容姿にステータス全振りした“顔面強すぎ”転生者は望まぬ異世界ハーレムに苦労する。〜最弱男が最強【乙女騎士団】創設までのキセキ〜

小林一咲

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4話

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 焚き火は、思ったよりもよく燃えていた。

 パチパチと薪が爆ぜる音が、夜の森に小さく響く。
 火の光は揺れ、影を伸ばし、三人の姿を地面に歪ませていた。

 ミーニャはすでに横になっている。
 寝息は立てていないが、規則的な呼吸から察するに、しっかり休んでいるらしい。

 見張り番は、タモツとアンヌ。

 正直に言えば、タモツは落ち着かなかった。
 魔物が怖いというのもあるが、それ以上に――静かすぎる。

 アンヌは、焚き火をじっと見つめていた。

 しばらく沈黙が続いたあと、彼女はぽつりと口を開いた。

「……私の両親の話、聞きますか」

 唐突だったが、タモツはすぐに頷いた。

「うん」

 アンヌは、少しだけ視線を落とす。

「父と母は、村の行商でした」

 各地を回り、物を運び、売り、買う。
 小さな村を支える、大事な仕事。

「でも……魔物に襲われて、亡くなりました」

 語調は落ち着いている。
 だが、その言葉の重さは、焚き火の音を一瞬遠ざけた。

「私が五歳になったばかりの頃です」

 タモツは、言葉を選べなかった。

「……」

「それからは、祖父――村長が育ててくれました」

 思い出すように、少しだけ微笑む。

「厳しい人ですけど、優しい人です」

 タモツは、村長の顔を思い出した。
 ベッドから起き上がれない体で、それでも孫の話を誇らしげにしていた老人。

「魔法の才能に目覚めたのは、それから三年後です」

「八歳……?」

「はい」

 アンヌは頷く。

「最初は、怖かったです。光が出て、身体が熱くなって……」

 だが、それはすぐに“才能”として知られるようになった。

「それから、色んな人が来ました」

 魔術師。
 騎士団。
 王都からの使者。

「皆、私の魔法を必要としていました」

 必要。
 それは、裏を返せば“利用価値”。

「でも、私は行きませんでした」

 アンヌは、きっぱりと言った。

「私も、村の皆も、反対でした」

 理由は明白だ。

「私の目標は……村を大きく、立派にすることです」

 焚き火の光が、彼女の横顔を照らす。

「両親みたいに、命を落とす人を減らしたい」

「……」

「命を無駄にせず、生き続けること。それが、私の人生の目標です」

 十三歳の口から出る言葉としては、あまりに重い。

 タモツは、胸の奥が少しだけ締め付けられるのを感じた。

(オレは……)

 顔だけが強くて、
 力もなくて、
 守られる側で。

(この子、すごいな……)

 気づけば、アンヌはタモツの肩にもたれていた。

 意図した動作ではない。
 ただ、疲れと安心が、そうさせたのだろう。

 しんみりとした時間が流れる。

 ――その空気を、容赦なく破った声があった。

「交代」

 ミーニャだった。

 いつの間にか起き上がり、こちらを見ている。

「……え?」

「アンヌ、抜け駆けは良くない」

「ち、違いますッ!!」

 アンヌは飛び起きた。

「ちょっと寄りかかっただけで……!」

「事実、密着」

「それは……!」

 ミーニャの目が、細くなる。

「番の前で、堂々と」

「番じゃないです!!」

 タモツは、慌てて間に入った。

「ストップストップ! 誤解だ! 完全に!」

「誤解?」

「誤解!」

 ミーニャはじっとタモツの顔を見つめ、しばらく考えたあと、ふっと息を吐いた。

「……まあ、いい」

「よかった……」

「今日は」

「今日は?」

「今日は」

 意味深な言葉を残し、ミーニャはアンヌに向き直る。

「交代。寝て」

「は、はい……」

 アンヌは赤い顔のまま、布団に戻っていった。

 夜は、そのまま何事もなく過ぎた。

 魔物の襲撃もなく、
 修羅場もなく、
 誰かが襲われることもなく。

 ――平和だった。

 朝。

 空が白み始めた頃、三人は起き出した。

「今日も歩くぞ」

 タモツは自分に言い聞かせるように呟く。

 アンヌが言う。

「早ければ、今日の夜にはダルキモンに着けます」

「無理はしない」

 ミーニャが即座に補足する。

「特に、タモツ」

「……はい」

 自覚はある。
 体力が最大の不安要素だ。

 それでも、歩き出す。

 王都ダルキモンは、もうすぐだ。

 そしてきっと、この顔面は――
 また何かを引き起こす。

 タモツは、なぜか確信していた。

◇◆◇◆

 王都ダルキモンは、もう目の前だった。

 高原の上から見下ろすと、遠くに城壁が見える。
 白い石で築かれた巨大な壁は、さすが王都といった風格だ。

「……でか」

 タモツは素直に感嘆した。

「ダルキモン」

 アンヌが誇らしげに言う。

「近くで見ると、もっと大きいですよ」

「今日は無理しない」

 ミーニャは即釘を刺す。

「特に、タモツ」

「オレだけ名指し!?」

 そんな会話をしながら、三人は高原の一角で休憩を取っていた。
 風が強く、草が波のように揺れている。

 そのときだった。

「……あれ」

 アンヌが目を細める。

 少し先、街道の方角。
 何かが動いている。

「馬車……?」

 タモツも目を凝らす。

 立派な馬車だ。装飾も多く、金属部分は陽光を反射している。
 だが――

「……囲まれてる」

 ミーニャが低く言った。

 馬車の周囲を、ゴブリンの群れが取り囲んでいる。
 小柄だが数が多い。ざっと見て、四十体ほど。

 しかも、後方からまだ増えているようだった。

「護衛、いるな」

 ミーニャが指差す。

 鎧を纏った騎士が数名、必死に応戦している。
 だが、多勢に無勢。

「……助けなくても、大丈夫じゃない?」

 タモツは言った。

「護衛もいるし、オレたちが出る幕じゃ……」

 その瞬間、騎士の一人が吹き飛ばされた。

「……」

 空気が、凍った。

「……あ、あれ?」

 タモツは嫌な汗をかく。

 戦況は、明らかに芳しくない。

「……オレ」

 考えるより先に、体が動いた。

「ちょっ、タモツ!?」

 アンヌの声を背に、タモツは走り出していた。

「おい! こっちだ!!」

 全力で叫ぶ。

 ゴブリンの群れが、ちらりとこちらを見る。

 ――が。

 一瞥。

 それだけ。

 次の瞬間、また馬車へと向き直った。

「無視!?」

 タモツは愕然とした。

「顔面、効かない!?」

 完全に効かなかった。

 そのとき。

「……は?」

 背後から、低く、怒気を含んだ声。

「タモツ」

 ミーニャだった。

 彼女の尻尾が、明らかに逆立っている。

「勝手に、飛び出すな」

「い、いや、でも……!」

「後で」

 ミーニャは前を向く。

「後でおしおき」

 次の瞬間。

 ミーニャは、地面を蹴った。

 ゴブリンの群れに、一直線。

 速い。
 速すぎる。

 強化魔法をかける暇もなく、アンヌが呆然とする。

「……すご」

 ミーニャは、まさに災害だった。

 一体。
 二体。
 三体。

 爪が閃くたび、ゴブリンが吹き飛ぶ。

 数など、関係ない。

 あっという間に、群れは崩壊した。

「……終わった」

 タモツは、ただ立ち尽くす。

 ゴブリンは逃げ散り、地面には静寂が戻る。

 護衛の騎士たちは、呆然としていた。

「……助かった……?」

 一人が呟く。

 だが、深傷を負っている者も多い。

「大丈夫ですか!」

 アンヌがすぐに駆け寄り、切れ布で応急処置を始める。

「血、止めますね」

「す、すまない……」

 命に別状はなさそうだった。

 そのとき、馬車の扉が、ゆっくりと開いた。

 中から現れたのは、綺麗なドレスを着たご婦人だった。
 腕には、赤ん坊。

「……」

 ご婦人の視線が、タモツに向く。

 一瞬。

 頬が、赤く染まった。

「……ありがとうございます」

 声が、少し上ずっている。

「あなたが、助けてくださったのですね」

「……え?」

 タモツは、反射的に後ろを振り返った。

 ミーニャ。
 アンヌ。

 いや、オレ、何もしてない。

「あ、あの……」

「命の恩人です」

「違います!」

 即否定。

 だが、ご婦人は聞いていない。

「私は、大商会ペルシア。会長の妻ヘレナです」

 さらっと、重い情報。

「王家主催のお披露目会に招待されておりまして……」

「え、そんな人!?」

 タモツの声が裏返る。

「お礼をさせてください」

 ご婦人は深々と頭を下げた。

「……」

 沈黙。

 ミーニャは腕を組んで、完全に不機嫌。
 アンヌも、じっとタモツを見ている。

「……お気持ちだけで結構です」

 タモツは、逃げるように言った。

「オレ、何もしてないですし」

 ミーニャとアンヌは、うんともすんとも言わない。

 ご婦人は少し考え、微笑んだ。

「ではせめて……街まで一緒に来ていただけませんか?」

「馬車なら、早い」

 ミーニャが即答。

「タモツさんの体力的にも、助かります」

 アンヌも賛成。

「……ですよね」

 タモツは観念した。

 こうして三人は、顔面だけが役に立った(と誤解された)まま、王都ダルキモンへ向かう馬車に乗り込むことになった。

 ――そして、タモツはまだ知らない。

 この馬車が、
 次のトラブル直行便であることを。
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