辺境伯の5女ですが 加護が『液体』なので ばれる前に逃げます。

サラ

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26. 王子様とアンコ

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 東屋は少し奥まったところにあったので幸い他の人にはこのスキャンダル? は目につかなかったようだ、と思いたい。
 誰もこちらを気にしてないように見える。
 私たちも何事もなかったようにそのままお茶会を続けた。

「リーナ様、今回のお茶会は成功ですわ。良かったですわね」
「ありがとうございます。エーアリア様のおかげですわ。でも、ラクアート様は良かったのでしょうか」
「気になさる事はありませんわ。少し釘を刺しておきましたので、マシになるといいのですけど。あのピンクの愛人候補は排除してもよろしいですわね」
「本当にラクアートはあのピ、ゴホン、フレグランス嬢に会って変わってしまったから、私もどうしたものかと思っていたんだ」

 アルファント殿下は困ったような顔していた。ラクアート様は学年代表だけど大して用事がない時でも学生会に出入りしているらしい。本来は生徒会長補佐にはラクアート様がなるはずだったけれど、1年生の最初からピンクの彼女を伴っていたせいで、学生会入りは見送られた。

 古くからの友人や幼馴染も距離を置いているそうだ。フレグランス嬢は異性に対してものすごく距離が近いので 殿下や学生会の人たちは戸惑いと困惑で遠巻きにしている状態だと言う。

「あら、はっきりと迷惑だ、とおっしゃればいいのに」
「彼女、人の話を聞かないんだ。都合のいい単語だけを見事に拾うから、なるべく関わらないようにしている。ラクアートが連れてこなければいいんだが、あの二人はいつも一緒にいるし本当に困っている。最近はラクアートも人の話を聞かなくなってきたし。あいつ、魅了でもされているんじゃないか」
「本当にそうかもしれませんよ。今度、大神官様に来ていただきましょうか」
「いや、そんな迷惑をかけるような……。それより、ラクアートだけを大神殿に呼び出したほうがいいかもしれないな」
「そうですわね。ご実家経由でラクアート様だけを呼び出すといいかもしれません」
「それにしても、今回は助かった。ラクアートも君に対しては大人しい」
「まぁ、ほほほ。幼馴染と言いつつ、できの悪い弟のようでしたから」

 エーアリア様は王妃様の姪にあたり、アルファント殿下とラクアート様、騎士団長子息のトーリスト様は幼い頃、よく一緒に遊んでいたそうだ。
 そして、エーアリア様は隣国の王太子妃に内定していて卒業と共に婚約が発表される。
 その事は高位貴族のなかでは周知されているので、ラクアート様であってもエーアリア様に対しては同じ公爵家であり、将来の隣国王妃という事もあって敬意を払わないわけにはいかないようだ。

 お腹も落ち着いたので私たちは他の方々とお話をするために立ち上がった。
 アルファント殿下はお茶会に参加している他のお姉さま方全員と談笑し、他の参加者の方々とも万遍なく交友を深めているようだった。

 フォスキーア家のチョコレートが人気の為、チョコレートテーブルを拵えているので、そこでチョコレート職人が提供するチョコレートコーティングに話題が集まっている。
 フルール様も控えめながらそこで交友を重ねているようだ。

 私とお兄様もパンの木の実をふるまったりお茶の美味しさを褒められたり、色々な方と友好的に過ごす事ができた。

 少し、冷たいお水が飲みたくなったので席を外し厨房に行くと、そこには開け放たれた戸棚の前にアルファント殿下がいた。
 そして、扉があく音に思わず振り向いた殿下は口にドラ焼きを咥えている。

「あっ?!」
「えっ!?」

 私とお兄様が思わずこぼした驚きの声にアルファント殿下はバツの悪そうな顔をしてそのまま、ドラ焼きを口に押し込んだ。

「殿下。お行儀が悪いですよ。申し訳ありません。勝手に戸棚を漁るような真似をいたしまして」
「いえ、それは構いませんが、お毒見はなされたのですか?」
「いえ、そんな暇もなく、このお菓子? ですか、これを見たとたんに、いきなり殿下がパクッと」
「いや、これはドラ焼きだ。懐かしく美味しい」

 お口をモゴモゴさせながらアルファント殿下がお話されたが、殿下は涙目だった。そして、涙が一筋、スーッと流れ出た。

「殿下! ひょっとして辛かったとか? 大丈夫ですか?」
 侍従の方が慌てて声をかけた。

「いや、大事無い。懐かしくて思わず」
「懐かしいですか?」
「ああ、どんなに探しても小豆は手に入らなかった。私はアンコが食べたくてたまらなかったのに。これはどこで手に入れたのか教えてほしい」

 私とお兄様は顔を見合わせた。ドラ焼きというからには殿下は転生者だ。ただ、このアンコは私の『液体』のスキルから出ているからおいそれと言うわけにはいかない。

 どうしよう。

 と思ったらおもむろにお兄様がパンの木を生やした。
 そして、実を取るとパカンと両手で割った。そこには何という事でしょう。熱々大き目サイズのアンパンがあるではありませんか。
 私の『液体』の加護で出したほうが早いので最近は食べてなかったけど、そういえばお兄様のレベル3はアンパンだった。

「おお、これはアンパン、アンパンだ」

 アルファント殿下は見ただけで分かったようだ。まぁ、この流れでパンを出せばアンパンが出てくると思われるかもしれないけど。
 嬉しそうにアンパンを受け取った殿下はパンを二つに割るとフーっと息を吹きかけ、食べようとして侍従に取り上げられた。

「殿下、食べてはいけません。未知の食べ物です!」
「これはアンパンだ。アンコの入ったパンだよ。パンの木の加護って素晴らしいものだ」
「そうですか。それは良かったですね。ところで、このパンはいつでも出せるのでしょうか?」

 私とお兄様は又、顔を見合わせた。

「いつでもっていうか、このパンの事はまだ秘密にしているんです」
「そうでしょうね。このパンは普通のパンと違いますから、信じられないくらい美味しいです」
「あっ、何食べてんだよ」

 殿下は慌てて侍従から半分のパンを奪い返すと口に入れ、

「うーん。うまい」

 と呟くと急いで残りを食べてしまった。殿下の侍従も殿下から取り上げたパンをいつの間にか上品に食べてしまっていた。
 パンの話は内緒にしておく代わりに、時々差し入れをするという事で話が付いた。

 アルファント殿下は上機嫌だった。

 アンコの好きなアルファント殿下、ひょっとして乙女ゲームの事を何か知っているかもしれない。
 知っているといいなぁ。
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