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幼少期編

17 魔法の話

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そうこうして遂に一週間が経った。
そろそろ、そろそろ堪忍袋の異が切れそうである。
「いつまで、ここに閉じ込めておく気なんだ!」
ーーーまさか一生?
などと嫌な考えが浮かんで眉間にシワを寄せた。
もう、いっそのことドアを蹴り破ってお父様の書斎に押し掛けてやろうか…。
「よっし、そうしよう。出来る」
この時の私は冷静じゃ無かったと思う。
仕方ないと言えば、仕方がないが。
『ーーー。蹴り破るのか?淑女らしからぬなぁ』
ルスピニーはふふふ、はははと面白そうに笑っている。
そういえば、妖精王たちは毎日代わる代わる私の下へ訪れている。
今日はルスピニーとエアゥの番らしい。
『ドア、可哀想。蹴らないであげて?』
エアゥの声は水のように透き通っていて、とても優しい。
私の中で苛立っていたものが浄化されるがごとく癒されていく。
「エアゥさんが言うなら、しょうがないですね。ドアは蹴りませんよ」
『わぁー、よかったです』
ルスピニーはつまらなさそうに『皆、エアゥばっかり甘やかしおって』と言っている。
可愛い、今度なにかしら甘やかしてあげよう。
「しっかし、どうしたものですかね…。一体お母様はどうされているのでしょう?」
そう、あのお母様が娘である私を監禁されて、黙っているわけがないのだ。
なにしろ、この家で一番常識人だろうから。
その疑問は案外簡単に解かることとなった。
『ああ、お主の母君ならばお主が監禁されてた日から叔母君と旅行に出掛けていたぞ。確かもうそろそろ帰ってくるのではないか?』
ーーーなに!?
「そんなことがわかるのですか!!!」
というか分かるならなぜ教えなかった!という目線を向けると、聞かれなかったからなという目線で返される。
「意地悪」と私が拗ねればニヤニヤと楽しそうに笑う。
『まあまあ、二人ともそこまでにしようよ。ねえ、サラちゃん。今こそ加護の力を使うときじゃない?』
「?」
エアゥの思わぬ言葉に首をかしげる。
『だからね、魔法だよ。透過の魔法』
「透過の魔法…?」
初めて聞く魔法の名前にワクワクが隠せない私は前のめりになって聞き返す。
「存じませんが、前の私の世界にはなかった魔法です。どういうものなんですか?」
『そうなんだね。透過は文字通り透ける魔法でね、壁や床をすり抜けられる。イメージ的に幽霊になるって感じかなぁ。水をつかさどっている、僕が得意な魔法だよ』
へえ、水魔法…。
一体どういう原理なのかわからないが、便利なものである。
唯一、思い付いたのは体の大きさを原子レベルにするというものだったが、幼児のように滅茶苦茶なことを言っているなぁと考えることをやめた。
とりあえず、その壁をすり抜けられるらしい魔法を使ってみることにした。
「………。どうやって使うんですか?」
はたと一番大切なことに気がついて動きを止め、エアゥの方を見る。
『うん?サラちゃんは普通に魔法を使っているじゃないか。おんなじようにやればいいだろう?』
おんなじようにって………?
私は頭上に?を浮かべた。
魔法を使うときはイメージがいる。
それに原理を組み合わせていって、こうなるから、こうで………と複雑なのだ。
「おなじはずがないじゃないですか?魔法は多大なる研究を必要とする奇跡と努力の塊ですよ」
なに言ってんだお前という目線を向けると、エアゥは困った顔をしてルスピニーは眉をひそめた。
『ーーーもしかして、君の世界の魔法と、僕たちの世界の魔法は違うものなのかも?』
『なるほどな、それなら合点がいくぞ』
「どういう風に違うのですか?」
『そうだね、君に合わせて言えば、この世界での魔法は念じるだけで成立するんだ。こうなれ~ってイメージだけでね。あとは呪文もいるけど、使いなれたら必要なくなるし、魔力量でごり押しもできるよ。試しに水よ出ろ~って念じて見れば?』
あり得ないが、ものは試しだ。
言われた通りにただ水よ出ろと念じてみる。
すると上からバケツをひっくり返したように水が現れて落ちてくる。
エアゥは戸惑うことなくその水を操作して窓から外へと放り出した。
「っあ、出来た………。ありがとうございます」
なんだか研究者として複雑な気持ちになるが、目の前の現実を受け止めることも重要なことだ。
いままでの苦労はなんだったのかと思うが、この世界では勝手が違うだけだと割りきる。
エアゥは「いいえ、サラちゃんを守るのは当然だよ」と紳士スマイル。
可愛い系のイケメンなエアゥのスマイルは誰が見ても卒倒しそうだ。
私には身近にお兄様とお父様という顔面偏差値高のイケメンが二人もいるので、耐性があるが。
しかし、いい方に捉えてみれば、これで理屈がわからないような魔法でも、結果のイメージさえ出来れば使えるという証明が出来たわけだ。
これからはいろいろな魔法が使いたい放題………。
前世でやり残してしまった、研究途中の魔法たちも完成することだろう。
更に新しい諦めかけてた魔法たちにも手が出せるのだ。
嬉しいことこの上ない。
「ーーーあっ、そういえば魔法を使うには神様に祈る必要があると学んだのですが………」
あれは、やっぱり嘘なのだろうか?
『そういえば、人間らは神に祈ることで魔法を使うらしいな。そうじゃなぁ……、確かに人間らは神を崇めると一時的な加護があるらしいな。じゃが、ほんのちょっとだろうが。下級妖精と契約を結んだ方がよっぽどいいぞ?』
「え、その言い方ですと、本当に神様がいらっしゃるように聞こえるのですが……」
『なんじゃ、人間の癖に神を信じぬか』
私が「前に住んでいた場所では、それが普通でしたから」と言うと、『ふむ』と帰ってきた。
『いるよ、神。それこそ、人間の方が詳しいはずだ。僕たちは生まれるときに一度だけしか会ったことがないからね』
「………もしかして、生物が誕生してからいままでと年齢がイコールだったりしますか?」
『ああ』
『うん』
まじかぁ………。
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