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白衣の天使編
熱 2
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「ただいま戻りまし……あれ?」
リビングに続くドアを開け、雛子は目を瞬かせる。
「あ、おかえりなさい雛子ちゃん」
「随分時間がかかりましたねぇ」
そこにいたのはいつも通りの柔らかな笑みを浮かべる真理亜、そして鷹峯の二人だけだった。
双方対面のソファに座りにこやかな表情を崩さないものの、室内の体感温度が二、三度低い事には気付かないふりをする。
ローテーブルの上は既に片付けられ、二人が飲んでいる缶チューハイがそれぞれ一本ずつ置かれているだけだった。
「悠貴君と夏帆ちゃん、潰れちゃってね。二人とも隣の部屋に運んだのよ」
真理亜が綺麗に整った眉を八の字にして告げる。
「それから」
次に真理亜は、もうひと部屋の方に目を向ける。
「篠原さん、少し熱っぽいみたい。今恭平が付いてるわ」
「あ、え、そう、なんですか……?」
真理亜の言葉に何故か動揺してしまい、雛子は上擦った声でそう返した。
「ええ、それでとりあえずお開きになりましてね。ここで私と清瀬さんは深めたくもない親睦を深めているところなんですよ」
「大丈夫ですよ先生。全然深まってないですから。うふふ」
「あ、えーーーーっと、私、篠原さんにアイス届けてこようかなぁっ?」
その場の雰囲気に耐えきれず、雛子はビニール袋の中から頼まれていたアイス、それから念の為多めに買っておいたミネラルウォーターを取り出し、急いで恭平達のいる部屋に向かった。
「似てますよねぇ。彼女と貴女」
雛子が舞にアイスを届けに行ったあと、鷹峯は面白そうに口角を歪めながらそう宣った。その言葉に、真理亜はピクリと眉を動かす。
「彼女って、誰のことです?」
缶チューハイの結露を指先でなぞりながら、真理亜は問う。鷹峯はわざと驚いたような顔をして見せた。
「これはこれは。まさか雨宮さんだと思いましたかぁ?」
その言葉に、真理亜の指先に力が入る。アルミの缶が小さく音を立てて僅かにへこむ。
「篠原さんですよ。美人で、まぁ彼女は貴女ほど賢くはないかもしれませんが。いや、狡賢い、と言えばしっくり来ますか、ねぇ?」
にんまりと目を細めてみせる鷹峯に、真理亜は苛立ちを隠して笑みを作って見せた。
「さぁ? 全然似てないと思いますけど?」
その反応に、鷹峯はやはり愉しそうにしながら残っていたチューハイを一気に煽る。
「良いですねぇ。その目」
そして雛子が置いていったビニール袋から新しい缶を二本取り出し、一つを真理亜に渡した。潔癖症と言うだけあり、飲み口の部分を除菌シートで神経質に拭う。
「同族嫌悪、ですか?」
真理亜の綺麗な口角が僅かに歪む。
「あー、それ。良い表情しますねぇ。そそられますよ、とても」
「……」
可笑しそうにそう宣いながら、鷹峯は自分の持つ缶を真理亜のそれに軽く当て、「乾杯」と囁いた。
リビングに続くドアを開け、雛子は目を瞬かせる。
「あ、おかえりなさい雛子ちゃん」
「随分時間がかかりましたねぇ」
そこにいたのはいつも通りの柔らかな笑みを浮かべる真理亜、そして鷹峯の二人だけだった。
双方対面のソファに座りにこやかな表情を崩さないものの、室内の体感温度が二、三度低い事には気付かないふりをする。
ローテーブルの上は既に片付けられ、二人が飲んでいる缶チューハイがそれぞれ一本ずつ置かれているだけだった。
「悠貴君と夏帆ちゃん、潰れちゃってね。二人とも隣の部屋に運んだのよ」
真理亜が綺麗に整った眉を八の字にして告げる。
「それから」
次に真理亜は、もうひと部屋の方に目を向ける。
「篠原さん、少し熱っぽいみたい。今恭平が付いてるわ」
「あ、え、そう、なんですか……?」
真理亜の言葉に何故か動揺してしまい、雛子は上擦った声でそう返した。
「ええ、それでとりあえずお開きになりましてね。ここで私と清瀬さんは深めたくもない親睦を深めているところなんですよ」
「大丈夫ですよ先生。全然深まってないですから。うふふ」
「あ、えーーーーっと、私、篠原さんにアイス届けてこようかなぁっ?」
その場の雰囲気に耐えきれず、雛子はビニール袋の中から頼まれていたアイス、それから念の為多めに買っておいたミネラルウォーターを取り出し、急いで恭平達のいる部屋に向かった。
「似てますよねぇ。彼女と貴女」
雛子が舞にアイスを届けに行ったあと、鷹峯は面白そうに口角を歪めながらそう宣った。その言葉に、真理亜はピクリと眉を動かす。
「彼女って、誰のことです?」
缶チューハイの結露を指先でなぞりながら、真理亜は問う。鷹峯はわざと驚いたような顔をして見せた。
「これはこれは。まさか雨宮さんだと思いましたかぁ?」
その言葉に、真理亜の指先に力が入る。アルミの缶が小さく音を立てて僅かにへこむ。
「篠原さんですよ。美人で、まぁ彼女は貴女ほど賢くはないかもしれませんが。いや、狡賢い、と言えばしっくり来ますか、ねぇ?」
にんまりと目を細めてみせる鷹峯に、真理亜は苛立ちを隠して笑みを作って見せた。
「さぁ? 全然似てないと思いますけど?」
その反応に、鷹峯はやはり愉しそうにしながら残っていたチューハイを一気に煽る。
「良いですねぇ。その目」
そして雛子が置いていったビニール袋から新しい缶を二本取り出し、一つを真理亜に渡した。潔癖症と言うだけあり、飲み口の部分を除菌シートで神経質に拭う。
「同族嫌悪、ですか?」
真理亜の綺麗な口角が僅かに歪む。
「あー、それ。良い表情しますねぇ。そそられますよ、とても」
「……」
可笑しそうにそう宣いながら、鷹峯は自分の持つ缶を真理亜のそれに軽く当て、「乾杯」と囁いた。
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