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第3章
第33話 12時間耐久惚気配信
しおりを挟む――数日後。
今日は表の顔、『アヘ顔ダブルピース』のみなさんとの動画撮影だ。
「こんにちは! 今日はなんと……『1人夜営の仕方』ということで、危険区のとある場所に来ています!」
というのも、ここしばらく配信をしていなかったので急遽長丁場の撮影をすることとなったのだ。
つまり、夜営の間ずっとカメラが回っている……端的に言うと地獄の始まり……。
【えっ!? ってことはこのまま朝まで生配信!? (10000円)】
【うっそ! 12時間以上あるじゃん! (10000円)】
「はい! かなりの長丁場ですし、動画の大半は俺がぼーっとしてると思いますので……みなさんも無理しないでくださいね!」
今が夕方の5時頃、夜明けが朝の5時頃の見込みなので……マジで辛い。
無理するのは俺だけで十分だ……!
【ううん、私も頑張るよ! (10000円)】
【栄養とエネルギーの補給にはあめちゃんがおすすめなの! (10000円)】
【凜きゅんが暇になったら質問とかしてもいい? (10000円)】
「いいですね、質問! ぜひお願いしますね! あ、それとスパチャは本当に無理のない範囲で……12時間もありますし」
これは本心だ。12時間このペースだと破産してもおかしくない。
【そうやって優しい事言うから…… (10000円)】
【大丈夫。お姉さんね、凜きゅんのために割の良い仕事始めたの (10000円)】
【宝条建設の臨時バイト? 私も始めたよ! (10000円)】
自宅となったビルの裏で何やら工事が始まっているから、それのことかも知れない。
「では早速、この辺のモンスターを掃討して安全を確保していきます! この辺りは比較的弱いモンスターしかいませんが気を抜かずにやっていきます」
その後、こっそり雪さんのスキル、索敵特化の『ジェリー・ザ・マウス』のサポートを受けつつ少し時間をかけて周囲のモンスターを殲滅。
血の匂いを消すため、倒したモンスターを埋めるとか燃やすだとかの話をして解説動画要素を足していく。
「ふぅ、これでしばらくは大丈夫でしょうか。引き続き夜営の準備をしていきます。こちらは『宝条アウトドア』より販売されているワンタッチ式のテントです!」
宝条の回し者なので……すみませんね。
「少々お高いですが、周囲に未登録の魔力反応が近づいたら警報音を鳴らしてくれるセンサー付きですので安心ですね!」
【私も持ってる! おそろいだね! (10000円)】
【危険区の探索には必需品だよね。高いけど (10000円)】
【確かに高いけど命には変えられないからね (10000円)】
「そしてその辺で拾ってきた薪を焚き火に……“頭を垂れよ”『ファイヤーボール!』」
キャンプと言えば焚き火!
「そして先程狩ったホーンラビットを今晩の食事にしていきます!」
事前に血抜きや皮剥を済ませていたウサギ、角を根本から切断して胴体を木の枝に刺し、塩をまぶして焚き火の側で焼く。
上手に焼けるといいんだけど。
【ホーンラビットの角を煎じて飲むと体にいいんだよ! (10000円)】
【試してみてよ! (10000円)】
「知ってますよ、精力剤になるってこと! そういう配信はしませんので!」
生配信中にそんなことしたら大変だ。テントは1つで十分だもの。
【ちぇっ! 残念…… (10000円)】
【そろそろ質問いい? 凜きゅんのお嫁さんって何人いるの~? (10000円)】
【は? 凜きゅんはまだお童貞ですが? (10000円)】
【聞きたいような聞きたくないような…… (10000円)】
おっと、ナイーブな話題がきたぞ。
チラッと雪さんたちを見ると……特に反応はない。男性は複数どころの騒ぎじゃない女性と結婚するのが当たり前らしいから、別に気にしないのかもね。
「正式には……あれ、1人かな? フランチェスカさんは婚姻届を出したらしいから……」
【1人!? (10000円)】
【さすがにそれは……え? (10000円)】
【もっと励みなよ~! なんなら私も産むよ? (10000円)】
「いやいや、他にも恋人関係の人はいるから! 4人も!」
恋人って認識で合ってるよね? ね?
そう思ってミコさんの方をチラッと見てみると、なぜだか俯いて……え? 俺だけそう思ってたの?
【4人て……マジ? 国に怒られない? (10000円)】
【本当に私にもチャンスあるんじゃ! (10000円)】
【ないない。私ら下々の女には興味ないって (10000円)】
【あんたはそれでいいよ。私は上に行く。そして凜きゅんとイく (10000円)】
「ん~、下々とかはよくわからないけど……気が合ってちゃんと愛し合える方がいればお付き合いしたいですね~」
フランにも恋人は増やさなきゃいけないと言われてはいる。それがこの世界の男性の存在意義だから。
【愛し合ってって……本気で言ってるの? (10000円)】
【私の旦那は、ただ子ども作るためとか気持ちよさを求める道具にしか私たちを見てないよ。所詮男ってそういうもんでしょ】
「あ~……男性だから子作りに励む義務があることは理解していますけど、できれば義務感とかそういうのではなくてちゃんと1人の人間として向き合いたいですね」
同級生の男たちの考え方を知っているから、今のようなコメントもわかるけどね。
種の存続のために充てがわれた女性との行為が当たり前の世界ではあるが、それでも愛して欲しいし、愛したい。
例えばきっかけが打算尽くしのミコちゃんとだって、俺は家族になりたいと思ってる。
【嘘よ。視聴者に媚びてるだけ】
【いやいやいや……男の愛なんてフィクションだから!】
【創作の世界だけよ】
「むぅ……あなた方が今まで大変な思いをしてきたのは察せられましたが……確かに俺の知ってる男性もそんなんばっかだったですし。けど! 俺のみんなへの思いはフィクションなんかじゃないですよ!」
【……そこまで言うなら、証明してみてよ】
「証明?」
おセッセ動画でも配信すればいいんか? 絶対嫌だけど。
【例えば、奥さんたちの愛してるところを言ってみてよ。できるならね】
「それはいいですね! ちょうど朝まで話題が必要でしたし、これから俺の恋人のいいところたっっぷり自慢させて頂きます!」
【……え?】
【本気?】
「もちろん! あ、飽きたり聞くに耐えなくなったら遠慮なく落ちてくださいね~! これから俺の惚気を聞くだけの動画になっちゃうからね!」
他人の惚気を聞くなんて地獄以外の何物でもないが、自分は語りたくてしょうがないもの!
【聞きたいような聞きたくないような (10000円)】
【いやいや創作の世界だって】
【どうせ見た目とか物をくれるとかそういうところばかりでしょ】
「その通り! まずは宝条財閥のご令嬢にして1番のお嫁さんのフラン! 見た目も麗しく気品あふれる女性で高価なものをポーンとくれる気前の良さも持ちつつ――」
【ほらね】
「何と初めて俺と出会った10年前から俺のことを想っていてくれてとても健気なところがキュンと来る! そんなこと聞かされたら男として応えないわけにはいかないよね! しかも『第1夫人ですもの、嫉妬だなんて器の小さいこといたしませんわ』とか言いつつも結局嫉妬してるところとか愛らしくてたまらない! さらに――」
こうして他人にとっては地獄、自分にとっては居心地の良い配信が始まった。
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