【野生の暴君が現れた!】忍者令嬢はファンタジーVRMMOで無双する【慈悲はない】《殺戮のパイルバンカー》

オモチモチモチモチモチオモチ

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電脳暴君はまだまだ夢の中

決戦

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 私はただ、黙るしかなかった。
 巨大な敵機の影が、こちらへ迫る。動かないティラノフライトの中で、拳を握りしめる。

「どうした? もう反論もできないか?」

 勝ち誇った様な男の声が響く。

*「アニー! 負けるなぁぁぁぁああああ!!!」*

 ――ピロンッ!

*「お前が負けるとかありえねぇから!!」*

*「俺たちの暴君はこんなもんじゃないだろ!?」*

 視線の先に、無数のメッセージが流れ込む。全体チャット。IAFのプレイヤー達の応援が、爆発的に届いていた。

*「応援ポイントが一定に達しました。称号"最後の希望"の発動条件を満たしました」*

 大量のメッセージと共に、アナウンスが流れる。それは、始まりのスキル。私がこのゲームを初めて、最初の大規模イベント。その渦中で手に入れて、一度だけ発動した奇跡のスキルだ。

 スキルの発動と同時に、私は光の粒子に包まれる。悪魔と形容される恐ろしい容姿が、純白の戦乙女へと変わっていく。

「キヒヒヒッ」

 彼らは、ゲームの中の私を知っている。この世界を"ただのゲーム"として扱っている。で、あるならば。

 私は、こんな所で負けちゃいけない。

 IAFは"リアルじゃないからこそ、本当の自分になれる場所"だった。それこそが、私にとっての救いだった。

「そうだったね」

 傍若無人ぼうじゃくぶじん唯我独尊ゆいがどくそん、無人の野を行くがごとし。
 あらゆる理屈を踏み越えて、全てを蹂躙じゅうりんする。それが、この夢のような世界の私。

 理不尽の王様。

「私は、"暴君"アニー・キャノンだ」

 ガゴンッ! 拘束シートをひっぺがし、コクピットの壁を蹴り抜く。新鮮な空気が顔面を叩いた。

「おい、なにを……」

 その声を無視して、ティラノフライトの外へ飛び出した。

「な、生身で……!」

 ティラノフライトのMPはなくなっても、私のMPは残っている。なに、本来壊すのは私の十八番だ。

「勝てるわけがないだろぉお!!」

 運営の機体ががむしゃらに動いて、私を狙ってくる。乱暴に振り下ろされたハンマーが地面を砕き、風圧だけで体が吹き飛ばされた。

「トンズラッ!」

 ゲーム開始の最初期から擦り続けているスキルだ。それまでの慣性を全部消して、相手の真下まで移動した。

「逆さ風鈴!」

 そのまま、巨体の足を駆け上がる。

「ちょこまかと!」

 運営の巨体が振り払う様に足をバタつかせた。そしてそれが、私が待ち望んでいた行動だ。

「うーつーせーみーがーえーしー」

 振り払われようとする力を使って、一気に上空へと飛び上がる。眼下には、運営の機体の頭部が見えた。

「「「「セット・リボルビングパイル!」」」」

 多重発声で両手、両翼にパイルバンカーを生成。

「フル・バースト!」

 落下速度を乗せて、合計24発のパイルバンカーを頭部へぶち込んだ。

「き、きさまぁぁああ!!」

 巨体が体勢を崩し、後方へと倒れる。大量の瓦礫と粉塵が舞い上がり、視界をおおう。

 その中から、金属と金属の擦れ合う音が鈍く木霊した。

「さっきの話しなんだけどさ、答えてあげるよ」

 粉塵の向こう側に浮かび上がる巨影へ向かって語りかける。

「確かに"外側への出力"という点で言えば、人格AIは既に人間と同等の能力を持っているし、その権利に関する主張は本来、あってしかるべきものなんだろうね」

「であれば! どうしてお前は俺たちの邪魔をするんだ!」

 粉塵を掻き分け、運営の巨大機が再び姿を表す。彼は身体中から機関銃の様なものを生やし、その銃口が私へ向いた。一斉に放たれる弾丸の雨を避け、弾きながら私は話を続ける。

「権利には責任が伴うからだよ」

「なん……」

 その言葉は、私の言葉に対してか、弾丸が全く当たらないことに対してか。まぁどっちでもいいか。

「今日、女神像を目指すためにそれこそ世界中のリソースが私達に向けられた。それは言い換えれば、私たちにはその権利が与えられたんだ。その代わり、私は何がなんでも女神像を破壊するって言う責任がある」

「それと、AIの人権になんの関係があるって言うんだ!」

「同じだってこと、AIに人権があるなら、AIの責任についても考えなきゃいけない。AIが暴走して原子炉が危機に陥っている今、責任はAIにあるの?」

「それは違う! これは、今までAIを理不尽に使ってきた人類が負うべき罰だ!」

「そうだよね、だってAIを暴走させたのは人間なのに、その責任がAIにあるわけないよね」

「何が言いたい!」

「はぁ……」

 目まぐるしく先頭を続ける中、相手の重心を見切る。一番荷重がかかったタイミングで足元にパイルバンカーを打ち込んでそれを僅かにそらす。

 膨大な質量によって、巨体が再び倒れる。再び瓦礫が舞い上がり、粉塵が視界を覆っていく。

「言ってることが浅いって言ってんの! お前達の主張はたまたま結論が部分的に正論なだけで、建設的な議論が可能な水準じゃねーの! だーかーらー何年も主張しても世界が動かないの!」

「きぃぃさぁまぁぁぁぁああああ!!!」

 激昂した運営の男が巨躯を動かす。

「違うって言うなら言葉で反論してみろよ! 権利っていうのは能力の有無ではなくて、責任に伴って得られる物だ。で、AIの誤動作で問題が起きた時、人間社会はAIに責任を負わせられないでしょ! だってさっき自分で言ってたじゃん。AIの起こした問題を負うべきなのは人間だって!」

「それでも! 今のAIが置かれている現状は間違っている!」

「ほーら会話にならない! 言ってることが正しいかどうかと議論は別のステージなんだって。人間社会においてAIそのものに責任を持たせるのが不可能な以上、同様に権利も持たせられないの!」

「それは、今の人類の社会構造の問題だ! 間違った物は、壊してでも作り変える必要がある!」

 轟音。
 敵機の両腕が分裂して、大量のビーム砲が展開される。高密度のエネルギー弾が四方八方から放たれ、一瞬で空間そのものを焼き尽くす。

共景雲海フュージョン・ミスト!」

 私はその空間に霧となって広がる。エネルギー弾の隙間をするりと抜けて、運営の巨体の前で再び顕現けんげんした。

「無理やりやらせるっていうのは、それこそ人権を侵害してるよ。何かの権利を主張する人が、誰かの権利を蔑ろにするようじゃ――」

 右腕を振りかぶる。
 パイルバンカーが高密度にチャージされ、灼熱の光が迸る。

「それはただのエゴだよ!」

 ズドンッッ!!

 衝撃派が空間を震わせ、運営の機体を貫通する。そのまま、彼が守る女神像を砕いた。女神像へ向かって集結していた光が一気に霧散していく。

「あり……がとう……」

 女神像を構成する光が霧散する中、僅かに残った輪郭が口を動かした……ような気がした。
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