怪異解明班

空木葉

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消祓官の職務、解明官の職務

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「『消祓官』の主な職務は消祓を行う事。消祓とは怪異を祓い、その存在や影響を消滅させることです」
「成程?」
直がよく分かっていない顔で頷く。
「具体的には、怪異の源を破壊します。その刀とかを使って」
美里は直の腰に差してある、反りの浅い日本刀を指差した。
「成程!」
直が瞳を輝かせる。
「私、剣技には自信があります!お任せください!」
直が気合を入れる様にぐっと手を握ると、かちゃりと音をたてて日本刀の柄が光った。
「ではこれから怪異を斬りに行くのですか?」
「いえ」
美里はファイルの捲りながら答える。
「今回の目的は消祓ではなく、調査になります。調査は殆どの場合、解明官とその護衛を務める消祓官で実施されます」
「護衛ですね!」
直が右手で刀の鞘を、左手で刀の柄を掴む。
「お任せください。怪異は見つけしだい全て!私が斬ります!」
拳を握って張り切る直に、美里は『待て』と言うように右手を前に出した。
「私たちが行うのはあくまで調査です。消祓は危険がない限りは行いません」
「えー?」
直が自分の頭の上に疑問符を浮かべる。
「でも、急に襲ってきたら危ないですよ?」
と刀を掴んだまま、心配そうに美里を見た。
「私が調査を担当するのは、危険性の低いと判断された怪異ですから」
そう言いながら、分厚いファイルの表紙を開く。
「危なくないのに、調査をするんですか?」
「危険性が低いと言っても、暫定的なものです」
美里はファイリングされた紙を見ながら、淡々と答える。
「暫定的?」
直が首を傾げた。
「はい、攻撃性が確認されていない怪異はそれだけで後回しにされ、場合によっては放置されます」
『触らぬ神に祟りなし』
慢性的な人手不足に悩まされている怪異対策部ではそんな文句が乱用され、現在日本で放置されている怪異は、把握できている分だけで三千を優に越える。
「しかし、放置された怪異が後に大きな被害を出す、そんな事件が18年ほど前から多発しています」
「あれ?」
直が傾げる角度を大きくする。
「じゃあ、やっぱり危険ですよね?調査なんてしないで、斬っちゃった方がいいんじゃないですか?」
「しかしまた」
美里が何かを回想するように、ゆっくりと瞬きをした。
「誤った対処によって被害が拡大することも、珍しくありません」
「ええー!」
直が狭い車内で、立ち上がった。
「じゃあどうすればいいんですかー?」
と悩ましく眉を下げながら、美里に顔を寄せる。
美里はのけぞって、直から距離を取った。
美里の後頭部が座席のシートに触れる。
「そもそも、怪異の対処に完璧な正解はありません」
現世で蔓延る問題の殆どがそうであるように、怪異も様々な要素が絡み合って顕在化する。
「しかし怪異についての判断材料を集めれば、致命的な失敗を起こす可能性を減らせます」
美里はそう言い切った。
少なくとも美里は、その信念に従って仕事に従事している。
「そのための調査を、これから行います」
「うーん」
直は納得がいかないように、今までとは逆向きに首を傾げた。
「よく分からないです」
としんみりと座席に着席する。
肩が触れ合う距離に、また美里が一歩遠ざかる。
「怪異のことを知っても、『こうすれば安全です!』とか分からないんじゃないですか?」
「それは「例えば!」
言いかけた美里の言葉を遮って、直が立ち上がった。
その手がドアの取っ手へ伸びる。
美里がサッと顔色を変えた。
「待って」
美里の声と同時に、バンと大きな音を立てて車のドアが開く。
暗い車内へ外の光が差し込んだ。
安全のために自動停止した車から降りた直が、真っすぐと腕を伸ばし
「例えばあれが」
と遠く向こうを指差した。
住宅街の中心で、黒く淀んだ無数の触手がうねうねと蠢いているのが見える。
「イソギンチャクの幽霊だって分かっても、私たちがどうすればいいかなんて、分からないじゃないですか」
そう言って美里の方を振り返る。
淡々と答えをくれる彼女の声を、少しワクワクしながら待つが、聞こえるのは遠く聞こえる銃声と風の音だけである。
「美里さん?」
直が車内を覗き込む。
そこには真っ黒な座席に身を横たえる、美里の姿があった。
ピクリとも動かない彼女の姿に、直が首を傾げた。
「美里さん?」
直は車に乗り込むと、しゃがんで美里の顔を覗いた。
青白い顔には苦痛がまざまざと浮かび、紫色になった唇が震え、荒い呼吸音が直の耳に響いた。
丸く縮こまった体からはみ出た両手が、縋るように短刀の鞘を掴んでいる。
「美里さん⁉」
直が美里の肩に手を添え、彼女の体を揺さぶった。
それでも美里の目はきつく閉ざされたままだ。
「美里さん!」
直が更に激しく揺さぶった。
美里の呼吸音が、どんどん荒く、大きくなる。
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