇◆◇

 

◆ 地形と配置:

 

・村の南側は、森から続く緩やかな下り斜面。

・丘状の高台に〈監視塔〉がそびえ、ここが指揮と防衛の要。

・塔の1階には、非戦闘員と避難用の食料・水。

・正面、塔を守るように“タワーシールド”20枚で壁を形成。

 その背後に構えるのは、村の力自慢たち20名。

 鍛冶の弟子、開墾班、薪割りの男たち――頼れる連中だ。

・2階窓からは、弓兵20名が狙いを定める。

・投石器は塔の左右に5基ずつ、計10基を展開。調整済み、試し撃ち済み。

 

◇◆◇◆◇

 

 こうして配置された戦力は、全体として一つの迎撃線を形成していた。

 

 あらためて地形を見下ろして、俺は小さく息を吐く。

 

 塔のある高台からは、森の奥から村へと続く細い獣道がいくつも見えた。

 

 何も手を打たなければ、そこから好き放題に攻め込まれてしまう――。

 

 そんな状況を見越して、セリアが考えたのが――

 

 “侵攻ルートの制御”だった。

 

 

 森からの進入口を制限するため、

 自然地形と組み合わせる形で、簡易防衛柵や岩石を模した遮蔽物を複数箇所に設置。

 

 敵から見れば、ただの障害物にすぎない。

 だが、実はそれらの間隔は――

 

 **群れを絞って進ませるための、“計算された幅”**で作られていた。

 

 

「魔物は最短距離を好みます。ならば、その“最短”を誘導すればいい」

 

 

 セリアの言葉どおり、魔物たちはやがて、

 森から村へ向かって“あえて開けられた道”を一斉に進み始める。

 

 それは、セリアが想定した、まさにそのルートだった。

 

 

 投石器の角度と死角、弓兵の射線、タワーシールド隊の布陣――

 

 すべては、このルートに魔物を集め、

 迎撃効率を最大化するための誘導線だったのだ。

 

 この構想を実行できるのは――彼女しかいない。

 

(たった数日で、ここまで計算し尽くされた布陣を……)

 

 

 塔からその動きを見下ろしながら、

 俺は思わず小さく息を呑んだ。

 

 セリアは、ただ頭が切れるだけじゃない。

 

 戦場という“盤面”を読み切る、戦略家としての顔を――

 この布陣で、見せていた。

 

(だが、それでも――足りないかもしれない)

 前に出せる人数には、限りがある。
 弓兵たちは狩人中心とはいえ、訓練を始めたばかり。タワーシールド隊の大半も、実戦経験などない。

 本当なら、もっと人を前に出したい。
 だが――ケルベは言った。「この戦いは、勝ったあとがある」と。

 オルト、ユルグ、ケルベ。
 この村を立て直すために必要な三人は、死なせられない。
 だからこそ、彼らには後方支援――投石機の操作や、負傷者の応急処置に回ってもらっている。

 数だけ揃えても、村は守れない。
 “守ったあと”を考えた布陣だ。セリアの思惑は、そこまで貫かれていた。

 

 魔物の数は、優に五十を超える。

 

 今はまだ距離があるが、この数、この速さ……。

 防衛策のすべてが通用する保証はない。

 

 

 それでも、俺たちは備えた。

 

 訓練はした。投石のタイミングも、弓の再装填も。

 

 

 ――さあ、来い。


◆◇◆ 次回更新のお知らせ ◆◇◆
更新は【明日12:05】を予定しております。
ぜひ続きもご覧ください。

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続きもがんばって書いていきますので、また覗いていただけたら嬉しいです。

◆◇◆ 後書き ◆◇◆
お読みいただき、ありがとうございました!

今回は――静かな戦場で、仕掛けが整っていくお話でした。

魔物は、もう目前に迫っている。
けれど、戦いはまだ始まっていない。

いや、正確には――
もう“始まっている”のかもしれません。
この戦いは、剣を振るう前から決まっている。
セリアの読みと布陣、それを支える村人たちの汗と訓練。
すでに勝負は、見えない場所で動き出していました。

〈守る〉ということの、静かで熱い幕開けです。

◆次回:迎撃戦、開幕

塔に登る青年と、眼下に広がる“狩り場”。
村の命運を乗せて、ついに迎撃が始まります。

どうぞ、塔の上から一緒に見届けてやってください!

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