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第6章
第275話 マフマフミルクと妖精のお姫様
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プスプスプス……
なんだか焦げ臭い匂いがしてキッチンに行ってみると、真っ黒になった鍋がコンロに放置されている。火はついたままだ。
「んぇ!? 何か焦げてるよ!!」
「あ、忘れてた!」
カーナは急いで火を消し、僕はモクモクと漂う煙を追い出すためにキッチンの窓を全開にした。
「ケホッ…何を作ろうとしていたの?」
「ふふふ、マフマフミルクよ」
マフマフミルク、前世でいうココアみたいなドリンクのことだけど……もうお鍋には液体が残ってない。
「ちょっと煮詰めすぎちゃった。テヘッ」
「…………」
ペロリと舌を出してごまかす仕草も美女だから可愛い。でも、これってちょっとじゃないよね? どうツッコむべきか悩んでいると、僕が思っていたことを妖精が言ってくれた。
「え? なになに? ちょっとじゃないって? んもう トーフはいっつもそういうんだから」
「トーフって?」
「ああ、この子のことよ」
見ると、トーフと呼ばれた妖精が僕に近づいてきた。雪のように真っ白い髪に金の瞳の妖精。
(ん? この子、見たことある。温室で、トリアの種をくれた子だ)
それにしても、妖精に名前があるとは知らなかった。でもそうだよね。ここにはこんなにたくさん妖精がいるのだし、名前がないと呼びにくい。むしろ今までなんでそのことに気づかなかったんだろ。
「ひさしぶりだね~まりょくのみずをちょうだ~い」
僕の顔の周りを、フヨフヨとおねだり目線で飛び回っている彼を目で追いかけながらお礼を言った。
「ーー、前はありがと。おかげでトリアがたっぷり採れてオイルもたくさんできたし、僕の友達も喜んでたよ」
「そ~、よかったぁ~」
あれ? トーフって呼びかけたつもりが、声にならない。何度か試してみたけどやっぱり無理だった。妖精とお話はできるけど、名前だけは呼べない。不思議。
「妖精の名前が呼べない。どうして?」
「ふふ、あなたも契約すれば名前が呼べるようになるわ」
妖精との契約。それと名前が関係あるらしい。
「そうなんだ。でも契約ってどうやって結ぶの?」
「あーそうか。キルナちゃんは契約の方法を知らないのね! いいわ! 教えてあげる」
張り切って腕まくりをするカーナを見て嫌な予感がした。
「よし、そうと決まったらもう一度マフマフミルクを作るわ。おいしいの作るから待っててね!」
「ふぇ!? い、いいよ、作らなくて!」
僕は慌てて止める。また焦げ付いたお鍋が増えるのだけは防ぎたい。するとカーナは悲しそうに言った。
「でも、キルナちゃんが来てから、水しかごちそうできてないし……」
「水、おいしいし、食べ物は妖精が持ってきてくれる木の実があるからだいじょぶ! 僕はポポの実があれば生きていけるから」
僕はここにきて数日で、はっきりとわかった。カーナは家事が苦手なのだと。(これはもう、やばいよ! というレベルで)
「マフマフミルク……前も飲みたくて挑戦したんだけど、うまくいかないの。私あれ好きなんだけどな……」
すごく残念そうにする彼女に僕は言う。
「じゃあ 僕が作るよ」
「本当に!?」
「ん、作り方も大体わかるから任せて。でも、その前にここ掃除してもいい?」
さっき焦がした鍋、汚れたお皿、コップ、その他の焦げた鍋、ナイフ、フォーク、やかんにその他諸々が山盛りになっているところを指差した。
なんだろう。なんかこういうシンクを見たことがあるような。オレンジの巻き毛の子とキャラメルブラウンのメガネの子のお部屋がちょうどこんなかんじで……。
ぼんやりとした記憶が浮かんでスッと消えた。
腕まくりをしてとりあえず汚れた食器を洗うことにする。
「よおおし、じゃあ、私も手伝うわ!」
「じゃあ、カーナは拭く係をお願い」
そうやって始めたものの、なぜか渡したお皿を片っ端から割っていくカーナに、僕は逆に感動した。
(すごいよ! この人これでどうやって生きてきたんだろ)
「やっぱり危ないから座ってて、ね?」
「んもう、もっと手伝いたかったのに」と拗ねるカーナをなんとか説得して座ってもらうことにした。ブーブー言いながら植物の蔓でできた椅子に腰を下ろした彼女を見てほっとし、皿洗いの続きをはじめる。
ジャブジャブジャブ
窓の外を眺める彼女の横顔は神秘的な美女というかんじで、(黙っていると)まるで妖精のお姫様だ。
トーフが彼女の耳元に行き二人で楽しそうにおしゃべりしている。
親しげな彼らをみて羨ましく思う。
契約を結べば、妖精の名前が呼べるようになる。
そしたらもっと彼らと仲良くなれそう。
それはとても素敵なことのように思えた。
なんだか焦げ臭い匂いがしてキッチンに行ってみると、真っ黒になった鍋がコンロに放置されている。火はついたままだ。
「んぇ!? 何か焦げてるよ!!」
「あ、忘れてた!」
カーナは急いで火を消し、僕はモクモクと漂う煙を追い出すためにキッチンの窓を全開にした。
「ケホッ…何を作ろうとしていたの?」
「ふふふ、マフマフミルクよ」
マフマフミルク、前世でいうココアみたいなドリンクのことだけど……もうお鍋には液体が残ってない。
「ちょっと煮詰めすぎちゃった。テヘッ」
「…………」
ペロリと舌を出してごまかす仕草も美女だから可愛い。でも、これってちょっとじゃないよね? どうツッコむべきか悩んでいると、僕が思っていたことを妖精が言ってくれた。
「え? なになに? ちょっとじゃないって? んもう トーフはいっつもそういうんだから」
「トーフって?」
「ああ、この子のことよ」
見ると、トーフと呼ばれた妖精が僕に近づいてきた。雪のように真っ白い髪に金の瞳の妖精。
(ん? この子、見たことある。温室で、トリアの種をくれた子だ)
それにしても、妖精に名前があるとは知らなかった。でもそうだよね。ここにはこんなにたくさん妖精がいるのだし、名前がないと呼びにくい。むしろ今までなんでそのことに気づかなかったんだろ。
「ひさしぶりだね~まりょくのみずをちょうだ~い」
僕の顔の周りを、フヨフヨとおねだり目線で飛び回っている彼を目で追いかけながらお礼を言った。
「ーー、前はありがと。おかげでトリアがたっぷり採れてオイルもたくさんできたし、僕の友達も喜んでたよ」
「そ~、よかったぁ~」
あれ? トーフって呼びかけたつもりが、声にならない。何度か試してみたけどやっぱり無理だった。妖精とお話はできるけど、名前だけは呼べない。不思議。
「妖精の名前が呼べない。どうして?」
「ふふ、あなたも契約すれば名前が呼べるようになるわ」
妖精との契約。それと名前が関係あるらしい。
「そうなんだ。でも契約ってどうやって結ぶの?」
「あーそうか。キルナちゃんは契約の方法を知らないのね! いいわ! 教えてあげる」
張り切って腕まくりをするカーナを見て嫌な予感がした。
「よし、そうと決まったらもう一度マフマフミルクを作るわ。おいしいの作るから待っててね!」
「ふぇ!? い、いいよ、作らなくて!」
僕は慌てて止める。また焦げ付いたお鍋が増えるのだけは防ぎたい。するとカーナは悲しそうに言った。
「でも、キルナちゃんが来てから、水しかごちそうできてないし……」
「水、おいしいし、食べ物は妖精が持ってきてくれる木の実があるからだいじょぶ! 僕はポポの実があれば生きていけるから」
僕はここにきて数日で、はっきりとわかった。カーナは家事が苦手なのだと。(これはもう、やばいよ! というレベルで)
「マフマフミルク……前も飲みたくて挑戦したんだけど、うまくいかないの。私あれ好きなんだけどな……」
すごく残念そうにする彼女に僕は言う。
「じゃあ 僕が作るよ」
「本当に!?」
「ん、作り方も大体わかるから任せて。でも、その前にここ掃除してもいい?」
さっき焦がした鍋、汚れたお皿、コップ、その他の焦げた鍋、ナイフ、フォーク、やかんにその他諸々が山盛りになっているところを指差した。
なんだろう。なんかこういうシンクを見たことがあるような。オレンジの巻き毛の子とキャラメルブラウンのメガネの子のお部屋がちょうどこんなかんじで……。
ぼんやりとした記憶が浮かんでスッと消えた。
腕まくりをしてとりあえず汚れた食器を洗うことにする。
「よおおし、じゃあ、私も手伝うわ!」
「じゃあ、カーナは拭く係をお願い」
そうやって始めたものの、なぜか渡したお皿を片っ端から割っていくカーナに、僕は逆に感動した。
(すごいよ! この人これでどうやって生きてきたんだろ)
「やっぱり危ないから座ってて、ね?」
「んもう、もっと手伝いたかったのに」と拗ねるカーナをなんとか説得して座ってもらうことにした。ブーブー言いながら植物の蔓でできた椅子に腰を下ろした彼女を見てほっとし、皿洗いの続きをはじめる。
ジャブジャブジャブ
窓の外を眺める彼女の横顔は神秘的な美女というかんじで、(黙っていると)まるで妖精のお姫様だ。
トーフが彼女の耳元に行き二人で楽しそうにおしゃべりしている。
親しげな彼らをみて羨ましく思う。
契約を結べば、妖精の名前が呼べるようになる。
そしたらもっと彼らと仲良くなれそう。
それはとても素敵なことのように思えた。
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