143 / 149
電脳暴君はまだまだ夢の中
剛輪禍攻略
しおりを挟む
カオス。もし剛輪禍を一言で形容する言葉があるなら、これほど適した言葉もないだろう。
明治時代を彷彿とさせる古風な街並みと、プレイヤーの建てた奇怪で風変わりな建築物が雑然と混在している。その中に、運営が配置したと思われる近代兵器が無造作に散りばめられ、街全体が統一感を失った異様な光景を作り出していた。
「うーん、困った困った」
砲撃音が遠くから響き、空気には焦げた金属の匂いが漂う。その中で、街の中心に建てられた細長いビルからレーザーが容赦無く照射され、街並みの一部を抉り取っていた。
剛輪禍の街並みを視界の端に捕らえながら、先遣隊から上がってきた報告を確認して首をひねる。
「どうだった?」
赤髪をツーブロックにした青年風のプレイヤー、カタンが険しい表情で剛輪禍の先を睨みつける。
「防衛陣地そのものは1回だけなら結構いい確率でぶち抜けるけど、やっぱり問題はあのレーザーだよねー」
そう言って、私もカタンが熱い視線を送る先へ目をむける。そこには、剛輪禍のモニュメントを守るように建てられた細長いビルが立っていた。
ビルの先端には大きな目玉のような機械が取り付けられていて、そこからレーザーが照射される。
「あれ、なんとかしてくれない? あんなの、高所取ったMP無限のシュクレが一方的に魔法撃ちまくってるみたいなもんじゃん」
「いいぞ」
「え?」
ちょっと冗談で言ってみたら、カタンは険しい表情をしながらも即答で頷いた。てっきりいつものキレ芸が返ってくると思っていたから、予想外の返事に思わず聞き返してしまった。
「お前なぁ……」
私の反応にカタンは深くため息をついてこっちを睨んでくる。
「え、マジで行けるの?」
「まぁ、お前たちメメントモリが1回だけ防衛陣地まで辿り着ければ良いんだろ? それなら俺らアンチ・メメントモリが囮になればなんとかなるだろ」
「あー、でも良いの?」
「もちろん癪ではある……が、それで俺たちが負ければ文字通り世界の終わる。それだけの話だ」
「おー、ありがとうー」
レーザーの囮にするということは、散兵戦術で全方位からレーダーへ突っ込むってことだ。メメントモリとアンチ・メメントモリどっちでも、そんな事をしたら壊滅する。
純粋にモニュメントにたどり着いた時、どっちの方が攻略に有利なるかで言えば私のクランだ。カタンはこの瞬間に、自分のクランを捨て駒にする決断をスルッとしてしまった。
「おう」
カタンはそういうと、ウィンドウを操作してクランメンバーへ指示を出し始める。だけど、ふと何か思いついたようにニヤリと笑って視線を外して私へ向かい合った。
「そうだな……その代わり、2つだけ約束してもらおうか」
「うげ……」
本来、メメントモリとアンチ・メメントモリはその名前からも分かる通り犬猿の仲だ。何を言われるかわからない。
「モニュメント前まで、お前は戦うな」
「え、なんでー?」
「お前のビルド、継戦能力ゴミだろ」
「うげ、バレてたんだ……」
「このゲームに万能なビルドなんて存在しないからな。お前だってそれは例外じゃない」
カタンはそこまで言って、悩む様に額を抑えた。
「まぁ、その弱点を悪辣な作戦と圧倒的な瞬間火力で粉砕してくるのが厄介なんだが……」
「えへへーそれほどでも?」
「うっるせぇ褒めてねぇわ!」
そう、私のビルドはとにかくロマンスキルのパイルバンカーをひたすら打ち込むのがコンセプトだ。
パイルバンカーの消費MPがそこそこ高いのと、そもそも本体が格闘、魔法の二極ビルドだから、最大MPがそこまで高くない。
色々、補填はしているけどこれで最大MPにリソースを先すぎるとそもそもビルドコンセプトが崩壊するから継戦能力に関しては不治の病だ。
「最難関はどう考えてもバリアの先のモニュメントだ。最終局面でMPが足りなくて戦えないなんて洒落にならないだろ」
「それは、そうだけど……それで突破できなかったら本末転倒じゃん」
「黙って俺たちを信じろ」
それは、私にはとても難しいことだった。誰も信じないし、期待もしない。その代わり好き勝手にこのゲームをプレイしていた。
だって信じて裏切られるは凄く怖いし、そもそも他人は動かせるものじゃないから。だけど今、どうしても誰かを頼らないといけない状況に追い込まれて、実際に協力して。
誰かを頼るのって、こんなに頼もしい気持ちになるんだね。
「……分かった」
だけど素直にいうのはちょっと恥ずかしくて、そっぽを向きながら渋々とい言った体で頷いた。
カタンは私の返事に満足したのか、乱暴に私の頭をボンボンと叩いて言葉を続けた。
「よし、それじゃあ作戦開始だ。メメントモリの突撃タイミングもこっちから連絡するから、それまでは隠れてろよ」
「なーでーるーなー!」
私はそれを手で払いのける。
「そう言えば、もう一個は?」
「……勝てよ」
「当たりまえ!」
私たちはお互いの拳をぶつけ合った。
明治時代を彷彿とさせる古風な街並みと、プレイヤーの建てた奇怪で風変わりな建築物が雑然と混在している。その中に、運営が配置したと思われる近代兵器が無造作に散りばめられ、街全体が統一感を失った異様な光景を作り出していた。
「うーん、困った困った」
砲撃音が遠くから響き、空気には焦げた金属の匂いが漂う。その中で、街の中心に建てられた細長いビルからレーザーが容赦無く照射され、街並みの一部を抉り取っていた。
剛輪禍の街並みを視界の端に捕らえながら、先遣隊から上がってきた報告を確認して首をひねる。
「どうだった?」
赤髪をツーブロックにした青年風のプレイヤー、カタンが険しい表情で剛輪禍の先を睨みつける。
「防衛陣地そのものは1回だけなら結構いい確率でぶち抜けるけど、やっぱり問題はあのレーザーだよねー」
そう言って、私もカタンが熱い視線を送る先へ目をむける。そこには、剛輪禍のモニュメントを守るように建てられた細長いビルが立っていた。
ビルの先端には大きな目玉のような機械が取り付けられていて、そこからレーザーが照射される。
「あれ、なんとかしてくれない? あんなの、高所取ったMP無限のシュクレが一方的に魔法撃ちまくってるみたいなもんじゃん」
「いいぞ」
「え?」
ちょっと冗談で言ってみたら、カタンは険しい表情をしながらも即答で頷いた。てっきりいつものキレ芸が返ってくると思っていたから、予想外の返事に思わず聞き返してしまった。
「お前なぁ……」
私の反応にカタンは深くため息をついてこっちを睨んでくる。
「え、マジで行けるの?」
「まぁ、お前たちメメントモリが1回だけ防衛陣地まで辿り着ければ良いんだろ? それなら俺らアンチ・メメントモリが囮になればなんとかなるだろ」
「あー、でも良いの?」
「もちろん癪ではある……が、それで俺たちが負ければ文字通り世界の終わる。それだけの話だ」
「おー、ありがとうー」
レーザーの囮にするということは、散兵戦術で全方位からレーダーへ突っ込むってことだ。メメントモリとアンチ・メメントモリどっちでも、そんな事をしたら壊滅する。
純粋にモニュメントにたどり着いた時、どっちの方が攻略に有利なるかで言えば私のクランだ。カタンはこの瞬間に、自分のクランを捨て駒にする決断をスルッとしてしまった。
「おう」
カタンはそういうと、ウィンドウを操作してクランメンバーへ指示を出し始める。だけど、ふと何か思いついたようにニヤリと笑って視線を外して私へ向かい合った。
「そうだな……その代わり、2つだけ約束してもらおうか」
「うげ……」
本来、メメントモリとアンチ・メメントモリはその名前からも分かる通り犬猿の仲だ。何を言われるかわからない。
「モニュメント前まで、お前は戦うな」
「え、なんでー?」
「お前のビルド、継戦能力ゴミだろ」
「うげ、バレてたんだ……」
「このゲームに万能なビルドなんて存在しないからな。お前だってそれは例外じゃない」
カタンはそこまで言って、悩む様に額を抑えた。
「まぁ、その弱点を悪辣な作戦と圧倒的な瞬間火力で粉砕してくるのが厄介なんだが……」
「えへへーそれほどでも?」
「うっるせぇ褒めてねぇわ!」
そう、私のビルドはとにかくロマンスキルのパイルバンカーをひたすら打ち込むのがコンセプトだ。
パイルバンカーの消費MPがそこそこ高いのと、そもそも本体が格闘、魔法の二極ビルドだから、最大MPがそこまで高くない。
色々、補填はしているけどこれで最大MPにリソースを先すぎるとそもそもビルドコンセプトが崩壊するから継戦能力に関しては不治の病だ。
「最難関はどう考えてもバリアの先のモニュメントだ。最終局面でMPが足りなくて戦えないなんて洒落にならないだろ」
「それは、そうだけど……それで突破できなかったら本末転倒じゃん」
「黙って俺たちを信じろ」
それは、私にはとても難しいことだった。誰も信じないし、期待もしない。その代わり好き勝手にこのゲームをプレイしていた。
だって信じて裏切られるは凄く怖いし、そもそも他人は動かせるものじゃないから。だけど今、どうしても誰かを頼らないといけない状況に追い込まれて、実際に協力して。
誰かを頼るのって、こんなに頼もしい気持ちになるんだね。
「……分かった」
だけど素直にいうのはちょっと恥ずかしくて、そっぽを向きながら渋々とい言った体で頷いた。
カタンは私の返事に満足したのか、乱暴に私の頭をボンボンと叩いて言葉を続けた。
「よし、それじゃあ作戦開始だ。メメントモリの突撃タイミングもこっちから連絡するから、それまでは隠れてろよ」
「なーでーるーなー!」
私はそれを手で払いのける。
「そう言えば、もう一個は?」
「……勝てよ」
「当たりまえ!」
私たちはお互いの拳をぶつけ合った。
21
あなたにおすすめの小説
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。
癒し目的で始めたVRMMO、なぜか最強になっていた。
branche_noir
SF
<カクヨムSFジャンル週間1位>
<カクヨム週間総合ランキング最高3位>
<小説家になろうVRゲーム日間・週間1位>
現実に疲れたサラリーマン・ユウが始めたのは、超自由度の高いVRMMO《Everdawn Online》。
目的は“癒し”ただそれだけ。焚き火をし、魚を焼き、草の上で昼寝する。
モンスター討伐? レベル上げ? 知らん。俺はキャンプがしたいんだ。
ところが偶然懐いた“仔竜ルゥ”との出会いが、運命を変える。
テイムスキルなし、戦闘ログ0。それでもルゥは俺から離れない。
そして気づけば、森で焚き火してただけの俺が――
「魔物の軍勢を率いた魔王」と呼ばれていた……!?
癒し系VRMMO生活、誤認されながら進行中!
本人その気なし、でも周囲は大騒ぎ!
▶モフモフと焚き火と、ちょっとの冒険。
▶のんびり系異色VRMMOファンタジー、ここに開幕!
カクヨムで先行配信してます!
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!
くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作)
異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる