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2. ヤンキー君と引きこもりちゃん
2. 生徒会長の依頼
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美琴に資料室の掃除を言いつけられた颯空だったが、当然やるわけもなく、窓の外がちょうどよく芝生だったので、寝転がって昼寝の続きを取る事にした。僅かにある傾斜が心地よく、教室とは開放感が段違いだった。組んだ指を頭の下に持っていくと、すぐに夢の世界へと旅立つことが出来そうだ。爽やかな風を一心に受けながら、颯空はゆっくりと瞼を閉じる。
「…………久我山君?」
どれくらい眠っていたのだろうか。ねっとりとした声質で名前を呼ばれ、颯空が反射的に目を開ける。すると、そこにはこれでもかというほど慈愛に満ちた笑みを浮かべている美琴が、窓越しにこちらを見下ろしていた。少しだけ迷った颯空だったが、とりあえず挨拶はしておく。
「よっ」
「よっ、じゃないわよ! 何してんのあんた!? 資料室の掃除をしておいてって頼んだでしょ!?」
「……頼んだって押し付けただけじゃねぇか」
颯空が体についた芝生を払いながら立ち上がった。そして、不機嫌そうな美琴を尻目に窓枠に右手を乗せると、軽々と飛び越え中へと入る。
「つーかこんなもん、一人でどうにかなる感じじゃねぇだろ。埃もそうだが、本だの紙だのいいように散らばってんだぞ?」
「うっ……!!」
「それに俺じゃ、ここのあるものの価値が分からねぇ。邪魔だから全部捨てたくなってくる。それでもいいのか?」
「そ、それはまずいわね」
埃塗れとはいえここは資料室。残して置かなければならない貴重なものもあるはず。それを颯空の気の向くままに焼却炉へと運ばれたら確実に問題になってしまう。
「だからこそ、お前が戻ってきたら動けるように俺は体力回復に勤しんでたってわけだ」
「……ただサボっているようにしか見えなかったけど、まぁいいわ。一人でやらせようとした私も悪いし」
「そうそう、お前が悪い。じゃあ、面倒くせぇけど始めるか」
「いえ、掃除は後回しよ」
「え?」
腕まくりをしてやる気を出そうとした颯空だったが、美琴の言葉でピタッと動きが止まる。
「先にやるべき事が出来たの」
「やるべき事? ……それは神宮寺に呼び出された事と関係あるのか?」
「その通りよ!」
力強く答える美琴。その顔には隠し切れない喜びの色が滲んでいた。
「ついに……ついに私も会長から直接依頼をされる人になったのよ! これは次期生徒会長に対する期待の表れに違いないわ!」
「期待の表れねぇ……」
頬が緩んでいる美琴に対して、颯空の表情は渋いものだった。いいように使われているだけ、と思わなくもないが、それを言っても藪蛇になるだけなのは明白。無駄な口論を避けるためにも、余計な事を言わないに越したことはない。
「じゃあ、張り切って行くわよ!」
「……当然のように俺も行かなくちゃいけないわけな」
なんとなく予想はしていたが、それでも颯空はため息を吐かずにはいられなかった。そんな彼の様子を見て、美琴が顔をしかめる。
「ちょっと。そんな不景気な顔しないで。名誉な事なのよ? 会長から依頼をされるなんて」
「そりゃよーござんしたねぇ」
「……まぁ、あなたにはわからないでしょうね」
美琴が諦めたように肩をすくめた。なんとなくその仕草がバカにされているようで、颯空はむっとした表情を浮かべる。
「つーか、手伝わせるんだったらせめて依頼の内容ぐらい教えろよ」
「あっ、うっかりしてたわ」
鞄を肩に担ぎ、足取り軽く資料室を出て行こうとしていた美琴が、扉の前で振り返った。
「会長からの依頼は不登校の生徒を学校に来させる事よ!」
*
清新学園を後にした二人は大通りを抜け、閑静な住宅街を歩いていた。学園周りは駅近の一等地という事で高級そうな家やマンションが数多くあるが、この辺りは趣が違う。割安の集合住宅として売り出していたのか、同じような形のこじんまりとした家が並んでいる。
「……それで? 不登校の生徒ってのはどんな奴よ?」
両手を自分の後頭部に回しながら颯空が隣を歩く美琴に尋ねた。
「藤代環。私達と同じ二年D組よ」
「俺達と同じ? そんな奴いたか?」
「いないから不登校なんでしょ。それに、仮にいたとしてもあなたはわからないに違いないわ。クラスの人の顔なんて覚えてないだろうし」
「一理ある」
基本的に学校に行っても寝ているだけの颯空がクラスメートを覚えているわけがない。唯一、絡みがありそうな体育の授業も、屋上や保健室で自主学習をしているため、絡むことはない。
「その環って野郎はいつから学校に来てないんだ?」
「野郎じゃないわ。藤代環は女子生徒。えーっと……聞いた話だと、一年の二学期から登校してないわね」
「ってことは、去年の夏休み明けの九月からって事か。羨ましいな、おい。俺もそれくらいサボりてぇよ」
「そういえば久我山君ってちゃんと毎日学校には来るわよね。授業をさぼったりはしてるけど。どうして?」
「…………」
美琴が目を向けると、颯空はわかりやすく目を逸らした。同じクラスになって少ししか経ってはいないが、颯空が学校に来ない日は一度たりともない。彼の性格上、一日くらいはサボってもおかしくないはずなのに。
「んな事より、タマキンの家はどこだよ? これじゃ俺んちに向かって事になるぞ?」
「女の子をタマキンとか言わないで! ……って、え? あなたの家もこの辺りなの?」
「あぁ。二三ブロック先だ。別に驚くような事でもねぇだろ?」
「それもそうね」
この地区は都心から少し離れたベッドタウン。颯空の家があったとしても、別におかしい事ではない。
「たくよぉ……なーんで学校に来ない奴をわざわざ俺らが迎えに行かなきゃいけないのかねぇ。小学校のセンコーかっつーんだよ」
「仕方がないじゃない、そういう依頼なんだから。それにクラスメートが学校に来られなくて悩んでいるのなら手を差し伸べるべきでしょ?」
「優等生の発想だな、そりゃ。俺に言わせりゃ逃げてる奴を助ける必要なんてねぇ」
「……なによそれ?」
表情を険しくして美琴が睨みつけるが、颯空は澄ました顔をしている。
「学校に行くことから逃げてんだろ?」
「その言い方気に入らないわね。環さんは学校に行かれない理由があるのよ」
「理由ってなんだよ?」
「知らないわ。それを調べて解決してあげるのが私達の使命よ」
「けっ……手厚いサポートだな、おい」
颯空が不機嫌そうに鼻を鳴らし、顔を背ける。
「……話をしている間にどうやら着いたみたいね」
生徒手帳に書かれたメモを見ながら、美琴が『藤代』と書かれた表札のある家の前で止まった。とりあえず颯空との議論はここで中断。今は藤代環から話を聞くことに全力を注がねばならない。
大きく深呼吸して感情を整える。相手は顔も見た事のない不登校の生徒、多少の緊張は禁じ得ない。気持ちを落ち着けてからインターホンを……。
ピンポーン。
そんな事を考えていた美琴の横から颯空が遠慮なしにインターホンを押した。一瞬、ぽかんとした美琴だったが、慌てて颯空に詰め寄る。
「ちょ、ちょ、ちょっと! 何してくれてんのよ!?」
「何してくれてんの、ってここまで来たんだからピンポン押すだろ、普通」
「押すタイミングとかあるでしょうが! 私にも心の準備ってものが……!!」
『はい』
インターホンから声が聞こえ、颯空に文句を言おうとしていた美琴がその場で固まった。そんな彼女にはお構いなしに颯空が話し口に顔を近づけた。
「こんちは。環いる?」
「いやいや友達か! いきなりそれはおかしいでしょ!?」
『……あの、どちら様でしょうか?』
インターホンから聞こえてくる声からは明らかに不信感が漂っている。何の前触れもなく不登校の娘を見知らぬ誰かが訪ねてきたのだから無理もない。だが、このままでは学校に来るように説得するどころの話ではない。なんとかしなければ。
「あ、えーっと……」
「俺は清新学園二年、久我山颯空だ。環とは同じクラスらしい」
「らしいってあんたねぇ……!!」
「んで、環が学校に来ねえもんだから、クソ会長の命令で仕方なく学校に来いって言いに来たってわけだ」
『…………』
あまりの言い振りに美琴はその場で眩暈を起こした。颯空の言っている事に嘘偽りはない。ただ、もう少し言い方というものがあったのではないか。その証拠に、インターホンの向こうの人が黙りこくってしまった。
『…………一緒にいるあなたのお名前は?』
「あっ! わ、私も環さんと同じクラスで、渚美琴と申します!」
しばしの沈黙の後、問いかけられた美琴が慌てて答える。
『久我山颯空君と渚美琴さんね。少しだけ待っていてもらえるかしら』
「うーっす。でも、あんまり待つのは好きじゃねぇから手早くよろしく」
「久我山君っ!」
『ふふふ……わかったわ。なるべく早く戻ります』
颯空の態度の悪さに目を吊り上げる美琴だったが、なぜかインターホンの向こうにいる人は楽し気な口調だった。少し面食らった美琴であったが、プツッとインターホンの通信が途切れたのを確認すると、腰に手を当てながら怖い顔で颯空に向き直る。
「あんた……私の事手伝ってくれるのよね? だったらなんで邪魔するのよ?」
「はぁ? 邪魔なんかしてねぇだろ?」
「してるわよ! 何よさっきの言い方! まるで会長に言われて嫌々来たみたいだったじゃない!」
「その通りなんだからしょうがねぇじゃねぇか」
耳の穴をほじりながら美琴の話を聞いていた颯空が、指についた耳かすをフッと息で飛ばす。まるで悪びれていない颯空に美琴が湧き上がる怒りをぶつけようとした瞬間、玄関の扉が開いた。
「初めまして。環の母の佳江です」
「ども」
「は、初めまして!」
玄関から出てきたのはすらりと背の高い女性だった。モデルのようなその体型に、美琴は思わず見とれてしまう。
「……ごめんなさいね、颯空君、美琴さん。環が誰とも会いたくないって言ってるの」
「あ……そ、そうですか……」
心底申し訳なさそうな顔で佳江に言われ、ハッと我に返った美琴が曖昧な返事をした。まぁ、不登校になるような者が、いきなりやって来た自分達に会ってくれるとは思っていなかったが、こうやって面と向かって断られると戸惑いを隠せない。
「別に環のおばちゃんが謝る事じゃねぇだろ。どう考えても突然来た俺達が悪いって」
「ありがとう。……颯空君は優しいのね」
「よしてくれ。この見た目で優しいはねぇよ」
「あら、そうかしら? おかしな見た目はしていないと思うけど?」
「いい子ちゃんばかりのあの学校じゃ、ばっちり浮きまくってるっての」
苦笑しながら颯空は両手を開いた。確かに、ツーブロックに剃りこみを入れているような生徒は、清新学園には颯空以外にいない。いくらピアスをしなくなったといっても、あの学園に彼が馴染むには性格も含め、あと二回ほど改造される必要がある。そんな颯空を見て、佳江はくすくすと笑った。
「俺達と会いたくねぇって言ってんならどうしようもねぇな。おい、帰るぞ」
「え? あ、あぁ。そうね。今日のところは帰りましょう」
「邪魔したな、環のおばちゃんよ」
慣れた様子で年上の女性と話す颯空を呆気にとられた様子で見ていた美琴に声をかけ、颯空が佳江に背を向けながら軽く手を上げる。美琴は佳江にお辞儀してから颯空の後について行った。
「…………久我山君?」
どれくらい眠っていたのだろうか。ねっとりとした声質で名前を呼ばれ、颯空が反射的に目を開ける。すると、そこにはこれでもかというほど慈愛に満ちた笑みを浮かべている美琴が、窓越しにこちらを見下ろしていた。少しだけ迷った颯空だったが、とりあえず挨拶はしておく。
「よっ」
「よっ、じゃないわよ! 何してんのあんた!? 資料室の掃除をしておいてって頼んだでしょ!?」
「……頼んだって押し付けただけじゃねぇか」
颯空が体についた芝生を払いながら立ち上がった。そして、不機嫌そうな美琴を尻目に窓枠に右手を乗せると、軽々と飛び越え中へと入る。
「つーかこんなもん、一人でどうにかなる感じじゃねぇだろ。埃もそうだが、本だの紙だのいいように散らばってんだぞ?」
「うっ……!!」
「それに俺じゃ、ここのあるものの価値が分からねぇ。邪魔だから全部捨てたくなってくる。それでもいいのか?」
「そ、それはまずいわね」
埃塗れとはいえここは資料室。残して置かなければならない貴重なものもあるはず。それを颯空の気の向くままに焼却炉へと運ばれたら確実に問題になってしまう。
「だからこそ、お前が戻ってきたら動けるように俺は体力回復に勤しんでたってわけだ」
「……ただサボっているようにしか見えなかったけど、まぁいいわ。一人でやらせようとした私も悪いし」
「そうそう、お前が悪い。じゃあ、面倒くせぇけど始めるか」
「いえ、掃除は後回しよ」
「え?」
腕まくりをしてやる気を出そうとした颯空だったが、美琴の言葉でピタッと動きが止まる。
「先にやるべき事が出来たの」
「やるべき事? ……それは神宮寺に呼び出された事と関係あるのか?」
「その通りよ!」
力強く答える美琴。その顔には隠し切れない喜びの色が滲んでいた。
「ついに……ついに私も会長から直接依頼をされる人になったのよ! これは次期生徒会長に対する期待の表れに違いないわ!」
「期待の表れねぇ……」
頬が緩んでいる美琴に対して、颯空の表情は渋いものだった。いいように使われているだけ、と思わなくもないが、それを言っても藪蛇になるだけなのは明白。無駄な口論を避けるためにも、余計な事を言わないに越したことはない。
「じゃあ、張り切って行くわよ!」
「……当然のように俺も行かなくちゃいけないわけな」
なんとなく予想はしていたが、それでも颯空はため息を吐かずにはいられなかった。そんな彼の様子を見て、美琴が顔をしかめる。
「ちょっと。そんな不景気な顔しないで。名誉な事なのよ? 会長から依頼をされるなんて」
「そりゃよーござんしたねぇ」
「……まぁ、あなたにはわからないでしょうね」
美琴が諦めたように肩をすくめた。なんとなくその仕草がバカにされているようで、颯空はむっとした表情を浮かべる。
「つーか、手伝わせるんだったらせめて依頼の内容ぐらい教えろよ」
「あっ、うっかりしてたわ」
鞄を肩に担ぎ、足取り軽く資料室を出て行こうとしていた美琴が、扉の前で振り返った。
「会長からの依頼は不登校の生徒を学校に来させる事よ!」
*
清新学園を後にした二人は大通りを抜け、閑静な住宅街を歩いていた。学園周りは駅近の一等地という事で高級そうな家やマンションが数多くあるが、この辺りは趣が違う。割安の集合住宅として売り出していたのか、同じような形のこじんまりとした家が並んでいる。
「……それで? 不登校の生徒ってのはどんな奴よ?」
両手を自分の後頭部に回しながら颯空が隣を歩く美琴に尋ねた。
「藤代環。私達と同じ二年D組よ」
「俺達と同じ? そんな奴いたか?」
「いないから不登校なんでしょ。それに、仮にいたとしてもあなたはわからないに違いないわ。クラスの人の顔なんて覚えてないだろうし」
「一理ある」
基本的に学校に行っても寝ているだけの颯空がクラスメートを覚えているわけがない。唯一、絡みがありそうな体育の授業も、屋上や保健室で自主学習をしているため、絡むことはない。
「その環って野郎はいつから学校に来てないんだ?」
「野郎じゃないわ。藤代環は女子生徒。えーっと……聞いた話だと、一年の二学期から登校してないわね」
「ってことは、去年の夏休み明けの九月からって事か。羨ましいな、おい。俺もそれくらいサボりてぇよ」
「そういえば久我山君ってちゃんと毎日学校には来るわよね。授業をさぼったりはしてるけど。どうして?」
「…………」
美琴が目を向けると、颯空はわかりやすく目を逸らした。同じクラスになって少ししか経ってはいないが、颯空が学校に来ない日は一度たりともない。彼の性格上、一日くらいはサボってもおかしくないはずなのに。
「んな事より、タマキンの家はどこだよ? これじゃ俺んちに向かって事になるぞ?」
「女の子をタマキンとか言わないで! ……って、え? あなたの家もこの辺りなの?」
「あぁ。二三ブロック先だ。別に驚くような事でもねぇだろ?」
「それもそうね」
この地区は都心から少し離れたベッドタウン。颯空の家があったとしても、別におかしい事ではない。
「たくよぉ……なーんで学校に来ない奴をわざわざ俺らが迎えに行かなきゃいけないのかねぇ。小学校のセンコーかっつーんだよ」
「仕方がないじゃない、そういう依頼なんだから。それにクラスメートが学校に来られなくて悩んでいるのなら手を差し伸べるべきでしょ?」
「優等生の発想だな、そりゃ。俺に言わせりゃ逃げてる奴を助ける必要なんてねぇ」
「……なによそれ?」
表情を険しくして美琴が睨みつけるが、颯空は澄ました顔をしている。
「学校に行くことから逃げてんだろ?」
「その言い方気に入らないわね。環さんは学校に行かれない理由があるのよ」
「理由ってなんだよ?」
「知らないわ。それを調べて解決してあげるのが私達の使命よ」
「けっ……手厚いサポートだな、おい」
颯空が不機嫌そうに鼻を鳴らし、顔を背ける。
「……話をしている間にどうやら着いたみたいね」
生徒手帳に書かれたメモを見ながら、美琴が『藤代』と書かれた表札のある家の前で止まった。とりあえず颯空との議論はここで中断。今は藤代環から話を聞くことに全力を注がねばならない。
大きく深呼吸して感情を整える。相手は顔も見た事のない不登校の生徒、多少の緊張は禁じ得ない。気持ちを落ち着けてからインターホンを……。
ピンポーン。
そんな事を考えていた美琴の横から颯空が遠慮なしにインターホンを押した。一瞬、ぽかんとした美琴だったが、慌てて颯空に詰め寄る。
「ちょ、ちょ、ちょっと! 何してくれてんのよ!?」
「何してくれてんの、ってここまで来たんだからピンポン押すだろ、普通」
「押すタイミングとかあるでしょうが! 私にも心の準備ってものが……!!」
『はい』
インターホンから声が聞こえ、颯空に文句を言おうとしていた美琴がその場で固まった。そんな彼女にはお構いなしに颯空が話し口に顔を近づけた。
「こんちは。環いる?」
「いやいや友達か! いきなりそれはおかしいでしょ!?」
『……あの、どちら様でしょうか?』
インターホンから聞こえてくる声からは明らかに不信感が漂っている。何の前触れもなく不登校の娘を見知らぬ誰かが訪ねてきたのだから無理もない。だが、このままでは学校に来るように説得するどころの話ではない。なんとかしなければ。
「あ、えーっと……」
「俺は清新学園二年、久我山颯空だ。環とは同じクラスらしい」
「らしいってあんたねぇ……!!」
「んで、環が学校に来ねえもんだから、クソ会長の命令で仕方なく学校に来いって言いに来たってわけだ」
『…………』
あまりの言い振りに美琴はその場で眩暈を起こした。颯空の言っている事に嘘偽りはない。ただ、もう少し言い方というものがあったのではないか。その証拠に、インターホンの向こうの人が黙りこくってしまった。
『…………一緒にいるあなたのお名前は?』
「あっ! わ、私も環さんと同じクラスで、渚美琴と申します!」
しばしの沈黙の後、問いかけられた美琴が慌てて答える。
『久我山颯空君と渚美琴さんね。少しだけ待っていてもらえるかしら』
「うーっす。でも、あんまり待つのは好きじゃねぇから手早くよろしく」
「久我山君っ!」
『ふふふ……わかったわ。なるべく早く戻ります』
颯空の態度の悪さに目を吊り上げる美琴だったが、なぜかインターホンの向こうにいる人は楽し気な口調だった。少し面食らった美琴であったが、プツッとインターホンの通信が途切れたのを確認すると、腰に手を当てながら怖い顔で颯空に向き直る。
「あんた……私の事手伝ってくれるのよね? だったらなんで邪魔するのよ?」
「はぁ? 邪魔なんかしてねぇだろ?」
「してるわよ! 何よさっきの言い方! まるで会長に言われて嫌々来たみたいだったじゃない!」
「その通りなんだからしょうがねぇじゃねぇか」
耳の穴をほじりながら美琴の話を聞いていた颯空が、指についた耳かすをフッと息で飛ばす。まるで悪びれていない颯空に美琴が湧き上がる怒りをぶつけようとした瞬間、玄関の扉が開いた。
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「ども」
「は、初めまして!」
玄関から出てきたのはすらりと背の高い女性だった。モデルのようなその体型に、美琴は思わず見とれてしまう。
「……ごめんなさいね、颯空君、美琴さん。環が誰とも会いたくないって言ってるの」
「あ……そ、そうですか……」
心底申し訳なさそうな顔で佳江に言われ、ハッと我に返った美琴が曖昧な返事をした。まぁ、不登校になるような者が、いきなりやって来た自分達に会ってくれるとは思っていなかったが、こうやって面と向かって断られると戸惑いを隠せない。
「別に環のおばちゃんが謝る事じゃねぇだろ。どう考えても突然来た俺達が悪いって」
「ありがとう。……颯空君は優しいのね」
「よしてくれ。この見た目で優しいはねぇよ」
「あら、そうかしら? おかしな見た目はしていないと思うけど?」
「いい子ちゃんばかりのあの学校じゃ、ばっちり浮きまくってるっての」
苦笑しながら颯空は両手を開いた。確かに、ツーブロックに剃りこみを入れているような生徒は、清新学園には颯空以外にいない。いくらピアスをしなくなったといっても、あの学園に彼が馴染むには性格も含め、あと二回ほど改造される必要がある。そんな颯空を見て、佳江はくすくすと笑った。
「俺達と会いたくねぇって言ってんならどうしようもねぇな。おい、帰るぞ」
「え? あ、あぁ。そうね。今日のところは帰りましょう」
「邪魔したな、環のおばちゃんよ」
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