俺の武術は異世界でも最強だと証明してやる!

ぽりまー

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6章ーMr.Freedom

58話

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 詩音の拳がバルクの腹筋に接触した。そこまでは良かった。だが直後不可解な現象が起きた。

 バルクの筋肉は柔らかかったのだ。

 普通筋肉は緩めている時柔らかい。トップアスリートになるほどそう言った筋肉の柔軟性が求められ、負荷を与えるだけでなく体のメンテナンスも怠らない。

 バルクも例外ではなく、常人では不可能な負荷下で行うトレーニングの後、入念な体のケアを行うことで柔軟性の高い筋肉を作り上げてきた。

 問題はその程度である。バルクはその巨体に似つかわしくないスピードで移動できる。これは足の筋肉が強いだけではない。柔軟性という理由からくるバネの力が大きな理由である。だが、バルクの柔軟性はこのエピソードで語れるほど単純なものではなかった。

 その説明をするため今詩音が撞木を放った時へ戻る。詩音は確かにバルクの緩んだ腹筋へ叩き込んだ。これは一瞬の隙を突いた最高の攻撃だと言えよう。だが実際はそうならなかった。

 バルクの柔軟性に富んだ筋肉は、撞木の威力すら受け流してしまうほどのものだったからだ。

 詩音の放った撞木の衝撃は、バルクの柔らかい筋肉で逃がされ、臓器にまでは浸透していかなかった。

 そのとき詩音が見た光景は、自分の拳がバルクに食い込んだ光景では無く、拳を中心に波打つ腹筋の姿だった。



 あまりの出来事に詩音は一瞬硬直する。そして気が付くと、突き出した腕をバルクががっしりと掴んでいる。一瞬では抜け出せそうにない。

「しまったッ!!」

 詩音はすぐに自分の置かれた状況に気付く。だがもう逃げられない。気付いた時すでにバルクの拳は発射準備ができていたからだ。

 そしてバルクは詩音のがら空きになった顔面に拳を叩きこむ。それも何度も。

「島原流、金剛の構え」

 詩音はすかさず金剛の構えで攻撃に耐えようとする。全身をフルに使った完全防御技であり、バルクの筋肉同様、そう簡単に破れるものではない。

 だが、やはり連続攻撃による蓄積は例外にならざるを得ないだろう。一発なら耐えられても、同じ威力が何度も何度も繰り返されればいつか崩壊する時が来る。

 詩音はバルクへの攻撃の隙を探るのが先か、金剛の構えが破られるのが先かのチキンレースをしている。構えを崩さぬよう集中し、尚且つバルクを観察し隙を伺う。

(やべぇ……これはもうだめかも……)

 詩音は諦めそうになっていた。

 だがそのときは突然訪れる。

 バルクだってパンチを何度も打ち込んでいれば疲れるものだ。そのため少し思考が鈍り、流石にここまで殴れば大丈夫だろうという安直且つこの疲労から解放される考えに至ってしまった。そして最後の一発を出す為にパンチを止め、力を貯める。

「終わりだ小僧!」

 バルクは詩音に叫んだ。今度は完全に勝利を確信した叫びだった。

「この時を待ってたぜ!!!」

 だが詩音はこの瞬間を見逃さなかった。チキンレースに勝ったのだ。

 まず右足でバルクの喉を蹴り上げる。今まで攻撃に全力を投じていたため、バルクに避ける余裕はなかった。

 見事けりは直撃し、バルクは怯んで詩音の手を離す。

「島原流、月見」

 怯んだバルクももとへ、ほぼ同時に三発の急所攻撃が放たれる。いかに全身鍛えたバルクといえど、人体共通の急所を、同時に三か所攻撃されればひとたまりもないだろう。

 だがこの技ですら、詩音にとってはきっかけ作りに過ぎなかった。

 大幅に隙を作ったバルクに対し、詩音は落ち着いて次の大技の準備に入る。

「島原流、風車」

 まず、風車でバルクを投げる。バルクは成すすべなく、抵抗なしに投げられ、地面に倒れる。

 バルクの復帰が早い。急所を突かれたダメージは完全に取れてはいないものの、なんとか立ち上がろうとしていた。

 だが詩音はそれを許さない。倒れるバルクに寝技を掛けにかかった。

「島原流、握り鋏」

 詩音はバルクに飛び乗り、首元を両足で挟んで締め上げた。詩音の足がバルクの頸動脈と気管を同時に絞め、呼吸と脳への酸素不足により意識を落とし、殺しにかかる。

 島原流、握り鋏。和鋏に似ていることから名付けられた技で、単純に両足で相手の首を挟む寝技である。
 
 実にシンプルだが、これは裏に数えられる殺人術なのである。理由は絞める強さにある。

 本技は、頸動脈だけでなく、その内側にある気管支も一緒に締め上げることが最大の特徴だ。脳への血液の不足による酸素不足だけでなく、おおもとの呼吸すらも止めてしまう殺傷能力のきわめて高い技なのだ。きつく締まるので、引きはがすことが不可能。時には強すぎて首を切断してしまうこともあったと伝えられている。

 バルクの首はどんどん絞められていく。この時点で意識はない。だがこの戦いはどちらかが死ななければ終わらない。詩音は更に絞める力を強めていく。

 何秒かして、詩音は技を解いた。観客も固唾を飲んで結果を見守る。

 司会が闘技場へ降りてくる。バルクの元へ駈け寄り、安否を確認した。結果が出るまで、観客たちの体感時間は永遠にも感じられた。

 判決が終わったようで、司会はバルクから離れる。そして、詩音の左手を掴み持ち上げた。

「勝者、右京!!!」

 一瞬の沈黙の後、歓声ではなく、拍手が会場を包んだ。勝っていようが負けていようが関係なく、皆等しく二人の大健闘を称えていた。中には涙するものもいた。

 詩音はバルクの元へ寄った。

「もういいんじゃないか?」

 詩音はニヤニヤして言った。

 するとバルクは立ち上がった。

「いやぁ。結構危なかったねぇ。まさか最後は絞殺されるとは」
「な、なんとバルクが立ちあがった!? これは試合再開か?」
「いや、私は先ほどまで完全に死んでいた、右京の技でね。だからこの競技、私の負けで良い。……生きている理由かね。簡単なことだ。私は心臓にも特別なトレーニングをしている、ただそれだけだ」
「よくわからんが、タフだなぁ、アンタ」

 バルクは詩音の左腕を持ちあげ、称える。

「右京。いい試合だった。ここまで胸躍ったのは初めてだ!」
「俺もだ。魔王軍幹部とやった時でもこの感じは味わえなかったな」

 詩音もバルクを称える。が、力が抜けたのか、ふらつき立つのも危うくなってしまった。

「おっと。大丈夫かね。このまま牢までおくろう。さ、肩を貸すから寄りかかりなさい」
「あ、ありがと」

 詩音はバルクに支えてもらいながら闘技場を後にした。その2人の後ろ姿はさながら戦友の様だった。



 
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感想 1

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みんなの感想(1件)

スパークノークス

おもしろい!
お気に入りに登録しました~

2021.09.30 ぽりまー

ありがとうございます!

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