25 / 47
第1章〜塔の上の指揮者〜
第15話〜崩れかけた秤の上で〜
塔の最上階から見下ろす視界の中――
赤い光のような軌跡が、北東の森を抜けて突き進んでくる。
それは、崖地沿いの“隘路”。
本来なら、誰も通れないとされていた自然の防壁だった。
だが今、その道を――
魔物たちが、まるで風のように、一直線に駆けてくる。
もし抜かれれば、塔の一階。
そこに避難している、武器を持たない人々にも……牙が届いてしまう。
(……リリィ、無茶だけはするなよ……)
先ほど駆けていったばかりの、北東の裏手。
視線を向けたその先に、もうあの小さな影はなかった。
十体だ。
一人で止められるわけがない。
そんなことは、最初から分かっていた。
それでも、今、動かせるのは、一人だけだった。
苦渋の選択だった。
塔の真下――
タワーシールド隊が、必死に魔物を押しとどめているのが見える。
巨体に盾を叩きつけ、汗と声を振り絞りながら、なんとか持ちこたえていた。
(……あと数人、北東側に回せたら……)
そう考えた瞬間、盾の一枚が傾き、
魔物の爪がぎりぎりで食い込む。
仲間が叫び、即座に補助に入る――
(……ダメだ! セリアの言ってた通りだ。余裕なんて、ひとつもない)
前線の均衡は、すでに限界に近い。
誰か一人でも抜ければ、その隙から一気に崩れる。
塔の下が崩れれば、この防衛戦は終わる。
塔が破られれば、村全体が終わる。
――なら、投石器は?
視線を南に走らせる。
だが、答えはすぐに出た。
(無理だ……!
急造の投石器は南側に固定されてる!
砲台を回す機構なんて、最初から作られてない!)
そもそも、設置位置も方向も“南からの進攻”を想定して組んだものだ。
北東の敵なんて、狙えるわけがない。
焦りが喉を締めつける。
赤い軌跡が、視界の隅で――
北東の林をすり抜けていく。
どうする……どうする……!
このままじゃ、間に合わない。
裏手の小道を抜ければ、
塔の一階はすぐそこ――
武器を持たない人々が、逃げ場もなく身を寄せている。
――守りきれるのか?
このままでは――
「ルノス様」
不意に、背後から声が届いた。
振り返れば、吊った腕を庇いながら、セリアがすぐそこにいた。
「……あなたにしか、できないことはありませんか?」
その声は静かで、強い。
「私は、戦況を読むことはできます。
けれど、あなたは……それだけじゃない力を持っているはずです」
「……俺にしか、できないこと……?」
胸が、かすかにざわめく。
思い浮かべるのは、
あの遺跡で手にした力――
だが。
(いや、でも……)
それは、戦うための力じゃなかったはずだ。
地図のような情報ウィンドウ、
スキルの取得――
確かに普通ではないものだが、直接、攻撃できるわけじゃない。
(俺にできることなんて……本当に、あるのか?)
しばし黙ったまま、思考を巡らせる。
セリアは何も言わずに、ただじっとこちらを見ていた。
(でも……)
(本当に、何もないか?)
あのとき手に入れたスキルのひとつ。
当初は村づくりに使うつもりだった。
戦闘で使うなんて、考えたこともなかった。
(だが――使い方次第では……)
「……いや、待てよ」
小さく息を呑む。
もしかしたら、やれるかもしれない……
(完璧じゃなくてもいい。足止めさえできれば……!)
指先に、ほんのわずかに力が入る。
まだ、終わってない。
「セリア……ありがとう」
そう告げると、彼女は静かに微笑んだ。
何も聞かず、ただ、こちらの決意を受け止めてくれるように。
――俺にしかできないことが、確かにある。
戦えるわけじゃない。
けれど俺は――こんなところで、足を止めるわけにはいかない。
帝国にすべてを奪われて、生き残った理由さえ分からないまま、ここまで来た。
それでも、何のために立ち上がったかくらい、俺は忘れていない。
俺は這い上がる。
ここから。
この村から。
この手で築きあげた力で。
その先で、必ず――すべてを取り戻す。
あの夜、理不尽に奪われたものすべてに、報いを果たすために。
だから今は、立ち止まってる暇なんてない。
こんな段差で躓いている場合じゃない。
俺は――やってやる。
この村を、絶対に守りきる。
◆◇◆ 次回更新のお知らせ ◆◇◆
更新は【明日12:05】を予定しております。
ぜひ続きもご覧ください。
よろしければ「お気に入り登録」や「ポイント投票」「感想・レビュー」などいただけると、とても励みになります。
続きもがんばって書いていきますので、また覗いていただけたら嬉しいです。
◆◇◆ 後書き ◆◇◆
お読みいただき、ありがとうございました!
塔の上から見える景色は、味方の奮闘と、絶望の一歩手前でした。
動かせる兵力ゼロ。投石器は回らない。タワーシールド隊はギリギリ。
――どうするルノス!どうする主人公!
そんな中で、ようやく「主人公らしい」顔をしてくれました。
セリアに言われるまで完全に頭抱えてたけどな!
ありがとうセリア、今回も安定の有能。
◆次回:託された矢
彼に「託された矢」が、ちゃんと届くかどうかは――
あるひとりの“狩人”にかかっています。
そう。
次回は、【リリィ視点】でお届けします。
あの震える手が、どこまで届くのか。
一矢報いるその瞬間、どうぞお見逃しなく!
赤い光のような軌跡が、北東の森を抜けて突き進んでくる。
それは、崖地沿いの“隘路”。
本来なら、誰も通れないとされていた自然の防壁だった。
だが今、その道を――
魔物たちが、まるで風のように、一直線に駆けてくる。
もし抜かれれば、塔の一階。
そこに避難している、武器を持たない人々にも……牙が届いてしまう。
(……リリィ、無茶だけはするなよ……)
先ほど駆けていったばかりの、北東の裏手。
視線を向けたその先に、もうあの小さな影はなかった。
十体だ。
一人で止められるわけがない。
そんなことは、最初から分かっていた。
それでも、今、動かせるのは、一人だけだった。
苦渋の選択だった。
塔の真下――
タワーシールド隊が、必死に魔物を押しとどめているのが見える。
巨体に盾を叩きつけ、汗と声を振り絞りながら、なんとか持ちこたえていた。
(……あと数人、北東側に回せたら……)
そう考えた瞬間、盾の一枚が傾き、
魔物の爪がぎりぎりで食い込む。
仲間が叫び、即座に補助に入る――
(……ダメだ! セリアの言ってた通りだ。余裕なんて、ひとつもない)
前線の均衡は、すでに限界に近い。
誰か一人でも抜ければ、その隙から一気に崩れる。
塔の下が崩れれば、この防衛戦は終わる。
塔が破られれば、村全体が終わる。
――なら、投石器は?
視線を南に走らせる。
だが、答えはすぐに出た。
(無理だ……!
急造の投石器は南側に固定されてる!
砲台を回す機構なんて、最初から作られてない!)
そもそも、設置位置も方向も“南からの進攻”を想定して組んだものだ。
北東の敵なんて、狙えるわけがない。
焦りが喉を締めつける。
赤い軌跡が、視界の隅で――
北東の林をすり抜けていく。
どうする……どうする……!
このままじゃ、間に合わない。
裏手の小道を抜ければ、
塔の一階はすぐそこ――
武器を持たない人々が、逃げ場もなく身を寄せている。
――守りきれるのか?
このままでは――
「ルノス様」
不意に、背後から声が届いた。
振り返れば、吊った腕を庇いながら、セリアがすぐそこにいた。
「……あなたにしか、できないことはありませんか?」
その声は静かで、強い。
「私は、戦況を読むことはできます。
けれど、あなたは……それだけじゃない力を持っているはずです」
「……俺にしか、できないこと……?」
胸が、かすかにざわめく。
思い浮かべるのは、
あの遺跡で手にした力――
だが。
(いや、でも……)
それは、戦うための力じゃなかったはずだ。
地図のような情報ウィンドウ、
スキルの取得――
確かに普通ではないものだが、直接、攻撃できるわけじゃない。
(俺にできることなんて……本当に、あるのか?)
しばし黙ったまま、思考を巡らせる。
セリアは何も言わずに、ただじっとこちらを見ていた。
(でも……)
(本当に、何もないか?)
あのとき手に入れたスキルのひとつ。
当初は村づくりに使うつもりだった。
戦闘で使うなんて、考えたこともなかった。
(だが――使い方次第では……)
「……いや、待てよ」
小さく息を呑む。
もしかしたら、やれるかもしれない……
(完璧じゃなくてもいい。足止めさえできれば……!)
指先に、ほんのわずかに力が入る。
まだ、終わってない。
「セリア……ありがとう」
そう告げると、彼女は静かに微笑んだ。
何も聞かず、ただ、こちらの決意を受け止めてくれるように。
――俺にしかできないことが、確かにある。
戦えるわけじゃない。
けれど俺は――こんなところで、足を止めるわけにはいかない。
帝国にすべてを奪われて、生き残った理由さえ分からないまま、ここまで来た。
それでも、何のために立ち上がったかくらい、俺は忘れていない。
俺は這い上がる。
ここから。
この村から。
この手で築きあげた力で。
その先で、必ず――すべてを取り戻す。
あの夜、理不尽に奪われたものすべてに、報いを果たすために。
だから今は、立ち止まってる暇なんてない。
こんな段差で躓いている場合じゃない。
俺は――やってやる。
この村を、絶対に守りきる。
◆◇◆ 次回更新のお知らせ ◆◇◆
更新は【明日12:05】を予定しております。
ぜひ続きもご覧ください。
よろしければ「お気に入り登録」や「ポイント投票」「感想・レビュー」などいただけると、とても励みになります。
続きもがんばって書いていきますので、また覗いていただけたら嬉しいです。
◆◇◆ 後書き ◆◇◆
お読みいただき、ありがとうございました!
塔の上から見える景色は、味方の奮闘と、絶望の一歩手前でした。
動かせる兵力ゼロ。投石器は回らない。タワーシールド隊はギリギリ。
――どうするルノス!どうする主人公!
そんな中で、ようやく「主人公らしい」顔をしてくれました。
セリアに言われるまで完全に頭抱えてたけどな!
ありがとうセリア、今回も安定の有能。
◆次回:託された矢
彼に「託された矢」が、ちゃんと届くかどうかは――
あるひとりの“狩人”にかかっています。
そう。
次回は、【リリィ視点】でお届けします。
あの震える手が、どこまで届くのか。
一矢報いるその瞬間、どうぞお見逃しなく!
あなたにおすすめの小説
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
【完結】不遇スキル『動物親和EX』で手に入れたのは、最強もふもふ聖霊獣とのほっこり異世界スローライフでした
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺が異世界エルドラで授かったのは『動物親和EX』という一見地味なスキルだった。
日銭を稼ぐので精一杯の不遇な日々を送っていたある日、森で傷ついた謎の白い生き物「フェン」と出会う。
フェンは言葉を話し、実は強力な力を持つ聖霊獣だったのだ!
フェンの驚異的な素材発見能力や戦闘補助のおかげで、俺の生活は一変。
美味しいものを食べ、新しい家に住み、絆を深めていく二人。
しかし、フェンの力を悪用しようとする者たちも現れる。フェンを守り、より深い絆を結ぶため、二人は聖霊獣との正式な『契約の儀式』を行うことができるという「守り人の一族」を探す旅に出る。
最強もふもふとの心温まる異世界冒険譚、ここに開幕!
病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく
タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。
最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。
外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜
KeyBow
ファンタジー
この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。
人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。
運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。
ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
伝説の魔術師の弟子になれたけど、収納魔法だけで満足です
カタナヅキ
ファンタジー
※弟子「究極魔法とかいいので収納魔法だけ教えて」師匠「Σ(゚Д゚)エー」
数十年前に異世界から召喚された人間が存在した。その人間は世界中のあらゆる魔法を習得し、伝説の魔術師と謳われた。だが、彼は全ての魔法を覚えた途端に人々の前から姿を消す。
ある日に一人の少年が山奥に暮らす老人の元に尋ねた。この老人こそが伝説の魔術師その人であり、少年は彼に弟子入りを志願する。老人は寿命を終える前に自分が覚えた魔法を少年に託し、伝説の魔術師の称号を彼に受け継いでほしいと思った。
「よし、収納魔法はちゃんと覚えたな?では、次の魔法を……」
「あ、そういうのいいんで」
「えっ!?」
異空間に物体を取り込む「収納魔法」を覚えると、魔術師の弟子は師の元から離れて旅立つ――
――後にこの少年は「収納魔導士」なる渾名を付けられることになる。