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第3章

第103話 僕のクラスメイト

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「あの、さ、もう教室だからさすがに手、放してくれない?」
「ああ。キルナがキスしてくれるなら放してやる」
「……」

 彼のお仕置きはなぜかまだ続いている。

(んぇ!? このやりとり。デジャブ!? ほんと今度こそいい加減離れてくれないと困るよ!)

 さっきはクライスの配慮なのかと感心していたけど、もしかしてやっぱりただ繋ぎたいだけなんじゃ……。仕方なくそのまま教室に入ると、おどおどしたアレンが近付いてきた。

「フェル、ライト様、大、丈夫ですか? あ、足を怪我、したって。そ、それって、まさか、あの時の……」
「もう大丈夫だよ」

 僕がそう答えると彼はほっとしたような顔をした。あ、この感じ。本当に心配してくれているかもしれない。平民なんかに関わりたくない、とこの前わざと酷いことを言ったのに、なんていい子なんだろう。

「アレン、今度危ないときは俺に言え。キルナを巻き込むな」

 僕が感動しているのに、隣でクライスは彼にとっても理不尽なことを言っている。
 いやいやいや、アレンは被害者で、僕が勝手に飛び込んでいったのだから巻き込むなと言われても困るでしょ。アレンは彼の言葉に恐縮しながらこくこくと頷いている。

「それより、ニールとカリムとトリムはどこだ。(殺す)」

 語尾に小さく恐ろしい言葉が聞こえた気がした。空耳? ならいいのだけど……。
 殺気立つクライスに、やっぱり本気かもしれない、と慌てて僕は未来の悪友たちの姿を探した。彼らは僕の数少ない大切な悪役仲間なんだから、今殺されては困る。

「彼らは今自室で謹慎中です。物騒なことを言わないでください」

 冷静に返事をするのは、ロイルだ。さすが、クライスの扱いに慣れている。
 あの三人は謹慎中というのはどういうことだろう。あの事件はまだクライスにしか話をしていないし、アレンには口止めをしておいたはずなんだけど……。不思議。

 顔に出ていたのかロイルが説明してくれた。

「事件のことは今朝お聞きしました。クライス様は毎朝ランニングされるのでその時に。アレンからも証言が取れ、学園に連絡したところ彼らの処分が決定しました。一週間の謹慎処分です」

 ランニング? いつの間に!? しかも毎朝だなんて全然気づかなかった!(なんて爽やかで健康的なの!? やりたいとは思わないけど)

「本当にもう大丈夫なのですか? キルナ様」
「うん。それよりこれ、どうにかならないかな?」

 僕は固く握られた恋人繋ぎの手を反対側の手で指さした。側近候補で一番クライスの近くにいる彼ならどうにかできるかもしれない、と思ったのだけど。

「ああ、無理ですね。すみませんお役に立てず」

 ロイルは僕らの手をちらっと見て、間髪を入れずに謝った。
 え? あきらめ早っ!!

(どうしよう。こんなんじゃ授業も受けられない。今日はこれから楽しみにしていた魔法生物学の実習があるのに! 誰か助けて~!)

 僕の心の声が聞こえたのか、そこにだだだだ~っと眼鏡の男の子が走ってきた。もしや救世主?

「キルナ様!! 足のお怪我、大丈夫ですか!?」」

 おおっ、すごい勢いで走ってきたのは。ベルト! 僕の眼鏡仲間でどっかの有名な商会の子だ。

「う、うん。大丈夫だよ。もう治ったから」

「え? もう!? 一日で怪我が治った? 今度はどんな薬を使ったんですか!? ぜひ教えてください!!」

「ううん、期待してるところ悪いんだけど、今回は薬草全然役に立たなかったの。時間がなくて使い方が間違っていたせいかもしれないけれど。怪我はクライスが魔法で治してくれたんだよ」

「ああ、王子の光魔法の回復術ですか!? それはすごい。うわ~見たかったなぁ!」

 ベルトはとにかく好奇心旺盛みたいで、キャラメル色の目は今日もキラキラと輝いている。

「あ、そういえば、トリアは育ててるの?」

「それが……種を植えてみたのですが、なかなか芽が出てこなくて。あれこれ試してはいるのですが何が悪いのか分かりません。もしお時間がありましたら一度うちの温室に来て教えていただけませんか?」

 え? ベルトの家の温室?? 行きたい!! これってさ、もしかしてもしかすると、友達(と言ってもいいのかな?)の家に招待されてるんだよね。今世初! 友達の家!!

「いいの? 行きたい!」

 僕がうきうきで答えたら

「ベルト。俺も行っていいか」
「あ、できたら私も」

 と、横からクライスとロイルが会話に入ってきた。

「もちろんです。お二人もお呼びするつもりでした」

 ベルトはにっこりスマイルですかさずそう答える。え、本当? と思ったけれど、臨機応変、スマートに受け答えするところはさすが商人の息子だ。

(ベルトの家ってどんなだろう。超有名な商会の息子だと言うし、大きいのかな? 楽しみ!!)


 僕がニヤニヤしていると後ろから、アニメの美少女キャラみたいな声で呼びかけられた。

「キルナさまぁ! 大丈夫ですかぁ?」

 ふぇ? こんな可愛い声の知り合いいたっけ?振り返るとほんとに美少女と見紛みまがうほどキュートな彼がいた。

「あ、リリー!」
「急に王子に運ばれて行ったから、僕心配で心配で……」

 オレンジの巻毛の小動物系男子は、今日も可愛らしい。きゅるんとした大きな瞳で見つめられるとなんだか彼に恋しちゃいそうな気分になる。(でも今の僕にはわかる。これ社交辞令だ。ふふ、なんとなく違いがわかってきた。)

「これどうぞ。欠席していた分のノートです。キルナ様のと、クライス王子の分も作りました、よかったら使ってください!」

 すごく気が利く。こんなのみんな彼のことを好きになっちゃうよ。さすが師匠だ! このあざとさは見習わなくっちゃ。(メモメモ)

「ありがと、リリー」

 僕は自分の分のノートを受け取った。ペラペラとめくるとやっぱりきれいな字で見やすくまとまっている。クライスへのノートが本命とわかっているけれど、わざわざ作ってくれたのだと思うとうれしい。

 一方隣では、クライスが自分に差し出されたノートをリリーに突き返していた。

「俺の分は必要ない。授業の内容はもうわかっている」

 リリーがせっかく作ってくれたのに、受け取らないなんて失礼でしょ。僕はクライスの態度はいただけないと思ったのだけど、リリーはというと目がハートになっていて、「さすがクライス王子! 授業に出なくてもできちゃうなんて、素敵すぎます」と呟いていた。


「さて、そろそろ行くぞ」

 一時間目は魔法生物学の実習だ。魔法生物の飼育棟に移動しなきゃいけない……のだけど。

「ん~もう! わかったから、いい加減に手をはなしてってばぁ!!」

 とにかくまずはこの甘えん坊の王子様をどうにかする方法を誰か、教えて!!
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