ドラフト7位で入団して

青海啓輔

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4年目 新しい日々の始まり

第72話 ここはフロリダ

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 空港を出ると迎えの車が来ており、僕は谷口と車に乗った。
 黒沢さんと他の方は、先に車でホテルに向かったそうだ。

 ホテルはクリーム色の外観の10階建てで、リゾートホテル風であり、裏はすぐビーチになっていた。
 屋上にはプールが三つもあるそうで、ホテル入り口には星条旗がはためいており、改めてアメリカに来たことを実感した。

 ロビーに入ると、そこもリゾート地らしくパステルカラーで彩られた空間になっていた。
 
 ロビーは広く、アメリカンサイズというのか、一人分が日本人二人くらいは優に座れそうな大きさで、そんなソファーセットが何組もあった。
 その中の一つにそれぞれラフな格好をした黒沢選手、道岡選手、中本選手、与田選手が寛いでいた。
 僕と谷口は早速挨拶に伺った。
 
「こんにちは。今回はどうもありがとうございます」
「おう、君が高橋君か。実際に会ったのは初めてだな。今日から2週間よろしくな」と黒沢選手。
 テレビ中継では何度も見たことがあるが、対面するのは初めてだ。
 黒沢選手は身長は180㎝を少し越えるくらいと大柄ではないが、あるべき所に筋肉があるというような、均等の取れたアスリートとして理想的な体形をしていた。
 さすが球界を代表する5ツールプレーヤーだ。
 浅黒い顔にサングラスをかけ、首からシルバーのチェーンをかけていた。
  
「よお、俺は初めてではないよな」と中本選手。
 東京チャリオッツとの試合の際に挨拶したことがある。
 ホームランバッターとあって、上半身が特に盛り上がっている。
 まるで超人ハルクのようだ。
 
「よお谷口。高橋君は会うのは初めてかな」と道岡選手。
 道岡選手は札幌ホワイトベアーズのサードであり、ホームランは最高でも20本くらいだが、チャンスに強く、打点王も獲得したことがある。
 守備も上手くゴールグラブ賞も3回獲得している。
 身長は僕と変わらないが。がっしりした体格をしている。
 
 最後に「初めまして、与田です」と川崎ライツのセカンドの与田選手が立ち上がって握手を求めてきた。
 与田選手は身長は僕よりも少し低く173㎝くらいだろうか。
 守備の名手として知られ、現代の牛若丸と呼ばれている。
 他の三人に比べると線が細いが、それでも毎年7、8本はホームランを打っており、俊足巧打の選手だ。
 四人の中では一番若く、二十代半ばだ。

「今日は長旅で疲れただろうから、部屋でゆっくり休んで、明日から練習だ。
 朝7時にロビーに集合ということで」と黒沢選手が言い、僕らは部屋に向かった。

「凄ぇな。これ」
 部屋に入るなり、僕は嘆息した。
 部屋は谷口と相部屋だったが、15畳くらいの部屋が二つと20畳くらいのリビングがあり、ベッドもいわゆるキングサイズの大きいのが備えつけてあった。
 室内は白で統一されており、窓からはビーチがよく見えた。

「しかし凄ぇな。こんな所で野球やれるなんて。まるで天国だ」
「ああ、明日から楽しみだな。
 一流選手がどんな練習をするのか、しっかり吸収しよう」
 うーん、さすが谷口。
 どこへ行ってもストイックな男だ。
 浮かれていた自分がちょっと恥ずかしくなった。
 
「ところで谷口と黒沢さんはどういう繋がりなんだ?」
「ああ、俺の高校時代の恩師が元の黒沢さんの恩師でもあり、その縁でプロに入ってから、何かと気にかけてもらっていたんだ。
 出身地も近かったから、尚更親近感が沸いたのだろう。」
 谷口も静岡県出身であり、高校は神奈川県と、黒沢さんと経歴は似ている。
 
「道岡さん、中本さんは黒沢さんと同学年で高校時代からのつきあいで、与田さんは黒沢さんと同じ高校という縁で、ここ数年は合同で自主トレを行っているらしい」
「もしかして昨年断ったというのも……」
「そうだ。この合同自主トレだ」
「一昨年は参加させてもらったが、ちょっと練習強度に物足りなさがあって、昨年は断った。
 だが今年は隆も参加するというし、俺自身も今年は量より質を重視したいと思ってな」
 なるほどそういうことか。

「それに今回は、以前黒沢さんとチームメイトだった外国人選手も、自主トレに協力してくれるそうだから、良い練習ができるんじゃないかな」
 あくまでも練習優先の思考には恐れ入る。
 僕なんか初めてのアメリカで、ちょっと浮ついているのだが。
 よし、明日からの自主トレ頑張ろう。
 僕はバルコニーから見えるビーチの夕景を見下ろし、心地良い風を顔に受け、決意を新たにした。

 
 
 
 
 
 
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