白衣とブラックチョコレート

宇佐田琴美

文字の大きさ
50 / 156
白衣の天使編

季節外れの海旅行 3

しおりを挟む
「ひなっち右!!」

「は、はいっ! うぁっ」

 フリーハンドで描かれた砂のコートギリギリのラインを狙って、元バレー部である夏帆のアタックが振り下ろされる。

 アタックが打たれる直前の僅かな身体の動きを読んで、恭平が指示を出した方向へ言われるがまま雛子は動く。

「はい、ゲームセット~」

 雛子が砂に足を取られそのまま砂浜にダイブしたところで、ビーチボールは審判をしていた鷹峯の足元に転がっていった。

「……ほんっと鈍臭い女」

「か、かたじけない……」

 チームメイトのはずの舞から容赦ない言葉を浴びせられ、雛子は平謝りする他ない。

「ていうか、何でそんな動きにくい格好してるのよ? あんた水着持ってきてないわけ?」

「な、ないです。ごめんなさい……」

 舞に突っ込まれるのも無理はない。全員が水着を着ている中、雛子はまるで子どもの水泳発表会を見に来た母親のようなUVカットファッションに身を包んでいた。

「分かった。まな板だからでしょ」

「ちょっ、なっ、なんてこと言うんですか皆の前でっ!」

 しかしこのナイスバディの持ち主が揃う前では、確かに水着を着るのも勇気が必要かもしれない。

「っしゃあ! またこっちのチームの圧勝だぜー!」

 反対側のコートでは、悠貴がガッツポーズで飛び上がっていた。

「そりゃそうでしょ。私と真理亜さんのタッグなら負けるわけがない。つまりお荷物はアンタだ入山」

「俺もサーブ決めただろうが!」

 同じ元バレー部のよしみでいつの間にか真理亜と仲良くなった夏帆が、キッパリと悠貴を指差した。

「交代しましょうか、雨宮さん?」

 完全にへばっている雛子を見兼ねて、鷹峯が交代を申し出る。それに嬉々として賛成したのはもちろん舞だ。

「じゃあ~次は恭平と鷹峯先生が私のチームね! いやぁん最高のメンバーだわぁ~」

 頬を押えて悦に入ってる舞を後目に、恭平が未だ座り込んでいる雛子を引っ張り起こす。

「ほら、お前座って審判してろ」

「は、はい、ありがとうございます」

普段は白衣に隠されている均整のとれた身体に、薄らと汗が浮かんでいる。何だか見てはいけないものを見ている気がして、雛子は煩くなった心臓を誤魔化すように少しだけ目を伏せる。

「ボコボコにして差し上げますよ、清瀬さん」

「……私に何の恨みがあるかは存じませんが、どうぞご自由になさって?」

「ス、スタート! 試合スタートしましょうっ!」

 鷹峯の軽口に、目元をひくつかせながらも笑顔で応じる真理亜。場に渦巻き始めた冷気に肝を冷やされ、雛子は試合開始の合図を送る。

「……絶対負けないわよ、夏帆ちゃん」

「任せてください、真理亜さん」

 サーブを構える夏帆が真理亜に答える。

「行きます」

 およそビーチボールとは思えない球速で、夏帆の放ったサーブは舞の足元へと落下した。

「きゃっ! ちょ、ちょっとあの女、今私のこと狙ったわよ!?」

「勝つために下手くそなやつ狙って何が悪いんだバーカ!!」

 舞の抗議に、悠貴が応酬する。

「バカとは何よ! アンタだって何の役にも立ってないでしょーが!!」

「少なくともお前よりはボール拾えてるわ!!」

「鷹峯先生、さっきの威勢はどうされたのかしら?」

「いやぁビックリするほど予想通りの手の内だったのでつい気が抜けちゃいまして」

(何でこの人達罵り合わないと気が済まないんだろ……)

 少しは恭平と夏帆を見習え。雛子は砂の上に正の字で得点を記録しながら、心の中でゴチる。

「まぁでもそうですね。確かに弱い人を狙うのは必勝法」

 再び放たれた夏帆のサーブを、鷹峯は難なく受け止め高くトスを上げた。

「ですよね、桜井君?」

「おう、悪いな入山」

「んなっ……!?!?」

 高い位置から力強く打ち込まれた恭平のアタックが、悠貴の顔面にクリーンヒットした。

「うわっ、悠貴大丈夫!?」

「アーハッハッハッ!!! 弱いやつは狙われるのよっ!!」

 仕返しとばかりに、舞が悪役令嬢のごとく高笑いをしてみせる。悠貴は顔面を押さえながら悔しそうに起き上がった。

「……ちっくしょう。認めたくはないが、市ヶ谷の言う通り俺はお荷物だ。おいワガママ女! 俺達二人は抜けるぞ!」

「はぁっ!? ちょっと何勝手に決めてんのよっ……!」

 不平を述べながらも、悠貴が抜けてしまったのを見て仕方なく舞も離脱する。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

秘書と社長の秘密

廣瀬純七
大衆娯楽
社内の調査のため、社長・高橋健一はこっそり秘書・木村由紀と不思議なアプリで入れ替わることに。 突然“社長役”を任された由紀と、自由に動ける立場を手に入れた高橋。 ふたりの秘密の入れ替わり作戦は、どの様な結末になるのか?

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

お前が欲しくて堪らない〜年下御曹司との政略結婚

ラヴ KAZU
恋愛
忌まわしい過去から抜けられず、恋愛に臆病になっているアラフォー葉村美鈴。 五歳の時の初恋相手との結婚を願っている若き御曹司戸倉慶。 ある日美鈴の父親の会社の借金を支払う代わりに美鈴との政略結婚を申し出た慶。 年下御曹司との政略結婚に幸せを感じることが出来ず、諦めていたが、信じられない慶の愛情に困惑する美鈴。 慶に惹かれる気持ちと過去のトラウマから男性を拒否してしまう身体。 二人の恋の行方は……

甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・

希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!? 『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』 小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。 ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。 しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。 彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!? 過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。 *導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。 <表紙イラスト> 男女:わかめサロンパス様 背景:アート宇都宮様

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。 そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。 その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。 どうも美華には不思議な力があるようで…?

悪徳公主と冷徹皇帝陛下の後宮薬膳茶

菱沼あゆ
キャラ文芸
 冷徹非道と噂の皇帝陛下のもとに、これまた悪しき評判しかない異国の王女、琳玲がやってきた。  琳玲は皇后の位は与えられたが、離宮に閉じ込められる。  それぞれの思惑がある離宮の女官や侍女たちは、怪しい薬草で皇帝陛下たちを翻弄する琳玲を観察――。  悪徳公主と冷徹皇帝陛下と女官たちの日々は今日も騒がしい。

お隣さんはヤのつくご職業

古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。 残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。 元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。 ……え、ちゃんとしたもん食え? ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!! ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ 建築基準法と物理法則なんて知りません 登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。 2020/5/26 完結

処理中です...