俺の武術は異世界でも最強だと証明してやる!

ぽりまー

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6章ーMr.Freedom

44話

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競技を終えた詩音が牢屋に戻ると、ロイロが落ち着かない様子で牢屋の中を動き回っていた。そして、詩音の姿を見るとすぐに安堵した表情になる。


「帰ってきたか……って詩音、お前無傷じゃないか」
「ああ………………」
「どうしたんだ? せっかく生きて帰ってこれたんだ。もっと喜んだらいいじゃないか」
「………………」

 詩音は泣きそうになるも、必死に感情をこらえている。

「一体どうしたんだよ?」
「…………殺したんだ」
「は?」
「初めて人を殺したんだ…………」
「あたりまえだろ?」
「あたりまえじゃねえよ!!!!」

 詩音は怒りにまかせて地面を殴った。ひび割れた地面を大粒の涙が濡らす。

「あたりまえなんかじゃねえよ……………………」
「覚悟を決めろって言ったろ。ここはこういう世界だ、誰も文句は言えねえ。一回一回そんなにショック受けてちゃすぐに死んじまう。それによ、俺はこんな状況で相手に殺される時に憐れみを向けられたら死んでも死にきれねえな。本気じゃ無かったのかって、こんなやつに軽く殺されたのかって思っちまうぜ。つまりよ、本気で生き抜く、そんで勝ったら生き残れて最高だ位に思って戦わないと死んでいくやつに失礼になっちまう。ま、詩音もだんだんと余裕がなくなって来ればそういう気にもなるさ」

 ロイロは詩音の頭に手を添えて、諭すように言う。

「すぐには無理だろうがよ、気にすんなよな」

 詩音はすすり泣きながら、大きく一度だけ頭を縦に振った。



 夕方、詩音とロイロのもとに配給食がきた。メニューはパン一つとミルクだけだった。

「マジかよこんだけかぁ」
「贅沢言うな。これでも奴隷の中じゃいい方なんだから」
「それホントかよぉ」
「ああ。お偉いさんも俺たち剣闘士という商売道具が飢え死するのは嫌なんだろうよ」
「そうかぁ。あ、そういえばこの競技ってどれくらいのスパンでやるんだ?」
「人によりけりだが、傷が少ないほどよく出される。まあ、手足が折れてる奴を戦わせても面白くないだろうからな。ただ」

 ロイロは向かい右側の牢屋に居る人物を指して言う。その人物は全身に所々血が染みた包帯を巻き、座ることすらとても辛そうだった。

「あれくらい重症になると、猛獣の餌にされちまう。もちろんショーとして闘技場で見世物にされる。けがをすれば幾分か機会が減るが、怪我し過ぎるのもよくないってこった」
「なるほどね」
「だから今日無傷の詩音は明日も競技だろうなぁ」
「ハァ………………」
「てなわけだし、それ食ったらもう寝ろ」
「そうするよ……」

 そして静かな夜が過ぎていった。



 昼前、看守が詩音の牢屋に来た。その顔は何かを楽しみにしている顔だった。

「右京! よかったな! 今日も競技だぞ!!! しかも今回はここの奴隷でもなかなかのやり手だ。昨日のお前は最高に強かったからなぁ。俺、今日はお前に賭けたんだ。絶対勝てよな!!」
「言われなくても勝ちますよ」

 詩音は看守に連れられ、闘技場へ向かった。



「さあ今日一番の見どころ! 百戦錬磨の槍使いフーリンにチャレンジするのは昨日圧勝した右京! 果たして今回もフーリンが連勝記録を重ねるのか、それとも右京が下剋上を果たすのか!! まもなく協議開始だ!!」

 両者会場へ上がる。右京は無手、対するフーリンは槍を装備している。

「両者睨み合った! そして開始の合図を出すぞ!」

 試合開始の合図が出された。

 直後フーリンは猛烈に詩音に突撃してくる。そして間合いに入った。無手である詩音の2から3倍のリーチがある。このリーチを使い、高速で槍を突き出した。

 詩音は槍が来る瞬間にジャンプ。そして突き出された槍に着地。そのままフーリンの側頭部に回し蹴りした。

 思わずフーリンは槍から手を離してしまう。すかさず詩音は相手の懐に潜りこむ。

「島原流、風車―裏」

 詩音はフーリンの手を掴み、柔術の要領で投げる。そして頭から落ちようとするフーリンの顔面を蹴り上げた。フーリンはまたも宙に舞う。しかし、詩音はフーリンの手を離していない。このまま掴んだ手を引き、もう片方の手でフーリンの顔面を抑え後頭部から地面に叩きつけた。

 大きな音がした。少しあとでフーリンの頭を中心に血の水たまりが広がっていく。即死だ。

「こんなんで百戦錬磨か……やっぱりなんの心得もない一般人ばっかり戦わされているんだろう………………」

 そんな詩音の心情を無視して、会場は大歓声に包まれていた。一部では負けた競技券を投げ捨てている。

 詩音は客席を見渡した。

「どこを見ても金持ちそうなやつばっかりだ。こいつらはこんな殺し合い見ても何とも思わないのか……」

 詩音は会場を後にした。詩音の心は会場にいた貴族や商人たちへの怒りでいっぱいだった。



 ロイロが牢屋で待っていた。今日は何の心配もしていない様子だった。

「おう、また無傷だな。それにしてもフーリン相手にやるなぁ」
「あんなの全然だ。なんで勝ち続けてたのか疑問だな」
「そうか。ならもう心配する必要ないな」

 牢屋の外の廊下から話し声が聞こえてきた。詩音は廊下をのぞいてみると、看守二人、貴族一人、そして中央に着飾った黒い大男が楽しそうに話している。いや、正確には大男が楽しそうに話し、そのほか、貴族までもが愛想笑いをしていた。

 大男は詩音の牢屋の前で立ち止まった。そして詩音と目が合う。

「おお。君が右京君だね? 話は聞いてるよ。強いんだってねぇ。アーレス祭も優勝したとか」

 後ろで聞いていたロイロが驚きのあまり叫んだ。

「アーレス祭優勝だと!? 嘘だろお前!!!」
「本当だとも。私はバルク。右京君、君の名前、覚えておこう。いつかやり合う時までね」

 そういうとバルクは牢屋を後にした。

「あの人なんだったんだ?」
「知らないのか。あの人は剣闘士でありながら貴族以上の自由を与えられてる、奴隷からは自由の象徴として尊敬され、俺たち剣闘士からは死神扱いされている男だ。俺たち、いや、あの人を知る人はみんなこう呼んでいる」

「Mr.Freedomミスターフリーダムと」
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