40 / 103
40. ピンクさんとノヴァ神官
しおりを挟む「寒い時の豚マンって美味しいよな」
「お兄様、豚マンなの? 私は肉マンって呼んでいたわ」
「豚マンと肉マンの違いってある? 俺んちでは豚マンって呼んでいたから、豚マンと肉マンは単に好き好きで呼んでいるかと思ってた」
「中身は同じよね。もっともこの肉まんは魔獣の肉だから豚マンではないわ」
「そうだな。肉マンだ。でも、カレーマンはカレーマンだ」
「本当、お兄様ってカレーが好きねぇ」
「リーナの出してくれるカレーって、家庭の味のカレーもあるし、レストランの高級なカレーもあるし、本場のカレーもあるから色々な味が楽しめて美味しい。以前食べた事のある味を再現できるなんて本当に素晴らしい加護だ。もし、俺だったら給食と学食のカレーか家のカレーぐらいしか再現できないし、やっぱり経験って大事だと思う。でも、アルファント殿下がパイに入っていたカレーがカレーパンと違うと言いだしたのは困った」
「結局、パイに入れる為に調味料を足したって事で納得したんでしょう? 男の人は料理をしないからその辺で誤魔化せるけど、これからは気を付けないといけないわ。この肉マンのカレーもパイと同じ味のカレーにしたけど、やっぱり、殿下に持っていくの?」
「もちろん。殿下、カレーが好きだから。でも、肉マンもカレーマンも好きだと思うんだ。殿下にパンを持っていくとすごく喜ぶからこっちまで嬉しくなってくるよ。クロワッサンのサンドもかなり好きみたいだし、ぶどうパンも懐かしいって喜んでいた」
お兄様の出すパンはこの世界のパンと比べるとかなり美味しいので知っている人には凄い人気になっている。
レベルごとに色んなパンが出せるけど、その辺は内緒にしてごく一部の人だけに渡しているけど、お礼にお金を貰えるようになった。
最初は断ったけど結局市販のパンよりかなり高い値段設定で売る事になった。陛下とか殿下とか学生会の面々に。
つまり、顧客限定のパン屋をやっているようなものである。
ノヴァ神官は週3の割合でやって来る。
侍女の仕事というのは実際にはお仕えするお嬢様のお世話だし、お茶を入れたり着替えを手伝ったり、細々した用事を代わりに片付けたりするけれど、浄化の魔石があるし清掃も定期的に業者が入るので特にする事はない。
私は一応、お嬢様だけど、放置されていたので自分の事は自分で出来る。お茶会の時のドレスはフルール様の侍女が態々着付けに来てくれる。フルール様は相変わらず、空気のような存在感だけど私とは仲よくしてもらっているし、チョコレートの差し入れも度々頂いているのが嬉しい。
代わりに私の作った焼き菓子を差し上げるのだが、それがとても美味しいと喜ばれる。
『液体』の加護でだした材料がこの世界で手に入るものよりレベルが高いせいとは思うけど、お菓子作りの才能があると評判になっているそうだ。
で、ノヴァ神官が何をしているかというと、主に聖女と魔王についてのお話である。
資料を持ってきて、過去の魔王封印の話とか聖女の加護の使い方とか詳しく話してくれる。
「ねえ、お兄様、何だか聖女に成る為のお勉強をしているような気がするんだけど」
「なんだ、今頃、気がついたのか。いつ、聖女に成ってもいいように少しづつ知識を学んでいるらしいよ。それに監視と護衛も兼ねているみたいだ。リーナ、チートだから護衛なんていらないのに」
「何、それ! 聞いてないんですけど」
「えっ、だってノヴァ神官がわざわざやって来るなんて他に考えられないじゃないか。それも女装までして」
「えっー」
迂闊だった。確かにわざわざ王宮の特別な神官が侍女に変装して来るなんて、聖女になるのを期待されているとしか思えない。でも、聖女になれ、とは言われない。あくまでも私の意志を尊重してくださるらしい。
その見えない期待が重い。
さて、時々突撃してくるピンクさん。
一応、先ぶれは出してくれるようになったけど、当日に先ぶれを出してオヤツの時間にいらっしゃいました。
ランチはラクアート様とご一緒するので、お昼を出せ、と言われないのは助かる。なんせ、ずっと好き勝手におしゃべりするのを聞きながらご飯を食べるのは辛いと思うから。
「リーナ、この人誰?」
ピンクさん、最初の一言がそれですか。
ノヴァ神官と共にピンクさんを出迎えるとピンクさんはノヴァ神官を凝視していきなりそう言った。
「この方はご縁があって一時的に侍女をしていただく事になったノヴァーラさんです。美しい方でしょう」
「そ、それは確かにそうだけど、だけど……」
「初めまして、タチワルーイ家のお嬢様。ノヴァーラと申します。仕えていた主が儚くなられまして、しばらくはこちらでお世話になる事になりました。よろしくお願いいたします」
「一時的にいるだけよね」
「一応、そういうお話でお預かりしている方ですけど」
「そ、そうなの」
いつも来たとたんに煩くしゃべるピンクさんが大人しい。何だか、ギクシャクしている。
ノヴァ神官がお茶を入れて運んできても、お菓子をセッティングしても黙っている。これはこれで不気味だ。
「あ、あのリーナ」
「はい。なんでしょう?」
「ノヴァーラ、お使いに出したりしないの? するよね。何か、買ってきてほしいモノとかあるんじゃないの? あるよね。ほら、新作のケーキとかあのチョコレート専門店で出てるらしいよ。それ、買ってきてもらったらいいんじゃない。と、いうか、そのケーキ食べたい」
「チョコレートケーキですか?」
「そう、ケーキ食べたいの!」
「宜しければそのチョコレートケーキ、買ってまいりましょうか」
「ええっ、わざわざ? 」
「わざわざ行くのが侍女でしょ!」
「行ってまいります」
「では、申し訳ないのですがお願いいたします」
何だか様子のおかしいピンクさんに急き立てられるようにノヴァ神官は出て行った。
ノヴァ神官が出ていくとフゥーとため息をついてピンクさんはソファにドンともたれ掛かかると。
「リーナ、あの人首にして!」
「えっ!?」
「何だかとても嫌な感じがするの。一緒に居たくない! とにかく不吉な予感がするから首にして」
よその家の侍女を首にしろ、なんてピンクさん、何様!?
どうしてそんなに嫌うんだろう?
0
あなたにおすすめの小説
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。
召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます
かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~
【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】
奨励賞受賞
●聖女編●
いきなり召喚された上に、ババァ発言。
挙句、偽聖女だと。
確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。
だったら好きに生きさせてもらいます。
脱社畜!
ハッピースローライフ!
ご都合主義万歳!
ノリで生きて何が悪い!
●勇者編●
え?勇者?
うん?勇者?
そもそも召喚って何か知ってますか?
またやらかしたのかバカ王子ー!
●魔界編●
いきおくれって分かってるわー!
それよりも、クロを探しに魔界へ!
魔界という場所は……とてつもなかった
そしてクロはクロだった。
魔界でも見事になしてみせようスローライフ!
邪魔するなら排除します!
--------------
恋愛はスローペース
物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。
失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~
紅月シン
ファンタジー
聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。
いや嘘だ。
本当は不満でいっぱいだった。
食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。
だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。
しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。
そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。
二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。
だが彼女は知らなかった。
三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。
知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。
※完結しました。
※小説家になろう様にも投稿しています
聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!
さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ
祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き!
も……もう嫌だぁ!
半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける!
時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ!
大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。
色んなキャラ出しまくりぃ!
カクヨムでも掲載チュッ
⚠︎この物語は全てフィクションです。
⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!
その聖女は身分を捨てた
喜楽直人
ファンタジー
ある日突然、この世界各地に無数のダンジョンが出来たのは今から18年前のことだった。
その日から、この世界には魔物が溢れるようになり人々は武器を揃え戦うことを覚えた。しかし年を追うごとに魔獣の種類は増え続け武器を持っている程度では倒せなくなっていく。
そんな時、神からの掲示によりひとりの少女が探し出される。
魔獣を退ける結界を作り出せるその少女は、自国のみならず各国から請われ結界を貼り廻らせる旅にでる。
こうして少女の活躍により、世界に平和が取り戻された。
これは、平和を取り戻した後のお話である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる