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出会いと別れ編
夜勤 5
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「終わっ……た……」
夜勤者四名は、ステーションの隅に置かれた電子カルテ前で椅子に凭れて力尽きていた。
結局あの後、整形の急患だけで五件の入院が来た。恭平が三件、真理亜が二件を取り何とかなったものの、これで急変でも起きようものならどうなっていたか。考えただけでゾッとする。
8A病棟がこれだけ大変だったのだ。整形外科の病棟やERの苦労は想像に難くない。
さすがの恭平もぐったりと突っ伏しているし、いつも天使のように美しい真理亜ですらうんざりしたような表情で頬杖を着いている。原に至っては記録をしながら夢の中へと旅立っていた。
(やっと終わった……長い……)
忙しいとあっという間に時間が過ぎるが、それでも十七時間勤務が短く感じる事はきっと無いだろう。情報収集のための前残業と、記録のための後残業を足すと実に二十時間ほどは働く計算である。
「……つばきちゃん、ほら、記録してるつもりかもしれないけどそれ夢よ」
「は……うぇ……? 今書いた記録がない……」
半開きのだらしない口から、間抜けな声を出す原。
「だから夢よ、夢。雛子ちゃんは? もう終わった?」
「あ、はい……何とか……」
雛子も若干眠りの世界に誘われつつあったが、真理亜の声掛けで何とか意識を保つ。記録が終わっているのは、半分ほど恭平のフォローがあったからに他ならないのだが。
「恭平……は、どうせ終わってるわよね?」
「おう……」
突っ伏したまま恭平が低い声で答える。真理亜はリーダーらしく全員の進捗状況を確認すると、よし、と一つ伸びをする。
「それじゃ、今日は解散ね~。つばきちゃんは私が見るから、恭平と雛子ちゃんは先に上がって」
「うっす。お疲れ。行くぞひなっち」
恭平はその一声でのそりと立ち上がると、雛子の腕をぞんざいに引っ張り病棟を後にする。
「あ、えっ、お疲れ様です、真理亜さん、原さんっ」
引きずられていく雛子は、戸惑いながらも挨拶を忘れない。再び夢の世界へ旅立った原の代わりに、上品に胸の前で両手を振る真理亜に見送られた。
エレベーターホールに出たところで、雛子はようやく解放される。
「今日、よく動けてたんじゃない?」
「えっ?」
ぽつりと、恭平が独り言のように呟く。雛子は面食らって、それ以上の言葉が出てこない。あわあわと何か言おうとする雛子に、恭平はふと、口元に小さな笑みを浮かべた。
「頑張ったじゃん」
恭平の大きな手のひらが、ポンと一回、頭に乗る。
「あっ……」
また。
顔に熱が集まる。
「お疲れ様です。ご指導ありがとうございました」
「おう、ゆっくり休めよ」
「桜井さんも」
すぐにエレベーターが到着し、頭上の重みはなくなってしまった。エレベーターを降り、更衣室前で二人は分かれた。
更衣室で着替えながらも、雛子の頬の火照りはなかなか治まらなかった。
夜勤者四名は、ステーションの隅に置かれた電子カルテ前で椅子に凭れて力尽きていた。
結局あの後、整形の急患だけで五件の入院が来た。恭平が三件、真理亜が二件を取り何とかなったものの、これで急変でも起きようものならどうなっていたか。考えただけでゾッとする。
8A病棟がこれだけ大変だったのだ。整形外科の病棟やERの苦労は想像に難くない。
さすがの恭平もぐったりと突っ伏しているし、いつも天使のように美しい真理亜ですらうんざりしたような表情で頬杖を着いている。原に至っては記録をしながら夢の中へと旅立っていた。
(やっと終わった……長い……)
忙しいとあっという間に時間が過ぎるが、それでも十七時間勤務が短く感じる事はきっと無いだろう。情報収集のための前残業と、記録のための後残業を足すと実に二十時間ほどは働く計算である。
「……つばきちゃん、ほら、記録してるつもりかもしれないけどそれ夢よ」
「は……うぇ……? 今書いた記録がない……」
半開きのだらしない口から、間抜けな声を出す原。
「だから夢よ、夢。雛子ちゃんは? もう終わった?」
「あ、はい……何とか……」
雛子も若干眠りの世界に誘われつつあったが、真理亜の声掛けで何とか意識を保つ。記録が終わっているのは、半分ほど恭平のフォローがあったからに他ならないのだが。
「恭平……は、どうせ終わってるわよね?」
「おう……」
突っ伏したまま恭平が低い声で答える。真理亜はリーダーらしく全員の進捗状況を確認すると、よし、と一つ伸びをする。
「それじゃ、今日は解散ね~。つばきちゃんは私が見るから、恭平と雛子ちゃんは先に上がって」
「うっす。お疲れ。行くぞひなっち」
恭平はその一声でのそりと立ち上がると、雛子の腕をぞんざいに引っ張り病棟を後にする。
「あ、えっ、お疲れ様です、真理亜さん、原さんっ」
引きずられていく雛子は、戸惑いながらも挨拶を忘れない。再び夢の世界へ旅立った原の代わりに、上品に胸の前で両手を振る真理亜に見送られた。
エレベーターホールに出たところで、雛子はようやく解放される。
「今日、よく動けてたんじゃない?」
「えっ?」
ぽつりと、恭平が独り言のように呟く。雛子は面食らって、それ以上の言葉が出てこない。あわあわと何か言おうとする雛子に、恭平はふと、口元に小さな笑みを浮かべた。
「頑張ったじゃん」
恭平の大きな手のひらが、ポンと一回、頭に乗る。
「あっ……」
また。
顔に熱が集まる。
「お疲れ様です。ご指導ありがとうございました」
「おう、ゆっくり休めよ」
「桜井さんも」
すぐにエレベーターが到着し、頭上の重みはなくなってしまった。エレベーターを降り、更衣室前で二人は分かれた。
更衣室で着替えながらも、雛子の頬の火照りはなかなか治まらなかった。
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