辺境伯の5女ですが 加護が『液体』なので ばれる前に逃げます。

サラ

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65. 茶ピンクさんとの遭遇

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 新学期が始まってしばらく経った。
 学園生活は特に何事もなく、今年度はピンクさんの突撃がないせいで精神的にもストレスがたまらず、ラクアート様との関わりもないので日々は平穏に過ぎていった。
 そして、今年度のタウンハウスの4年生は伯爵家の方なので、3年生ながら公爵令嬢であるフルール様が中心となる事になった。

 目立ちたくないフルール様の要望で今年度もお茶会は昨年同様控えめにして、タウンハウスの女性の方たちとは内密に親睦を深めましょうという話になった。フルール様はラクアート様が苦手のようであまり関わりを持ちたくないとの事。
 相変わらず、タウンハウスの皆さまとは良い関係を築いているしフルール様とも仲良くしていただいている。

 フルール様は私とアルファント殿下の婚約をすごく喜んでくれて、お祝いに大きなチョコレートケーキを殿下と私にそれぞれ贈ってくれた。
 ココアの量産もされるようになったらしくて、ココアの詰め合わせもいただいたので、お菓子の幅が広がったのは嬉しい事だった。

 フルール様は自分が欠席した卒業パーティーの時に起こった、ラクアート様とピンクさんの所業にすごく怒っていて何もできなかった事をすごく悔やんでいた。ので、なるべく側についているし何かできる事があったら何でも言って欲しいというので、ちょっと話は違うかなと思いつつチョコレートボンボンをお願いしてみた。
 もちろん、チョコレートボンボンという言葉は使わず、アルファント殿下がお酒好きでお酒に漬けた干しブドウやウメンの実を好んで食べているという話をしてから、チョコレートの中にお酒を入れられないか試してほしいと言って。

「アルファント殿下はもう、お酒を嗜まれていますの?」
「いえ、お酒に漬けたドライフルーツ入りのケーキがすごく好きなんです。お兄様もですけど。チョコレートも好きなので、お酒入りのチョコが出来たら喜ぶんじゃないかと思って」
「まぁ、そうなんですの。確かに、甘いチョコで包むとお酒の苦手な方でも食べられるかもしれませんね」
「それなんですけど、中に入れるお酒も甘いモノが良いと思います。殿下もお兄様も隠れ甘党ですから。ウメンのお酒は結構甘いですし、ワインに蜂蜜入れて飲んでますもの。私も甘いお酒入りのチョコレートは食べてみたいと思いますわ」
「そうですね。売れるかもしれませんしチョコレート部門の責任者に話してみましょう」

 という事でチョコレートボンボンが食べられるかもしれない。やったね。

 ラクアート様は相変わらず茶ピンクのキミカさんとくっ付いている。
 婚約破棄の件については人前で糾弾するような真似をして申し訳なかったとのお詫びのお手紙を頂いたが、本人からの直接の謝罪はなかった。多分、悪いとは思ってないのだろう。
 ウオーター公爵家からは正式な謝罪と慰謝料を頂いて、その分はそのまま私の個人的な財産として口座に入れてもらった。
 結構な額だったけどアルファント殿下と婚約するのなら、個人の財産も必要だろうとの事だった。ある程度まとまった自分の財産が有るというのは正直嬉しい。

 新学期が始まってもラクアート様とは直接、遭遇する事がないからあちらも気まずくて避けているのかもしれない。
 ただ、茶ピンクさんと共に、元ピンク教の人たちと時々集まって話をしているのがよく見られるようになった。そして、ラクアート様と茶ピンクさんは花を愛でる会というのを発足させた。同好会みたいなものだがお昼休みに中庭でランチをしたり、集まって会議室で集会を開いたりしている。

 少しずつだが会員を増やしつつあるのが不安の種だし、この間、茶ピンクさんとお手洗いで遭遇してしまった時、彼女は私の事を上から下まで舐めるようにジロジロと見つめた後、フンと鼻で笑って去って行こうとした。
 もう、信じられない。
 側にいたノームル様が思わず

「ちょっと、あなた、お待ちなさい」
 と声をかけると

「学園では身分の上下はないはず、ですけど。まさか、いちいちお手洗いで出会った人にご挨拶しろ、なんて言いませんよね。わたし、一応、最上級生ですからどちらかというと、そちらが挨拶してくるのが筋じゃないですか」
「入学式でもご挨拶しましたからご存じだとおもいますけど、こちらの方は」
「入学式で挨拶したらその人達を全員、覚えていないといけないんですか! わたしはこの学園に編入したばかりですけど、リボンの色からして貴方達、後輩ですよね。この学園は先輩に対する礼儀をきちんと教えてないようですね」

「それでも、貴方の態度はとても失礼です。人様を上から下までジロジロ見て、鼻で笑うなんて」
「あら、チンクシャな後輩がいらしたから思わず吹き出してしまったんですわ。失礼しました。ただ、あなた方のその態度は虐めと思われても仕方ないですわね」
「まっ、何を」
「おお、怖い。それでは失礼!」

 ピンクさんとは違った意味で凄い人だった。身体が弱くて静養していたというのは本当だろうか。

「何て、失礼な人でしょう。貴族令嬢としてあり得ませんわ」
「それでも、一応は魔法学園での身分の上下はない事になっていますし」
「リーナ様はアルファント殿下の婚約者でいらっしゃいますし、ご身分としても辺境伯家のご令嬢ですから、それなりの対応が求められます。タチワルーイ家に抗議しましょう」
「彼女も私達もお互いに名乗っていませんわ。抗議しても分からなかった、もしくは人違いでは、と言われそう」
「それで、わざと名乗らなかったのでしょうか」
「そうかもしれません」
「なんて、質の悪い! 家名の通りだわ」
「ノームル様、それは」
「ええ、そうですわね。思っていても、ですわね」

 内心、タチワルーイ家の事を質の悪い家と思っていてもそれは口には出せないことである。例え、本当に質が悪い評判が立っていたとしても。
 それにしても、彼女、間近で見ると本当にピンクさんと重なって見える。ピンクさんより話し方は攻撃的で賢そうではあるけれど。ピンクさんを取り込んでいる、まさか、食べてしまったなんてことは、いえ、そんな事はないはず。

 キミカさんとピンクさんの関係って一体、何なんだろう。
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