容姿にステータス全振りした“顔面強すぎ”転生者は望まぬ異世界ハーレムに苦労する。〜最弱男が最強【乙女騎士団】創設までのキセキ〜

小林一咲

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3話

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 村での滞在は、思った以上に長引いた。

 といっても、数日というほどではない。せいぜい半日ちょっとだ。
 だがその半日が、タモツの精神をじわじわと削っていった。

 理由は簡単。

 視線が痛い。

 歩けば見られる。
 座れば見られる。
 水を飲めば見られる。

「……なんでオレ、こんなに見られてるんだ」

 自覚はある。顔だ。
 自分で言うのもなんだが、この世界基準で言えば、どうやら“反則級”らしい。

「慣れなさい」

 横を歩くミーニャが、いつも通り感情の起伏ゼロで言う。

「この顔、資源」

「資源扱いするな」

 アンヌはというと、一歩後ろを歩きながら、時々チラチラとこちらを見ては、顔を赤くしている。

「……」

 もう何も言うまい。

 そうして、なんやかんやで村を後にし、タモツの家――神様からもらったポツンと一軒家に戻ってきた。

 扉を開けた瞬間。

「……え?」

 タモツは固まった。

 荷物がある。

 いや、正確には――大量にある。

 木箱。
 布袋。
 干し肉らしきもの。
 毛皮。
 なにかの骨。

 生活感の塊が、部屋の一角を完全に占領していた。

「……誰の?」

 分かっている。
 分かっているが、聞かずにはいられなかった。

「私の」

 ミーニャが即答する。

「……は?」

「ここに引っ越す」

「即断即決すぎない!?」

 タモツのツッコミが、森に虚しく響いた。

「そもそもミーニャ、どこに住んでたんだよ」

「森」

「森のどこだよ」

「いい場所」

 情報量、ゼロ。

 アンヌが、おずおずと口を挟む。

「えっと……ミーニャさんは、森で単独生活をされていたそうです」

「野生か!」

 ミーニャは首を傾げる。

「野生、失礼」

「ごめん!」

 その時、ミーニャが何かを思い出したように、荷物の中からズシリとした塊を取り出した。

「……あと、これ」

 差し出されたそれは、黒光りする肉の塊だった。

「なにこれ」

「ブラックボア」

「色で分かるわ!」

 ミーニャは淡々と説明する。

「猫獣人は、婚姻の際にブラックボアの肉を一緒に食べる」

 タモツの思考が、一瞬停止した。

「……婚姻?」

「本来は、オスが狩ってくる」

「本来は!?」

「でも、あなた弱い」

「言い切った!」

「だから、仕方ない」

 ミーニャは肉を置く。

「もう番」

「勝手に確定させるな!」

 アンヌが慌てて手を振る。

「えっ、えっ!? こ、婚姻って……!」

「ちがうちがう!」

 タモツは即フォローに回る。

「これは文化的なアレであってだな!」

「文化……」

 アンヌは真剣な顔で考え込む。

「……難しいですね」

 難しいのは説明する側だ。

 その後、タモツは改めて考えた。

(このまま、この場所で生活するのは――キツい)

 森。
 獣道。
 村までは遠い。

「……なあ、二人とも」

 タモツは切り出した。

「できれば、大きめの町に行きたい」

 ミーニャは即答。

「ついていく」

 アンヌも、間髪入れずに。

「私も行きます!」

「理由、早いな!?」

「タモツさんを守るためです!」

「オレ、そんなに危なっかしいか!?」

 ミーニャが静かに言う。

「うん」

「即肯定するな!」

 話を聞けば、町までは最低でも二日はかかるらしい。

「今日はもう、寝よう」

 そうして夜。

 問題が発生した。

 布団が一組しかない。

 神様よ。
 なぜ一組なんだ。

「……まあ、いいか」

 結果。

 三人で川の字――のはずだった。

 はずだったのだが。

「近い! 近い近い近い!」

 タモツは叫びたいのを必死で堪えていた。

 ミーニャは、完全にくっついている。
 アンヌも、反対側からくっついている。

 布団、限界密度突破。

「……アンヌがいると、昨日みたいな事できない」

 ミーニャが、ボソッと言った。

「昨日!?」

 アンヌが跳ね起きる。

「昨日、何したんですか!?」

「なにも!」

 タモツは即答した。

「なにもしてない! 誓って!」

 心の中で、付け足す。

(キスもしてない! 本当に!)

 アンヌは、顔を真っ赤にして布団を握る。

「……そ、そうですよね」

 倫理的に、アウトだ。
 全力でアウトだ。

 結局。

 普通に寝た。

 何事もなく。

 翌朝。

「よし、準備するか」

 タモツは立ち上がる。

 こうして、
 顔だけが取り柄の元日本人と、
 即婚姻判定する猫獣人と、
 文化理解が追いつかない村長の孫の、
 妙な旅が始まろうとしていた。

 前途は――
 たぶん、ロクでもない。


◇◆◇◆

 朝だった。

 鳥の鳴き声と、まだ冷たい空気が、森の中に満ちている。
 タモツは深呼吸をしてから、簡素な荷物を背負い直した。

「……本当に、行くんだな」

 呟くように言うと、アンヌが大きく頷いた。

「はい。王都ダルキモンへ」

 この近辺で最も大きく、最も栄えている街。
 人も物も情報も集まる場所。

 アンヌは今朝、村の皆と、そして療養中の村長に、しばしの別れを告げてきたらしい。
 戻る時期は決めていないが、「必ず元気で戻る」と約束して。

 十三歳にしては、覚悟が決まりすぎている。

「……オレ、責任重くない?」

 タモツがぼそっと言うと、ミーニャが即座に答えた。

「顔の責任」

「そんな概念ある!?」

 こうして三人は、王都ダルキモンへ向けて歩き始めた。

 道は相変わらず獣道同然。
 だが、昨日よりも心持ち安心感がある。

 理由は明白。

 ミーニャがいる。

 最初に遭遇したのは、二足歩行のトカゲ型魔物だった。

「下がって」

 ミーニャは短くそう言うと、一瞬で距離を詰め、爪閃のような一撃で魔物を沈めた。

「……はや」

 タモツは感嘆するしかない。

 二体目、三体目と魔物が現れても、状況は変わらなかった。
 ミーニャが前に出て、すべて片付ける。

 完全なる護衛。

 だが、驚いたのはそれだけではなかった。

「……次、来ます」

 アンヌがそう言って、両手を組む。

「え?」

 次の瞬間、淡い光がミーニャの身体を包んだ。

「……これは」

「身体強化魔法です」

 アンヌは少し照れたように言う。

「自分には使えないんですけど、他人には付与できます」

 所謂、バフ。
 直接戦う力はないが、仲間を強化する補助魔法。

 強化されたミーニャは、動きがさらに鋭くなった。

「……良い」

 ミーニャが珍しく、感心したように言う。

「これ、強い」

「えへへ……」

 アンヌは照れながらも、誇らしそうだった。

 一方。

「……オレ?」

 タモツは、自分の手を見た。

 何も起きない。
 強化もされない。

「タモツさんは……」

 アンヌが言いづらそうに視線を逸らす。

「見る役」

「観戦者かよ!」

 事実なので、反論はできなかった。

 順調だった旅路も、時間と共にタモツの体力を削っていく。

「……ちょっと、待って」

 昼を過ぎた頃、ついに足が止まった。

「……限界?」

 ミーニャが振り返る。

「限界……」

 握力二十。
 筋力最低限。
 持久力、皆無。

 タモツは膝に手をつき、肩で息をしていた。

「……ここで野営しよう」

 ミーニャが提案する。

「ダルキモンまでは、あと一日半」

「……一日半!?」

 絶望が見えた。

 だが、ミーニャはタモツの前に来ると、躊躇なく彼を抱き上げた。

「……は?」

「お姫様抱っこ」

「説明いらない!」

 アンヌが慌てて言う。

「み、ミーニャさん!? それは……!」

「効率的」

「倫理は!?」

「知らない」

 こうして、タモツは運搬物となった。

 結果。

 予定通り、二日ほどで王都に着けそうなペースを維持できた。

 夕方。

「ここで野営しよう」

 ミーニャの言葉で、森の少し開けた場所に陣取る。

 タモツにとっては、人生初の野営だ。

「……魔物、来ない?」

 不安を隠せずに聞くと、ミーニャが言った。

「火を焚いていれば、大抵はなんとかなる」

「野生的すぎる助言!」

 それでも火を起こし、簡単な食事を済ませる。

「交代で見張り番」

 ミーニャが言う。

「オレ一人は……無理だよな」

「無理」

 即答だった。

 そこで問題が起きた。

「じゃあ、どちらか一人が一緒に起きる」

 ミーニャが言うと。

「私が起きます!」

 アンヌが即反応。

「私」

 ミーニャも譲らない。

 二人の視線が火花を散らす。

「……なんで揉めてるの?」

 タモツは純粋に疑問だった。

「危険」

「危険です」

 理由、同じ。

 しばしの沈黙。

 やがてアンヌが、冷静に言った。

「ミーニャさん。魔物に対抗できるのは、あなたです」

「……」

「ですから、あなたは先に休んでください。万一の時に備えるべきです」

 理屈は正しかった。

 ミーニャは少し考え、やがて頷いた。

「……分かった」

「勝った……」

 アンヌは小さくガッツポーズをする。

 こうして、最初の見張りはアンヌとタモツになった。

「……怖いですね」

「うん」

 火を挟んで座りながら、タモツは思う。

(この旅……絶対、普通じゃ終わらない)

 遠くで、魔物の遠吠えが聞こえた。

 タモツは、顔面だけが取り柄の自分を、少しだけ恨んだ。

 ――そして、王都ダルキモンは、確実に近づいていた。


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