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予感、二人
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「今の演劇部のメンバー?」
杉山が卵の入ったランチパックのパンに齧り付く。
「急にどした?」
「隅原がさー」
角野が自動販売機で買ったウィンナーパンの包装を開けながら
「演じる人がどんな奴かとか、そういう事を知ってた方が、台本が探しやすいんじゃないかって」
と杉山を見た。
「一理あるな」
里見がスープジャーのうどんの上に、温泉卵を落とした。
「素人役者なら、自分の元の性格に似ている方がいいだろう」
「いやいや、似てない役こそやるべきだって!」
杉山が「分かってないなー」とニヤリと笑った。
「素人だからこそ、いろんな事を試してみないと。可能性は無限大なんだから」
「それに」と人差し指を大きくたてる。
「そんな風に縛られちゃダメだ!創作は自由じゃないと!」
「一理あるな」
里見がうどんを卵に絡ませながら頷く。
「お前ら、テキトーすぎるって」
角野が苦く笑う。
「でも、人数とかそれぞれの身長とか、あと…ある衣装とか⁉」
角野は隅原が知りたがっていた情報を精一杯思い出そうとしたが、そのぐらいしか思い出せなかった。
「まあ、そういう情報は必要だろ」
『ごめん、隅原!』と心の内で謝りながら、『メモとかとっときゃよかったかも』なんて反省をする。
「人数だって身長だってごまかせる!」
杉山が大きく胸を張った。
「なぜなら演劇部だから!」
(こいつは、ダメだ)
素早く見切りをつけた角野は、杉山を無視し、里見に向き合う。
「なあ教えてくれよ、美術部は大道具とかで手伝ってるんだろ⁉」
「いいぞ」
里見がうどんから顔を上げる。
「条件があるが」
角野の表情が固まる。
(だからこいつら、嫌なんだよ)
そう思いながらも、心のどこかではこういうことを言ってきそうだと感じていた。
「ナンデショーカ」
恐る恐る、尋ねた。
「質問がある」
「ドウゾ」
心の準備ができないままに、質問を待ち受ける。
「なんでそんなに真剣なんだ?」
里見がハッキリと角野の瞳を見た。
「君はそれこそ『テキトー』な性質だし、別に演劇が好きなわけじゃないだろう」
角野の頭が真っ白になった。
(確かに、なんでだ?)
高校生の演劇なんてつまらなくてもいい、本人たちの楽しい思い出になればそれで十分なはずだ。
本人たちがやりたいようやればいい。
クオリティを求める隅原のような人間の方が、少ないはずだ。
そして角野は楽しいことが好きで、面倒なことは嫌いだ。
演劇に対する愛なんて、これっぽっちもない。
でも
(多分、隅原は違うんだろうな)
そんな直感が、ストンと落ちた。
どこがどう違うのかは、分からないけれど。
「心あたりがないのか」
里見が角野を覗き込んだ。
「えっと」
角野が思わずのけぞる。
「えーー」
瞳がウロウロと教室場をさまよった。
「あるようなー、ないようなー」
無神経な男たちに、こんな曖昧な感情を言いたくなかった。
中島にならともかく。
(いやでも、中島に言うのもなんかちょっと恥ずかしいかも)
今はっきりしていることは、この二人には絶対に言いたくないということだ。
杉山も『それってどんな気持ち⁉演技の参考になるから教えてよ!』なんて言い出しかねない。というか、そもそも杉山には大いに前科がある。
「心当たりがあるなら、言えばいいじゃないか」
(むしろ里見に話したらいろいろスッキリするかも⁉こいつ忖度とかしないし)
そんな気の迷いを浮かべつつも、里見の視線から逃げる。
「いやー」
里見を見ないようにしている内に、事故で杉山と目が合ってしまった。
(ヤベッ)
杉山が薄く笑うと
「あっ」
と大きく叫んだ。
「イイコト思いついた!」
そして一息に言う。
「隅原君には偽情報を与えるんだよ!」
角野はポカンと口を開け、里見は問うような視線を向けた。
杉山が里見に軽くウィンクをした。
「なんだ、それは」
里見が体を杉山に向けた。
角野は無意識に息を吐いた。
どうやら危機は去ったらしい。
「だからー、隅原君には実際とは全く逆のことを教えるんだよ!」
杉山が自分の考えに酔うように、うんうんと頷いた後、爽やかに笑った。
「そしたら、全く違う役ができるだろ!」
薄いカーテン越しの柔らかい自然光を取り入れれば、部屋は照明が要らないほど明るい。少なくとも里見と杉山にとってはそうだ。
「何故止めたんだ」
ベッドの上に寝そべって人体解剖図を眺めながら、里見が尋ねた。
「あー」
横に座っていたずらに画集のページをめくる杉山が、思い出すように言った。
「お前に言ったら、ハッキリさせちゃいそうなんだもん」
「ハッキリした方がいいだろう」
「いやいや。今名前を付けるのはもったいないよ」
杉山は真剣に、角野の感情を思った。
半分は自覚的で、もう半分は全く無意識だろうその感情を。
それはどんなものにもなれるし、なににもなれないかもしれない。
「固ゆで卵は、生卵には戻れない」
どこかのドラマのセリフを引用してみる。
「今の状況を観察したいんだ」
「まだるっこしいな」
里見はページを一枚めくった。
「恋愛漫画読んだことないの?」
「恋愛?」
里見が杉山を振り返る。
「関係あるのか」
杉山が心底楽しそうに笑った。
「どいつもこいつも鈍いんだから」
杉山が卵の入ったランチパックのパンに齧り付く。
「急にどした?」
「隅原がさー」
角野が自動販売機で買ったウィンナーパンの包装を開けながら
「演じる人がどんな奴かとか、そういう事を知ってた方が、台本が探しやすいんじゃないかって」
と杉山を見た。
「一理あるな」
里見がスープジャーのうどんの上に、温泉卵を落とした。
「素人役者なら、自分の元の性格に似ている方がいいだろう」
「いやいや、似てない役こそやるべきだって!」
杉山が「分かってないなー」とニヤリと笑った。
「素人だからこそ、いろんな事を試してみないと。可能性は無限大なんだから」
「それに」と人差し指を大きくたてる。
「そんな風に縛られちゃダメだ!創作は自由じゃないと!」
「一理あるな」
里見がうどんを卵に絡ませながら頷く。
「お前ら、テキトーすぎるって」
角野が苦く笑う。
「でも、人数とかそれぞれの身長とか、あと…ある衣装とか⁉」
角野は隅原が知りたがっていた情報を精一杯思い出そうとしたが、そのぐらいしか思い出せなかった。
「まあ、そういう情報は必要だろ」
『ごめん、隅原!』と心の内で謝りながら、『メモとかとっときゃよかったかも』なんて反省をする。
「人数だって身長だってごまかせる!」
杉山が大きく胸を張った。
「なぜなら演劇部だから!」
(こいつは、ダメだ)
素早く見切りをつけた角野は、杉山を無視し、里見に向き合う。
「なあ教えてくれよ、美術部は大道具とかで手伝ってるんだろ⁉」
「いいぞ」
里見がうどんから顔を上げる。
「条件があるが」
角野の表情が固まる。
(だからこいつら、嫌なんだよ)
そう思いながらも、心のどこかではこういうことを言ってきそうだと感じていた。
「ナンデショーカ」
恐る恐る、尋ねた。
「質問がある」
「ドウゾ」
心の準備ができないままに、質問を待ち受ける。
「なんでそんなに真剣なんだ?」
里見がハッキリと角野の瞳を見た。
「君はそれこそ『テキトー』な性質だし、別に演劇が好きなわけじゃないだろう」
角野の頭が真っ白になった。
(確かに、なんでだ?)
高校生の演劇なんてつまらなくてもいい、本人たちの楽しい思い出になればそれで十分なはずだ。
本人たちがやりたいようやればいい。
クオリティを求める隅原のような人間の方が、少ないはずだ。
そして角野は楽しいことが好きで、面倒なことは嫌いだ。
演劇に対する愛なんて、これっぽっちもない。
でも
(多分、隅原は違うんだろうな)
そんな直感が、ストンと落ちた。
どこがどう違うのかは、分からないけれど。
「心あたりがないのか」
里見が角野を覗き込んだ。
「えっと」
角野が思わずのけぞる。
「えーー」
瞳がウロウロと教室場をさまよった。
「あるようなー、ないようなー」
無神経な男たちに、こんな曖昧な感情を言いたくなかった。
中島にならともかく。
(いやでも、中島に言うのもなんかちょっと恥ずかしいかも)
今はっきりしていることは、この二人には絶対に言いたくないということだ。
杉山も『それってどんな気持ち⁉演技の参考になるから教えてよ!』なんて言い出しかねない。というか、そもそも杉山には大いに前科がある。
「心当たりがあるなら、言えばいいじゃないか」
(むしろ里見に話したらいろいろスッキリするかも⁉こいつ忖度とかしないし)
そんな気の迷いを浮かべつつも、里見の視線から逃げる。
「いやー」
里見を見ないようにしている内に、事故で杉山と目が合ってしまった。
(ヤベッ)
杉山が薄く笑うと
「あっ」
と大きく叫んだ。
「イイコト思いついた!」
そして一息に言う。
「隅原君には偽情報を与えるんだよ!」
角野はポカンと口を開け、里見は問うような視線を向けた。
杉山が里見に軽くウィンクをした。
「なんだ、それは」
里見が体を杉山に向けた。
角野は無意識に息を吐いた。
どうやら危機は去ったらしい。
「だからー、隅原君には実際とは全く逆のことを教えるんだよ!」
杉山が自分の考えに酔うように、うんうんと頷いた後、爽やかに笑った。
「そしたら、全く違う役ができるだろ!」
薄いカーテン越しの柔らかい自然光を取り入れれば、部屋は照明が要らないほど明るい。少なくとも里見と杉山にとってはそうだ。
「何故止めたんだ」
ベッドの上に寝そべって人体解剖図を眺めながら、里見が尋ねた。
「あー」
横に座っていたずらに画集のページをめくる杉山が、思い出すように言った。
「お前に言ったら、ハッキリさせちゃいそうなんだもん」
「ハッキリした方がいいだろう」
「いやいや。今名前を付けるのはもったいないよ」
杉山は真剣に、角野の感情を思った。
半分は自覚的で、もう半分は全く無意識だろうその感情を。
それはどんなものにもなれるし、なににもなれないかもしれない。
「固ゆで卵は、生卵には戻れない」
どこかのドラマのセリフを引用してみる。
「今の状況を観察したいんだ」
「まだるっこしいな」
里見はページを一枚めくった。
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