髪を切った俺が『読者モデル』の表紙を飾った結果がコチラです。

6章 ドラマ撮影編

浜崎涼菜の想い

～浜崎涼菜視点～

　夏目さんたちと別れたウチは帰宅後、着替えることなくベッドに倒れ込む。

「疲れたー」

　初めての演技ということで身体は疲れきっており、家に帰りついた途端“ブワーッ”と疲れが出た。

「これくらいで疲れるとは思わなかったけど…」

　そんなことを呟きつつ天井を見つめる。

「それにしても夏目さん、カッコ良かったなぁ」

　顔良し性格良しという噂通り、顔は文句なしのイケメンで、性格も文句なしだ。

「撮影前はウチの緊張をほぐそうと頑張ってくれたし、撮影中はウチのことを何度もサポートしてくれた。ウチのことが可愛いからサポートしたってわけでもなさそうだし……」

　自画自賛になるがウチは愛甲さんや立花さん並に可愛いため、下心を持った人間がたくさん寄ってくる。
　そんな経験を数多くしてきたウチは、近寄ってきた人間がウチのことをどう思っているか何となく理解できる。
　そのため夏目さんが下心なく純粋にウチの身を案じて話しかけたことは理解できた。

「それに撮影中は何度もウチを助け、アドバイスまでしてくれた」

　初めての撮影ということで右も左も分からないウチを助けてくれた夏目さんはとてもカッコ良かった。

「特にあの言葉は泣きそうだったウチを救ってくれた」

　そう呟いたウチは、その時のことを思い出す。



『す、すみません、夏目さん。ウチのせいで撮り直しばっかりで。本当にごめんなさい』

　ウチのせいで5回目の撮り直しとなった時、ウチは自分の演技に自信をなくしていた。
　何故なら練習した成果を全然発揮できず、監督からのアドバイスを全然演技に昇華できなかったから。
　それに加え、撮り直しとなったことで夏目さんに迷惑をかけてしまったことが心苦しく、涙を堪えながら夏目さんに謝った。

　その時…

『顔あげて、浜崎さん。俺に迷惑なんて一切かかってないから。それに浜崎さんがかなりの時間練習して今回の撮影に臨んでいることは理解してるよ。だって一朝一夕では身につかないほどの演技を披露してるんだから』
『で、ですが監督は何度も撮り直しを要求してます。きっとウチの演技が酷いからで……』
『それは違うぞ』

　ウチの言葉を遮るように夏目さんが言葉を被せる。

『監督は浜崎さんの演技に驚いたんだ。一発で及第点の演技を披露した浜崎さんに。だから監督は及第点以上の演技を披露してもらうため、演技終了後にアドバイスをしてるんだよ。浜崎さんなら絶対、アドバイスを昇華していい演技を披露できると思って』
『そ、そうなんですか？』
『あぁ。だって俺も共演しながら驚いたくらいだ。本当にこれが初めての演技か？ってね。そして俺も監督と同じように及第点以上の演技が見たくなった』

　――だから浜崎さんは謝る必要なんかない。堂々と演技をしてくれ。俺は何十回、何百回でも浜崎さんの演技に付き合うから。

　そう言って夏目さんが笑ってくれた。



「あの言葉は反則だよ」

　その言葉にウチは救われた。
　初めての演技で不安しかなかったウチをその言葉が救ってくれた。
　そのおかげで5回目の撮り直しは素晴らしい演技を披露することができ、監督からは絶賛の言葉をもらった。

「共演者が夏目さんでなければ森野監督から褒められることなんてなかった。あの時、夏目さんが優しく話してくれなければ自分の演技力に自信を無くし、女優としての道を諦めたかもしれない」

　あのまま自信をなくした状態で演技を披露していれば、おそらく監督はウチに失望し、ウチは自分の演技に自信をなくしたままだった。
　なので、夏目さんの言葉はウチの女優人生まで救ってくれた。

「このご恩は絶対に返さなきゃ。お嫁さんという形でね」

　そう呟いてベッドから起き上がる。

「まずは女優として愛甲さんや立花さん並みに有名になる。でないと夏目さんと付き合うことなんてできない」

　デビューしたばかりのウチが夏目さんと釣り合うわけがないので、告白する前に女優として有名にならないといけない。
　有名になれば必然的に夏目さんとの共演が増え、親密な関係を築くこともできる。

「でもウチが有名になるのはかなり先の話。それまで夏目さんが誰とも付き合わないという可能性は低い」

　見たところ愛甲さんと立花さんは夏目さんに好意を寄せており、他にもライバルはいるはずだ。
　そのため、ライバルたちが夏目さんとの関係を縮めようとするのを妨害しつつ女優としての腕を鍛えなければならない。

「よしっ！まずは愛甲さんや立花さんより有名な女優になる！そして夏目さんに告白する！だからウチが有名な女優になるまで誰とも付き合わないでくださいね！夏目さん！」

　そう決意したウチは夏目さんにメッセージを送った。