ドラフト7位で入団して

青海啓輔

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4年目 新しい日々の始まり

第81話 試練は続く

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 ヒットエンドランで大事なのは、とにかく転がすこと。
 空振りが最悪であり、次に悪いのがライナー、フライである。

 メディーナ投手はカットボールの使い手であり、ゴロを打たせる投球スタイルなので、そういう点ではやりやすい。

 初球、予想どおり外角低目へのカットボールがきた。
 僕は右打ちを意識して、バットに当てた。
 セカンドゴロか。

 ところが打球はダブルプレーシフトを敷いていたセカンドの右をうまく抜けてくれた。

 一塁ランナーの山形選手は、二塁を蹴って、三塁へ到達した。
 これでノーアウト一、三塁だ。
 今日は何もかもがうまく行きすぎている。

 二番の額賀選手の初球、僕はこの日2個目の盗塁を決めた。
 三塁ランナーは俊足の山形選手なので、ホームスチールを警戒してキャッチャーはセカンドへ投げなかった。

 これでノーアウト二、三塁のチャンスだ。
 二番の額賀選手はワンエンドワンからの内角への直球をバットに当てた。
 ショートゴロ。
 三塁ランナーの山形選手は悠々ホームインし、僕は三塁へ進んだ。
 そして四番の岡村選手のセンターへの外野フライで、僕はタッチアップし、ホームインした。

 ここまで2打数2安打、盗塁2。
 うまく行きすぎて怖いくらいだ。
 こういう時は、守備でポカをやりやすい。
 自分では意識していないうちに、気の緩みが産まれ、簡単な打球処理をミスる。
 これは高校時代にも良くあった。
 勝って兜の緒を締める、というように気を引き締めていこう。
 僕はベンチに戻り、守備に向けてグラブを手に嵌めながら、そう思った。

 3回の裏の守備、セカンドには打球は飛んでこなかった。
 そして4回の表の攻撃は三者凡退、その裏はセカンドへフライが一つあったが、難なく抑えた。

 5回の表の攻撃も三者凡退で僕には打席が回ってこなかった。
 5回の裏はこの回から登板した左腕のマイヤーが三者三振に切って取った。

 そして6回の表、僕に打席が回ってくる。
 この回から相手投手は、ベテランの中継ぎエース、八木投手に替わった。
 右腕で右打者に取っては、内角に食い込んでくるシュートが厄介ということだ。
 僕は初対戦だった。
 
 先頭の山形選手は三振に倒れ、ワンアウトランナー無しで僕に打席が回ってきた。
 ここで打てば、3打数3安打となり、大きなアピールとなる。
 
 初球、外角へのスライダー。
 大きく外れ、ボール。
 
 2球目は内角へのストレート。
 シュートに的を絞っていたため、見逃した。
 判定はボール。

 これでツーボール、ノーストライク。
 3球目は外角へのストレート。
 遠く見えたが、判定はストライク。
  
 そしてツーボールワンストライクからの4球目。
 次はシュートか。
 僕は的を絞った。
 というのも前の球が外角に来たので、次は目線を変えるために内角に来るだろう。
 バッティングカウントなので、得意のシュートで内野ゴロを打たせに来るのではないか。
 そう読んだ。
 うまくセンター前に弾き返してやろう。

 そして4球目。
 読み通り、シュートが来た。
 もらった。
 バットを振った。

 僕は八木投手のシュートをこれまでビデオでしか見たことが無かった。
 だからこれほどまでに切れ味が鋭いとは思っていなかった。
 ボールは僕の体の方に大きく曲がってきた。
 そして僕は打つつもりでバットを振ってしまっていた。
 
 「あっ」と思った時には、既に手遅れだった。
 避けようとしたが、腕は既に打つ体勢に入っており、そのままボールを迎えに行ってしまっていた。
 ボールは手の甲に当たった。
 鈍い音がして、これまで経験したことがないような、鋭い痛みを感じた。
 僕はその場でうずくまった。

 トレーナーが駆けつけ、コールドスプレーをかけてくれた。
 僕はベンチに下がった。
 痛い。
 コールドスプレーで痛みは少し和らいだが、患部が腫れてきた。
 とても試合に出られる状態では無い。
 僕はトレーナーと一緒に熊本ファイアーズの車で病院に行った。

 レントゲンを行い、診断の結果、第三中手指の骨折だった。
 全治2カ月。
 開幕一軍どころの騒ぎでは無い。
 好事魔多し。
 折角の開幕一軍のチャンスが…。
 僕は悔しさで涙が流れるのを止めることができなかった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
  

 
 
 
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