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2. ヤンキー君と引きこもりちゃん
6. 引きこもりちゃん登場
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カーテンで仕切った暗い部屋。モニターから漏れる光。カチカチと木霊するゲームコントローラーのボタンの音。そして、自分を守るように巻いた毛布。
落ち着く。心の底から安らぎを感じる。
この空間には他者がいない。それだけで体は全能感に満たされていく。
丸い眼鏡に反射している画面では、見るからに手強そうな敵キャラがこちらに牙をむいていた。それを虚ろな目で見ながら、何も考えずにひたすら攻撃ボタンを連打する。こちらが与えるダメージは数万、あちらが与えてくるダメージは一桁台。明らかにゲームバランスが崩壊していた。だが、それでいい。
ロールプレイングゲームは好きだ。レベルを上げればどんな敵にも勝てる上に、大抵の場合、ハッピーエンドで終わってくれる。中には主人公が悲劇の結末を迎えるものもあるが、そういった後味の悪い類のものには手を出さないようにしていた。
レベル上げの作業を苦痛に感じる人も多いが、自分は違う。単調な反復作業は得意だし、何より自分のキャラクターが強くなっていく過程は何物にも勝る喜びを感じる。いつだって、ゲームの終盤では限界まで主人公を育成し、ラスボス撃破がおまけみたいになっていた。それどころか最強のキャラが出来上がり、ラスボスを倒す前に満足してゲームを終わらせたこともある。
やはり、RPGは素晴らしい。なにより、一人で出来るという点が最高だ。
力のこもったデザインのラスボスが倒れ感動のエンディングが始まったところでコントローラーを机に置いた。どんなゲームにも終わりが来る。そういう時は決まって心にぽっかりと穴が空いたような寂寥感に襲われた。その感覚も自分は好きだった。
…………コンコン。
遠慮がちに叩かれたノックの音に体中が強張る。ゲームの余韻を楽しんでいたのに、台無しだ。恐る恐る部屋の扉の方に顔を向け、声を出すため大きく息を吸い込んだ。
「……なんの用?」
久しぶりに出したからなのか、えらく掠れた声が出た。扉の先にいるのは恐らく母親だろう。なんの用、とは聞いたものの、なぜ母親が来たのかは察しがついている。
「……環にお客さんが来てるわよ」
やっぱり。
思わず大きなため息が出た。どうしてわかったのか、ここのところ毎日のように来ていれば嫌でもわかる。
「……お客って誰?」
答えは分かり切っているが、万に一つの可能性も考えて尋ねてみた。
「久我山颯空君と渚美琴さんよ」
「…………」
予想通りの名前が母親の口から飛び出し、再びため息を吐く。これこそが専ら最近の悩みだ。同じ学校の生徒が二人、自分に会いに来る。しかも、どちらも校内の有名人ときた。
自分が学校に行かなくなったのは去年の秋口だ。つまり、あの学校に通っていたのは夏季休暇の事も考えて四カ月余り。そんなにも短い期間だというのに、その二人の名前に聞き覚えがある。だからこそ、激しく混乱していた。
渚美琴。同性も見惚れてしまうほどに優れた容姿を持つ美少女。そして、一年生にも拘らず、生徒会の役員の座に就いた優等生。そんな彼女が不登校の生徒の家まで来て学校へ来るよう説得しに来た。なるほど、何の違和感も抱かない。彼女だけならば、だ。
問題はもう一人。自分の思考が混迷を極めることになった元凶。
久我山颯空。渚美琴とは対極に位置するといっても過言ではない人物。校内一の不良。目が合っただけで病院送りにされるという噂が立つほどの問題児。初めて家を訪ねて来た時、その名前を聞いて自分は震え上がった。
どうしてそんなアンマッチな二人が自分の所へ来ているのか、まったくもって理解できない。そんなフラグを立てた覚えなどなかった。
「どうする? ……こんなに何度も足を運んでくれているんだから、少しだけ会ってみたら?」
母親の言葉に心臓が跳ね上がる。他人と会う? 自分が? 想像しただけで呼吸が上手くできなくなってきた。毛布の裾をグッと掴んで引き寄せる。
「……帰ってもらって」
「……本当にいいの?」
「誰とも会いたくない」
怖い怖い怖い。誰かと会うのが怖い。相手が優等生でも問題児でも関係ない。他人と面と向かうのがこの上ないほどに恐ろしい。
「……わかったわ」
母親の声に僅かな落胆の色が混じっていた。それが自分の胸をギュッと摘まみ上げる。
ごめんなさい、お母さん。
ドアに耳を寄せ、廊下を歩き去っていく母親の足音を聞きながら、何度も何度も謝罪の言葉を心の中で繰り返した。
落ち着く。心の底から安らぎを感じる。
この空間には他者がいない。それだけで体は全能感に満たされていく。
丸い眼鏡に反射している画面では、見るからに手強そうな敵キャラがこちらに牙をむいていた。それを虚ろな目で見ながら、何も考えずにひたすら攻撃ボタンを連打する。こちらが与えるダメージは数万、あちらが与えてくるダメージは一桁台。明らかにゲームバランスが崩壊していた。だが、それでいい。
ロールプレイングゲームは好きだ。レベルを上げればどんな敵にも勝てる上に、大抵の場合、ハッピーエンドで終わってくれる。中には主人公が悲劇の結末を迎えるものもあるが、そういった後味の悪い類のものには手を出さないようにしていた。
レベル上げの作業を苦痛に感じる人も多いが、自分は違う。単調な反復作業は得意だし、何より自分のキャラクターが強くなっていく過程は何物にも勝る喜びを感じる。いつだって、ゲームの終盤では限界まで主人公を育成し、ラスボス撃破がおまけみたいになっていた。それどころか最強のキャラが出来上がり、ラスボスを倒す前に満足してゲームを終わらせたこともある。
やはり、RPGは素晴らしい。なにより、一人で出来るという点が最高だ。
力のこもったデザインのラスボスが倒れ感動のエンディングが始まったところでコントローラーを机に置いた。どんなゲームにも終わりが来る。そういう時は決まって心にぽっかりと穴が空いたような寂寥感に襲われた。その感覚も自分は好きだった。
…………コンコン。
遠慮がちに叩かれたノックの音に体中が強張る。ゲームの余韻を楽しんでいたのに、台無しだ。恐る恐る部屋の扉の方に顔を向け、声を出すため大きく息を吸い込んだ。
「……なんの用?」
久しぶりに出したからなのか、えらく掠れた声が出た。扉の先にいるのは恐らく母親だろう。なんの用、とは聞いたものの、なぜ母親が来たのかは察しがついている。
「……環にお客さんが来てるわよ」
やっぱり。
思わず大きなため息が出た。どうしてわかったのか、ここのところ毎日のように来ていれば嫌でもわかる。
「……お客って誰?」
答えは分かり切っているが、万に一つの可能性も考えて尋ねてみた。
「久我山颯空君と渚美琴さんよ」
「…………」
予想通りの名前が母親の口から飛び出し、再びため息を吐く。これこそが専ら最近の悩みだ。同じ学校の生徒が二人、自分に会いに来る。しかも、どちらも校内の有名人ときた。
自分が学校に行かなくなったのは去年の秋口だ。つまり、あの学校に通っていたのは夏季休暇の事も考えて四カ月余り。そんなにも短い期間だというのに、その二人の名前に聞き覚えがある。だからこそ、激しく混乱していた。
渚美琴。同性も見惚れてしまうほどに優れた容姿を持つ美少女。そして、一年生にも拘らず、生徒会の役員の座に就いた優等生。そんな彼女が不登校の生徒の家まで来て学校へ来るよう説得しに来た。なるほど、何の違和感も抱かない。彼女だけならば、だ。
問題はもう一人。自分の思考が混迷を極めることになった元凶。
久我山颯空。渚美琴とは対極に位置するといっても過言ではない人物。校内一の不良。目が合っただけで病院送りにされるという噂が立つほどの問題児。初めて家を訪ねて来た時、その名前を聞いて自分は震え上がった。
どうしてそんなアンマッチな二人が自分の所へ来ているのか、まったくもって理解できない。そんなフラグを立てた覚えなどなかった。
「どうする? ……こんなに何度も足を運んでくれているんだから、少しだけ会ってみたら?」
母親の言葉に心臓が跳ね上がる。他人と会う? 自分が? 想像しただけで呼吸が上手くできなくなってきた。毛布の裾をグッと掴んで引き寄せる。
「……帰ってもらって」
「……本当にいいの?」
「誰とも会いたくない」
怖い怖い怖い。誰かと会うのが怖い。相手が優等生でも問題児でも関係ない。他人と面と向かうのがこの上ないほどに恐ろしい。
「……わかったわ」
母親の声に僅かな落胆の色が混じっていた。それが自分の胸をギュッと摘まみ上げる。
ごめんなさい、お母さん。
ドアに耳を寄せ、廊下を歩き去っていく母親の足音を聞きながら、何度も何度も謝罪の言葉を心の中で繰り返した。
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