同世界連続転生EX〜自分を殺した相手の能力を得て最凶の魔王になろう!!

小林一咲

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第3話 人は、喋る。だから殺しやすい

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 盗賊たちは、油断しきっていた。

 焚き火のそばで酒袋を回し、誰かが下品な笑い声を上げる。
 森の奥に響くその声は、獣の唸りとは違う――人間の声だ。

「なあ、あのエルフのガキども、街に着く前に一人くらい売り物にならなくしてもよかったんじゃねぇの?」

「バカ言うな。値が下がるだろ」

「ははっ、確かにな」

 下卑た笑い。
 その輪の外側に、一人だけ静かに立つ影があった。

 長い耳。
 整った顔立ち。
 だが、瞳の奥は凍った湖みたいに冷たい。

 ――エルフの男。

 俺は、草陰からその光景を見ていた。

(……初めて見る、人間同士の会話だ)

 言葉が通じる。
 それだけで、胸の奥に妙な期待が生まれてしまう。

(話せば……違うかもしれない)

 その考えが、どれほど甘かったかを思い知ることになる。

 ――ヒュッ。

「……?」

 乾いた音と同時に、視界が跳ねた。

 ◆◆◆

「……また、か」

 森の一軒家。
 ベッドの上。

 俺は天井を見上げながら、ゆっくり息を吐いた。

「頭を撃ち抜かれるの、早すぎだろ……」

 愚痴りながらも、冷静に整理する。

(弓兵が二人。索敵が早い。
 会話中でも、周囲を見てる)

 もう一度、向かう。

 ◆◆◆

「……ん?」

 盗賊の一人が、首を傾げた。

「今、なんか音しなかったか?」

「風だろ。ビビりすぎだ」

 その瞬間――背後。

「後ろだッ!!」

 怒号。

「――っ」

 短剣が背中に突き立てられる。

「チッ、やっぱガキだ」

「待て……こいつ、さっき殺した奴と顔同じじゃねぇか?」

「は?」

 盗賊たちが、俺を覗き込む。

「……気のせい、だよな?」

「……だよな?」

 不安が、声に滲む。

 そのまま、暗転。

 ◆◆◆

 三度目。

 今度は、正面から姿を見せた。

「……あ?」

「ガキ?」

 盗賊たちが、俺を見る。

「おいおい、こんなとこで迷子か?」

「親はどうした? ……いや、まあいいか」

 弓兵が、半ば冗談めかして弓を構える。

「試し撃ちにちょうどいい」

「――やめとけ」

 エルフの男が、低い声で制した。

「そいつ……妙だ」

 だが、遅い。

 矢が放たれ、
 俺は一人殴り倒すも――

「囲め!!」

 数の暴力。

「何度も出てきやがって……!」

 怒りと恐怖が混じった声。

 暗転。

 ◆◆◆

 再び、ベッド。

「……三回」

 だが、今回は違う。

【解析情報:人族】

《能力継承(拡張)》
 ・人族討伐時、基礎能力値に直接加算

「……なるほど」

 つまり。

「人を殺すと、一気に強くなる」

 口に出した瞬間、
 胸の奥が、冷たく静かに燃えた。

 ◆◆◆

 四度目。

 今度は、殺す。

「――誰だ!?」

 石が、弓兵の眉間を砕く。

「なっ――!?」

【人族を討伐しました】

 身体が、軋む。

「……っ、これが……」

 盗賊たちの顔が、明確に引き攣った。

「おい……!」

「さっき殺したはずだぞ!」

「……幽霊、か?」

 一人、また一人。

「や、やめろ!」

「来るな!!」

 叫び声が、森に響く。

 最後に残った盗賊が、膝をついた。

「ま、待て……話せば――」

「話した」

 拳を振るう。

【人族を討伐しました】

 静寂。

 そこへ――

「……やはり、君は危険だ」

 エルフの男。

「何度も蘇る。
 まるで、死を踏み台にしているようだ」

「質問がある」

 俺は言った。

「なぜ、同族を攫った?」

 エルフの男は、心底不思議そうに眉をひそめた。

「なぜ? 決まっているだろう」

 そして、笑った。

「高く売れるからに決まっている。
 ボクの遺伝子で作った子どもだ。
 どうしようと自由だろ!!」

 その声には、微塵の迷いもなかった。

「……そうか」

 一歩、踏み出す。

「じゃあ、死ね」

 頭部粉砕。

 ◆◆◆

 エルフの少女たちは、俺を見ると怯えた。

「……こわい?」

 肉を差し出す。

「……たべていいの?」

「いい」

 数分後。

「……おいしい」

「……いっしょにいく」


 ◇◆◇◆

 森を抜けるにつれ、空気が変わった。

 湿り気を帯びた土の匂いが薄れ、代わりに乾いた風が頬を撫でる。
 木々の隙間から差し込む光が、やけに眩しい。

「……そと、ひさしぶり……」

 エルフの少女の一人が、小さく呟いた。
 声はか細く、だがどこか弾んでいる。

 俺の後ろを歩く三人は、最初こそ数歩離れていたが、
 森の出口が見えるにつれて、自然と距離を詰めてきた。

「ねえ……」

 袖を、きゅっと掴まれる。

「……?」

「にげない……よね?」

 不安と期待が混じった瞳。

「逃げない」

 短く答えると、少女はほっと息を吐いた。

「……よかった」

 その声は、信頼というより、
“選択肢が他にない者の確認”だった。

 森を抜けた瞬間、視界が開ける。

 遠くに見える、石造りの壁。
 その内側に、屋根が密集しているのが分かる。

 ――街。

 俺が異世界に来て、初めて目にする人の集まりだ。

 そのときだった。

「止まれ!!」

 鋭い声。

 気配を察知するより早く、
 俺たちは半円状に取り囲まれていた。

 鎧の擦れる音。
 槍の穂先が、鈍く光る。

「……何者だ」

 前に出てきた兵士は、俺を真っ直ぐに見据えた。

 視線は冷たい。
 疑念と警戒が、隠しきれていない。

「その年で、武器を持ち……
 しかもエルフの子どもを連れている」

 槍が、わずかに俺へ向けられる。

「状況次第では、その場で拘束する」

 背後で、少女たちが息を呑む気配がした。

「ち、ちがう!!」

 一人が、震える声で叫ぶ。

「このひと、わるいひとじゃない!!」

「盗賊を……ころして……たすけてくれた!」

 兵士たちが、ざわつく。

「……子どもが証言?」

「だが、誘拐犯がそう言わせている可能性も――」

「ちがう!!」

 別の少女が、涙を溜めながら叫んだ。

「おにく、くれた!
 こわいの、やめさせてくれた!」

 沈黙。

 兵士の隊長格らしき男が、少女たちの顔を一人ずつ見た。

「……嘘をついている顔ではないな」

 彼は、俺に視線を戻す。

「名は?」

「……ない」

 正確には、名乗る意味を感じなかった。

「……厄介な少年だな」

 溜息。

「分かった。
 我々の馬車で街まで同行してもらう。
 余計な真似はするなよ」

 馬車の中。

 干し草の匂いと、木の軋む音。

 少女たちは寄り添うように座り、
 時折、俺の顔を盗み見る。

「……まち、すごい?」

「……たぶん」

 その返答に、三人とも小さく笑った。

 街に入ると、視線が突き刺さった。

 人、人、人。

 好奇の目。
 警戒の目。
 侮蔑の目。

 鎧を着た兵士に囲まれ、
 エルフの少女を連れた俺は、どう見ても異物だった。

「……ここで降りてもらう」

 孤児院。

 温かい匂いがした。

 パンと、スープと、石鹸。

 少女たちは、名残惜しそうにこちらを見る。

「ありがとう」

「また、あえる?」

「……分からない」

 それでも彼女たちは職員の手を取り、建物の奥へ消えていった。

 俺は、冒険者ギルドへ向かう。

 木製の扉。
 中は、酒と汗と鉄の匂い。

 受付の男が、俺を見るなり眉をひそめた。

「……十五歳?」

「そう見える」

「盗賊団を五人討伐……証拠は?」

「ない」

「なら、報酬は出せない」

 きっぱりとした声。

「規則だ。証拠がない討伐は、ただの自称だ」

 周囲から、失笑。

「ガキが大口叩くな」

「夢は寝てから見ろ」

 胸の奥が、静かに冷えた。

「……分かった」

 踵を返す。

 ギルドを出ると、夕暮れだった。

 街の喧騒が、やけに遠い。

(証拠、か)

 俺は、再び森の方向を見る。

 ――あそこには、死がある。
 ――そして、力がある。

「……戻るか」

 森へ。

 今度は、証拠を“持って”戻るために。

 人と共に生きるには、まだ、俺は死にすぎていた。



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