42 / 103
42. 勇者の覚書
しおりを挟む
王宮の神殿にお邪魔して勇者の手記を見せてもらう事になった。
アルファント殿下とお兄様と、何故か国王陛下もご一緒です。
神殿の奥に小部屋があってそこからさらに地下に続く階段があった。
こんな場所、知ってしまったらもうこの国から出られないんじゃない? 何だか、簡単に見せていただけるというから来てしまったがこれは早まったのではないだろうか。
横を歩いているお兄様もしまったという顔をしている。
ノヴァ神官は優しそうな顔の裏側で結構な策士なのかもしれない。
とにかく、来てしまったからには仕方がない。開き直って見てしまおう。始まりの勇者の手記なんて神話級のモノだから興味はある。
お兄様は現代日本からの転移者であれこれとあって伝説の勇者になったのではないか、女神様と結ばれるなんてロマンだと言ってワクワクしていたけど、私としてはパンドラの箱を開けるような気がしないでもない。
私達、色々と深入りしすぎてない?!
階段の下には居心地の良さそうな小部屋があった。ここは昔、勇者の拠点となった場所だそうだ。
ソファーにテーブル、キッチンまで一部屋に纏められている。それに作り付けの棚に置いてあるのはテレビに見える。勇者の時代にテレビ? というか今の時代にもテレビはない。
「どうして、テレビが?」
「テレビ? それも俺の知っているテレビだ」
アルファント殿下とお兄様が同時にテレビを指さして叫んだ。殿下が思わず駆け寄って触っていたが、
「張りぼて? 外側だけの模型? みたいな」
「中身は無いんですか?」
「うん。外枠だけそれらしく作ってある……でも、最近のテレビだ」
「その、テレビですが、見かけだけで実際のテレビとしての機能はないそうです。ただ、転生者の方が聖女として目覚められた時にはこのテレビを見ていただく事になっています。テレビを見る事で記憶が戻るかもしれませんから」
「転生者って意外といるのですか?」
「私は殿下とアプリコット家のお二人しか、いえ、ピンクさんも、でしたね。4人しか知りませんし、これまでの歴史でも転生者の聖女は2人しかおられません。いえ、転生者であるという自覚のある方が2人だけなのかもしれません。聖女に成られた方は皆、不思議な言葉で歌を歌われますから」
「桜の歌ですね。という事は始まりの勇者は日本人だったのかもしれません。それも、俺たちとそんなに時代が変わらない」
「この世界の遥か過去に転生、いや転移したって事か」
ノヴァ神官と国王陛下が二人で壁の窪みに指を当て小声で呪文を唱えると壁に隠し扉が現れた。さらにノヴァ神官がなにやら操作をすると扉が開いた。かなり厳重に保管されているようだ。
扉の中にはキラキラした宝冠や幾つかの宝玉があるのが見えたがノヴァ神官はその中から黒い布の包みを取り出すと、扉を閉めてその包みをそっとテーブルの上に置いた。
そして、その包みを開けるとそこには黒い革表紙の小振りなノートがあった。
「どうぞ、ご覧になってください」
その言葉に私とお兄様、アルファント殿下は3人で譲り合うように顔を見合わせた。しばらくして、
「では、わたしが」
そういうとアルファント殿下がそのノートを手に取りゆっくりと開いた。ノートの最初のページには『覚書』エドガー・サガン 忘れないように記憶を書いておく。とあった。
フランス語で。
「えっ!? 日本語じゃない!」
お兄様が驚くと
「これ、フランス語ですね。えーと、忘れないように、書いておく、記憶を。忘れないように記憶を書いておく。覚書、ですか」
「殿下! フランス語、読めるんですか? 凄い」
「いや、昔、フランスに出向していたことがあって、でも、だいぶ年月が経っているから単語とか忘れているかもしれない」
「それでも凄いです。俺、英語なら何とか読めますけどフランス語なんて。でも、まさか、日本語だと思ったのに違うなんて」
「殿下が読めるのならばもっと早くお目にかければよかったですね。これで何かわかればいいんですけど」
驚いた。まさかのフランス語。
そして、殿下がフランス語を読めるなんて。
実は私も大学でフランス語を第二外国語で取って、響きがきれいだから話せたらいいなってちょっと頑張った記憶があるんだけど、だいぶ前だから記憶も曖昧だし別に言わなくてもいいかな。
殿下がパラパラとページをめくって見ていたが、急に私にノートを差し出してきた。
「聖女、いや、聖女の資格のあるリーナから見てこのノートに何か感じるモノはないだろうか?」
「えっ、そうですね」
差し出されたので仕方なく受け取ってちょうど開かれたページを見ると『佐々木小太郎』という名前が目についた。『エドガー・サガン』さんと『佐々木小太郎』さんは同時に召喚されたようだ。
「リーナ、フランス語が読めるんだね」
「えっ、いえ」
「同時に召喚って声に出ていたよ」
不覚。
召喚って言葉に驚いて思わず声が出てしまっていたらしい。
でも、これってどういう事だろう。
フランス人のエドガーさんと佐々木さんが同時に召喚されて、なにがどうなってエドガーさんが勇者になって、女神様と建国する事になったんだろう。
佐々木小太郎さんの名前は今の時代には伝わってないけれど、彼はどうしたのかしら。
というか、小太郎さんの覚書はないの?
この勇者の覚書、読むのが怖い。
アルファント殿下とお兄様と、何故か国王陛下もご一緒です。
神殿の奥に小部屋があってそこからさらに地下に続く階段があった。
こんな場所、知ってしまったらもうこの国から出られないんじゃない? 何だか、簡単に見せていただけるというから来てしまったがこれは早まったのではないだろうか。
横を歩いているお兄様もしまったという顔をしている。
ノヴァ神官は優しそうな顔の裏側で結構な策士なのかもしれない。
とにかく、来てしまったからには仕方がない。開き直って見てしまおう。始まりの勇者の手記なんて神話級のモノだから興味はある。
お兄様は現代日本からの転移者であれこれとあって伝説の勇者になったのではないか、女神様と結ばれるなんてロマンだと言ってワクワクしていたけど、私としてはパンドラの箱を開けるような気がしないでもない。
私達、色々と深入りしすぎてない?!
階段の下には居心地の良さそうな小部屋があった。ここは昔、勇者の拠点となった場所だそうだ。
ソファーにテーブル、キッチンまで一部屋に纏められている。それに作り付けの棚に置いてあるのはテレビに見える。勇者の時代にテレビ? というか今の時代にもテレビはない。
「どうして、テレビが?」
「テレビ? それも俺の知っているテレビだ」
アルファント殿下とお兄様が同時にテレビを指さして叫んだ。殿下が思わず駆け寄って触っていたが、
「張りぼて? 外側だけの模型? みたいな」
「中身は無いんですか?」
「うん。外枠だけそれらしく作ってある……でも、最近のテレビだ」
「その、テレビですが、見かけだけで実際のテレビとしての機能はないそうです。ただ、転生者の方が聖女として目覚められた時にはこのテレビを見ていただく事になっています。テレビを見る事で記憶が戻るかもしれませんから」
「転生者って意外といるのですか?」
「私は殿下とアプリコット家のお二人しか、いえ、ピンクさんも、でしたね。4人しか知りませんし、これまでの歴史でも転生者の聖女は2人しかおられません。いえ、転生者であるという自覚のある方が2人だけなのかもしれません。聖女に成られた方は皆、不思議な言葉で歌を歌われますから」
「桜の歌ですね。という事は始まりの勇者は日本人だったのかもしれません。それも、俺たちとそんなに時代が変わらない」
「この世界の遥か過去に転生、いや転移したって事か」
ノヴァ神官と国王陛下が二人で壁の窪みに指を当て小声で呪文を唱えると壁に隠し扉が現れた。さらにノヴァ神官がなにやら操作をすると扉が開いた。かなり厳重に保管されているようだ。
扉の中にはキラキラした宝冠や幾つかの宝玉があるのが見えたがノヴァ神官はその中から黒い布の包みを取り出すと、扉を閉めてその包みをそっとテーブルの上に置いた。
そして、その包みを開けるとそこには黒い革表紙の小振りなノートがあった。
「どうぞ、ご覧になってください」
その言葉に私とお兄様、アルファント殿下は3人で譲り合うように顔を見合わせた。しばらくして、
「では、わたしが」
そういうとアルファント殿下がそのノートを手に取りゆっくりと開いた。ノートの最初のページには『覚書』エドガー・サガン 忘れないように記憶を書いておく。とあった。
フランス語で。
「えっ!? 日本語じゃない!」
お兄様が驚くと
「これ、フランス語ですね。えーと、忘れないように、書いておく、記憶を。忘れないように記憶を書いておく。覚書、ですか」
「殿下! フランス語、読めるんですか? 凄い」
「いや、昔、フランスに出向していたことがあって、でも、だいぶ年月が経っているから単語とか忘れているかもしれない」
「それでも凄いです。俺、英語なら何とか読めますけどフランス語なんて。でも、まさか、日本語だと思ったのに違うなんて」
「殿下が読めるのならばもっと早くお目にかければよかったですね。これで何かわかればいいんですけど」
驚いた。まさかのフランス語。
そして、殿下がフランス語を読めるなんて。
実は私も大学でフランス語を第二外国語で取って、響きがきれいだから話せたらいいなってちょっと頑張った記憶があるんだけど、だいぶ前だから記憶も曖昧だし別に言わなくてもいいかな。
殿下がパラパラとページをめくって見ていたが、急に私にノートを差し出してきた。
「聖女、いや、聖女の資格のあるリーナから見てこのノートに何か感じるモノはないだろうか?」
「えっ、そうですね」
差し出されたので仕方なく受け取ってちょうど開かれたページを見ると『佐々木小太郎』という名前が目についた。『エドガー・サガン』さんと『佐々木小太郎』さんは同時に召喚されたようだ。
「リーナ、フランス語が読めるんだね」
「えっ、いえ」
「同時に召喚って声に出ていたよ」
不覚。
召喚って言葉に驚いて思わず声が出てしまっていたらしい。
でも、これってどういう事だろう。
フランス人のエドガーさんと佐々木さんが同時に召喚されて、なにがどうなってエドガーさんが勇者になって、女神様と建国する事になったんだろう。
佐々木小太郎さんの名前は今の時代には伝わってないけれど、彼はどうしたのかしら。
というか、小太郎さんの覚書はないの?
この勇者の覚書、読むのが怖い。
2
あなたにおすすめの小説
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。
失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~
紅月シン
ファンタジー
聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。
いや嘘だ。
本当は不満でいっぱいだった。
食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。
だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。
しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。
そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。
二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。
だが彼女は知らなかった。
三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。
知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。
※完結しました。
※小説家になろう様にも投稿しています
召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます
かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~
【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】
奨励賞受賞
●聖女編●
いきなり召喚された上に、ババァ発言。
挙句、偽聖女だと。
確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。
だったら好きに生きさせてもらいます。
脱社畜!
ハッピースローライフ!
ご都合主義万歳!
ノリで生きて何が悪い!
●勇者編●
え?勇者?
うん?勇者?
そもそも召喚って何か知ってますか?
またやらかしたのかバカ王子ー!
●魔界編●
いきおくれって分かってるわー!
それよりも、クロを探しに魔界へ!
魔界という場所は……とてつもなかった
そしてクロはクロだった。
魔界でも見事になしてみせようスローライフ!
邪魔するなら排除します!
--------------
恋愛はスローペース
物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる