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登録者突破記念 おまけ
私は魔族、友は公爵令嬢3
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『クロゥ、サラに会いに行かないか?』
忙しい日々のなかで、急にルスピニーからそう言われた。
「サラ……」
私は静かに友の名を呟く。
一日たりとも忘れたことはなかった、たった一人の友だ。
最近は眷属どもも落ち着いて、仕事量も捌けるようになった。
そろそろ自由時間が出来そうな頃合いだなぁと感じてはいたが……。
「ーーー会いに行っても良いのだろうか?」
友は人間だ。
昔はなんでもないように受け入れてくれたが、今はどうだろう?
そもそも、私の存在など忘れてしまっているのではないか?
ぶるりと身震いがする。
せっかく、忙しさにかまけて忘れようとしていたのに、と私はルスピニーを睨み付けた。
『そうやって、逃げててもなにもならんだろう?どうじゃ、一丁当たって砕けてみようぞ』
挑戦するような黒曜石の瞳が向けられる。
「やだ」
私が突っぱねると、ルスピニーは予想外だと目を丸くした。
『なんだ、つまらんやつめ。お主いつからそんなに弱虫になった』
「……」
友の、サラの怯え、怒り、侮蔑の目が思い浮かぶ。
ーーー私は、どうしたらいい……。
『……はぁ、仕方のないやつじゃの。どれ、ちとサラに確認しに行ってくるか』
ルスピニーはさらりとなんでもないように言ってのけた。
「はぁ!?」
『なんじゃ、知らんかったか?妾はサラと仲良しじゃ』
自慢気に言うルスピニー。
私はこの時どんな顔していただろうか?
「な……、なんで!?」
『なんでって、失礼じゃな。お主が出会う以前より妾はサラと知り合っていた。寧ろ、お主の方が最近の付き合いじゃぞ』
「……!?」
ルスピニーは楽しいなぁと笑う。
こいつ、わざと黙ってたな……?
『まぁ、そう怒るでない。お陰でどう思っているか聞けるじゃろ?あ、そういえば魔王石はサラが持っていたな。それで呼ぶからいつでも行けるようにしとけよ』
それだけ言って、闇の妖精王は消え、私は顔を真っ赤にしてただ自分の部屋でつっ立っていた。
そして、その日の晩。
私は待っていた。
いつもならこの時間帯はまだ仕事をしているが、決して頑張ったわけではない。
ただ、いつもよりやる気があっただけだ。
夕方頃から待ち構えていたが、なかなか呼び出しが来ない。
やはり、魔族の私では駄目なのだろうか……。
椅子でダラダラとしていた私は、本を閉じてがくりと肩を落とす。
『……言うまでもなく落ち込んでるな』
「?!」
急に現れた気配に驚いて椅子をガタリと揺らしてしまう。
「……気配を消して現れるのはやめろ、闇の王よ」
見た目と年齢が全然合わない妖艶な妖精王がそこにいた。
『ふっ。そんなお主に朗報だぞ、聞きたいか?』
「っ、聞きたいに決まっている」
私はデスクからテーブルに移動した。
赤いソファーに腰かけて、執事に紅茶と菓子を頼む。
『素直なやつだの』
ルスピニーはニヤニヤしながらその様子を見ていた。
イラッとはするが、これ以上なにか言うと話が長引く可能性があるので、なにも言わない。
私は苛立ちを紅茶で流し込んだ。
ルスピニーは紅茶に目もくれず、クッキーに手をつけている。
妖精は甘党が多いから、懐柔するために城には常備させているものだ。
『ふむ、サラのところの方が美味しいな。甘味が強すぎるのじゃ、もっと精進せよ』
「……はいはい」
こいつ、公爵家でも菓子を食べたのか。
飽きもあったが、同時に意外にも思った。
魔族は料理をあまり食べないが、菓子だけは妖精用でもあったので、人間よりも優れていると思っていたからである。
だが、今はそれよりも重大なことがある。
「それで、サラはなんと?」
目の前の妖精王はなんだかんだ言いつつも皿の上のクッキーを食べ尽くした。
『ん?ああ、嬉しいと言っていたぞ。連絡を取る方法も分からなくて困ってたみたいだったしな』
口はまだモゴモゴしている。
「!」
期待していたことが現実になった瞬間、私は口元がにやけるのを止められなかった。
久し振りに笑う。
闇を統べる妖精王はゴクリとクッキーを飲み込み、紅茶に手を伸ばしながら目を細くして、遠くを見ていた。
忙しい日々のなかで、急にルスピニーからそう言われた。
「サラ……」
私は静かに友の名を呟く。
一日たりとも忘れたことはなかった、たった一人の友だ。
最近は眷属どもも落ち着いて、仕事量も捌けるようになった。
そろそろ自由時間が出来そうな頃合いだなぁと感じてはいたが……。
「ーーー会いに行っても良いのだろうか?」
友は人間だ。
昔はなんでもないように受け入れてくれたが、今はどうだろう?
そもそも、私の存在など忘れてしまっているのではないか?
ぶるりと身震いがする。
せっかく、忙しさにかまけて忘れようとしていたのに、と私はルスピニーを睨み付けた。
『そうやって、逃げててもなにもならんだろう?どうじゃ、一丁当たって砕けてみようぞ』
挑戦するような黒曜石の瞳が向けられる。
「やだ」
私が突っぱねると、ルスピニーは予想外だと目を丸くした。
『なんだ、つまらんやつめ。お主いつからそんなに弱虫になった』
「……」
友の、サラの怯え、怒り、侮蔑の目が思い浮かぶ。
ーーー私は、どうしたらいい……。
『……はぁ、仕方のないやつじゃの。どれ、ちとサラに確認しに行ってくるか』
ルスピニーはさらりとなんでもないように言ってのけた。
「はぁ!?」
『なんじゃ、知らんかったか?妾はサラと仲良しじゃ』
自慢気に言うルスピニー。
私はこの時どんな顔していただろうか?
「な……、なんで!?」
『なんでって、失礼じゃな。お主が出会う以前より妾はサラと知り合っていた。寧ろ、お主の方が最近の付き合いじゃぞ』
「……!?」
ルスピニーは楽しいなぁと笑う。
こいつ、わざと黙ってたな……?
『まぁ、そう怒るでない。お陰でどう思っているか聞けるじゃろ?あ、そういえば魔王石はサラが持っていたな。それで呼ぶからいつでも行けるようにしとけよ』
それだけ言って、闇の妖精王は消え、私は顔を真っ赤にしてただ自分の部屋でつっ立っていた。
そして、その日の晩。
私は待っていた。
いつもならこの時間帯はまだ仕事をしているが、決して頑張ったわけではない。
ただ、いつもよりやる気があっただけだ。
夕方頃から待ち構えていたが、なかなか呼び出しが来ない。
やはり、魔族の私では駄目なのだろうか……。
椅子でダラダラとしていた私は、本を閉じてがくりと肩を落とす。
『……言うまでもなく落ち込んでるな』
「?!」
急に現れた気配に驚いて椅子をガタリと揺らしてしまう。
「……気配を消して現れるのはやめろ、闇の王よ」
見た目と年齢が全然合わない妖艶な妖精王がそこにいた。
『ふっ。そんなお主に朗報だぞ、聞きたいか?』
「っ、聞きたいに決まっている」
私はデスクからテーブルに移動した。
赤いソファーに腰かけて、執事に紅茶と菓子を頼む。
『素直なやつだの』
ルスピニーはニヤニヤしながらその様子を見ていた。
イラッとはするが、これ以上なにか言うと話が長引く可能性があるので、なにも言わない。
私は苛立ちを紅茶で流し込んだ。
ルスピニーは紅茶に目もくれず、クッキーに手をつけている。
妖精は甘党が多いから、懐柔するために城には常備させているものだ。
『ふむ、サラのところの方が美味しいな。甘味が強すぎるのじゃ、もっと精進せよ』
「……はいはい」
こいつ、公爵家でも菓子を食べたのか。
飽きもあったが、同時に意外にも思った。
魔族は料理をあまり食べないが、菓子だけは妖精用でもあったので、人間よりも優れていると思っていたからである。
だが、今はそれよりも重大なことがある。
「それで、サラはなんと?」
目の前の妖精王はなんだかんだ言いつつも皿の上のクッキーを食べ尽くした。
『ん?ああ、嬉しいと言っていたぞ。連絡を取る方法も分からなくて困ってたみたいだったしな』
口はまだモゴモゴしている。
「!」
期待していたことが現実になった瞬間、私は口元がにやけるのを止められなかった。
久し振りに笑う。
闇を統べる妖精王はゴクリとクッキーを飲み込み、紅茶に手を伸ばしながら目を細くして、遠くを見ていた。
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