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学園編
89 厄介事を引き起こすのは主人公の役目
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「ニコラス公爵令息タファ・デューク・ニコラス様、並びに、令嬢サラ・デューク・ニコラス様。ご到着にございます」
私は扉番がそう言うのに珍しいなと感じてしまった。
パーティーでいちいち貴族の名前を叫ぶのは騎士たちも疲れてしまう。
お父様がいるのならまだしも、令息や令嬢の私たちは名前まで言われる機会は無いに等しい。
よく見ていれば、令嬢は全て入場のさいに名前を呼び上げているようだ。
なるほど、婚約パーティーというのは本当らしい。
お兄様の冷気を隣に感じつつ、私も社交界での仮面を被る。
とりあえず、笑顔に見えるように微笑んでおけばよい。
「こんばんわ、サラちゃん。今日は一段と素敵だね」
「……お久ぶりですわ、エドモンド様」
早速、面倒なのがやってきた。
私もお兄様もその明るい黄土色の髪を見て、額に縦皺を寄せた。
「わーお、僕ってそういう扱い?しかも兄妹そろってって、酷いなぁ」
「気のせいかと」
おどけてみせてもピクリとも反応しないお兄様に、エドモンドが両肩を上げた。
「君は一段と不機嫌そうだね、タファ。さすがのニコラス公爵家でも陛下からの勅命は避けられなかったか?」
「……いや、サラがどうしても行きたいというから連れてきた。そうでなければ……」
「え、そうなの?どういう風の吹き回し?」
普通に勅命だから仕方なく来たで説明はついただろうに……。
どれだけ不本意だったのか、お兄様らしくない。
「そろそろ、婚約者を捕まえなくてはと思いまして」
「まじ?じゃあ、僕第一候補に……、って、冗談ですよお兄様」
ふざけるエドモンドの足元が凍り始めている。
私は流れるように解凍作業を行った。
このお兄様と一緒にいた年月を考えれば、慣れた作業である。
「コロス」
「ちょっと、お兄様、冗談でもやめてくださいませ。侯爵家長男の殺害なんて、もみ消すのが大変ですわ」
「え?そこなの?てか、僕殺されてもかけらも悲しんでもらえない感じ?」
エドモンドの命がけのボケには毎度呆れる。
お兄様もさすがに冗談だと理解しているようだが、エドモンドでなければ本当に命が危うい行為だ。
本当に、誰かが真似でもしたらどうするつもりなのだろうか?
「ところで、王が二人をお呼びになっているよ。……どうする?」
「どうするって……行くしか選択肢はないでしょう。」
「帰りたい」といいだす兄をぎろりと睨んで、引き連れる。
エドモンドがにこやかに「頑張ってね」と言っているが、なにを頑張ればいいのか見当もつかない。
もしかしてこの状態のお兄様を諫めることをか?
だったら余計なお世話である。
王は最後に入場する流れなので、どこに向かえばよいのかわからず、うろうろしていると、お兄様が耳元でぼそりと呟いた。
「サラ、陛下はまだいらっしゃらないようだ。個室を用意させてあるから、そこで待っていよう」
「個室……?」
そんなものがあったのかと、驚くとお兄様はくすりと笑った。
「……、わかりましたわ。陛下が入場なさるまでの時間までですわよ?」
「構わない、それだけあれば十分だ」
何が十分なのだろう?
私は、兄の不可解な言動に疑問を持ちながらも、行ってみればわかるのかもと期待しながら会場を後にするのであった。
私は扉番がそう言うのに珍しいなと感じてしまった。
パーティーでいちいち貴族の名前を叫ぶのは騎士たちも疲れてしまう。
お父様がいるのならまだしも、令息や令嬢の私たちは名前まで言われる機会は無いに等しい。
よく見ていれば、令嬢は全て入場のさいに名前を呼び上げているようだ。
なるほど、婚約パーティーというのは本当らしい。
お兄様の冷気を隣に感じつつ、私も社交界での仮面を被る。
とりあえず、笑顔に見えるように微笑んでおけばよい。
「こんばんわ、サラちゃん。今日は一段と素敵だね」
「……お久ぶりですわ、エドモンド様」
早速、面倒なのがやってきた。
私もお兄様もその明るい黄土色の髪を見て、額に縦皺を寄せた。
「わーお、僕ってそういう扱い?しかも兄妹そろってって、酷いなぁ」
「気のせいかと」
おどけてみせてもピクリとも反応しないお兄様に、エドモンドが両肩を上げた。
「君は一段と不機嫌そうだね、タファ。さすがのニコラス公爵家でも陛下からの勅命は避けられなかったか?」
「……いや、サラがどうしても行きたいというから連れてきた。そうでなければ……」
「え、そうなの?どういう風の吹き回し?」
普通に勅命だから仕方なく来たで説明はついただろうに……。
どれだけ不本意だったのか、お兄様らしくない。
「そろそろ、婚約者を捕まえなくてはと思いまして」
「まじ?じゃあ、僕第一候補に……、って、冗談ですよお兄様」
ふざけるエドモンドの足元が凍り始めている。
私は流れるように解凍作業を行った。
このお兄様と一緒にいた年月を考えれば、慣れた作業である。
「コロス」
「ちょっと、お兄様、冗談でもやめてくださいませ。侯爵家長男の殺害なんて、もみ消すのが大変ですわ」
「え?そこなの?てか、僕殺されてもかけらも悲しんでもらえない感じ?」
エドモンドの命がけのボケには毎度呆れる。
お兄様もさすがに冗談だと理解しているようだが、エドモンドでなければ本当に命が危うい行為だ。
本当に、誰かが真似でもしたらどうするつもりなのだろうか?
「ところで、王が二人をお呼びになっているよ。……どうする?」
「どうするって……行くしか選択肢はないでしょう。」
「帰りたい」といいだす兄をぎろりと睨んで、引き連れる。
エドモンドがにこやかに「頑張ってね」と言っているが、なにを頑張ればいいのか見当もつかない。
もしかしてこの状態のお兄様を諫めることをか?
だったら余計なお世話である。
王は最後に入場する流れなので、どこに向かえばよいのかわからず、うろうろしていると、お兄様が耳元でぼそりと呟いた。
「サラ、陛下はまだいらっしゃらないようだ。個室を用意させてあるから、そこで待っていよう」
「個室……?」
そんなものがあったのかと、驚くとお兄様はくすりと笑った。
「……、わかりましたわ。陛下が入場なさるまでの時間までですわよ?」
「構わない、それだけあれば十分だ」
何が十分なのだろう?
私は、兄の不可解な言動に疑問を持ちながらも、行ってみればわかるのかもと期待しながら会場を後にするのであった。
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