辺境伯の5女ですが 加護が『液体』なので ばれる前に逃げます。

サラ

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62. お呼び出し

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春休みは新しくできたダンジョンをアルファント殿下とお兄様、ランディ様にトーリスト様と一緒に攻略する日々が続いた。
 ダンジョンの攻略がない時は王宮で王太子妃の勉強。
 マナーや勉学、外国語については褒められたけど、王家の歴史や王太子妃としてのマナーについてはかなりの量があるのに驚いた。
 覚悟は決まってないのに、何だか流されていくような気がしないでもない。
 だけど、アルファント殿下に会うとドキドキするこの心臓を平常心に持っていくのが大変。

 パール王国だけでなく同じ大陸に新しくできたダンジョンがあると、まずダンジョン調査のためのパーティーが精査に入り魔王関連のダンジョンの可能性があると、殿下に討伐依頼がくるので私たちが赴き、ダンジョン内にできたと思われる小さな穴を見つけて塞ぐ。
 この穴が本当に異次元につながっているのだろうか、と思うけど小さな穴が氷魔法を使う事で跡形もなく消えてしまうのは不思議。

 ちなみに小さな穴を見つけるのは光魔法で、穴を塞ぐのは氷魔法。なのでアルファント殿下と私はダンジョン攻略に必至のパートナー、なんて、二人はパートナー。何だか恥ずかしい。

 私達がダンジョンに入れるようになるまでは、魔王関連と思われるダンジョンの発見はなかったので、まるで、待っていたかのようなダンジョンの発生率の高さに国と神殿は危機感を募らせている。
 そこにきて、パール王国始まって以来の桜の花の三分咲き。

 今、神殿は必死で過去の文献や書類を精査している。
 勇者の覚書も神官たちがそこから考えられる可能性について日夜、頭を悩ませているらしい。
 勇者の覚書はアルファント殿下と私が翻訳して神殿に提供した。
 予言の文書については神殿で探した限り見つからなかったし、王宮の宝物庫にも見当たらなかった。
 多分、文書はあるはずだけど、おいそれとは外に出せる内容ではないので、どこかに隠されているのではとノヴァ神官が言っていた。なので、殿下はアチコチの壁や天井を叩いて回ったそうだ。

 春休み中、本来の桜の季節が来ても桜の花は三分咲きのまま変わらず咲き続けていた。胴吹き桜も三輪、相変わらず元気に咲いている。
 つまり、魔王の封印は緩みかけてはいるけど、そのまま緩みかけで持ちこたえているという事かもしれない。
 小太郎さんも普通の人として日常を過ごしているという事だろうか。
 ある日突然、魔王になってしまうのならこのまま封印が解けないまま過ごせるほうがいいと思うけど。
 と、つらつらと小太郎さんの事を考えているとアプリコット家からお呼び出しがあった。

 私達はダンジョン攻略から帰って、タウンハウスでのんびりとポテトチップスとラスクを摘まみながら、コーラを飲んでいた。
 コーラとポテチの組み合わせは美味しいけど何となく背徳感があると思う。太りそう、だけどたまにはいいと思う。

「お兄様、お呼び出しなんて、一体何の用事かしら?」
「なんだろう? せっかく戻ってきて休んでいるのに、呼び出されると窮屈だから嫌だな。ダンジョンの事とか殿下とはどうなんだとか聞かれるんじゃないの。ところで、殿下にこのコーラとポテチ食べさせてあげたいけど」
「駄目よ。コーラとかポテチは流行らせてはダメなモノだわ。美味しいからって嵌る人が大勢出そうだもの。ポテトフライならまだいいけど。大丈夫とは思うけど、万が一殿下が嵌って太ったら困るわ。あの割れた腹筋が素晴らしいのに」

「殿下、食いしん坊だからな。でも、いつの間に割れた腹筋なんて見たんだ? 殿下がダンジョンで着替えている時も後ろ向いていたじゃないか」
「それはその、服の上からでもわかるし、ミスって服が破れた時に、って何言わせるの!」
「アッー、あの時か、しっかり見ているものなんだな」
「見てないわ。目の端に飛び込んできたの」
「いいじゃないか、婚約者なんだし」
「婚約者、私、婚約者なのね」
「オーイ、リーナ。殿下が絡むと時々上の空になるな~。やっぱ、恋愛初心者にはもっとこう、お友達から始めましょう、のほうが良かったかも。聞いちゃいないな」

 お兄様に目の前で指を振られてハッと我に返った。もう、殿下の事を考えると殿下が目の前に浮かんできて、「リーナ、殿下ではなく、アルと呼んでほしいな」なんて言われた事を思い出すと、もう無理。
「アル」なんて恥ずかしくて呼べない。

「オーイ! リーナ。呼び出されたから嫌だけど着替えないと」
「ハッ、そうね。着替えてくるわ」



 そして、やってきましたアプリコット家。転移陣があるのでアッという間に着いてしまった。直ぐに着いてしまうというのもどうかと思う。

「来たか。ダンジョンはどうだ? アルファント殿下とはうまくやっているのか」

 本当にお兄様が言っていた通りの事を聞かれた。当たり障りのない話をしてお茶を濁したら、うんうんと満足そうに肯いていたので、まぁ、良しとしよう。

「ところで、アークはもうすぐ15歳で成人を迎える。だので、リーナの従僕からは外れる事になる」
「「えっ?!」」

 うそ! お兄様が居なくなる。考えてもみなかったことを聞かされて頭が真っ白になってしまった。唯一の家族なのに、居なくなるの?!

「アルファント殿下からの申し出があって、将来の側近候補として殿下の従僕に欲しいという話があったのでお受けした」
「殿下の従僕! ですか」
「殿下の従僕として学園のタウンハウスと王宮に部屋を賜る事になるが、主な仕事としては殿下の婚約者の護衛になる。毎日、ご機嫌伺いと細々した所用の為に殿下の婚約者の所へ通う事になる」
「殿下の婚約者って」
「リーナの事だ。だから、実際にはこのまま変わらない。ただし、アークの所属は王宮になる。だので、15歳の誕生日と共に正式に庶子から子息に格上げして、アプリコット家からは出る事になる」

 私達は顔を見合わせた。

「リーナは殿下の婚約者だから、アークの代わりに伯爵家のノームル嬢が側近兼侍女として新学期からは側につく。侍女も王宮から派遣してくださるそうだから、これ迄リーナに付いていた侍女は引き継ぎが終わったら戻るように伝えてくれ」

 衝撃。

 何と、返事をしたのかよく覚えてないけど了承して、了承するしかないけどタウンハウスに帰ってきた。
 お兄様も私も放心して、取り合えずミルク入り麦茶を飲んだ。

 最近、よくこれを飲んでいる気がする。
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