エーミール・クロフトの憂鬱

あきら

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エーミール・クロフトの日記

握手

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○月×日 晴れ

 エーミール・クロフトだよ!本日は、教科書仲間のルロイ修道士と上野公園にある西洋料理店にてランチをしばいてきた。

 今度故郷に帰る事になったので、「天使園」とやらの皆に会って回っているのだとか。そうかそうか。生き馬の目を抜くこのご時世、殊勝な心がけと言うのがあればあるものだ。
 ルロイ先生の左の人差し指は、相変わらず不思議な格好だ。戦争中、日本人の監督官に木槌で叩き潰されたからなのだそうだ。
 聞いているだけで痛い。マジかよ、日本人最悪だな!こんな奴らとは、仮に第二次世界大戦が起きても同盟など組みたくはないものだ。
 しかし、彼自身は決して日本人を憎むでもない。天使園の子どもたちのため、泥だらけになって野菜を作り鳥を育てているそうだよ。
 「日本人とかカナダ人とか、アメリカ人といったようなものがあると信じてはなりません。一人一人の人間がいる。それだけのことですから」
 と彼は言った。そうかそうか。まあ僕はドイツ人だから、何を言っているのかよく理解出来ないがな。
 それにしても、よく食べる御仁だ。ここのプレーンオムレツは確かに美味だが、若人である僕の三倍は食らっているぞ。随分なご高齢の筈だが、お元気そうで何よりなことだな。
 「よく召し上がりますね。そんなに、ここのオムレツを気に入られたのですか?」
 何の気なしに僕が尋ねると、彼は自身の右の親指を立てた。
 出たー!これは、ルロイ修道士の癖である指言葉だ。右親指を立てるのは、「わかった・よし・最高だ」を意味する。
 ああ…。関係ないが、もしあなたが五条先生の女と自負しているなら「ルロイ修道士 領域展開」で検索してみたまえ。少しの間、幸せな気分になれるかも知れないよ。
 
 彼とは、そのままお別れした。ここのお勘定を、どうするか…と言う話になった時。目を疑ったよ。無視だ。シカト決め込みやがった!これも彼の悪い癖で、都合が悪くなれば耳の遠い振りをするのだよ…。父上から多目に小遣いを頂いてきたので、まあ財布は痛まないがね。
 そして、いつもの癖で彼に握手を求めたのだが…。僕は、忘れていたのだ。天使の十戒、「ルロイ先生とうっかり握手をすべからず」。年取ってるくせに、彼の握力は万力よりも強いものだった。
 いてててて!自慢のヴァイオリンが弾けなくなったら、どうしてくれる。マジで!
 いやもう、二度と絶対会わねえぞ。興奮して紳士に似つかわしくない言葉遣いになったが、つまりはそう言うことだ!

 次回は、メロスの友人セリヌンティウス君との邂逅を予定している!乞うご期待!
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