誰か私を愛してください

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「おい!!大丈夫か!!!」

セイランは少女に近づくと顔周りの髪を払って抱き起こした。ぐったりとした体は熱く、浅い呼吸を繰り返している。ボロきれのような服の裾から見える素肌には所々傷や痣があり、体温が高いにもかかわらず病的なまでに青白かった。

「くそっ!!シルファ、馬車の用意は!?」

「既にできております。殿下の荷物を取ったらすぐに追いますので先に行っていてください!」

言うが早いがシルファは部屋を飛び出し、セイランも慎重に少女の膝裏に腕を滑り込ませると、そっと抱き上げた。
後ろを振り向けば顔面蒼白な公爵と使用人たち。彼らに睨みをきかせつつ部屋の外へと足を踏み出した。

「で、殿下…その娘はっ……」

「お前と前妻との間に生まれた娘だろう?俺が知らないとでも思っていたか?」

笑顔の仮面を取り去り怒気を孕んだセイランの迫力に公爵は今にも泣きそうである。

「このことは国王陛下にも伝えさせて頂く」

追い打ちをかけるように言い放てば公爵はズルズルと座り込み、隣にいた侍従長が「旦那様っ!!」と慌てて支えている。足早に部屋を出て馬車へと向かったセイランの視界にそんな姿はちらりとも映らなかったが。

そのままひたすらに出口へと進めば、屋敷の外へ繋がる扉近くにはサーシャとグレイブ、そして彼らの母親であるエレナが彼の帰宅を見送ろうと待機していた。しかし、彼の腕の中に居る少女をみて公爵と同じように顔面を蒼白にした。
少なくとも罰に値するという自覚はあるらしい。

そんな彼らを視界の隅にとらえつつ、横をするりと通り抜ければ見知った御者が馬車の扉を開けて待っていた。遠慮なくそのまま乗り込むと、少女の体制を安定させつつ指示をだす。

「殿下、その方は一体…」

「イレオスキー家の令嬢だ。訳あって俺が連れ帰る。シルファが到着次第すぐに出してくれ。城までは舗装された道を丁寧かつ速く走るように」

「また無茶なことを…と言いたい所ですが、かなり辛そうですねその子。わかりました。シルファの到着次第出発致します。」

御者ことスウォンが馬車の扉から離れると、入れ替わるようにしてシルファが乗り込み鍵をかけた。それを見届けたスウォンは飛び乗るように御者台に座るとすかさず鞭を打ち、城への道のりを急いだ。

「城に着いたら俺の自室にこの子を運ぶ。侍女を数名と侍医を呼んでくれ。
それから、兄上との打ち合わせは予定通りに。ただし、その後の公務で後回しに出来そうなものがあればそうしてくれ。あとは公爵邸に見張りとして騎士を10名程配置させろ」

「わかりました」

一息に言われた指示を頭に叩き込みんだシルファは手元の手帳に目を通してセイランの予定を組み直し始める。セイランはというと、険しい表情のまま窓から見える景色を見つめ、何かを考えているようであった。

-----------


アイリーンは、誰かの温もりを感じていた。生まれてから感じた人肌の温かさなど、サーシャが生まれるまで父親が付けてくれていた乳母のものだけ。それももう、ずっと昔のことだ。

けれど確かに感じる。

そっと、優しく自分の頭を撫でてくれる温もり。彼女が誰よりも、何よりも欲したもの。冷え切った体が、凍りついた心が、ゆっくりと溶けて温かくなるようだった。

(……もう、死んでもいいや)

最後に幸せな夢を見れたのだから、もう十分だ。自分は頑張って生きた。もう、疲れてしまった。

ゆっくりと体が沈んでいく感じがした。暗くて深いどこかに。今意識を手放せばもう戻ってくることは無いだろうけれど、それでもいい。そう思った時だった。

「死ぬな!!!!」

眩いまでの光とともに、沈みかけた彼女の意識は何者かによって掬いあげられたのだった。

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