8 / 103
8. トーストが美味しい
しおりを挟む
「リーナはトーストには何を付ける?」
「えっ? バターとジャムかな」
「ちょっと、待っていて」
そう言うとお兄様はフライパンに食パンを乗せた。
「えっ、待って。それ食パンみたいだけど、この世界のパンは丸パンか平べったいパンだよね」
「そうだけど少し待っていて」
お兄様はフライパンで食パンを両面焼くと、お皿に乗せてジャムとバターを添えて出してくれた。
「トースターがないからフライパンで焼いたけど、普通に美味しいよ。リンゴとブドウのジュースも貰っていたから煮詰めてジャムにしたんだ。液体バターも出るようになって良かったよ。まずバターを付けてから食べてみて」
恐る恐るトーストを手に取ってかじってみた。ああ、私の知っているトーストだ。表面にナイフで切り込みを入れているからそこにバターがトロリと溶けて黄金色。
ジャムもジュースから作っているけど生絞りだからトロントロンとして美味しい。
「美味しい」
「うん。美味しいね」
私たちは二人で黙々とトーストを3枚ずつ食べた。本当に日本のパンは美味しいと思う。
お兄様の加護『パンの木』は5歳の時に発現してその時は一日に一本だけ生えて、実も一つだけだったけど年齢が上がったせいか一日に一本だけど実は五つ成っていた。
それを頑張って、というかパンの実を美味しいパンにお願いします。と毎日強く願ってみたら……何ということでしょう。
パンの実の中身が食パン。お兄様が思い浮かべた日本で朝食に食べていた5枚切りの食パンが出てきてびっくり。
日本ではスーパーで売っていたありきたりな食パンだけど、この世界でこの食パンは貴重品だと思う。
私は時間経過がなく12畳くらいの広さのアイテムボックスを『隠蔽』の加護、レベル4のおかげで手に入れていた。だので、お兄様が生やしたパンの実から食パンを取り出してせっせとアイテムボックスに保存した。
「私の加護とお兄様の加護で食べ物に困らないから、これで私たちの加護がバレル前に逃げ出せるかな」
「うん。12歳までには何とかしたいね。多分、リーナの誕生日が7月7日だから7月の25日が加護の儀だと思うんだ。俺が5月生まれだから7月に合わせるはず。だから12歳の7月7日が過ぎたらすぐに逃げだそう」
加護の儀は7月と1月の25日に行われる事になっている。その日は貴族も平民も一緒に加護の儀を受けてそこから先の運命が決まってしまう。
15歳が成人で平民はその年から独立して、職人に弟子入りしたり各ギルドに所属して仕事を始める。農家の場合はそのまま家で働く事が多いけど、本人が希望したら家を出る事ができる、という事になっている。
ただ、個々に事情があって働きたい場合、冒険者ギルドだけは12歳で登録ができる。一応、職業の自由はある事になっているから。
だので、時々貴族の子でも思ったような加護が得られず出奔する人もいて、そういう人の子孫からたまに良い加護を得る平民が出ているのかもしれない、と庭師たちが雑談で話していた。
庭師もあまり別館に来なくて下男がすごく急いで見えるところだけ草刈りしたりしているから、私たちの住んでいる辺りは庭というよりは自然の森のようになっている。
もちろん、私は放置されているからお兄様と一緒にご飯を食べているし、時々ピクニックをしたり野外バーべキューなんかもしている。
調味料は塩だけなのでレモン果汁でアクセントを付けているけど、焼き肉のタレとか『液体』の加護で出てくるといいなあとお兄様とお話している。平和でのほほんとした今の暮らしは乳母たちの時折に振るわれる暴力さえなければ悪くないと思う。
お勉強も年齢に応じた教科書がお兄様のところに届くからそれでこの世界の常識を学んでいる。私の家庭教師は月に一度だけマナーを徹底的に教えてくれるけど、それ以外は放置で乳母とお茶を飲んでいる。
「このお嬢様、教えるとすぐ覚えるし、きちんと勉強を教えたらすごくできる子になるんじゃない?」
「できる子は扱いにくいわ。読み書きだけ最低限出来ればいいのよ。どうせ家の嫁になるし、誰がご主人様だかしっかり今の内から教えておかないと」
「ご主人様って……嫁でしょう?」
「嫁は使用人のようなものよ。私は家付きだし旦那はならず者だけど用心棒としてはとても役に立つからいいけど主導権は私が握っているの。とにかく、この子は貴族の血をひいているのは間違いないから沢山子供を産ませて加護持ちを手に入れるわ。そして、いずれは成り上がる」
「あきれた。成り上がるって貴族にでもなる気?」
「まあね。私に付いてくるといい思いができるわよ」
「それはいいわね」
なんて話を聞いてあきれているリーナです。
確かに小さい頃から暴力振るわれているし、なんでもハイハイと言わないと怖いから言うなりになっているけど、心の中では罵倒しているんだよ。でも、もし私の前世の記憶がなかったら洗脳状態でひたすら怯えて言いなりになっていたかもしれない。
記憶が戻って本当に良かった。
「えっ? バターとジャムかな」
「ちょっと、待っていて」
そう言うとお兄様はフライパンに食パンを乗せた。
「えっ、待って。それ食パンみたいだけど、この世界のパンは丸パンか平べったいパンだよね」
「そうだけど少し待っていて」
お兄様はフライパンで食パンを両面焼くと、お皿に乗せてジャムとバターを添えて出してくれた。
「トースターがないからフライパンで焼いたけど、普通に美味しいよ。リンゴとブドウのジュースも貰っていたから煮詰めてジャムにしたんだ。液体バターも出るようになって良かったよ。まずバターを付けてから食べてみて」
恐る恐るトーストを手に取ってかじってみた。ああ、私の知っているトーストだ。表面にナイフで切り込みを入れているからそこにバターがトロリと溶けて黄金色。
ジャムもジュースから作っているけど生絞りだからトロントロンとして美味しい。
「美味しい」
「うん。美味しいね」
私たちは二人で黙々とトーストを3枚ずつ食べた。本当に日本のパンは美味しいと思う。
お兄様の加護『パンの木』は5歳の時に発現してその時は一日に一本だけ生えて、実も一つだけだったけど年齢が上がったせいか一日に一本だけど実は五つ成っていた。
それを頑張って、というかパンの実を美味しいパンにお願いします。と毎日強く願ってみたら……何ということでしょう。
パンの実の中身が食パン。お兄様が思い浮かべた日本で朝食に食べていた5枚切りの食パンが出てきてびっくり。
日本ではスーパーで売っていたありきたりな食パンだけど、この世界でこの食パンは貴重品だと思う。
私は時間経過がなく12畳くらいの広さのアイテムボックスを『隠蔽』の加護、レベル4のおかげで手に入れていた。だので、お兄様が生やしたパンの実から食パンを取り出してせっせとアイテムボックスに保存した。
「私の加護とお兄様の加護で食べ物に困らないから、これで私たちの加護がバレル前に逃げ出せるかな」
「うん。12歳までには何とかしたいね。多分、リーナの誕生日が7月7日だから7月の25日が加護の儀だと思うんだ。俺が5月生まれだから7月に合わせるはず。だから12歳の7月7日が過ぎたらすぐに逃げだそう」
加護の儀は7月と1月の25日に行われる事になっている。その日は貴族も平民も一緒に加護の儀を受けてそこから先の運命が決まってしまう。
15歳が成人で平民はその年から独立して、職人に弟子入りしたり各ギルドに所属して仕事を始める。農家の場合はそのまま家で働く事が多いけど、本人が希望したら家を出る事ができる、という事になっている。
ただ、個々に事情があって働きたい場合、冒険者ギルドだけは12歳で登録ができる。一応、職業の自由はある事になっているから。
だので、時々貴族の子でも思ったような加護が得られず出奔する人もいて、そういう人の子孫からたまに良い加護を得る平民が出ているのかもしれない、と庭師たちが雑談で話していた。
庭師もあまり別館に来なくて下男がすごく急いで見えるところだけ草刈りしたりしているから、私たちの住んでいる辺りは庭というよりは自然の森のようになっている。
もちろん、私は放置されているからお兄様と一緒にご飯を食べているし、時々ピクニックをしたり野外バーべキューなんかもしている。
調味料は塩だけなのでレモン果汁でアクセントを付けているけど、焼き肉のタレとか『液体』の加護で出てくるといいなあとお兄様とお話している。平和でのほほんとした今の暮らしは乳母たちの時折に振るわれる暴力さえなければ悪くないと思う。
お勉強も年齢に応じた教科書がお兄様のところに届くからそれでこの世界の常識を学んでいる。私の家庭教師は月に一度だけマナーを徹底的に教えてくれるけど、それ以外は放置で乳母とお茶を飲んでいる。
「このお嬢様、教えるとすぐ覚えるし、きちんと勉強を教えたらすごくできる子になるんじゃない?」
「できる子は扱いにくいわ。読み書きだけ最低限出来ればいいのよ。どうせ家の嫁になるし、誰がご主人様だかしっかり今の内から教えておかないと」
「ご主人様って……嫁でしょう?」
「嫁は使用人のようなものよ。私は家付きだし旦那はならず者だけど用心棒としてはとても役に立つからいいけど主導権は私が握っているの。とにかく、この子は貴族の血をひいているのは間違いないから沢山子供を産ませて加護持ちを手に入れるわ。そして、いずれは成り上がる」
「あきれた。成り上がるって貴族にでもなる気?」
「まあね。私に付いてくるといい思いができるわよ」
「それはいいわね」
なんて話を聞いてあきれているリーナです。
確かに小さい頃から暴力振るわれているし、なんでもハイハイと言わないと怖いから言うなりになっているけど、心の中では罵倒しているんだよ。でも、もし私の前世の記憶がなかったら洗脳状態でひたすら怯えて言いなりになっていたかもしれない。
記憶が戻って本当に良かった。
11
あなたにおすすめの小説
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます
かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~
【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】
奨励賞受賞
●聖女編●
いきなり召喚された上に、ババァ発言。
挙句、偽聖女だと。
確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。
だったら好きに生きさせてもらいます。
脱社畜!
ハッピースローライフ!
ご都合主義万歳!
ノリで生きて何が悪い!
●勇者編●
え?勇者?
うん?勇者?
そもそも召喚って何か知ってますか?
またやらかしたのかバカ王子ー!
●魔界編●
いきおくれって分かってるわー!
それよりも、クロを探しに魔界へ!
魔界という場所は……とてつもなかった
そしてクロはクロだった。
魔界でも見事になしてみせようスローライフ!
邪魔するなら排除します!
--------------
恋愛はスローペース
物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。
失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~
紅月シン
ファンタジー
聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。
いや嘘だ。
本当は不満でいっぱいだった。
食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。
だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。
しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。
そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。
二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。
だが彼女は知らなかった。
三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。
知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。
※完結しました。
※小説家になろう様にも投稿しています
聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!
さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ
祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き!
も……もう嫌だぁ!
半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける!
時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ!
大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。
色んなキャラ出しまくりぃ!
カクヨムでも掲載チュッ
⚠︎この物語は全てフィクションです。
⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!
その聖女は身分を捨てた
喜楽直人
ファンタジー
ある日突然、この世界各地に無数のダンジョンが出来たのは今から18年前のことだった。
その日から、この世界には魔物が溢れるようになり人々は武器を揃え戦うことを覚えた。しかし年を追うごとに魔獣の種類は増え続け武器を持っている程度では倒せなくなっていく。
そんな時、神からの掲示によりひとりの少女が探し出される。
魔獣を退ける結界を作り出せるその少女は、自国のみならず各国から請われ結界を貼り廻らせる旅にでる。
こうして少女の活躍により、世界に平和が取り戻された。
これは、平和を取り戻した後のお話である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる