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第1章〜塔の上の指揮者〜
第18話〜一秒の重み〜
作戦を伝えたあと、セリアは一度だけ視線を塔の外に向けた。
そして、静かに――けれど確かに、頷く。
「……時間との勝負ですね」
その一言を残し、
彼女はすぐさま踵を返した。
何も聞かず、ただ理解し、動く。
その背中には、あの凛とした気配が戻っていた。
……そこからは、秒単位の戦いだった。
俺は動かない。
いや――動けなかった。
監視塔の最上階に立つこの場所で、発動中のスキル〈狙撃の詩〉が、戦況をかろうじて支えている。
⸺
【指揮ユニット連結:完了】
【監視塔スキル:〈狙撃の詩〉発動中】
【効果:投擲命中率+15%/移動予測補正+10%】
⸺
マップ上には、味方の配置と敵の侵攻ルートが表示され、リアルタイムで更新されていく。
そして何より、塔の下で必死に応戦している仲間たちの命中精度が、今このスキルに支えられていた。
塔を離れれば、それが失われる。
命中率がほんのわずかでも下がれば――
今のギリギリの前線では、それが命取りになる。
だから俺は、ここを動けない。
ただ、仲間たちを信じて、目の前の盤面を見続けるしかなかった。
塔の最上階――風にきしむ構造材の音すら耳につく。
視界の隅、北東の地平には、なおも赤い光が列を成して迫っていた。
はやい……!
いや、速すぎる!
まるで一直線に引かれた線だ。
それがいま、村の裏手をかすめ、塔を目指して加速している。
(まだか……?)
喉がひりつく。
準備は、間に合うのか?
塔の下で動いているのは、戦いには不向きな者ばかり。
子供、老人、それに片腕を吊ったままのセリア――
だが、彼女なら彼らを束ね、作戦通りに準備を進めてくれるはずだ。
――問題は、それが間に合うかどうか、それだけだった。
(……だめだ、早すぎる!準備は……まだなのか?)
焦りに呼応するように、赤い軌跡が森を抜け、開けた丘陵を一直線に駆け抜けていく。
まだ距離はあるはずなのに、背筋に冷たいものが走る。
あれほどの速度なら、ほんのわずかで――
そのとき。
赤い光の列が――突然、乱れた。
直進していたはずの軌道が、一体、また一体と逸れていく。
列の中央で数体がもつれるようにぶつかり、その流れごと崩れ、止まった。
(……え?)
一瞬、理解が追いつかなかった。
だがそのとき、視界の端――丘の上に、ひとつだけ“青い点”があることに気づく。
心臓が、跳ねた。
(……リリィ……!)
あの場所にいたのは、彼女だけ。
崖道の途中、射線が通る、
ただひとつの丘――
そこから、正確に。列を断ち、速度を止めるためだけの、矢を放ったのだ。
敵が止まったのは偶然なんかじゃない。
あれは、リリィが作った“時間”だった。
胸が、熱くなった。
たった一人で。
たった一人で、あれをやったのか……。
思考が追いつかない。
それでも、胸の奥が叫んでいた。
あれは、彼女の手でつかんだ“勝機”だと。
だが――
視界の片隅で、“青い点”の傍に、赤い点が迫る。
(……まずい)
跳ね上がった心臓が、凍るように沈んだ。
(逃げろ、リリィ……)
願うように、見つめる。
次の瞬間、赤い点が進路を変える。
再び、塔を目指して動き出した。
彼女は……身を隠しきったのだろう。
マップの端、あの丘の上には、まだ“青い点”がある。
消えていない。
生きている――
あれは、間違いなくリリィだ。
安堵と同時に、現実が押し寄せてくる。
止まっていた列が、再び動き始めた。
この奇跡の猶予――無駄にはできない。
(まだか……セリア!)
――そのときだった。
塔の北側、下の方から、セリアの声が届いた。
「ルノス様! もうすぐ準備が整います!」
はっとして、塔の縁まで駆け寄る。
見下ろした先では、片腕を吊ったままのセリアが、しっかりとこちらを見上げていた。
そのすぐそばでは、村人たちが慌ただしく動いている。
運び、並べ、作戦の準備をしている様子が見える――
その動きには、切迫感があった。
(――間に合うかもしれない)
胸の奥に、かすかな光が灯る。
だがその刹那――
視界に飛び込んできたのは、マップ上の赤い軌跡ではない。
肉眼で捉えた、魔物の群れだった。
もう、そこまで来ている――!
喉が焼ける。手が汗ばむ。
準備ができているかどうかなんて、もはや意味はない。
やるしかない。やれなければ――終わる。
俺は息を詰め、目を閉じ、叫んだ。
「ここで止める! 頼んだぞ、みんな――!」
作戦、開始。
◆◇◆ 次回更新のお知らせ ◆◇◆
更新は【明日12時まで】を予定しております。
ぜひ続きもご覧ください。
よろしければ「お気に入り登録」や「ポイント投票」「感想・レビュー」などいただけると、とても励みになります。
続きもがんばって書いていきますので、また覗いていただけたら嬉しいです。
◆◇◆ 後書き ◆◇◆
読んでくださって、ありがとうございました!
「一秒の重み」――
タイトルの通り、今回は「たった一秒」に命を懸ける回でした。
丘の上のリリィ、塔の上のルノス、そして土の上のクルトたち。
誰かの“ほんの一瞬”が、誰かの“次の瞬間”に繋がっていく。
そんな連携が描けたらいいな、と思って書きました。
ちなみに作者はリアルで一秒どころか「1分前の通知」にも反応できないことがあり、
ルノスの集中力を見習いたい今日この頃です。
◆次回:絶望に杭を打て
戦場のど真ん中に立つのは、必ずしも兵士だけじゃない。
村人たちがどんな風に「守る戦い」を見せるのか――
ぜひ、次話も読みに来ていただけたら嬉しいです!
そして、静かに――けれど確かに、頷く。
「……時間との勝負ですね」
その一言を残し、
彼女はすぐさま踵を返した。
何も聞かず、ただ理解し、動く。
その背中には、あの凛とした気配が戻っていた。
……そこからは、秒単位の戦いだった。
俺は動かない。
いや――動けなかった。
監視塔の最上階に立つこの場所で、発動中のスキル〈狙撃の詩〉が、戦況をかろうじて支えている。
⸺
【指揮ユニット連結:完了】
【監視塔スキル:〈狙撃の詩〉発動中】
【効果:投擲命中率+15%/移動予測補正+10%】
⸺
マップ上には、味方の配置と敵の侵攻ルートが表示され、リアルタイムで更新されていく。
そして何より、塔の下で必死に応戦している仲間たちの命中精度が、今このスキルに支えられていた。
塔を離れれば、それが失われる。
命中率がほんのわずかでも下がれば――
今のギリギリの前線では、それが命取りになる。
だから俺は、ここを動けない。
ただ、仲間たちを信じて、目の前の盤面を見続けるしかなかった。
塔の最上階――風にきしむ構造材の音すら耳につく。
視界の隅、北東の地平には、なおも赤い光が列を成して迫っていた。
はやい……!
いや、速すぎる!
まるで一直線に引かれた線だ。
それがいま、村の裏手をかすめ、塔を目指して加速している。
(まだか……?)
喉がひりつく。
準備は、間に合うのか?
塔の下で動いているのは、戦いには不向きな者ばかり。
子供、老人、それに片腕を吊ったままのセリア――
だが、彼女なら彼らを束ね、作戦通りに準備を進めてくれるはずだ。
――問題は、それが間に合うかどうか、それだけだった。
(……だめだ、早すぎる!準備は……まだなのか?)
焦りに呼応するように、赤い軌跡が森を抜け、開けた丘陵を一直線に駆け抜けていく。
まだ距離はあるはずなのに、背筋に冷たいものが走る。
あれほどの速度なら、ほんのわずかで――
そのとき。
赤い光の列が――突然、乱れた。
直進していたはずの軌道が、一体、また一体と逸れていく。
列の中央で数体がもつれるようにぶつかり、その流れごと崩れ、止まった。
(……え?)
一瞬、理解が追いつかなかった。
だがそのとき、視界の端――丘の上に、ひとつだけ“青い点”があることに気づく。
心臓が、跳ねた。
(……リリィ……!)
あの場所にいたのは、彼女だけ。
崖道の途中、射線が通る、
ただひとつの丘――
そこから、正確に。列を断ち、速度を止めるためだけの、矢を放ったのだ。
敵が止まったのは偶然なんかじゃない。
あれは、リリィが作った“時間”だった。
胸が、熱くなった。
たった一人で。
たった一人で、あれをやったのか……。
思考が追いつかない。
それでも、胸の奥が叫んでいた。
あれは、彼女の手でつかんだ“勝機”だと。
だが――
視界の片隅で、“青い点”の傍に、赤い点が迫る。
(……まずい)
跳ね上がった心臓が、凍るように沈んだ。
(逃げろ、リリィ……)
願うように、見つめる。
次の瞬間、赤い点が進路を変える。
再び、塔を目指して動き出した。
彼女は……身を隠しきったのだろう。
マップの端、あの丘の上には、まだ“青い点”がある。
消えていない。
生きている――
あれは、間違いなくリリィだ。
安堵と同時に、現実が押し寄せてくる。
止まっていた列が、再び動き始めた。
この奇跡の猶予――無駄にはできない。
(まだか……セリア!)
――そのときだった。
塔の北側、下の方から、セリアの声が届いた。
「ルノス様! もうすぐ準備が整います!」
はっとして、塔の縁まで駆け寄る。
見下ろした先では、片腕を吊ったままのセリアが、しっかりとこちらを見上げていた。
そのすぐそばでは、村人たちが慌ただしく動いている。
運び、並べ、作戦の準備をしている様子が見える――
その動きには、切迫感があった。
(――間に合うかもしれない)
胸の奥に、かすかな光が灯る。
だがその刹那――
視界に飛び込んできたのは、マップ上の赤い軌跡ではない。
肉眼で捉えた、魔物の群れだった。
もう、そこまで来ている――!
喉が焼ける。手が汗ばむ。
準備ができているかどうかなんて、もはや意味はない。
やるしかない。やれなければ――終わる。
俺は息を詰め、目を閉じ、叫んだ。
「ここで止める! 頼んだぞ、みんな――!」
作戦、開始。
◆◇◆ 次回更新のお知らせ ◆◇◆
更新は【明日12時まで】を予定しております。
ぜひ続きもご覧ください。
よろしければ「お気に入り登録」や「ポイント投票」「感想・レビュー」などいただけると、とても励みになります。
続きもがんばって書いていきますので、また覗いていただけたら嬉しいです。
◆◇◆ 後書き ◆◇◆
読んでくださって、ありがとうございました!
「一秒の重み」――
タイトルの通り、今回は「たった一秒」に命を懸ける回でした。
丘の上のリリィ、塔の上のルノス、そして土の上のクルトたち。
誰かの“ほんの一瞬”が、誰かの“次の瞬間”に繋がっていく。
そんな連携が描けたらいいな、と思って書きました。
ちなみに作者はリアルで一秒どころか「1分前の通知」にも反応できないことがあり、
ルノスの集中力を見習いたい今日この頃です。
◆次回:絶望に杭を打て
戦場のど真ん中に立つのは、必ずしも兵士だけじゃない。
村人たちがどんな風に「守る戦い」を見せるのか――
ぜひ、次話も読みに来ていただけたら嬉しいです!
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