辺境伯の5女ですが 加護が『液体』なので ばれる前に逃げます。

サラ

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25. 波乱のお茶会

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お茶会当日。
 今日はとてもいい天気。
 まさにお茶会日和といえるでしょう。
 ……。

 タウンハウスのお姉さま達はものすごく気合の入ったオシャレをしていた。
 ちょっと怖い。

 お昼の軽いランチを兼ねたお茶会だけど、皆さま、それぞれのお家の魔法属性に合わせたアフタヌーンドレスをお召しになっていて、色とりどりなのにどこか統一感があるように見える。

 それもそのはず、服飾関係を一手に握っている侯爵家の令嬢、4年生のファリア・グラース様がお茶会までの僅かな期間に8人全員のアフタヌーンドレスを手配されたのだ。基本のデザインを統一した上に個々人の個性をさりげなく散りばめて。

 テーマを決めてそれに合わせてお茶会を開いた、という雰囲気がする。
 私もそれに合わせてドレスを誂えていただいた。青と白のグランデーションになっていて歩く度に重なった裾がヒラリと揺れる。
 とても綺麗。

 タウンハウスの広間の入り口に私たち8人は左右に4人ずつ並んでいた。先頭はエーアリア様と私。一応主催者だから。
 もう一人の主催者みたいになっているラクアート様はお茶会の始まる時間になっても来なかった。
 あの方は遅刻の常習者らしい。

 学生会の皆さまはアルファント殿下を先頭に一緒に来られたので、まずは主催者である私がご挨拶をして殿下をお茶会のテーブルにご案内した。
 他の方々もエーアリア様と左右からごく自然とお姉さま方が先導してお茶会のテーブルにつかれ、また新ためてお茶会の開催を告げて穏やかに歓談がはじまった。

 お茶の美味しさとフォスキーア家のチョコレートにあちこちから感嘆の声が上がっていた。美味しいお茶は前もって用意していた私の『液体』の加護による水のせいかもしれない。
 レベルが上がって「美味しい水」「紅茶に最適な美味しい水」が出せるようになったのだ。
「紅茶に最適な水」ってどんな水だか良く判らないけど紅茶を飲む前に「紅茶に最適な美味しい水」をチョイスして水に魔法をかければその紅茶にあわせた美味しい水になる。

「さすがは水魔法の使い手でございますね」
 とソルムテラ家の侍女に褒められたけど私の加護は『水魔法』じゃなくて『液体』なんです。

 合コンの始まりはとても順調である。ラクアート様のお席にはアレンジメントの花が置かれて空席が目立たないようになっている。誰もラクアート様が居ないことに何も言わない。

 そのうちにお庭に備え付けられたグリルから美味しそうなお肉のにおいが漂ってきた。
 今回は男性が多いので魔牛の幼体を丸ごとお庭で炙って、それを薄焼きパン、チャパティみたいなものだがそれに挟んでタレをつけて食べるモノや串焼きのお肉なども用意した。

 殿下たちがお肉のにおいに少しソワソワしているようだったのでお庭の東屋にお誘いした。
 設えたテーブルに着くと給仕の方がお肉を持ってきたので、それとオードブルを選んでいただく。とても美味しい。アルファント殿下も笑顔で食事の美味しさを褒めてくれる。

 お兄様のパンの木もいくつか生やしていてそこから熱々のパンを取り出してチーズを乗せて食べている学生会の人は楽しそうだ。

 このまま何事もなくお茶会が終わるといいなと思ったところへ、ラクアート様がやってきた。

「アルファント殿下、ごきげんよう。楽しまれていますか。本日は私の招待に答えていただきありがとうございました」
「殿下ぁ、いらしてくださるなんて、フルー、嬉しいです。楽しんでくださいね」

 ラクアート様、今更。遅れてきて何をおっしゃるのだか。ピンクさんもあなたは関係ないでしょうに。
 エーアリア様がピクリと眉を顰め、ラクアート様に声をかけた。

「ラクアート様、ごきげんよう。このタウンハウスは基本的に高位貴族、もしくはその関係者が利用できるようになっておりますのよ」
「ああ、久しぶり。ミス・エーアリア。相変わらずお美しい」

 ラクアート様は驚いた事にエーアリア様に対して紳士の礼をとった。
 この学園では女性は他の方を様付けでお呼びするが、男性は女性に呼びかける時はミス、もしくは名前の後に嬢をつけて呼ぶのが慣例となっている。たいていの場合、貴族令嬢にはミスを付けて下位もしくは平民には嬢を付ける。
 男性どうしは親しい仲では呼び捨てだが、目上には様、下位には君付けをしているようだ。

「お連れになっているその方はどなたですの? 私、リーナ様から招待客のリストは渡していただきましたが、お招きした中にその方はいらっしゃらないようでしたが」
「やだぁ、オバサン、怖い! このお茶会はあたしがリーナに開くようにいったのよ。つまり、あたしが主催者のようなものね」
「招待状にはお名前がないようでしたが」
「やだ! だから言ったじゃない、ラクアート。わかっている人ばかりじゃないって」
「あっ、フレー、ちょっと黙ってくれるか! 色々事情があるんだ」
「もう、やだ~。ねぇ、殿下ぁ~」

 フレグランス嬢は殿下に向かって甘えた声をかけた。
 うっ、よくそんな声が出せる、と私が息を飲んだところで

「なんて下品な。ありえませんわ。ラクアート様! いくら愛人候補でもこんな人をどこでも連れ歩くものではありません。ウオーター家の恥ですよ」

 エーアリア様がラクアート様をたしなめた。強い。

「ああ、いや。これは」
 ラクアート様、たじたじである。

「愛人ってなによ! あたしは正妻になるのよ。リーナは側妃!」
「ああ、フレー、それはまだ」
「なによ! ラクアート。はっきり言ってやってよ。このオバサンに」
「私はまだ15歳です」
「二つも上ならオバサン!」

 どんな理屈なんだか。ああ、もうどうしよう。

「あなたは男爵家の養女でしょう。公爵家の正妻になんてなれるわけがないの。男爵家の養女が高位貴族の正妻だなんてそれこそ、聖女でもなければ無理な話でしてよ」
「あたしは聖女になるの!」
「夢物語ですわね。魔王の復活がなければ聖女は生まれませんわ」
「魔王が生まれても助けてあげないから!」
「あなたの助けなんていりません!」
「言ったわね。魔王は復活するわ。そして、あたしは聖女になるのよ。助けて! って言っても知らないんだから!」
「ええ、結構よ」

 なおも言いつのろうとするフレグランス嬢の口を、ラクアート様は今更ながら手で塞ぎ

「彼女の体調が良くないようですので失礼します」
 と帰ろうとしたがその背中に、

「ラクアート様、愛人の躾けはきちんとされておきます様に」

 エーアリア様は追い打ちをかけた。
 強い。
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