エーミール・クロフトの憂鬱

あきら

文字の大きさ
18 / 21
エーミール・クロフトのバレンタイン

この剣の錆にしてくれる

しおりを挟む
 みなさんこんにちは。エーミール・クロフトだよ。

 え?こないだ、二度と会うこともないと言ったばかりだって?そうだっけね。自分の言った事に、いちいち責任を持っていては大人になれないよ。
 僕は忙しいのだ。冬休みに会いに行く、彼…。ハインリヒのため、チョコレートを作っているのだからな。
 会いに行くのはいいとして、何故チョコレートなのか?ふん、聖バレンタインデーをご存知ないと見えるね。
 説明しよう!バレンタインは、ローマ帝国の迫害下で殉教した聖ウァレンティヌスに由来する。彼がまあ何やかんやして、カップルが愛を誓う日になったのだね。
 え?チョコレートを送る風習は、60年代に日本の菓子業界によって広まったものだと?知るか!この僕は、70年ほど時代を先取りして生きているのだよ。
 
 さて。生まれてこの方調理場など来た事がないから、料理長や下女が心配そうに見ているな。あまり、僕を舐めないで欲しい。ご存知の通り、この僕は蝶の標本作業において並ぶ者がいないと言われた腕前だ。もちろん、標本以外においても然り。下女に出来て、僕に出来ぬ事など無いと思って頂こう!

 …ところで、鍋で直接チョコレートを溶かすと脂肪が分離するのだな。ひとつ、勉強になった。次回からは、ぜひ湯せんで溶かそうではないか。
 お次に、砂糖小さじ一杯とココアを…。小さじってどれだ?ええい、面倒くさい。目分量でいいや。
 後は、チョコの形を整えて…。って、何の形に?ハートマーク?いやいや、それはまだアレでしょう。無難に、僕らの絆である蝶の形にするかな…。これも、なかなかに難しい。もしかすると、型枠を作って流し込むべきだったかも知れないね。
 まあいいや。仕上げに、冷凍!この時代の冷蔵庫はそこまで性能が良くないから、液体窒素で急速冷凍せしめよう。これで完璧だ!

 え?味見はしないのかだと?見損なわないでくれたまえ。僕も男だ。いちいち振り返って、生きてなどいられないのだよ!
 さて、ますますもって彼に会う日が楽しみだ。僕の気持ちだと言って渡したら、どんな顔をするかな。もしも、受け取ってもらえなかったら…?そうだな、そんな事は万に一つもないだろうが。
 僕のフェンシングの腕は、彼も知っているだろう。地獄までも追い詰めて、この剣の錆にしてくれる…!

 なんてね。そんな事は、考えられないが。いやあ、本当に冬休みが楽しみだ。読者の皆様も、またその時にお会いしよう!
 それでは、ご機嫌よう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

鳥籠の夢

hina
BL
広大な帝国の属国になった小国の第七王子は帝国の若き皇帝に輿入れすることになる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

ある日、友達とキスをした

Kokonuca.
BL
ゲームで親友とキスをした…のはいいけれど、次の日から親友からの連絡は途切れ、会えた時にはいつも僕がいた場所には違う子がいた

処理中です...