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43. 勇者の涙
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アルファント殿下と私は一緒に、二人で最初から勇者の覚書を読んだ。
所どころ、わからない箇所があって、二人で思い出すためにフランスの固有の言葉や土地の名前や風物詩などを語り合った。そして、私達二人には共通の認識があるのが話しているうちに良く判った。
勇者の覚書はそんなに分量はなくて端的に出来事と心情が書いてあった。一日では読み解けなくて学園を休んでアルファント殿下と私はずっと勇者の覚書を読んでいた。
勇者、エドガー・サガンさんと佐々木小太郎さんは日本の同じ会社で働く同僚だった。エドガーさんは日本の大学に留学してそのまま日本の商社に就職した。小太郎さんはエドガーさんと同じ大学の級友で偶々同じ商社に入社した。
二人は親友だった。
二人してフランスに出張に行き、小太郎さんをエドガーさんが自分の実家に招待した時にそれは起こった。
突然、光に包まれてこの世界に召喚されてしまったのだ。
召喚された二人はこの世界に開いた異次元の穴を女神の化身である少女と共に塞いで回り、そして、どうしても塞ぎきれない大きな裂け目が開く出来事があって、その穴を塞ぐ栓の役割をするために決断をした。
お互いに自分が犠牲になると譲らなかったのだが、結局、エドガーさんと小太郎さんは戦って、勝った小太郎さんが贄の役目を負った。勝ったほうの言う事を聞くという事で。
小太郎さんを犠牲にして次元の穴は塞いだが、彼は異次元からの瘴気によって100年ごとに覚醒し狂気にとらわれて暴れてしまう。その時に彼の狂気を沈め瘴気を浄化して眠りにいざなう事が聖女の役割になる。
しかし、真実を後世に伝える事で曲解される事を防ぐために『魔王と勇者』という話は創られた。それは小太郎さんの希望でもあった。
小太郎さんは自分自身によってその次元の穴を塞いだが、女神の計らいによりその精神はこの世界で自由に生きる事ができる。
「100年ごとの覚醒なんてたいした事じゃない。普段は忘れているんだから。魔王と勇者というシンプルな形で残したほうがいい」
小太郎さんはおおらかに笑ったそうだ。
後悔、懺悔
でも、……希望はあった。
女神の化身である少女は言った。
「時が来れば必ず彼は解放されるでしょう。この世界の魔力が満ちる時、転生者である聖女によって次元の穴は完全に塞ぐことができます。聖女の杖によって彼はその役割から解き放されます」
次元の穴は氷で塞ぐことでジワジワと縮めていく事ができる。完全に穴が塞がった状態で魔法の糸で縫い留めてしまう。小太郎さんの固有魔法は『水魔法』だった。かれは自身を氷像とする事で次元の穴、裂け目を塞いでいるのだ。
「だから、水魔法なのか」
「聖女の杖を手に入れるアイテムが氷の彫刻なのは、『氷』が必要だから……。んぅ? 歴代の聖女は『水魔法』が使えたのですか?」
「歴代の聖女は『水魔法』の方もいましたし、『氷』の加護の方も『水の魔法』『冷却』『冷』『凍える』など変わった加護の方もいらっしゃいましたが、皆さま、氷を武器にする事が出来ました」
側にいたノヴァ神官が直ぐに答えてくれた。
そして、最後のページは勇者の涙で滲んであちこち見えなくなっていた。
インクは滲んでいるし、文字は乱雑になって書きなぐっているようだし、端は2枚がくっ付いて破損しないように剥がすのが大変だった。
勇者の涙が邪魔だった。
わかった単語は予言、分岐点、転生者、選択、覚醒、魔女、星。それと乙女ゲーム? かもしれない単語。
何かがあって、それが分岐点になって何事か起こる? らしい。
乙女ゲーム? ちょっとそれが小太郎さん(魔王)の解放と、どうつながっているのか良く判らない。
この覚書はフランス語で書かれているけど、多分エドガーさんの日記を兼ねていたのだと思う。そして、最後の予言は別にきちんとした文書で残っているのではないだろうか、とアルファント殿下が言った。
ノヴァ神官が悩ましい顔をして、「調べてきます」と出ていった。勇者の私物関係はこの部屋にあるけれど、文書はまた別に保管してあるそうだ。
「乙女ゲームが何で、関係してくるんだ?」
「分岐点とか選択ってなっているのが怖いんですけど、どういう事なんでしょう」
「勇者の時代ってかなり昔ですよね。乙女ゲームのヒロインが小太郎さんを救ってハッピーエンド? いえ、ピンクさんは普通に学園生活を楽しんで攻略をしてハッピーエンドらしいし」
「いや、そもそもピンクは聖女じゃないだろう。聖女は……」
「私は違います」
「そうだな。違う。まだ。おや、なんの匂いだ?」
アルファント殿下がふと顔を上げるとソファーに座ったお兄様がうどんを食べていた。何故にうどん!
「美味そうだな」
「あっ、美味しいですよ。リーナの新作なんです。天ぷらうどん。海老天ですよ」
「お兄様!」
「いや、だって二人して凄く深刻な様子で顔寄せ合って話しているから、ちょっと休憩しようかなって」
「それで、何でアークが休憩しているんだ」
「代わりに?」
「そのうどんはまだあるんだよな」
「ああ、ハイ此処に出しますね」
お兄様が海老天うどんをテーブルの上に出した。
「ああ、懐かしいこのうどんのお出汁、出汁?! なんで再現できているんだ? どうやって?」
「ああ、それはリーナが」
お兄様がしれっと言いかけるので睨んでやった。足を踏みたかったけどソファーの反対側にいたから。
私の横にはアルファント殿下がいる。何だか距離が近い。
慌てて距離を開けた。今更だけどこんなに近くで話をしてたなんて、そういえば綺麗な目にまつ毛の影がかかって……、いいえ、何を言っているのだか、もう、恥ずかしい。
それより、真剣な顔をして、時々顔を緩めながらうどんを食べている殿下が、殿下に何といいわけしよう。
うどんの出し汁なんてこの世界にあるわけないじゃない。
もう、お兄様のばか!
所どころ、わからない箇所があって、二人で思い出すためにフランスの固有の言葉や土地の名前や風物詩などを語り合った。そして、私達二人には共通の認識があるのが話しているうちに良く判った。
勇者の覚書はそんなに分量はなくて端的に出来事と心情が書いてあった。一日では読み解けなくて学園を休んでアルファント殿下と私はずっと勇者の覚書を読んでいた。
勇者、エドガー・サガンさんと佐々木小太郎さんは日本の同じ会社で働く同僚だった。エドガーさんは日本の大学に留学してそのまま日本の商社に就職した。小太郎さんはエドガーさんと同じ大学の級友で偶々同じ商社に入社した。
二人は親友だった。
二人してフランスに出張に行き、小太郎さんをエドガーさんが自分の実家に招待した時にそれは起こった。
突然、光に包まれてこの世界に召喚されてしまったのだ。
召喚された二人はこの世界に開いた異次元の穴を女神の化身である少女と共に塞いで回り、そして、どうしても塞ぎきれない大きな裂け目が開く出来事があって、その穴を塞ぐ栓の役割をするために決断をした。
お互いに自分が犠牲になると譲らなかったのだが、結局、エドガーさんと小太郎さんは戦って、勝った小太郎さんが贄の役目を負った。勝ったほうの言う事を聞くという事で。
小太郎さんを犠牲にして次元の穴は塞いだが、彼は異次元からの瘴気によって100年ごとに覚醒し狂気にとらわれて暴れてしまう。その時に彼の狂気を沈め瘴気を浄化して眠りにいざなう事が聖女の役割になる。
しかし、真実を後世に伝える事で曲解される事を防ぐために『魔王と勇者』という話は創られた。それは小太郎さんの希望でもあった。
小太郎さんは自分自身によってその次元の穴を塞いだが、女神の計らいによりその精神はこの世界で自由に生きる事ができる。
「100年ごとの覚醒なんてたいした事じゃない。普段は忘れているんだから。魔王と勇者というシンプルな形で残したほうがいい」
小太郎さんはおおらかに笑ったそうだ。
後悔、懺悔
でも、……希望はあった。
女神の化身である少女は言った。
「時が来れば必ず彼は解放されるでしょう。この世界の魔力が満ちる時、転生者である聖女によって次元の穴は完全に塞ぐことができます。聖女の杖によって彼はその役割から解き放されます」
次元の穴は氷で塞ぐことでジワジワと縮めていく事ができる。完全に穴が塞がった状態で魔法の糸で縫い留めてしまう。小太郎さんの固有魔法は『水魔法』だった。かれは自身を氷像とする事で次元の穴、裂け目を塞いでいるのだ。
「だから、水魔法なのか」
「聖女の杖を手に入れるアイテムが氷の彫刻なのは、『氷』が必要だから……。んぅ? 歴代の聖女は『水魔法』が使えたのですか?」
「歴代の聖女は『水魔法』の方もいましたし、『氷』の加護の方も『水の魔法』『冷却』『冷』『凍える』など変わった加護の方もいらっしゃいましたが、皆さま、氷を武器にする事が出来ました」
側にいたノヴァ神官が直ぐに答えてくれた。
そして、最後のページは勇者の涙で滲んであちこち見えなくなっていた。
インクは滲んでいるし、文字は乱雑になって書きなぐっているようだし、端は2枚がくっ付いて破損しないように剥がすのが大変だった。
勇者の涙が邪魔だった。
わかった単語は予言、分岐点、転生者、選択、覚醒、魔女、星。それと乙女ゲーム? かもしれない単語。
何かがあって、それが分岐点になって何事か起こる? らしい。
乙女ゲーム? ちょっとそれが小太郎さん(魔王)の解放と、どうつながっているのか良く判らない。
この覚書はフランス語で書かれているけど、多分エドガーさんの日記を兼ねていたのだと思う。そして、最後の予言は別にきちんとした文書で残っているのではないだろうか、とアルファント殿下が言った。
ノヴァ神官が悩ましい顔をして、「調べてきます」と出ていった。勇者の私物関係はこの部屋にあるけれど、文書はまた別に保管してあるそうだ。
「乙女ゲームが何で、関係してくるんだ?」
「分岐点とか選択ってなっているのが怖いんですけど、どういう事なんでしょう」
「勇者の時代ってかなり昔ですよね。乙女ゲームのヒロインが小太郎さんを救ってハッピーエンド? いえ、ピンクさんは普通に学園生活を楽しんで攻略をしてハッピーエンドらしいし」
「いや、そもそもピンクは聖女じゃないだろう。聖女は……」
「私は違います」
「そうだな。違う。まだ。おや、なんの匂いだ?」
アルファント殿下がふと顔を上げるとソファーに座ったお兄様がうどんを食べていた。何故にうどん!
「美味そうだな」
「あっ、美味しいですよ。リーナの新作なんです。天ぷらうどん。海老天ですよ」
「お兄様!」
「いや、だって二人して凄く深刻な様子で顔寄せ合って話しているから、ちょっと休憩しようかなって」
「それで、何でアークが休憩しているんだ」
「代わりに?」
「そのうどんはまだあるんだよな」
「ああ、ハイ此処に出しますね」
お兄様が海老天うどんをテーブルの上に出した。
「ああ、懐かしいこのうどんのお出汁、出汁?! なんで再現できているんだ? どうやって?」
「ああ、それはリーナが」
お兄様がしれっと言いかけるので睨んでやった。足を踏みたかったけどソファーの反対側にいたから。
私の横にはアルファント殿下がいる。何だか距離が近い。
慌てて距離を開けた。今更だけどこんなに近くで話をしてたなんて、そういえば綺麗な目にまつ毛の影がかかって……、いいえ、何を言っているのだか、もう、恥ずかしい。
それより、真剣な顔をして、時々顔を緩めながらうどんを食べている殿下が、殿下に何といいわけしよう。
うどんの出し汁なんてこの世界にあるわけないじゃない。
もう、お兄様のばか!
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