優等生の美少女に弱みを握られた最恐ヤンキーが生徒会にカチコミ決めるんでそこんとこ夜露死苦ぅ!!

M・K

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2. ヤンキー君と引きこもりちゃん

5. 作戦会議

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 翌日、美琴は学校に登校するとすぐに、校舎の前がざわついている事に気が付いた。どうやら理由は分からないが、多くの生徒達が困った顔で昇降口に入っていくのを躊躇ためらっているようだ。例えるならば道の先に熊でも見つけて立ち往生している様子に酷似している。だが、こんな都会に熊が現れるとは考えにくい。
 不審に思いつつ昇降口まで進んだところで、やっとその理由が判明した。
 なるほど、最強の不良ワルと恐れられる男が校舎の入り口であれほど睨みを効かせていたら、入るのを躊躇ちゅうちょするのも頷ける。もし関わったことがないのであれば、自分だって二の足を踏んでしまうレベルだ。
 美琴は鞄を肩にかけ直すと、ゆっくりと昇降口へと歩いていく。すると、その前で腕を組み仁王立ちをしていた颯空がこちらへと近づいてきた。

「おはよう」
「……あぁ」

 みなの注目を浴びながら普段と変わらぬ口調で挨拶した美琴に、颯空が低い声で答える。

「朝から何してるの? あなたが威嚇いかくするせいでみんな怖がって校舎に入れないじゃない」
「別に俺は威嚇なんてしちゃいねぇよ。人を待っていただけだ」
「あら、そうなの? だったらもう少し待ち方を考えた方がいいわね」
「けっ」

 不機嫌そうに舌打ちをすると、颯空は校舎の中に入っていった。その後に美琴も続く。

「もう待ってなくていいの? ……それとも、待ち人は私だったとか?」
「とぼけてんじゃねぇよ」
「つれないわねぇ」

 この学園内で颯空に関わりのある者など自分以外にはいない事など百も承知だ。そして、どうして彼が自分を待っていたのかも想像はついている。

「……昨日の事は忘れろ」

 教室に向かう道中、颯空が蚊の鳴くような声で告げてきた。まるで言葉が足りていないが、美琴には十分伝わっている。だが、美琴はあえて首を傾げた。

「昨日の事っていうのは何の事かしら?」
「て、てめぇ……!」

 振り返った颯空の額には見事な青筋が浮かんでいる。それを見て一瞬たじろいだ美琴であったが、すぐに強気な笑みを見せた。

「あぁ、昨日あなたのお家にお邪魔した事ね」
「そうだ。その全てを忘れろ。家に来た事も、家で起きた事も、家で会った奴の事もだ」
「随分と無茶を言うわね」

 美琴がこれ見よがしにため息を吐く。

「でも、それはできない相談ね。これを見なさい」
「あぁ? 見ろって何を…………え?」

 美琴が前に出したのはスマホの画面であった。それを見た颯空の表情が一瞬にして凍り付く。

「お、おま、ちょ、こ、これ」
「涼音ちゃんとトークのアドレス交換しちゃった。あと、葵さんとも」

 スマホの画面に映った自分の家族の名前を震える指で差しながら、言葉になっていない声を発する颯空に、美琴が満面の笑みを向けながら言った。
 しばらく放心状態で画面を見つめていた颯空だったが、何とか我を取り戻し、美琴の手からスマホを奪い取る。

「それは止めといた方がいいと思うわ」
「うるせぇ。人の家族と勝手に連絡先交換してんじゃねぇよ」
「あなたに連絡先を消されたら報告して、って葵さんから言われてるのよね」

 美琴の言葉を聞いて『削除』のボタンに伸びていた颯空の指がピタリと止まった。ギギギッと音がしそうなほどぎこちなく顔を向けてきた颯空に、美琴は微笑を浮かべながらてのひらを差し出す。盛大に顔をしかめた颯空は、その上に美琴のスマホを叩きつけた。

「いったーい! ちょっとぉ! もっと優しく返しなさいよ!」
「……知るか」

 吐き捨てるようにそう言うと、颯空は仏頂面でポケットに両手を突っ込み、早足で教室へと歩いて行く。その姿を見ながら美琴は内心ほくそ笑んだ。どうやら自分は久我山颯空の最大のウィークポイントを見つけてしまったらしい。

「そうそう! 昨日できなかった作戦会議、お昼休みにやるわよ!」
「んなもん、一人でやれ」
「久我山君が今日やるって言ったんでしょ! ……それとも何? あんたは一度言った事を曲げるような男なの?」
「……なに?」

 教室に入る手前、渋い顔でこちらを見てきた颯空だったが、それ以上は何も言わずに自分の席へと向かう。

「昼休みになったら屋上に集合ね。忘れないでよ」
「…………」

 最後の言葉には全く反応しなかったが、美琴は確かな手ごたえを感じた。葵に教えてもらった通り、颯空は約束を破ったり、自分の言葉に責任を持たなかったりする事を嫌うようだ。これは、随分とあの気難しいヤンキーを扱いやすくなるかもしれない。


 教室にある黒板の上に設置されたスピーカーからチャイムの音が鳴り響き、午前中の授業は終了となった。学生達の憩いの時間である昼休みという事で騒がしくなり始めた教室で、教科書や参考書を後ろのロッカーにしまった美琴は、自分の鞄の中からお弁当箱を取り出し、ちらりと窓際の一番後ろの席に目を向ける。

「まったく……どこ行ったのよ」

 そこは授業中であろうと放課後であろうと、校内一の不良が机に突っ伏して寝ているのが日常風景になりつつある席だというのに、今は誰も座っていない。いや、正確には午前中最後の授業である四時限目が始まった時には既に空席になっていた。

「もし約束をほったらかしたら本当に葵さんに報告してやろうかしら」

 先ほど美琴が一方的にしたものが、当事者の間で取り決める事を意味する言葉である『約束』と呼べるかははなはだ疑問ではあるが、そんな事は美琴には関係のない事だった。とはいえ、自分も屋上に向かわなければ、来なかった颯空を非難することは出来ない。無駄だと思いつつ、お弁当を持って階段を上っていき、屋上へと続く扉を開けた。

「あっ……」

 そこにある光景を見た美琴の口から思わず声が漏れる。その声に反応したのか、足を組んで屋上に寝転がっていた颯空が、階段室の方へ視線を向けた。

「……なに驚いてんだよ? お前が来いって言ったんじゃねぇか」
「え、えぇ。そうね」

 目をぱちくりとまたたいていた美琴は気を取り直すと、颯空の近くまで歩いて行き、ふわりと腰を下ろす。

「でも、感心しないわね。授業をさぼってまで待つほどの事じゃないでしょ」
「うるせぇなぁ……来てやってんだから文句言うんじゃねぇよ」
「別に文句ってわけじゃないわ。ただ、仮にも生徒会を目指す人が屋上で自習っていうのは頂けないって話よ」
「へいへい。今度から精々気をつけますよっと」

 颯空は体の反動だけで起き上がり、持っていたスーパーの袋からパンとペットボトルを取り出した。反省しているとは言い難い颯空の態度に不満を抱きつつも、美琴は持ってきた弁当の包みをといていく。

「つーか、なんでここなんだよ? ここに入るのは校則違反なんだろ?」
「あまり他の人には聞かれたくないのよ。彼女のためにもね。だから、ここで話し合うのはしょうがない事なの」
「彼女? ……あぁ、タマキンの事か」
たまき! 藤代た・ま・きよ! 二度と変なあだ名で呼ばないで!」

 女子をタマキン呼ばわりするなど、相変わらず颯空にはデリカシーというものが皆無のようだ。

「けどよ、話し合いこういう事のためにあのクソ会長から資料室の鍵をもらったんだろ?」
「そうね。でも、私はあんな埃まみれの場所でお昼を食べるなんて嫌だわ。それに……」
「それに?」
「私はここが好きなの」
「……さいですか」

 あまりにもあっさりと言われてしまい、颯空は脱力したように息を吐いた。人には校則を遵守しろ、とか言っておきながら自分は生徒立ち入り禁止の場所に入っているという矛盾を指摘したところで、おそらく何の意味もないだろう。

「で? 結局どうすんだよ?」

 コンビニで買っていた焼きそばパンを食べながら颯空が尋ねた。

「そうね……昨日家に帰っていろいろと考えてみたんだけど、もうこれしかないって思ったのよ!」
「これってどれだよ?」
「名付けて『三顧さんこの礼』作戦よ!!」

 ビシッと箸で決めポーズをとってから美琴は綺麗に作られた卵焼きをほおばる。

「『三顧の礼』作戦……」
「優秀な人材をスカウトするために、その人の所へ三度も出向いてお願いした歴史上の偉人がいるらしいわ! その人に倣うのよ!」
「つまり三回タマキン……環の家に行くってことか?」

 美琴からすごい形相で睨まれ、慌てて環の呼び方を言い直して颯空が聞いた。

「もちろん! 三回なんてもんじゃないわ! 彼女が学校に来るまで何度だって足を運ぶのよ! そうすればいずれ誠意が伝わるはず!」
「なるほど。悪徳訪問販売の手法みたいにやるって事か」
「……ものすごい嫌な例えね、それ」

 焼きそばパンをむしゃむしゃ食べながら軽い口調で言った颯空に、美琴は苦々しい顔を向ける。なんだか、自分が今からやろうとしている事が非人道的な行為に思えてきた。

「と、とにかく他に作戦がない以上、これで行くしかないわ! ……念のために聞いておくけど、あなたは何かいい案でもある?」
「ねぇな。ただ、一つ確認しておきたいことがある」
「なにかしら?」
「その作戦はお前一人でやんのか?」
「あら、そんなの決まってるでしょ?」

 ニコニコと笑いかけてくる美琴。それだけで全てを察した颯空は深々とため息をついた。

「……気が乗らねぇな」
「それは昨日の話の続き?」

 美琴が顔から笑みを消し、真面目な顔で颯空に尋ねる。藤代環の家に行く道中での会話、逃げている者を助ける必要なんてない、と言い切った颯空の真意をまだ聞いてはいない。

「……環は自分で学校に行く努力をしてんのかよ?」
「え? あ、いや、それは分からないわ」
「努力もしてねぇ奴を助ける義理がどこにある? 生徒会だからか?」
「努力って……どうしようもない理由で学校に来られないかもしれないじゃない。クラスの人達から仲間外れにされたり、陰口を叩かれたり……本人の努力じゃどうにもならない事だってあるのよ」
「仲間外れにされたり、陰口を叩かれたりねぇ」

 美琴の言葉を聞いて、颯空がせせら笑った。美琴がむっとした表情を颯空に向ける。

「なによ?」
「それって俺もされてる事だな」
「あっ……!」

 小さく笑いながらそう言った颯空に、美琴は言葉を失った。誰も彼に話しかけようとはしない。遠巻きに彼の陰口をたたいている。少なくとも、自分のいる二年D組ではその傾向があるのは事実だ。

「だが、俺は学校に来てるぜ? まぁ、本音を言っちまえばこんなクソみたいな場所、来なくていいなら行かないんだけどよ」
「……あなたは強いから。でも、他の人があなたと同じように強いわけじゃないの」

 絞り出すように出した自分の言葉に、美琴は下唇を噛んだ。何という暴論。まったくというほど筋が通っていない。

「なるほどな。確かに弱い奴は誰かが助けてやらないといけねぇよな?」
「…………」
「じゃあよ、強い奴は誰が助けてくれるんだ?」
「っ!!」

 ばっと顔を上げた美琴が颯空の目を見る。その目を真っ直ぐに見つめ返した颯空は、小馬鹿にしたように笑いながら肩をすくめた。

「なに真顔になってんだよ。お前が俺をいいように使うもんだからちょっとからかってみただけだっつーの」
「久我山君……」
「作戦会議はもう終わりでいいよな。『頑固がんこじい』作戦を実行すればいいんだろ」
「……『三顧の礼』よ。全然あってないじゃない」
「似たようなもんだろ? ……じゃあ俺は教室に戻るぜ。ここにいるのは校則違反だからな」

 そう言ってパンの袋や空のペットボトルをスーパーの袋に投げ入れた颯空は、スタスタと歩いて行く。その背中を美琴は何とも言えない表情で見つめていた。
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