異世界に召喚されたらなぜか呪われていた上にクラスメートにも殺されかけたので好き勝手生きることにしました

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第二章 炎の山

20. 呼び出し

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 翌朝、目を覚ました颯空は凄まじい筋肉痛に襲われた。ベッドから動くことができないほどの痛み。ここまでの疲労は『恵みの森』でシフにしごかれて以来だ。こんな状態になるあまで体を酷使した覚えのない颯空が記憶をたどると、『炎の山』の頂上にいた狐人種フォクシニアの少女の事を思い出した。

「あいつ……あの檻から出たのかな」

 部屋の窓から景色を眺める。街を行きかう人は相変わらず少なかった。もう関わるつもりのない相手の事を考えても仕方がない。気持ちを切り替え、シャワーを浴びると早々に宿を後にした。
 街を歩く颯空の足取りは重い。それは決してこの後に嫌なことが待っているからとかではなく、単純に体がだるいからだ。とはいえ、弁償は明日にしてくれと頼んだ手前、冒険者ギルドに行かないわけにはいかなかった。

「あっ、サク様!! おはようございます!!」

 筋肉痛で悲鳴を上げている体を引きずり、なんとか冒険者ギルドへやってきた颯空に、まるで面識のない受付嬢が声をかけてくる。

「早速で大変申し訳ないのですが、ギルド長室までご足労願えますか?」
「わかった」

 昨日あれだけギルドで騒ぎを起こしたのだから、サガットに呼び出されるのは織り込み済みだった。なぜか顔が赤い受付嬢に連れられて、颯空はサガットの待つギルド長室へと足を運ぶ。

「随分と暴れてくれたみたいだな」

 颯空が部屋に入ると、サガットの開口一番はそれだった。だが、言葉に比べて表情はそれほど険しくない。

「暴れたも何も、先に因縁をつけてきやがったのは奴らだ。俺はそれに応えてやったに過ぎない」
「詳しい話は聞いている。お前が加害者というより被害者である、という事もな。……まぁ、受付嬢達が声を揃えてそ訴えているのが気にかかるが」

 サガットが背もたれに背を預けながら言った。

「お前、どうやってうちの自慢の受付嬢達をたらしこんだのだ?」
「知らねぇよ。俺はただ気に食わない野郎をぶっ飛ばしただけだ」
「あの男も随分と嫌われていたからなぁ……悪を倒した正義の味方に心を奪われるのは無理もない話か」
「意味が分からねぇ」
「とりあえず、クリプトンの話を聞こうか」

 サガットの表情が真面目なものになる。面倒くさがりつつも颯空は昨日の一件を彼に話した。もちろん、タマモの事は一切伏せてだ。
 
「新人冒険者を囮にして魔物を狩るとはな……」
「文字通り餌にしてたみたいだぜ? 俺の事も魔物に差し出したしな」
「魔物というのはベヒーモスだろ? そんな魔物が『炎の山』にいたのも問題だが……はぁ、頭が痛い」

 一通り颯空の話を聞いたサガットが頭を押さえる。
 
「本来であれば冒険者同士のいざこざはご法度なのだが、今回は状況が状況なだけに大目に見るとしよう。……お前に処罰を下せば、受付嬢達に何を言われるか分かったものじゃない」

 どうやらお咎めなしのようだ。冒険者ランクの降格くらいは覚悟していたのでこれは非常にありがたい。

「だが、この一件で大分目立ってしまったようだぞ?」
「……それに関しては自業自得だと思ってるよ」

 タマモの事があったとはいえ、浅慮な行動だったと反省している。

「おかげでギルドに巣食うダニを排除することができて嬉しい限りなのだがな」
「その認識があるんなら、もっと早くに手を打てよ」
「そういう輩が現れるのは、巨大な組織の欠点だな。かといって、いちいちギルドが介入していたら運営が成り立たなくなる。色んな意味でお前には感謝しているよ」
「……おっさんに感謝されても何も嬉しくねぇ」

 吐き捨てるように言った颯空を、サガットが探るようにじっと見つめる。

「ところでお前、魔力不全オーバーヒートしているだろ。あんな小物に全力を出すわけもあるまい。なにがあった?」

 やはり、体の不調は無茶をしてあの牢獄を破壊したのが原因のようだ。魔力不全オーバーヒート、つまり、負荷をかけすぎたせいで魔力回路がうまく機能しなくなっている状態らしい。魔力不全オーバーヒートしたのは初めての事だったので、自分ではよくわからないがサガットが言うなら間違いないのだろう。

「……別に。ちょっと無理しただけだ」
「お前ほどの男が無理せねばならない事情など、軽視できるものではないんだがな。無理やり聞いたところで話す奴じゃないだろ」

 短い付き合いとはいえ、颯空の性格を少しは理解しているサガットは、それ以上追及しなかった。

「しっかり体を休めておけよ。これから仕事が増えるんだからな」
「あぁ? なんで増えんだよ?」
「いくらダニでもBランクの戦力を失ったのはでかい」
「……俺にその穴を埋めろってか」
「話が早くて助かる」

 サガットがにやりと笑みを浮かべた。この男とコールは本当に苦手な相手だ。『嫌い』ではなく『苦手』。

「用件はそれだけか?」

 これ以上ここにいてもデメリットとしか生まれないと感じた颯空がそっけない口調で言った。

「そうだな……一応、ここをまとめる立場として、ギルド内でもめ事を起こさないよう諫めるのが仕事ではあるが、別にそれをしなくてもお前は騒ぎを起こすつもりなんてないだろ?」
「ねぇよ。あの髭ダルマみたいな奴が現れない限り、借りてきた猫みたいに大人しくしてるつもりだ。目立ちたくねぇからな」
「それだけ聞ければ十分だ。もう行っていいぞ」

 しっし、とハエを払うかのような仕草を見せるサガットに若干苛立ちを覚えつつも、颯空は何も言わずにギルド長室を後にした。



「はぁ……」

 笑顔がトレードマークの人気ナンバーワン受付嬢が、受付カウンターで頬杖を吐きつつ深い深いため息を吐く。その頭の中は、今朝ギルド長に呼び出された、自分を助けてくれた男のことでいっぱいだった。
 ここに出勤してすぐ、颯空が総ギルド長に呼び出された事を聞いた。あれだけの騒ぎを起こしたのだから当然の事ではあるのだが、それだけに責任を感じてしまう。

「はぁぁぁ……」

 先程よりも深淵に近いため息。正直、今日はまともに仕事ができる気がしない。こんな自分の姿を見たら、いつも頼ってくれる冒険者は他のカウンターに回ってくれるだろう。今日だけは、その優しさに甘えていたい。

「……おい」

 本当にあの髭ダルマは余計なことしかしない。前からそうだった。傲慢で不潔で不躾で。自分の後輩が何人泣かされてきたことか。ランクBだからと思って下手に出れば、俺様の女になれ、と付けあがって。鏡を見てから出直して来い。

「おい、パルム」

 そういえば、サガットが颯空を探していた。恐らく、昨日の一件だろう。あんな最低な男のせいで冒険者の称号を剥奪されでもしたら目も当てられない。自分も含め、受付嬢総出でサガットの下へ直談判しに行ったが、効果はあったのだろうか。不安で仕方がない。

「聞こえてないのか?」

 それにしても、あの時の颯空は本当にかっこよかった。猛獣のように暴れるクリプトンをまったく歯牙にもかけない強さ。その実力を頭で理解していたとはいえ、実際に目で見るとまるで違う。自分のために戦う姿は、まるで白馬の王子のように見えた。彼が帰った後、他の受付嬢が黄色い声を上げる気持ちも――。

「ぼーっとしてんじゃねぇよ。アホ受付が」
「誰がアホですか!! さっきからうるさいんですよ!! 今考え事をしているので放っておいてくださいっ!!」

 両手で机をバンッと叩き、目の前に立つ男を睨みつけた。その瞬間、パルムの時間が停止する。不機嫌そうな顔を一転、前に立っているのが颯空だと分かるとみるみる顔を赤くした。そして,、今自分が発した言葉を思い出し、信号機の如く赤から青へと瞬時に変わる。

「サ、サ、サ、サ、サクさん!? ど、どうしてここに!?」
「いつも通りだろうが」
「そ、そうですよね!」

 穴があったら入りたい、と生まれて初めて思った。ぎこちなく笑うパルムを見て、颯空が訝しげな顔になる。

「変なもんでも食ったのか?」
「た、食べてませんよ!!」
「まぁ、いいわ。それで? いくらだ?」
「へ?」

 颯空の言っている意味が分からず、パルムの目が点になった。

「へ、じゃねぇよ。あの壁の修理代はいくらになるかって聞いてんだよ」

 呆れ顔でみすぼらしい応急処置が施された壁を指さしながら颯空が言った。そこで初めて理解したパルムが慌てて両手を前に出し、ぶんぶんと左右に振る。

「あっ、だ、大丈夫です! 修理代なんていただきませんよ! あれは二人、というかクリプトンさんを止められなかった私達の責任です! だから、サクさんは気にしないでください!」
「いいのか? 結構派手に壊したぞ?」
「はい! 本当はクリプトンさんに請求したいところなんですけどね! もう関わりたくないので、ギルドの経費で落とします!」

 グッと握りこぶしを作るパルムを見て、颯空が僅かに口角を上げた。昨日の事を引きずっているのではないかと心配したが、ようやくいつもの調子に戻ったみたいだ。

「なら、用事は済んだな」
「ふえ? 依頼は受けられないのですか?」

 そのまま帰ろうとする颯空に、パルムが声をかける。冒険者になってから一日も欠かさずに依頼をこなしてきた颯空が依頼を受けずに帰るのは意外だった。

「今日は本調子じゃねぇからな。少し体を休める。別に一日くらい休んでも罰は……」
「サク様っ!!」

 突然後ろから声をかけられた颯空が振り返ると、そこには三人の受付嬢が立っていた。一人はさっきギルド長室まで自分を連れていった女で、あとの二人は顔を見た事がある程度だ。

「昨日は我らが女の敵を成敗していただきありがとうございました!!」
「かっこよかったですぅ~!!」
「素敵でした!!」
「あ、あぁ」

 一気に距離を詰めてくる三人組に後ずさりしながら颯空は答えた。

「是非お礼をしたいので、今度ギルド職員の女子会に参加してください!!」
「じょ、女子会?」
「できれば今日にでもっ!!」
「あー……悪いけど、今日は予定があるんだよ」
「そうですか……」

 あからさまに落胆する三人組に、戸惑いを隠せない颯空。助けを求めるようにパルムへ視線を向けると、パルムは何とも言えない顔でギルドの出口の方を見た。

「じゃ、じゃあ、帰るわ」
「はい! また明日お待ちしております!」
「えぇっ!? もう行ってしまわれるのですか!?」
「寂しいですぅ~!」
「もっとお話ししたいぃ!!」

 逃げるようにギルドから出ていった颯空の背中に追いすがろうとする三人組の脳天に、パルムは無言で手刀を叩き落す。

「こらぁぁぁ!! 三馬鹿!! サクさんに迷惑かけるな!!」
「先輩、痛いですぅ~!」

 頭をさすりながら涙目でパルムを見上げる三人組。そんな三人を見て、パルムは更に鼻息を荒くした。

「さっきみたいにサクさんを困らせるような真似は私が許しません!!」
「はい……」
「そもそもなんでここにいるんですか!? 自分達の持ち場がありますよね!?」
「憧れのサク様がいたのでつい……」
「ファンクラブの一員としては是非とも声をかけたいと……」
「あなた達三人がファンクラブを作るのは勝手ですけどね! 勤務時間内は仕事に集中しなさーい!!」
「ごめんなさい……」

 パルムの話を正座で聞き、三人組が反省の意を示す。その様を腕を組みながら見下ろしていたパルムが、少しだけ目をそらしながら、最後に一言付け加えた。

「……まぁでも、女子会にスバルさんを誘ったのはグッジョブです」

 少し照れ気味に言った先輩を見て、三人はぱぁ、っと顔を明るくする。

「先輩可愛いですぅ~!!」
「先輩も是非ファンクラブに入りましょうよ!!」
「私は…………は、入りません!! 早く仕事に戻りなさい!!」
「はーい」

 パルムにどやされ、それぞれのカウンターに戻っていく三人組。ファンクラブに入る事を迷ったのはパルムの中だけの秘密である。
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