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学園編

60 国王陛下

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私はすでにバルコニーに揃っていた家族たちと同じように、椅子に座り、メイドの出す紅茶を待った。
公爵家自慢の庭が一望できるこの場所は、家族会議の際によく使われるお母様お気に入りの場所だ。

お留守番だったお母様はわくわくと聞きたくて堪らないという表情をしている。

「それで、どうだったのかしら?」
「どうもなにも、すべて喋ったよ。随分と頭の悪い連中だったからね」
お父様はのっぺりとそう言った。
「まぁ、素敵ね。これで私の愛娘を襲った野郎どもをやっと始末できるわ。ついでに、今までの分を報復してやるの、ふふっ」

お母様が危ない人の発言をしている。
そして、それを止めるものは誰一人いなかった。
お父様たちは元よりお母様大好きだし、使用人たちは皆、お母様を尊敬しているから。
そして、それ以上に皆、教会に困らされていたという事実も。

「お母様、少し物騒ですわ。後半は賛成ですが、それは王家に任せると決めているでしょう?」
仕方がないので私が咎めた。
「ふふふ、そうね。サラはいいこだわ」
美人なお母様の怒り顔はそりゃあもう恐ろしい。
私みたいにつり目じゃないだけましだが。

「まあ、とりあえずはそれでいいかな」
お兄様も表面上は納得してくれたらしい。
私はお兄様に笑いかけた。
(でも、終わったあとには仕返しをするけどね)
可愛い妹に微笑まれた兄はだらしなく頬を緩ませながら、そう思った。

翌日、僕は学園を休んで王城に赴いていた。
もちろん、捕まえた罪人たちの処遇についてである。

重々しい扉が開けば、長いカーペットの先の上方向に冠を被る威厳のあるおじさん、エナード・エンペラー・ライオネリアが豪華な椅子に負けない豪華な衣装に包まれていた。
言わずと知れたこの国の王である。

「よくぞまいった、ニコラス公爵よ」
「ありがたきお言葉に思います、陛下」

形式張った堅苦しい挨拶が終われば陛下は人払いをするように臣下に命じた。
そして先ほどの雰囲気は何処へやら、一気に柔らかいものになった。

「いや~ほんとに久しぶりだなぁ~、エリック」
「なんだ、たった三ヶ月ほどではないか。全然久しぶりでもない。私はお前に会うんだったら家にいたい」

途端軽口を叩く二人。
今は上と下の関係だが、仲の良い幼なじみだったらしいから不思議だ。
陛下は威圧的な見た目に反して柔軟な性格をしていらっしゃるらしい、父上の嫌みに少したちとも動揺しない。

「え~、連れないな~。昔馴染みにもう少し再開を喜んだりとかしてくれてもいいんだぞ?」
「私ははやく帰って愛しい妻と可愛い娘に会いたい」
それには僕も賛同する、帰りたい。

「相変わらずじゃな。ていうか、儂、まだお前の娘に会ってない。いい加減社交に出さないか!」
「……娘は礼儀作法がなっていないもので、到底出せるものではーーー」
「そう言って!儂知ってるもんね~。お前の娘は領地で『ニコラスの才女』って呼ばれるくらい領民に親しまれてるって!しかも随分博識なんだとか。学園での成績もいいんだろう?」

父上はニヤニヤする陛下に聞こえるように舌打ちした。
父上がサラを社交に出さないのは、結婚してほしくないからである。
もちろん、母上にそっくりでこの世のものとは思えない美しさと、可愛らしさを兼ね備えたサラに求婚の嵐がくるのは当然のこと。
本人は余り自覚がないようだが、天使に違いない容姿だ。

第二王子の誕生日パーティーの日は大変だった。
サラと同い年くらいの子供たちだけならまだしも、大の大人がサラに見惚れていたのだから。
しかも、一人じゃなく複数。
父上と僕は威圧をかけながら、サラをそんな目から守っていた。

それと実はもう一つ、サラの才能についてだ。
サラは何でも器用にこなす器用貧乏である。
それは均等に普通でなくて、均等にヤバいであるが故に、あっという間にニコラスの才女と二つ名がついてしまったほどだ。

令嬢としての礼儀作法から、勉強、芸術、剣術、体術、魔法……、なにをおいてもサラは凄い。
特に魔法は、どうなっているのかわからないが、無詠唱でとんでもない効果の魔法を平然と使い、妖精王全員と契約を結ぶ、妖精に愛されし者であるのは間違いなかった。

商会では新たなものを作り出しては、うまく領地が回っていくように仕向けることが出来る力まであるし、まさに無双である。
はやいうちから公爵家跡継ぎ権はサラに移されていた。
僕もそれには大いに同意しているので、問題ないのだ。

実はサラは気がついていないのだが、今や公爵家の仕事の大半はサラと、サラが作った各局がしているといっても過言ではない。
父上は効率の悪いことが嫌いであり、それは当人にも当てはまる。

僕は密かに楽をして、母上といちゃつく父上に呆れに近いなにかを感じながら、陛下との小競り合いを聞いているのだった。
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