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0〜1年目 スタート地点から
第2話 ドラフト会議
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ドラフト会議の日。
僕は恐らくテーブルに並んでいる三人の中で、一番緊張しているのではないだろうか。
僕の高校からプロ志望届を提出したのは、山崎と平井と僕の三人だ。
僕以外の二人は、ほぼ間違いなくドラフト会議で指名されるだろう。
翻って僕はドラフト会議で指名される確率は五分五分という下馬評だった。
チームの編成上、内野手が足りなくて、うまく指名できなかったチームがあれば、指名されるかもしれない。
プロ野球球団からの調査票は、僕に対しては三球団から来ていた。
ちなみに山崎と、平井は全球団から来ている。
今回のドラフト会議は、大学生は左腕、杉澤投手、そして高校生では甲子園優勝投手でもある山崎が目玉と言われていた。
その他にも大学生、高校生とも投手が豊富で、野手では高校生スラッガーとして、東の谷口、西の平井が並び称されていた。
山崎はあの甲子園予選、四回戦がよほど悔しかったと見え、人が変わったように練習にも打ち込むようになり、球速も更に伸びた。
当時でもドラフト1位候補と言われていたが、今では押しも押されもせぬ、数年に一人の逸材と呼ばれていた。
ドラフト会議が始まった。
ドラフト会議は前年の下位球団から順に指名する。
最初の指名は、スカイリーグの最下位だった、静岡オーシャンズから行われ、一位指名は予想通り、大学ナンバーワン投手の杉澤投手であった。
やはり先発を任せることができる即戦力投手が欲しいのだろう。
次の指名は、シーリーグの前年最下位球団、川崎ライツだった。
川崎ライツも杉澤投手を指名した。
次のスカイリーグ所属の新潟コンドルズは、大学生右腕の山下投手を指名した。
どうやら一本釣りを狙ったのだろう。
各球団の一位指名が終わり、指名が重複したのは大学生左腕の杉澤投手が四球団、我が校の山崎が三球団から指名された。
他の球団はいずれも投手を指名し、それぞれ一本釣りに成功した。
クジの結果、杉澤投手は静岡オーシャンズが交渉権を獲得した。
そして、山崎は本人も入団を希望していた京阪ジャガーズが指名権を獲得した。
山崎は京阪ジャガーズが交渉権を獲得した瞬間、人目も憚らず、ガッツポーズした。
目にはうれし涙が浮かんでいた。
よほど嬉しかったのだろう。
そして、クジを外した球団は、捕手を指名した一球団を除き、投手を指名した。
高校生スラッガーの平井と谷口は、一位では指名されなかった。
高校生スラッガーは育成に時間がかかるということで、どの球団も指名を控えたのだろうか。
二位以下はウェーバー方式である。前年下位の球団から順番に指名し、抽選は無い。
最初の静岡オーシャンズは高校生スラッガーの谷口を指名した。
一位で杉澤投手の交渉権を獲得し、二位で谷口を指名できた。
これは大成功ドラフトと言えるだろう。
そして、平井は二位指名、四球団目の熊本ファイアーズに指名された。
本人はドラフトで指名され、嬉しさよりもホッとしたような感じだった。
こうなると残りは僕である。
会見場は微妙な空気になった。
僕は居たたまれなさを感じたが、ここから逃げ出すわけにはいかない。
山崎と平井の心配そうな視線を感じながら、僕はドラフト会議が進むのをじっと見守っていた。
テレビの地上波放送が終わり、衛星放送で続きが放送される。
ドラフト三位、四位、五位と進み、僕はどこからも指名されなかった。
ここまで来ると指名を打ち切る球団が出てくる。
六巡目でも名前が呼ばれなかった。
まだ指名を続ける球団は、あと三球団まで減っていた。
やっぱりダメか。
諦めかけたその時。
「静岡オーシャンズ、七巡目。高橋隆介、群青大学付属高校、内野手。」とアナウンスされた。
僕の名前だ。
自然と涙が出てきた。
心から嬉しかった。
山崎と平井が立ち上がり、握手を求めてきた。
僕ら三人はガッチリと握手した。
そして記者の方々が三人で肩を組んだ写真を何枚も撮ってくれた。
グラウンドに出ると、チームメイトが僕ら三人を、山崎、平井、僕の順で胴上げしてくれた。
高校三年間の部活の間、色々あった。
性格が会わない奴もいたし(山崎とか)、野球以外の事で喧嘩したこともあったし(山崎とか)、他校と喧嘩してこっぴどく怒られたこともあった(山崎と)。
だが、今は心から思う。
素晴らしい仲間(山崎を除く)、そして監督、コーチ、マネージャー。
支えてくれた母親を初めとして、多くの人々、僕は心から感謝したいと思う。
そして、その恩返しはプロ野球で活躍することで、少しでも返していきたい。
今は嬉しい。本当に嬉しい。
新聞記者が何人か来ておりは、山崎と平井を中心に取材をしていたが、僕は全く気にならなかった。
そもそも取材を受けるのは、苦手である。
それでも何人からは僕の意気込みを聞かれた。
顔見知りの記者からは入団の意志を聞かれた。
僕はもちろん入団しますと即答した。
夜七時過ぎに静岡オーシャンズの担当スカウトから、指名挨拶の電話があった。
僕は緊張して、はい、はいと言うのが精一杯だった。
校長先生への挨拶とか、記念撮影とか色々あり、ようやく解放され、家に帰れるようになったのは9時過ぎだった。
校門を出ようとすると、彼女である水嶋結衣が待っていてくれた。
彼女は同学年の野球部のマネージャーで、1年生の時から付き合っている。
入部の時から、マネージャーの中でも一際人気があったが、何故か僕と付き合うようになった。
彼女は高校卒業後、看護師を目指して、看護学校に入学する予定だ。
彼女は僕と二人きりになってからは、ドラフト会議については、敢えて何も言わなかった。
お祝いは部活の中で言ってくれたし、今日、色々な事があって疲れていた僕にはいつものたわいのない会話がありがたかった。(来週のテストの話だけはやめてほしかったが。)
こうして、ドラフト会議の日は終わった。
ちなみに翌朝の新聞で知ったのだが、八橋高校の五香投手はドラフト9位のドラフト全選手の一番最後に、岡山ハイパーズに指名されたとのことだった。
僕は恐らくテーブルに並んでいる三人の中で、一番緊張しているのではないだろうか。
僕の高校からプロ志望届を提出したのは、山崎と平井と僕の三人だ。
僕以外の二人は、ほぼ間違いなくドラフト会議で指名されるだろう。
翻って僕はドラフト会議で指名される確率は五分五分という下馬評だった。
チームの編成上、内野手が足りなくて、うまく指名できなかったチームがあれば、指名されるかもしれない。
プロ野球球団からの調査票は、僕に対しては三球団から来ていた。
ちなみに山崎と、平井は全球団から来ている。
今回のドラフト会議は、大学生は左腕、杉澤投手、そして高校生では甲子園優勝投手でもある山崎が目玉と言われていた。
その他にも大学生、高校生とも投手が豊富で、野手では高校生スラッガーとして、東の谷口、西の平井が並び称されていた。
山崎はあの甲子園予選、四回戦がよほど悔しかったと見え、人が変わったように練習にも打ち込むようになり、球速も更に伸びた。
当時でもドラフト1位候補と言われていたが、今では押しも押されもせぬ、数年に一人の逸材と呼ばれていた。
ドラフト会議が始まった。
ドラフト会議は前年の下位球団から順に指名する。
最初の指名は、スカイリーグの最下位だった、静岡オーシャンズから行われ、一位指名は予想通り、大学ナンバーワン投手の杉澤投手であった。
やはり先発を任せることができる即戦力投手が欲しいのだろう。
次の指名は、シーリーグの前年最下位球団、川崎ライツだった。
川崎ライツも杉澤投手を指名した。
次のスカイリーグ所属の新潟コンドルズは、大学生右腕の山下投手を指名した。
どうやら一本釣りを狙ったのだろう。
各球団の一位指名が終わり、指名が重複したのは大学生左腕の杉澤投手が四球団、我が校の山崎が三球団から指名された。
他の球団はいずれも投手を指名し、それぞれ一本釣りに成功した。
クジの結果、杉澤投手は静岡オーシャンズが交渉権を獲得した。
そして、山崎は本人も入団を希望していた京阪ジャガーズが指名権を獲得した。
山崎は京阪ジャガーズが交渉権を獲得した瞬間、人目も憚らず、ガッツポーズした。
目にはうれし涙が浮かんでいた。
よほど嬉しかったのだろう。
そして、クジを外した球団は、捕手を指名した一球団を除き、投手を指名した。
高校生スラッガーの平井と谷口は、一位では指名されなかった。
高校生スラッガーは育成に時間がかかるということで、どの球団も指名を控えたのだろうか。
二位以下はウェーバー方式である。前年下位の球団から順番に指名し、抽選は無い。
最初の静岡オーシャンズは高校生スラッガーの谷口を指名した。
一位で杉澤投手の交渉権を獲得し、二位で谷口を指名できた。
これは大成功ドラフトと言えるだろう。
そして、平井は二位指名、四球団目の熊本ファイアーズに指名された。
本人はドラフトで指名され、嬉しさよりもホッとしたような感じだった。
こうなると残りは僕である。
会見場は微妙な空気になった。
僕は居たたまれなさを感じたが、ここから逃げ出すわけにはいかない。
山崎と平井の心配そうな視線を感じながら、僕はドラフト会議が進むのをじっと見守っていた。
テレビの地上波放送が終わり、衛星放送で続きが放送される。
ドラフト三位、四位、五位と進み、僕はどこからも指名されなかった。
ここまで来ると指名を打ち切る球団が出てくる。
六巡目でも名前が呼ばれなかった。
まだ指名を続ける球団は、あと三球団まで減っていた。
やっぱりダメか。
諦めかけたその時。
「静岡オーシャンズ、七巡目。高橋隆介、群青大学付属高校、内野手。」とアナウンスされた。
僕の名前だ。
自然と涙が出てきた。
心から嬉しかった。
山崎と平井が立ち上がり、握手を求めてきた。
僕ら三人はガッチリと握手した。
そして記者の方々が三人で肩を組んだ写真を何枚も撮ってくれた。
グラウンドに出ると、チームメイトが僕ら三人を、山崎、平井、僕の順で胴上げしてくれた。
高校三年間の部活の間、色々あった。
性格が会わない奴もいたし(山崎とか)、野球以外の事で喧嘩したこともあったし(山崎とか)、他校と喧嘩してこっぴどく怒られたこともあった(山崎と)。
だが、今は心から思う。
素晴らしい仲間(山崎を除く)、そして監督、コーチ、マネージャー。
支えてくれた母親を初めとして、多くの人々、僕は心から感謝したいと思う。
そして、その恩返しはプロ野球で活躍することで、少しでも返していきたい。
今は嬉しい。本当に嬉しい。
新聞記者が何人か来ておりは、山崎と平井を中心に取材をしていたが、僕は全く気にならなかった。
そもそも取材を受けるのは、苦手である。
それでも何人からは僕の意気込みを聞かれた。
顔見知りの記者からは入団の意志を聞かれた。
僕はもちろん入団しますと即答した。
夜七時過ぎに静岡オーシャンズの担当スカウトから、指名挨拶の電話があった。
僕は緊張して、はい、はいと言うのが精一杯だった。
校長先生への挨拶とか、記念撮影とか色々あり、ようやく解放され、家に帰れるようになったのは9時過ぎだった。
校門を出ようとすると、彼女である水嶋結衣が待っていてくれた。
彼女は同学年の野球部のマネージャーで、1年生の時から付き合っている。
入部の時から、マネージャーの中でも一際人気があったが、何故か僕と付き合うようになった。
彼女は高校卒業後、看護師を目指して、看護学校に入学する予定だ。
彼女は僕と二人きりになってからは、ドラフト会議については、敢えて何も言わなかった。
お祝いは部活の中で言ってくれたし、今日、色々な事があって疲れていた僕にはいつものたわいのない会話がありがたかった。(来週のテストの話だけはやめてほしかったが。)
こうして、ドラフト会議の日は終わった。
ちなみに翌朝の新聞で知ったのだが、八橋高校の五香投手はドラフト9位のドラフト全選手の一番最後に、岡山ハイパーズに指名されたとのことだった。
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