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2年目 悩める日々
第16話 キャンプ終盤と僕の課題
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2月も半ばを過ぎ、キャンプも終盤となった。
一軍と二軍では時々、入れ替わりがあり、竹下選手は先日、一軍キャンプに合流した。
谷口はまだ一軍キャンプで頑張っている。
二軍キャンプでは、原谷捕手が好調に見えた。
打撃投手相手とは言え、柵越えを連発していた。
元々強肩に加え、長打力も期待されていたので、いよいよ本領発揮といったところか。
あとはノー天気で大雑把な性格を直すところが必要だと思う。
例えば盗塁を刺すには、早く投げれば良いというものではなく、二塁ベース上への絶妙なコントロールが求められるが、まだ力任せに投げるだけである。
だから紅白戦で盗塁した僕の頭に送球が命中した。
これがわざとなら凄いコントロールだが…。まさかわざとじゃないですよね?
三田村も故障明けであるが、勢いのあるストレートでアピールしていた。
低めに決まれば、二軍レベルではまず打てないし、打っても内野ゴロだ。
だが内角高めに来たら…。
前にも言ったけど、相手が同期でも当てちゃダメだからな。
その点僕は来る日も来る日もひたすら基礎練習とノック、素振り、トスバッティング。
守備はある程度の自信がついたが、打撃は中々上達しない。
プロの投手は二軍レベルの選手でも、コースに決まれば、まず打たれないという球を持っている。
そして当たり前だが、打たれまいと全力で投げてくる。
例え紅白戦であっても、そんな球を打ち返すのは至難の業だ。
打席前、体が開かないように、インパクトの瞬間、膝が投手の方を向かないように等、色々意識していても、打つときは一瞬だ。
高校時代は多少バットの先に当たっても野手と野手の間に落ちたが、プロ野球選手は守備も段違いに上手い。
捉えたと思った打球でも、いとも簡単に捕られる。
高校野球なら超ファインプレーが、プロでは当たり前のプレーだ。
そんな中で三割を打つ選手は、いかに凄いか。
僕は守備はそこそこプロでやっていく自信がついたが、バッティングについては五里霧中といったところだった。
「おい、自衛隊。」
球場のスタンドからの聞き覚えのある声に振り向くと、声の主は山城元コーチだった。
なぜここにいるのだ。暇なのか。
「お前は相変わらず、守りだけで打てないな。二軍の紅白戦で打率1割を切る奴はさすがに珍しいぞ。」
僕と山城元コーチは球場のフェンス越しに会話した。
「そうなんですよね。ところで何でここにいるんですか。」
「家族旅行だ。冬はツアーが安いからな。
ついでに出来損ないの弟子の叱咤激励に来てやった。」
「それはそれはありがとうございます。
では早速。どうしたら打てるようになるのでしょうか。」
「教えてやろうか。俺が教えたら、14年間でホームランを3本は打てるぞ。」
山城元コーチは現役時代、通算ホームラン3本だった。
「藁にでもすがる気持ちなんです。時間の無駄かもしれませんが、教えて下さい。」
「お前は相変わらずだな。それが人に教わる態度か。」と山城元コーチはニャリと笑った。
「まあ、いいや。バカな弟子ほど可愛いという言葉もあるからな。」
へー、初めて聞いた。
「とりあえず俺が気づいた事を教えてやるよ。
いいか、お前の弱点は球にインパクトする瞬間に体が前に突っ込むことだ。
あと、打つ瞬間に体も僅かに開いている。
そして最大の弱点は、そもそも球に当たらないことだ。」
最後のは言われなくても幼稚園児でも分かる。
「どうしたらバットにボールが当たるでしょうか。」
「それはボールをよく見て打てば良いんだ。」
これは禅問答か。やはり時間の無駄だったか。
「山城さん、大変簡潔明瞭かつ無意味なアドバイス、ありがとうございました。ウミヘビに噛まれないように、気をつけてお帰り下さい。」
「バカ野郎。それが人生の師に対する態度か。」
うーん、感謝の気持ちはあるが、そこまでは思っていないかな。
「いいか、教えてやる。お前はボールを点で打とうとしている。それでは当たらない。」
「それはどういうことでしょうか。」
「線で打てということだ。」
「???」
「バカにも分かるように説明すると、いくらプロでも消えるボールは投げられない。それは分かるな。」
「そりゃそうでしょうね。」
「つまりボールは大きく変化しても、瞬間瞬間では連続している。」
ちょっと良く分からない。
僕がバカなのか、山城さんの教え方が悪いのか。恐らく後者だろう。
「だからピッチャーが投げたボールの軌道を頭の中で線で捉えるのだ。」
「???」
「つまりそのピッチャーがどのような球種をもっていて、どのように変化するのか、頭の中でイメージしておくんだ。」
何となくわかってきた。
「そしてお前は自分のへっぴり腰のバット軌道を良く頭にたたき込んでおいて、そのボール軌道に対してどこでバットに当てるのかイメージするんだ。」
余計な言葉が入っていた気がする。
「つまりピッチャーの球筋を線でイメージし、お前は自分のバット軌道を線でイメージすることで、線と線が当たる事をイメージするんだ。」
分かったような、分からないような。うーん、やっぱり分からない。
「だから素振りの時は、例えば鏡の前で、自分のバット軌道がどうなっているかイメージしろ。
それが正確にイメージ出来るようになれば、今よりはボールに当たるようになるだろう。」
少しだけ分かったような気がする。
「ということで、そろそろ妻が買い物終わる時間だ。
じゃあな。頑張れよ。愛弟子。」と言い残して、山城元コーチは去って言った。
相変わらず口と顔は悪いが、わざわざ僕の激励に来てくれたのは、ありがたい。
しかしボールを線で捉える?
うーん、イマイチ良く分からないが、まあダメ元で意識してみようか。
という具合に中々、バッティングでは手応えを掴めないまま、キャンプが終わり、三月からはオープン戦に突入する。
一軍と二軍では時々、入れ替わりがあり、竹下選手は先日、一軍キャンプに合流した。
谷口はまだ一軍キャンプで頑張っている。
二軍キャンプでは、原谷捕手が好調に見えた。
打撃投手相手とは言え、柵越えを連発していた。
元々強肩に加え、長打力も期待されていたので、いよいよ本領発揮といったところか。
あとはノー天気で大雑把な性格を直すところが必要だと思う。
例えば盗塁を刺すには、早く投げれば良いというものではなく、二塁ベース上への絶妙なコントロールが求められるが、まだ力任せに投げるだけである。
だから紅白戦で盗塁した僕の頭に送球が命中した。
これがわざとなら凄いコントロールだが…。まさかわざとじゃないですよね?
三田村も故障明けであるが、勢いのあるストレートでアピールしていた。
低めに決まれば、二軍レベルではまず打てないし、打っても内野ゴロだ。
だが内角高めに来たら…。
前にも言ったけど、相手が同期でも当てちゃダメだからな。
その点僕は来る日も来る日もひたすら基礎練習とノック、素振り、トスバッティング。
守備はある程度の自信がついたが、打撃は中々上達しない。
プロの投手は二軍レベルの選手でも、コースに決まれば、まず打たれないという球を持っている。
そして当たり前だが、打たれまいと全力で投げてくる。
例え紅白戦であっても、そんな球を打ち返すのは至難の業だ。
打席前、体が開かないように、インパクトの瞬間、膝が投手の方を向かないように等、色々意識していても、打つときは一瞬だ。
高校時代は多少バットの先に当たっても野手と野手の間に落ちたが、プロ野球選手は守備も段違いに上手い。
捉えたと思った打球でも、いとも簡単に捕られる。
高校野球なら超ファインプレーが、プロでは当たり前のプレーだ。
そんな中で三割を打つ選手は、いかに凄いか。
僕は守備はそこそこプロでやっていく自信がついたが、バッティングについては五里霧中といったところだった。
「おい、自衛隊。」
球場のスタンドからの聞き覚えのある声に振り向くと、声の主は山城元コーチだった。
なぜここにいるのだ。暇なのか。
「お前は相変わらず、守りだけで打てないな。二軍の紅白戦で打率1割を切る奴はさすがに珍しいぞ。」
僕と山城元コーチは球場のフェンス越しに会話した。
「そうなんですよね。ところで何でここにいるんですか。」
「家族旅行だ。冬はツアーが安いからな。
ついでに出来損ないの弟子の叱咤激励に来てやった。」
「それはそれはありがとうございます。
では早速。どうしたら打てるようになるのでしょうか。」
「教えてやろうか。俺が教えたら、14年間でホームランを3本は打てるぞ。」
山城元コーチは現役時代、通算ホームラン3本だった。
「藁にでもすがる気持ちなんです。時間の無駄かもしれませんが、教えて下さい。」
「お前は相変わらずだな。それが人に教わる態度か。」と山城元コーチはニャリと笑った。
「まあ、いいや。バカな弟子ほど可愛いという言葉もあるからな。」
へー、初めて聞いた。
「とりあえず俺が気づいた事を教えてやるよ。
いいか、お前の弱点は球にインパクトする瞬間に体が前に突っ込むことだ。
あと、打つ瞬間に体も僅かに開いている。
そして最大の弱点は、そもそも球に当たらないことだ。」
最後のは言われなくても幼稚園児でも分かる。
「どうしたらバットにボールが当たるでしょうか。」
「それはボールをよく見て打てば良いんだ。」
これは禅問答か。やはり時間の無駄だったか。
「山城さん、大変簡潔明瞭かつ無意味なアドバイス、ありがとうございました。ウミヘビに噛まれないように、気をつけてお帰り下さい。」
「バカ野郎。それが人生の師に対する態度か。」
うーん、感謝の気持ちはあるが、そこまでは思っていないかな。
「いいか、教えてやる。お前はボールを点で打とうとしている。それでは当たらない。」
「それはどういうことでしょうか。」
「線で打てということだ。」
「???」
「バカにも分かるように説明すると、いくらプロでも消えるボールは投げられない。それは分かるな。」
「そりゃそうでしょうね。」
「つまりボールは大きく変化しても、瞬間瞬間では連続している。」
ちょっと良く分からない。
僕がバカなのか、山城さんの教え方が悪いのか。恐らく後者だろう。
「だからピッチャーが投げたボールの軌道を頭の中で線で捉えるのだ。」
「???」
「つまりそのピッチャーがどのような球種をもっていて、どのように変化するのか、頭の中でイメージしておくんだ。」
何となくわかってきた。
「そしてお前は自分のへっぴり腰のバット軌道を良く頭にたたき込んでおいて、そのボール軌道に対してどこでバットに当てるのかイメージするんだ。」
余計な言葉が入っていた気がする。
「つまりピッチャーの球筋を線でイメージし、お前は自分のバット軌道を線でイメージすることで、線と線が当たる事をイメージするんだ。」
分かったような、分からないような。うーん、やっぱり分からない。
「だから素振りの時は、例えば鏡の前で、自分のバット軌道がどうなっているかイメージしろ。
それが正確にイメージ出来るようになれば、今よりはボールに当たるようになるだろう。」
少しだけ分かったような気がする。
「ということで、そろそろ妻が買い物終わる時間だ。
じゃあな。頑張れよ。愛弟子。」と言い残して、山城元コーチは去って言った。
相変わらず口と顔は悪いが、わざわざ僕の激励に来てくれたのは、ありがたい。
しかしボールを線で捉える?
うーん、イマイチ良く分からないが、まあダメ元で意識してみようか。
という具合に中々、バッティングでは手応えを掴めないまま、キャンプが終わり、三月からはオープン戦に突入する。
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