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第1章
第4話 初体験は薔薇の香り
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夜遅く――既に街灯の大部分は消え、文明の光が少なくなってきた頃。
施設の前へとたどり着いたのだが……入口前に車が止まっている。
そこから降りてきたのは――。
「あれ? どうして――」
「凜音様……心配しましたわ……」
フランチェスカさんが泣きながら抱きついてきた。
「ぐすっ、どうして……お1人であんなことを……」
「えっ!? あ……え~っと……」
貰った物を早く試したかったから……とは言えず。というか、何も言えない。
「えと、どうしてバレたのかな……? な~んて……」
「……ランチョンの目を通して得た記録は全て我々の元にも届くようになっておりますので」
「そ、そうだよね……」
繋がっていた魔力はそういうことだったか。自律型っていうから……いや、考えが甘かったな。
「そんなことより! 本当に心配したんですのよ!? モンスターの攻撃をわざわざ受け止めたりして……」
「うっ……」
俺の胸に顔を埋め、それっきり泣き出してしまうフラン。
商売のパートナーになった矢先に死なれたら困るだろうし、当たり前か。
「……すみませんでした」
「ぐすん」
返事はこれだけ。
見ると、フランチェスカさんはどう見ても寝巻きで、3月の夜に出歩いていい服装ではない。
それだけ急ぎここに向かってきたのだろう。
「……フランチェスカさん、お体が冷えますよ」
「どうぞ、お車の中へ」
タイミングよく声をかけてきたメイドさんが、後部座席のドアを開け、中にはいるように促してくれる。そのまま、抱き合ったまま車の中へ。
「フランチェスカさん、この度は勝手な行動をしてしまい申し訳ございませんでした」
「ぐすん」
……ダメか。
「攻撃をわざと受けるようなことをして――」
「ぐすん」
これもダメ。
いや、本当はわかっている。
ただ、こんなにも美人でかわいくて地位もあるお嬢様に、どうして俺なんかという考えが邪魔をする。要は、自惚れじゃないかと恥ずかしくなる。
だけど、それは彼女の想いも踏みにじることになる。だから――。
「……心配、かけてごめん」
「全く、ですわ……この身が引き裂かれる思いでした……」
「これからは……ちゃんとフランチェスカさんのことも考えるよ。心配かけないように」
「はい……」
それ以上気の利いたことは言えず、申し訳無さと少しの感謝を込めて抱きしめた。
「着きました」
「……ん?」
無言で抱き合っていると、メイドさんから声をかけられた。
いつの間にか走り出していた車がどこかに到着したようだ。
「こちらに……最上階の部屋です」
「……んん?」
ホテルの鍵のようなものをメイドさんから受け取るフランチェスカさん。
俺は訳もわからず、手を引かれるまま駐車場のエレベーターへ連れられ、そのまま上の階へ。
「ではごゆるりと」
「ご苦労様。あなたもゆっくり休んで」
「はい。私は下の部屋で仮眠を取らさせて頂きます」
「……」
フランが部屋を開けると、そこは前世でも見たことのないような豪華でロイヤルでスウィートな部屋だった。
きらびやかな天蓋が付いた、見るからにふかふかそうなキングサイズのベッド。天井は高くシャンデリアが優雅に輝く。開けっ放しのバスタブの中には薔薇の花弁が敷き詰められ、ここまで匂いを届かせる。カーテンの開いた窓からはこの街が一望できる――素晴らしい眺めだった。
「フランチェスカさん?」
「いやですわ、フランとお呼びくださいまし」
「フ、フラン……?」
「はい、凜音様……」
そう言って目をつぶり、ゆっくり顔を近づけてくるフラン。
そして唇と唇が触れ合う。
「……お慕いしておりますわ、凜音様。あの時からずっと……」
「フラン……!」
ことここにおいて、とやかくいうのは野暮ってもの。
想像通り、ベッドはふかふかだった。
◆◇◆◇◆◇
「うっそですわよね!? 覚えてないんですの!?」
先ほど済ませた初体験のことではない。むしろ一生忘れられない思い出だ。
そうではなく……フランが言った、『あの時』のことだ。
「はぁ~……わたくしは1度も忘れたことがないというのに。初めて会った日のことですわよ!」
「……すまぬ」
男性は生まれたときから施設で隔離させられる。しかし数か月に1度、大企業の娘さんなど、いろんな女の子と会う交流会――今思えば将来のための婚活パーティみたいなものが設けられていた。
「いいですわ。ピロートークに教えてあげましょう! わたくしとあなたの始まりのお話を。あれは――わたくしがお母様にペットのペンギンを殺すよう命じられたことを悩んでいる時でしたわ」
初っ端からショッキングなんだが!? っていうかペンギンって飼えるの!?
「そのことで頭が一杯で……交流会のときも不貞腐れた態度を取っていました。そしてあなたに声をかけられたのです」
そりゃあ……元気ない女の子がいたら声を掛けるけども。
「そしてわたくしは言いました。『あなたたちはいいですわね、与えられるものだけで生きていけて。苦労なんて知らないでしょう』と。今にして思えば、心配して声をかけてくれたお優しい凜音様に何たる仕打ちですの!」
……思い出した。いたわ。まさかあの時の荒んだ女の子がフランだったなんて……人相が全く違ったからわからなかった。
「『宝条グループのトップに立つものとして、より多くの利益のためには多少の犠牲を出す覚悟が必要』。そのための心構えとしてペットを殺すように言われたことをあなたにお話すると――」
「『僕だったら……そんな覚悟はしないかな』」
「――ふふ。『やはり男性なんて、お気楽で羨ましいですわ』」
「『すべきは見捨てない覚悟、最後まで全てを守る覚悟、共にある覚悟。僕ならそうしたいかな』だっけ。我ながら恥ずかしいこと言ったなぁ~……」
確か6歳の時だっけ?
自分のステータスやスキルを知ってこの先どうしようか俺も悩んでいたときだった気がする。
「理想だけの、問題の解決にはならない、耳当たりがいいだけの言葉」
「んぇ!?」
思わずヤギみたいな声が出てしまった! そんなこと思ってたの!?
「だけど……あなたは本当にそうするのだと、幼心に感じましたわ。同時にわたくしが守護らねばとも」
「……」
「その日、わたくしは“覚悟”が決まりましたわ。凜音様のために全てを捧げるという”覚悟”が!」
「……」
財閥トップとしての“覚悟”の話じゃあ……。
「ふふ、嬉しいですわ! わたくしの大切な思い出、凜音様も思い出してくれて!」
心の底からの笑顔を浮かべ、嬉しそうに抱きついてくるフラン。
彼女がどうしてこんなに尽くしてくれるのか、その理由がわかった。どれだけ想ってくれているのかが。
約10年。彼女なら他の男性と接する機会もあっただろう。それでも俺を選んでくれたんだ。
「……一生大切にする」
「ふふ。はい、もう忘れないでくださいね」
「思い出もだけど……フランのことを、だよ」
「……はい♡」
大切にすると言っておきながら、その後フランが気絶するまで致してしまった。
破瓜の痛みで辛かったろうに……。
施設の前へとたどり着いたのだが……入口前に車が止まっている。
そこから降りてきたのは――。
「あれ? どうして――」
「凜音様……心配しましたわ……」
フランチェスカさんが泣きながら抱きついてきた。
「ぐすっ、どうして……お1人であんなことを……」
「えっ!? あ……え~っと……」
貰った物を早く試したかったから……とは言えず。というか、何も言えない。
「えと、どうしてバレたのかな……? な~んて……」
「……ランチョンの目を通して得た記録は全て我々の元にも届くようになっておりますので」
「そ、そうだよね……」
繋がっていた魔力はそういうことだったか。自律型っていうから……いや、考えが甘かったな。
「そんなことより! 本当に心配したんですのよ!? モンスターの攻撃をわざわざ受け止めたりして……」
「うっ……」
俺の胸に顔を埋め、それっきり泣き出してしまうフラン。
商売のパートナーになった矢先に死なれたら困るだろうし、当たり前か。
「……すみませんでした」
「ぐすん」
返事はこれだけ。
見ると、フランチェスカさんはどう見ても寝巻きで、3月の夜に出歩いていい服装ではない。
それだけ急ぎここに向かってきたのだろう。
「……フランチェスカさん、お体が冷えますよ」
「どうぞ、お車の中へ」
タイミングよく声をかけてきたメイドさんが、後部座席のドアを開け、中にはいるように促してくれる。そのまま、抱き合ったまま車の中へ。
「フランチェスカさん、この度は勝手な行動をしてしまい申し訳ございませんでした」
「ぐすん」
……ダメか。
「攻撃をわざと受けるようなことをして――」
「ぐすん」
これもダメ。
いや、本当はわかっている。
ただ、こんなにも美人でかわいくて地位もあるお嬢様に、どうして俺なんかという考えが邪魔をする。要は、自惚れじゃないかと恥ずかしくなる。
だけど、それは彼女の想いも踏みにじることになる。だから――。
「……心配、かけてごめん」
「全く、ですわ……この身が引き裂かれる思いでした……」
「これからは……ちゃんとフランチェスカさんのことも考えるよ。心配かけないように」
「はい……」
それ以上気の利いたことは言えず、申し訳無さと少しの感謝を込めて抱きしめた。
「着きました」
「……ん?」
無言で抱き合っていると、メイドさんから声をかけられた。
いつの間にか走り出していた車がどこかに到着したようだ。
「こちらに……最上階の部屋です」
「……んん?」
ホテルの鍵のようなものをメイドさんから受け取るフランチェスカさん。
俺は訳もわからず、手を引かれるまま駐車場のエレベーターへ連れられ、そのまま上の階へ。
「ではごゆるりと」
「ご苦労様。あなたもゆっくり休んで」
「はい。私は下の部屋で仮眠を取らさせて頂きます」
「……」
フランが部屋を開けると、そこは前世でも見たことのないような豪華でロイヤルでスウィートな部屋だった。
きらびやかな天蓋が付いた、見るからにふかふかそうなキングサイズのベッド。天井は高くシャンデリアが優雅に輝く。開けっ放しのバスタブの中には薔薇の花弁が敷き詰められ、ここまで匂いを届かせる。カーテンの開いた窓からはこの街が一望できる――素晴らしい眺めだった。
「フランチェスカさん?」
「いやですわ、フランとお呼びくださいまし」
「フ、フラン……?」
「はい、凜音様……」
そう言って目をつぶり、ゆっくり顔を近づけてくるフラン。
そして唇と唇が触れ合う。
「……お慕いしておりますわ、凜音様。あの時からずっと……」
「フラン……!」
ことここにおいて、とやかくいうのは野暮ってもの。
想像通り、ベッドはふかふかだった。
◆◇◆◇◆◇
「うっそですわよね!? 覚えてないんですの!?」
先ほど済ませた初体験のことではない。むしろ一生忘れられない思い出だ。
そうではなく……フランが言った、『あの時』のことだ。
「はぁ~……わたくしは1度も忘れたことがないというのに。初めて会った日のことですわよ!」
「……すまぬ」
男性は生まれたときから施設で隔離させられる。しかし数か月に1度、大企業の娘さんなど、いろんな女の子と会う交流会――今思えば将来のための婚活パーティみたいなものが設けられていた。
「いいですわ。ピロートークに教えてあげましょう! わたくしとあなたの始まりのお話を。あれは――わたくしがお母様にペットのペンギンを殺すよう命じられたことを悩んでいる時でしたわ」
初っ端からショッキングなんだが!? っていうかペンギンって飼えるの!?
「そのことで頭が一杯で……交流会のときも不貞腐れた態度を取っていました。そしてあなたに声をかけられたのです」
そりゃあ……元気ない女の子がいたら声を掛けるけども。
「そしてわたくしは言いました。『あなたたちはいいですわね、与えられるものだけで生きていけて。苦労なんて知らないでしょう』と。今にして思えば、心配して声をかけてくれたお優しい凜音様に何たる仕打ちですの!」
……思い出した。いたわ。まさかあの時の荒んだ女の子がフランだったなんて……人相が全く違ったからわからなかった。
「『宝条グループのトップに立つものとして、より多くの利益のためには多少の犠牲を出す覚悟が必要』。そのための心構えとしてペットを殺すように言われたことをあなたにお話すると――」
「『僕だったら……そんな覚悟はしないかな』」
「――ふふ。『やはり男性なんて、お気楽で羨ましいですわ』」
「『すべきは見捨てない覚悟、最後まで全てを守る覚悟、共にある覚悟。僕ならそうしたいかな』だっけ。我ながら恥ずかしいこと言ったなぁ~……」
確か6歳の時だっけ?
自分のステータスやスキルを知ってこの先どうしようか俺も悩んでいたときだった気がする。
「理想だけの、問題の解決にはならない、耳当たりがいいだけの言葉」
「んぇ!?」
思わずヤギみたいな声が出てしまった! そんなこと思ってたの!?
「だけど……あなたは本当にそうするのだと、幼心に感じましたわ。同時にわたくしが守護らねばとも」
「……」
「その日、わたくしは“覚悟”が決まりましたわ。凜音様のために全てを捧げるという”覚悟”が!」
「……」
財閥トップとしての“覚悟”の話じゃあ……。
「ふふ、嬉しいですわ! わたくしの大切な思い出、凜音様も思い出してくれて!」
心の底からの笑顔を浮かべ、嬉しそうに抱きついてくるフラン。
彼女がどうしてこんなに尽くしてくれるのか、その理由がわかった。どれだけ想ってくれているのかが。
約10年。彼女なら他の男性と接する機会もあっただろう。それでも俺を選んでくれたんだ。
「……一生大切にする」
「ふふ。はい、もう忘れないでくださいね」
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