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呪われし僧侶と淫語勇者(全八話)
6 影さしたるは水面の月か天くものわれめか(※)《寸止め》
あの日から何度夜が訪れても、聖剣の呪いは起きなかった。
勇者ソーマは騎士たちと力を合わせて現れる魔物を次々と退治していく。
それなのに私は、胸にポッカリと穴が空いたような気分に苛まれた。
そして前の勇者が封印されてから十日目の夜、とうとう私は騎士たちの天幕を抜け出して、近くの湖のほとりに一人で出てきてしまった。
四六時中抱えたままだった聖剣を地面に置き、恐る恐る被せてあった魔物の皮を取る。
「…勇者様?勇者様、エミリオです。エミリオたんですよ…?」
しかし魔物の皮を全て剥いてしまってからも、呪いが発動することも、あの奇妙で下品な言葉が聞こえてくることもなかった。
「勇者様…っ!嫌です…、そんな…」
何の反応もないことに今更ながら狼狽える。
躊躇いながらも私は寝間着を捲って下着を下ろし、自分の尻に聖剣の柄を沿わせた。
しかし。
「痛…っ」
そうだ。あの軟膏がない。
何か塗るものがなければ、尻にはこんな太いモノは入らないのだと今更ながらに思い知る。
「勇者様ぁ…っ、ふぇ…っ、うぅ…っ、ひっく…、ううぅ…っ」
「エミリオさん」
「っ!!」
涙があふれてきたところで呼びかけられて振り返れば、月明かりの下で困ったように眉を下げたソーマが立っていた。
私は慌てて顔を拭い、股に挟んでいた聖剣を皮の上に置く。
「何を…やっていたんですか…?」
「あっ、これは…っ、その…」
気まずくて顔が上げられない。
俯いていると、ソーマには珍しい不機嫌そうな低い声が投げられた。
「…そんなにもそいつがいいんですか?あんなに酷いことをされたのに?」
そう尋ねられるが、答えられない。
自分でも何をやろうとしているのかと何度も自問して、迷いながらここまで来てしまったのだ。
「俺にしてください…。あんなヤツ、ただの気持ちの悪い変態のオタクじゃないですか…!」
「そ、そんなことありません!!確かに…ちょっと…いえ、かなり…言葉遣いは下品で、ちょっと気持ち悪いところもありますけど…。でも、本当は…優しく…、も…ないし…何事にも一生懸命…、というわけでもありませんが…それでも…っ、彼にだって、良いところの一つか二つくらいはあるはずですっ!」
私は咄嗟にあの変人を庇おうとして、何か良いところはないかと必死に思い出そうとしたが、良いところなど一つも思いつかなかった。
自分で言っていても何が言いたいのか意味がわからない。
しかしそんな態度はソーマの癇に障ったようで、彼の眉間にグッと皺が寄り、そう深くはない鼻梁にも影が宿った。
「は?…それは、あなたは、やっぱりあいつのことが好きで、愛してたってことですか?」
「え…っ、あ、あい…?い、いえ、そんな…」
そう言われて慌てて否定するものの、自分の行動原理が自分でもよくわからないのだ。
「だってあんなに嫌がっていたのに、あいつを呼び出すためにその聖剣でアナルオナニーをしようとしてたんですよね?それって、身体を乗っ取られてた俺なんかどうでもよくて、あいつと一緒にいたいってことなんじゃないんですか?」
そんな苛々とした態度と言葉で言い当てられて、私は初めて自分の浅はかな行動の罪深さを知った。
「あ…、ご、ごめんなさい!決して、そんなつもりでは…」
「へぇ…じゃあどういうつもりだったんですか?また俺の身体でセックスしたかったってことですか?それは中身は俺でもいいんじゃないですか?」
じわじわと間合いを詰めていたソーマは、易々と私の身体を抱き寄せた。
その胸の中に抱きしめられると、無性にあの変人のことを思い出してしまう。
もう会えないのだろうか。本当に?
あんな風に…なりふり構わず私を求めて、泣き喚いていた幼かった相貌が、今は理性的に苦々しく歪められている。
ソーマの細く長い指が、伺うように私の尻をそろそろと撫でた。
「ここに…男を呑み込むのが…好きなんですよね?」
「え…?あ…、でも…っ、や…っ」
「…嫌がらないで…どうか…」
ソーマは祈るようにそう呟くと、私の肩に額をうずめた。
「…ソーマ様…」
「あなたが…したいなら…」
ソーマはそっと私から身体を離すと、ズボンのベルトを緩め、そそり立った陰茎を見せびらかした。
「こっちで…オナニーしてくれませんか…?」
「え?…あ、え?」
ズクン。
固そうな肉棒に、尻が疼く。
「や…、でも…」
あの勇者の声が頭に響く。
ーーーエッチ!ドスケベ!淫乱僧侶はエミリオたん!オチンポ大好きエミリオたん!!
ーーーお尻オマンコで普通にイッちゃうドスケベミルクメーカー無節操おちんちん!!
ーーーエミリオたんはいけないオマンコ!神さま激おこ天罰アクメ!連続悶絶天罰アクメ!
どう思い返してみても酷い言葉しか言われていない。
なのに、私はあの声に確かに欲情していたのだ。
ゴクリと生唾を呑み込むと、ソーマは落ち込んだように首を振った。
「…やっぱり、そうですよね…こんな詭弁で騙そうだなんて、俺は最低だ…っ!これじゃあアイツと一緒じゃないか…!」
「え?あ…っ」
そう泣きそうに顔を歪めて、美味しそうな肉棒を隠してしまう。
私は未練がましくその膨らんだ股間を見つめて、ドキドキと胸が高鳴っていくのを感じた。
なんだろう。
勇者の陰茎を見て、尻はヒクヒクと疼きっぱなしだし、私の陰茎も勃ち上がり始めている。
胸がドクドク大きく脈打つのに、キュンキュンと締め付けられる気もして、私はこの異常現象に狼狽えた。
「う…」
「え?…大丈夫ですか?」
胸を押さえてフラリと後退ると、ソーマは勇者の顔で眉を顰めて私の顔を覗き込んできた。
その表情が凛々しい。
この男はこんなに精悍で、月明かりの元でもわかるほどにキラキラとしたオーラを纏っていただろうか。
異国情緒あふれる切れ長の目元や細い顎が、やけに色っぽく見える。
柔らかそうでキメ細かな白い肌も、月光に照らし出されて一層艶やかに見えた。
あの勇者とはまた違った雰囲気なのに、その相貌が私を混乱させる。
「エミリオ、さん…?」
ソーマは真っ黒な目を丸くして私を驚いたように見つめる。
なぜ驚いているのか。それはもしかして、私がこのサラサラと流れる黒髪を梳いて撫でているからか。
微かに濡れた淡い色の唇が、おいしそう。
自分も唇を舐めてまたその瞳を見上げれば、ソーマはなぜか怯えたように身を引き、拒絶するように顔を逸らした。
「あっ、あの…っ、でも…俺は…っ!ちゃんと、エミリオさんに好きになってもらいたくて…!いえ、好きになってもらえなくても、側にいられるだけで…いいんです…でも…やっぱりこういうことは、好きになってもらってからでないと…騙そうとして、付け入ろうとしてごめんなさいっ」
そう言うと、ソーマはうるうると瞳を揺らして、また泣きそうな顔で首を振った。
私はよくわからない断り文句に、目を瞬いた。
「え…?な、なに…?何て…?」
「いえ、何でもありません。テ、テントに…戻りましょう。ここは冷える。…これは…もう外さないで」
ソーマは地面に落ちていた聖剣を手早く魔物の皮に包み直すと、私に押しつけてきた。
その辛そうに歪んだ横顔が、なお一層端麗に見えた。
私は勇者に手を引かれテントに戻っても眠ることなどできずに、聖剣を抱きしめたまま寝返りばかりを打っていた。
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