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第7章
第338話 ライン=ウェローSIDE 悪役令息のきもだめし⑥
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※血、怪我など痛々しい表現がありますので、苦手な方はご注意下さい。
もう他の教師は帰っている時間。まだ魔法学で使う魔道具の手入れがあるとかで残業しているメビス先生と自分以外は、もう各自の家に帰っていた。
俺はというと、きもだめしで何かあった時に駆けつけるため、職員室で待機していた。いつでも動けるように、夕食もここで取ることにする。
肉たっぷりの夕食に舌鼓を打っていると、突然ビービーと緊急信号が鳴り響いた。一つではなく幾つもの信号が鳴り響き、フォークを置く。
「なんだ? こんな一斉に」
メビス先生も道具を整理する手を止め、信号の受信装置を確認する。
「こんなにたくさんの緊急信号……おかしいですね。もしや何か大変なことがあったのかもしれません! 私もライン先生と一緒に行きます」
「それはありがたい! たしかにこの量は、ちょっと異常な気がしますな」
愛用の剣を手にした俺とメビス先生は、きもだめしの行われている宵闇の洞窟へと向かった。
洞窟内は足を踏み入れた瞬間に、むっと生臭い匂いがした。
鉄臭い血の匂いを目指して走ると、洞窟の中間付近に辿り着く。そこに、何人もの生徒が倒れていることが確認できた。かろうじて意識を保っている生徒に声をかける。
「何があった!?」
「ま…じゅう……が……、急に……出てきて」
「む!? 魔獣だと!?」
魔獣といえば、先日学園に出没し、教員総出で討伐したばかりだ。しかし、結局魔獣を操る術者は見つからず、また召喚される恐れもあるとして、その後も魔獣に警戒をするよう伝えられていた。
その魔獣は普通の魔獣ではなく、噛まれた部分に呪いがかかるという厄介な性質を持っている。この洞窟内にそれがいるとなると、自分達だけでは対処できない。
「メビス先生。他の先生たちにも応援を頼んでください。理事長にも。俺は魔獣を始末しながら奥へ行くので、先生は怪我をしている生徒をお願いします」
「わかりました」
ふっとメビス先生が手のひらに息を吹きかけると、花びらが洞窟の外に向かって飛んでいった。彼の得意な伝言魔法だ。彼が魔法を使う姿はたいそう美しいのだが、その姿に見惚れている暇はない。
足の力を魔法で強化し、全速力で奥に向けて走り出す。横から飛び掛かってきた魔獣を切り裂くと、ドサリと音を立てて崩れ落ちた亡骸を検分する。
(黒い毛皮に、紫の眼、長い尾……)
ブォーウルフ……か。俊敏で、牙の鋭い獰猛な魔獣だ。この暗闇の中で相手にするにはかなり面倒臭い相手。子どもたちには手も足も出ないだろう。(規格外に強い一部の生徒を除けば……だが)
怪我をして蹲る生徒たちは、見たところ、傷は深くても死んではいないようだ。この状況ではそれだけでもありがたい。が、傷口は真っ黒になり皆一様に呪いを受けている。出血も酷い。
本当ならすぐに医務室に送り届けたいところだが、奥にいる生徒たちを助けるのが先だ。メビス先生がいたことに感謝しながら奥へと進む。
しばらく進むと、一つ目の休憩ポイントに差し掛かった。
洞窟内にいくつかある休憩ポイントには、結界が張ってある。魔獣も入って来られないらしく、何人もの生徒がここへ逃げ込み、身を寄せ合って小さく震えていた。
「ラインせんせえええ!!!」
「ぜんぜえがきでぐれたああ」
自分の姿を見て、安堵したのか泣き崩れる生徒たち。ここにいるのは怪我人と、1年生が多いようだ。
「ああ、怖かったな。もう大丈夫だ!! 6年生はこの先にいるのか?」
「はい。先輩方は…逃げ遅れた者や怪我人を守るために、戦ってくれてます」
「わたしのペアの先輩も…体を張って…逃してくれて…先輩…大丈夫かな……うぅ……」
「全然…役に立てなくて……ぼく……」
「……ううぅ……うわああああああ!!」
心配なのに助けに行けない無力な自分に泣く、彼らの姿。それを見ると、もっともっと強くなりたくて必死に足掻いた昔の自分を思い出させた。
「なるほど、わかった! お前たちはよく逃げ切った。あとは俺に任せろ!! すぐ応援が来るから、ここから出るなよ!!」
それだけ言い残し、さらに奥へと進んだ。進めば進むほど魔獣の数が増えていく。足に限界まで魔法をかけ、脚力を上げる。飛びかかってくる敵を容赦なく蹴散らしながら進むと、生温い返り血で服は血まみれになっていた。
(急がねば…大変なことになる……)
今年の6年生には、この国の中心となるであろう子どもたちがウヨウヨいる。
ギア=モーク、ロイル=クルーゼン、リオン=ブラークス、ノエル=コーネスト……。その筆頭とも言えるクライス=アステリアをまだ見ていない。その婚約者のキルナ=フェルライトも。
彼らの身が危険に晒されている。
責任の重さに体が震えた。
かつてこの国の騎士団長ギラ=モークと共に軍を率いていた時も、こんなに緊張はしなかったというのに。
ーー俺の生徒を守るのは、俺の役目だ。どんな状況だとしても、全員守り切ってみせる。
血の匂いと闇が一層濃くなっていく……。
もう他の教師は帰っている時間。まだ魔法学で使う魔道具の手入れがあるとかで残業しているメビス先生と自分以外は、もう各自の家に帰っていた。
俺はというと、きもだめしで何かあった時に駆けつけるため、職員室で待機していた。いつでも動けるように、夕食もここで取ることにする。
肉たっぷりの夕食に舌鼓を打っていると、突然ビービーと緊急信号が鳴り響いた。一つではなく幾つもの信号が鳴り響き、フォークを置く。
「なんだ? こんな一斉に」
メビス先生も道具を整理する手を止め、信号の受信装置を確認する。
「こんなにたくさんの緊急信号……おかしいですね。もしや何か大変なことがあったのかもしれません! 私もライン先生と一緒に行きます」
「それはありがたい! たしかにこの量は、ちょっと異常な気がしますな」
愛用の剣を手にした俺とメビス先生は、きもだめしの行われている宵闇の洞窟へと向かった。
洞窟内は足を踏み入れた瞬間に、むっと生臭い匂いがした。
鉄臭い血の匂いを目指して走ると、洞窟の中間付近に辿り着く。そこに、何人もの生徒が倒れていることが確認できた。かろうじて意識を保っている生徒に声をかける。
「何があった!?」
「ま…じゅう……が……、急に……出てきて」
「む!? 魔獣だと!?」
魔獣といえば、先日学園に出没し、教員総出で討伐したばかりだ。しかし、結局魔獣を操る術者は見つからず、また召喚される恐れもあるとして、その後も魔獣に警戒をするよう伝えられていた。
その魔獣は普通の魔獣ではなく、噛まれた部分に呪いがかかるという厄介な性質を持っている。この洞窟内にそれがいるとなると、自分達だけでは対処できない。
「メビス先生。他の先生たちにも応援を頼んでください。理事長にも。俺は魔獣を始末しながら奥へ行くので、先生は怪我をしている生徒をお願いします」
「わかりました」
ふっとメビス先生が手のひらに息を吹きかけると、花びらが洞窟の外に向かって飛んでいった。彼の得意な伝言魔法だ。彼が魔法を使う姿はたいそう美しいのだが、その姿に見惚れている暇はない。
足の力を魔法で強化し、全速力で奥に向けて走り出す。横から飛び掛かってきた魔獣を切り裂くと、ドサリと音を立てて崩れ落ちた亡骸を検分する。
(黒い毛皮に、紫の眼、長い尾……)
ブォーウルフ……か。俊敏で、牙の鋭い獰猛な魔獣だ。この暗闇の中で相手にするにはかなり面倒臭い相手。子どもたちには手も足も出ないだろう。(規格外に強い一部の生徒を除けば……だが)
怪我をして蹲る生徒たちは、見たところ、傷は深くても死んではいないようだ。この状況ではそれだけでもありがたい。が、傷口は真っ黒になり皆一様に呪いを受けている。出血も酷い。
本当ならすぐに医務室に送り届けたいところだが、奥にいる生徒たちを助けるのが先だ。メビス先生がいたことに感謝しながら奥へと進む。
しばらく進むと、一つ目の休憩ポイントに差し掛かった。
洞窟内にいくつかある休憩ポイントには、結界が張ってある。魔獣も入って来られないらしく、何人もの生徒がここへ逃げ込み、身を寄せ合って小さく震えていた。
「ラインせんせえええ!!!」
「ぜんぜえがきでぐれたああ」
自分の姿を見て、安堵したのか泣き崩れる生徒たち。ここにいるのは怪我人と、1年生が多いようだ。
「ああ、怖かったな。もう大丈夫だ!! 6年生はこの先にいるのか?」
「はい。先輩方は…逃げ遅れた者や怪我人を守るために、戦ってくれてます」
「わたしのペアの先輩も…体を張って…逃してくれて…先輩…大丈夫かな……うぅ……」
「全然…役に立てなくて……ぼく……」
「……ううぅ……うわああああああ!!」
心配なのに助けに行けない無力な自分に泣く、彼らの姿。それを見ると、もっともっと強くなりたくて必死に足掻いた昔の自分を思い出させた。
「なるほど、わかった! お前たちはよく逃げ切った。あとは俺に任せろ!! すぐ応援が来るから、ここから出るなよ!!」
それだけ言い残し、さらに奥へと進んだ。進めば進むほど魔獣の数が増えていく。足に限界まで魔法をかけ、脚力を上げる。飛びかかってくる敵を容赦なく蹴散らしながら進むと、生温い返り血で服は血まみれになっていた。
(急がねば…大変なことになる……)
今年の6年生には、この国の中心となるであろう子どもたちがウヨウヨいる。
ギア=モーク、ロイル=クルーゼン、リオン=ブラークス、ノエル=コーネスト……。その筆頭とも言えるクライス=アステリアをまだ見ていない。その婚約者のキルナ=フェルライトも。
彼らの身が危険に晒されている。
責任の重さに体が震えた。
かつてこの国の騎士団長ギラ=モークと共に軍を率いていた時も、こんなに緊張はしなかったというのに。
ーー俺の生徒を守るのは、俺の役目だ。どんな状況だとしても、全員守り切ってみせる。
血の匂いと闇が一層濃くなっていく……。
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