ドラフト7位で入団して

青海啓輔

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2年目 悩める日々

第25話 秋の思い出づくり?

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 9月も終盤になり、我が静岡オーシャンズは4位であるものの、クライマックスシリーズへの進出は絶望的な状況であった。
 もっとも昨年最下位だったことを考えると、良くやっていると言えないこともなかった。

 そんな中、僕の打率は少しずつ上がり、.222まで来た。
 (ここまで56試合で、126打数28安打、ホームラン0、打点13、盗塁16)
 まだまだ打率は低いが、春先の迷路状態からは脱したと言えるだろう。
 右方面にも強いライナーを打てるようになってきた。
 ホームランはまだ一本も打っていなかったが…。
 
 そんなある日の試合後、検見川監督に監督室に呼ばれた。
 この日は4打数2安打で、ツーベースも打っており、エラーも無く、盗塁も1つ決めていた。
 監督に呼ばれる理由に心当たりはない。
 二日前の夜、門限後に寮を抜け出して、三田村とコンビニ行ったのがバレたのか。
 あれは三田村がアイスを急に食べたいと言い出して、夜1人で行くのは怖いと言うので、嫌々付いて行ってあげたんです。
 悪いのは三田村1人です。
 というような言い訳を考えながら、僕は監督室のドアをノックし、中に入った。

 検見川監督は僕が部屋に入るなり、単刀直入に行った。
「明日から一軍だ。」
 え?
 もしかして…。
「それは戦力外選手の思い出作りですか?」
「それは面白いな。初出場が引退試合か。そうするか?」
「いえ、でも何で僕が。」
「そりゃ、経験を積ませるためだろう。嫌なのか?」
「いえ、ただあまり数字が良くないので、ちょっと驚いてしまって…。」
「いいか、二軍の試合はもちろん勝敗も大事だが、それ以上に育成の場だ。
 お前は確かにまだまだの選手だが、自分で課題を見つけ、克服しつつある。
 だから一軍を経験することで、更なる課題を見つけて、次のステップに進んで欲しい。
 今回は俺が推薦した。」
「ありがとうございます。」
 僕は目の周りが熱くなるのを感じた。
 そして監督室を辞して、早速ロッカールームに行き、荷物を詰めた。

「いずこへ?」とロッカールームに入ってきた原谷さんが、吉本新喜劇風に言った。
 同じく入ってきた飯島さんが、「お、もしかして。」
「はい、一軍に行けと言われました。」
「おお、良かったな。頑張って来いよ。」と飯島さんが僕の肩を叩いた。
「はい、頑張ってきます。」

 そしてタクシーに乗り込もうとしたら、三田村も乗り込んできた。
「おい。」
「近くの駅まで乗せてってくれよ。買いたいものがあるんだ。」
 本当に駅までだろうな。
「良いけど、駅までのタクシー代払えよ。」
 本当はタクシー代は球団からタクシーチケットを貰ってある。
 近くの駅で三田村を降ろして、新幹線の駅まで行けば証拠隠滅だ。
「ほう、さっきマネージャからタクシーチケットを受け取るところ見たぞ。」
 普段抜けているのに、こんな時だけ抜け目の無い奴だ。

「しかし、良かったな。一軍昇格できて。」
「俺も驚いているけどな。
 まさかこの成績、このタイミングというのは思いもしなかった。
 下手すれば、秋に戦力外となる可能性すらあると思っていた。」
「いや、お前は無いぞ。
 この間、谷津コーチと検見川監督が、高橋は守備は安定しているし、バッティングも少しずつ向上していると話しているのを聞いたぞ。」
「本当か。」
「頭と性格と態度が悪いのを直せばより良いが、それは生まれつきだからしょうが無いってさ。」
「それは嘘だろう。」
「さあな。」
「ところでお前はまだ投げられないのか。」
「そうだな。もう少しだな。焦る気持ちはあるが、焦ってまた再発したら元も子もない。じっくりやるさ。」
 三田村の投球フォームはアーム投げと呼ばれる、腕を伸ばして投げる投法である。
 アーム投げは肘への負担は少なく球速が出やすいものの、肩への負担は大きく、高校野球までであれば、推奨されない投法である。
 三田村は和歌山のあまり強豪とは言えない高校出身であり、指導者に投球フォームを変えられなかったのが、才能開花の面では幸いしたのだろう。
 だがプロに入ってからは、肩痛に苦しんでおり、既に2回手術し、まだ2軍でも登板はない。
 確かに僕以上に今年、戦力外になってもおかしくない。

 駅に着いた。
「じゃあな。爪痕残して来いよ。」と三田村。
「おう、サンキュー。じゃあな。」と行って、タクシーを空港に向けて走らせた。
 ふと思ったのだが、あいつなりに激励しようとしてくれたのかもしれない。
 ドラフト同期とは言え、先に一軍に行かれて悔しくないわけはない。
「あいつも良い奴だな。」と僕はポツリと独りごちた。
 
 
 
 
 
 

 


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