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第3章
第41話 第3の覚醒とスズラン
しおりを挟む「ちゅっ……えへへ、最期に勇気出せた」
「……!」
頬への口づけ。そして――死を覚悟したであろうその中でも、笑顔をたたえる彼女を見て、頭の中の何かが弾けた。
同時に流れ込んできた言葉を、ありったけの声で叫ぶ!
「“頭を垂れよ!”“汝ら導く!”“世界の終焉!”」
その瞬間、体から激しい光が奔った。
高温と何かが弾けるような音を撒き散らしつつ、まるで蜘蛛の巣のように広がりながら、光の速度で奔った。
「――ギャアアアアアッッッ!!!」
「……!? ……!」
力なく俺らを手放したアラクネは体を震わせながら白目を剥いている。
下にいた子蜘蛛は脚を縮こませ、ひっくり返っている。
「……え? え? 助かった……の?」
「『い、雷……!? まさか雷の魔法ですの!? そんなの聞いたことありませんわっ!』」
「『それよりも第3の覚醒ってことですか!? やば……!』」
「『さすが凜ちゃん♪』」
雪さんが呆然といった感じで呟き、チカ、まっひー、リアは好き勝手な感想を言い合っている。
「……よっと」
焼け焦げた糸を振り解き、雪さんを優しく抱えながら地面へと降り立つ。
アラクネの様子はどうだろうか。
「ガッ……アガッ……」
「『まだ息があるよ!』」
依然上を向き、体をふらつかせてはいるが絶命には至っていない。文字通り虫の息ではありそうだが。
「“頭を垂れよ”“汝ら導く”“世界の終焉”」
手をピストルのような形にし、魔力を集中させる。バチバチと音を立て、魔力の光が電気に変わる。
「終わりだ!」
指先から、まるで雷が横に落ちたかのような爆音と衝撃を伴いながら、アラクネの腹部に向けて電撃が迸った。
「……が……」
「討伐完了」
アラクネが轟音と衝撃を巻き起こしながら地面に倒れる。
大きな怪我をすることなく戦いが終わったことを安堵する。もちろん、腕のなかの雪さんを無傷で守れたことにも。
「……終わったの……?」
「ああ」
アラクネの胴体部分が光の粒子になって消えていくのを見届けながら、腕の中の大切な人を抱く。
「もうダメかと思った」
「……」
思わずキスしちゃうくらいだものね。
ということで、雪さんの気持ちが知れたので、これからは遠慮なくいかせて頂く!
「あ、あのさ! さっきのは――むぐぅ」
「……」
無言で口づけをする。どうせならこのまま――。
「『あのぉ~! イチャついてるとこ申し訳ないのですが! 動画用に1度キリよく締めて貰えませんか! ガルルルル!』」
「『このままじゃあ、全世界にイチャイチャ動画が流れちゃうよ~♪』」
「『口惜し――いえ何でも! 討伐おめでとうございますわぁ~~~わん!』」
キリよく、とは……?
とりあえず倒れて消え行くアラクネの姿を背に決めポーズを取り、討伐報酬を映して撮影を終了する。
大量の報酬は家に帰ってから後でまとめて確認しよう。
「そ! それって! 宝条財閥から貰った特性の『収納袋』なんでしょ! すごいねー! へぇー!」
「え? うん。貰ったんじゃなくて借りてるだけだけど」
たくさん入る『収納袋』をいくつも借りて何とかダンジョンボスの報酬をしまい込んでるところ。
そんなことはどうでもいい。
何だか雪さんが気まずそうにしていることが問題だ! さっきから俺のほうじゃなくて空に向かって話しているんだもの!
「戻ろっか」
「ううう、うんっ! ももも戻ろう!」
『ううん』と言っている可能性が微粒子レベルで存在……。
「『やれやれですわね~……』」
◆◇◆◇◆◇
そして帰り道。
安全区の真世さんのところまで戻り、彼女の運転で帰路に就く。
ここまでの道中、雪さんは終始上の空であまり会話にならなかった。
「……」
「……」
「……」
車内でもそれは続き、真世さんまでもが無言になってしまっている。
俺としても、この後のことで別の緊張を抱えているために口数が少なくなっているのも事実。
「……つきました」
真世さんの言葉に、窓から外を見る。
そこには見覚えのあるロイヤルでスウィートなホテルがあった。というか、俺がこっそり真世さんにお願いしていたんだけどね。
想いを伝えるための場所としては、俺の中ではここが1番だと思ったので。
「では……後ほどお迎えに参ります」
「ありがとう。行こう、雪さん」
「こ、ここって……そのぉ……」
顔を真っ赤に染めて俯く雪さんの手を引き、ホテルの中に入る。
受付の人と目が合うと、無言で会釈された。このまま進んでいいということだろう。
「……」
「……ぁ……ぅぅ……ぁぅ……」
エレベーターを降り、以前来たときと同じ部屋にはいる。
ひとつだけ違うのは、部屋の中はスズランのさりげなく優しい香りで満ちていたこと。
「雪さん」
「ひゃっ! ひゃぃ~……」
「好きです」
気の利いたことは言えない。ただ、目の前の愛しい女性を抱きしめる。これからずっと守らせて欲しいと思いを込めて。
「……」
「……雪さん?」
「……」
「……し、死んでる……!」
何も喋らない、反応すらしない雪さんを訝しみ、顔を見てみると……気を失ってしまったようだ。
どうやら恥ずかしさやら緊張やらが許容量を越えてしまったらしい。
「……」
「……ふふ」
なんとも彼女らしいオチに、笑いがこぼれる。
なにせ、死に際の最期に振り絞った勇気が頬へのキスだなんて。
「……今日はお疲れ様」
ふかふかのベッドに彼女を寝かせ、サラサラな髪の毛を撫でる。
気絶の仕方に反して、その寝顔はとても安らかな笑みを浮かべていて……本当に死んでないよね?
「……まもって……あげゆ……」
良かった、生きてた。
夢の中でまで俺を守ってくれてるらしい。なんといじらしい少女だろうか。年上だけど。
「……凜音、くん……」
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