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0〜1年目 スタート地点から
第8話 新監督とTK組
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田中大二郎監督が退任し、コーチ陣も山城コーチが退任したのを始め、大きく入れ替わった。
後任の監督は、球団とは縁も縁も無い、君津監督が就任した。
君津監督は、現役時代は岡山ハイパーズの内野手としてわずか100試合ちょっとしか出場していないが、引退後、二軍用具係を皮切りに、二軍マネージャー、スコアラー、二軍内野守備コーチ、一軍作戦コーチ、一軍内野守備コーチ、一軍ヘッドコーチと30年以上岡山ハイパーズ一筋で勤め上げた。
そして53歳になる今年、静岡オーシャンズの新監督として白羽の矢が立てられたのだ。
人望と選手の適性を見る目には定評があり、岡山ハイパーズでは多くのドラフト下位指名の選手を戦力にし、Bクラス常連のチームを優勝を争えるチームに育て上げた。
低迷する静岡オーシャンズは、彼の育成能力に期待して、新監督としてヘッドハンティングしたのだ。
そして新体制での秋季キャンプがスタートした。
秋季キャンプはベテラン選手はほとんど参加せず、若手選手が多い。
これまで主に一軍クラスのA班と二軍クラスのB班に分けられたが、今回は先入観無しに選手の能力を見極めたいという、君津新監督の意向で参加者全員が一カ所に集められた。
そしていきなり紅白戦を行うことになった。僕は二試合目に白組の8番セカンドとしてスタメンで出た。
守備機会は5回あった。難しい打球もあったが、無難に処理することができた。
山城コーチとの特訓は、技術面の向上も勿論あったが、何より守備面への強い自信を僕に植え付けてくれた。
グラブに入るまで目を切らさず、捕球して素早く送球する。
僕は守備位置に立ちながら、常に一塁手の方向を意識し、例え一塁手の方を向いていなくても、その方向に正確に投げるという事が身についた。
だからセンターに抜けそうな当たりをバックハンドで取って素早く送球する、という芸当も行い、ベンチから「おおっ」という大きなどよめきも耳にした。
もっともバッターとしては三打数無安打、2三振と全くアピールできなかったが。
静岡オーシャンズは三年連続最下位とあって、若手選手がほとんど育っていなかった。
特に二遊間の人材不足は深刻で、セカンドはプロ入り14年目、35歳の誉田選手が今シーズンもほとんどの試合で先発出場していた。
誉田選手は過去に打率三割を三回打ち、ゴールデングラブ賞も二回獲得したチーム有数のスター選手であったが、最近は守備の衰えが顕著になっていた。
ポスト誉田選手の一番手は、一昨年ドラフト1位、高卒三年目21歳の内沢選手であったが、打撃はパンチ力があるが、守備には不安があった。
そしてショートは、33歳の茂原選手が不動のレギュラーとして君臨していたが、今シーズンフリーエージェントの権利行使が見込まれている。
ポスト茂原としては、プロ入り11年目、30歳の勝山選手と一昨年のドラフト2位で大卒三年目、25歳の野田選手が争っていたが、どちらもシーズン通して一軍で活躍した事は無く、それぞれ打撃、守備で不安を抱えていた。
監督室で監督の君津はヘッドコーチの市川と話していた。
「セカンドは内沢、ショートは野田が順当なところか。」
「まあそうでしょうね。消去法というのが、寂しいですが。」
「二人ともバッティングは捨てがたいが、守備がいまいち不安だな。」
「守備だけなら勝山の方が上ですが、何しろ非力ですからね。」
「内沢よりはまだ誉田の方が、守備は安定しているけどな。」
「でも衰えは隠せないですよね。今季は数字に現れないミスもかなりありましたし。」
「守備範囲も狭くなっているしな。」
「悩ましいところですね。」
「今日の紅白戦で、ショートを守っていた若いの、何て言ったっけ。」
「高橋ですか。」
「そうだ、あいつは中々安定していたな。」
「そうですね。まだ荒削りですが、光るものは感じましたね。」
「足も中々速かったな。」
「そうですね。ただのサードゴロがもう少しで内野安打でしたからね。」
「今はまだ線が細いが、いずれ使えるかもしれないな。高橋もTK班に加えておこう。」
そんな会話が交わされた事などつゆ知らず、翌日も僕は紅白戦にスタメン出場した。
今日は1本ヒットを放ち、守備でもエラーすることなく守備機会をこなすことができた。
そして次の日の紅白戦でもスタメン出場し、フル出場して四球で出塁し、盗塁を決めた。
この日も無難に守備機会をこなした。
秋季キャンプは四勤一休であり、紅白戦四連戦の後は、一日休日を挟んで野手は三つの班に分かれての練習となった。
僕は班のメンバー分けを見て、目を疑った。
R組、Y組、TK組とあり、僕はTK組に名前があった。
それぞれのメンバーを見ると、R組はレギュラーおよびそれを目指す選手達の組だろうし、Y組は若手、つまりヤング組ということだろう。
ドラフト同期の原谷選手や、僕よりも一期上のドラフトで指名された野手は皆、Y組だった。
だが僕の名前は谷口と共に、TK組にあった。
そもそもTK組は他の組よりも人数が少なく、6人しかいない。
TKってなんだ。少なくとも有名な音楽プロデューサーの事ではあるまい。
僕は凄く嫌な予感がした…。
後任の監督は、球団とは縁も縁も無い、君津監督が就任した。
君津監督は、現役時代は岡山ハイパーズの内野手としてわずか100試合ちょっとしか出場していないが、引退後、二軍用具係を皮切りに、二軍マネージャー、スコアラー、二軍内野守備コーチ、一軍作戦コーチ、一軍内野守備コーチ、一軍ヘッドコーチと30年以上岡山ハイパーズ一筋で勤め上げた。
そして53歳になる今年、静岡オーシャンズの新監督として白羽の矢が立てられたのだ。
人望と選手の適性を見る目には定評があり、岡山ハイパーズでは多くのドラフト下位指名の選手を戦力にし、Bクラス常連のチームを優勝を争えるチームに育て上げた。
低迷する静岡オーシャンズは、彼の育成能力に期待して、新監督としてヘッドハンティングしたのだ。
そして新体制での秋季キャンプがスタートした。
秋季キャンプはベテラン選手はほとんど参加せず、若手選手が多い。
これまで主に一軍クラスのA班と二軍クラスのB班に分けられたが、今回は先入観無しに選手の能力を見極めたいという、君津新監督の意向で参加者全員が一カ所に集められた。
そしていきなり紅白戦を行うことになった。僕は二試合目に白組の8番セカンドとしてスタメンで出た。
守備機会は5回あった。難しい打球もあったが、無難に処理することができた。
山城コーチとの特訓は、技術面の向上も勿論あったが、何より守備面への強い自信を僕に植え付けてくれた。
グラブに入るまで目を切らさず、捕球して素早く送球する。
僕は守備位置に立ちながら、常に一塁手の方向を意識し、例え一塁手の方を向いていなくても、その方向に正確に投げるという事が身についた。
だからセンターに抜けそうな当たりをバックハンドで取って素早く送球する、という芸当も行い、ベンチから「おおっ」という大きなどよめきも耳にした。
もっともバッターとしては三打数無安打、2三振と全くアピールできなかったが。
静岡オーシャンズは三年連続最下位とあって、若手選手がほとんど育っていなかった。
特に二遊間の人材不足は深刻で、セカンドはプロ入り14年目、35歳の誉田選手が今シーズンもほとんどの試合で先発出場していた。
誉田選手は過去に打率三割を三回打ち、ゴールデングラブ賞も二回獲得したチーム有数のスター選手であったが、最近は守備の衰えが顕著になっていた。
ポスト誉田選手の一番手は、一昨年ドラフト1位、高卒三年目21歳の内沢選手であったが、打撃はパンチ力があるが、守備には不安があった。
そしてショートは、33歳の茂原選手が不動のレギュラーとして君臨していたが、今シーズンフリーエージェントの権利行使が見込まれている。
ポスト茂原としては、プロ入り11年目、30歳の勝山選手と一昨年のドラフト2位で大卒三年目、25歳の野田選手が争っていたが、どちらもシーズン通して一軍で活躍した事は無く、それぞれ打撃、守備で不安を抱えていた。
監督室で監督の君津はヘッドコーチの市川と話していた。
「セカンドは内沢、ショートは野田が順当なところか。」
「まあそうでしょうね。消去法というのが、寂しいですが。」
「二人ともバッティングは捨てがたいが、守備がいまいち不安だな。」
「守備だけなら勝山の方が上ですが、何しろ非力ですからね。」
「内沢よりはまだ誉田の方が、守備は安定しているけどな。」
「でも衰えは隠せないですよね。今季は数字に現れないミスもかなりありましたし。」
「守備範囲も狭くなっているしな。」
「悩ましいところですね。」
「今日の紅白戦で、ショートを守っていた若いの、何て言ったっけ。」
「高橋ですか。」
「そうだ、あいつは中々安定していたな。」
「そうですね。まだ荒削りですが、光るものは感じましたね。」
「足も中々速かったな。」
「そうですね。ただのサードゴロがもう少しで内野安打でしたからね。」
「今はまだ線が細いが、いずれ使えるかもしれないな。高橋もTK班に加えておこう。」
そんな会話が交わされた事などつゆ知らず、翌日も僕は紅白戦にスタメン出場した。
今日は1本ヒットを放ち、守備でもエラーすることなく守備機会をこなすことができた。
そして次の日の紅白戦でもスタメン出場し、フル出場して四球で出塁し、盗塁を決めた。
この日も無難に守備機会をこなした。
秋季キャンプは四勤一休であり、紅白戦四連戦の後は、一日休日を挟んで野手は三つの班に分かれての練習となった。
僕は班のメンバー分けを見て、目を疑った。
R組、Y組、TK組とあり、僕はTK組に名前があった。
それぞれのメンバーを見ると、R組はレギュラーおよびそれを目指す選手達の組だろうし、Y組は若手、つまりヤング組ということだろう。
ドラフト同期の原谷選手や、僕よりも一期上のドラフトで指名された野手は皆、Y組だった。
だが僕の名前は谷口と共に、TK組にあった。
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