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第二章 炎の山
22. 異変
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颯空が筋肉痛の体を引きずりながら冒険者ギルドへ向かっていた頃、『炎の山』の中腹辺りにクリプトンはやってきていた。本来であれば魔物大暴走が起こる直前という事で、山へ入る事は禁じられているのだが、監視の目をかいくぐり、なんとかここまでやってくる事ができた。
普段のようにふんぞり返りながらある事はしない。保護色になるようなマントを羽織り、息をひそめて移動していく。
「……ここら辺でいいだろ」
茂みに隠れ、一息ついたところでクリプトンは懐から黒い小箱を取り出した。これは昨夜出会った紺のローブを着た怪しげな女からもらったものだ。
「この'呪いの箱'ってやつを、魔物がたくさんいる場所で開ければ、その魔物達を自分が思い描いた相手に襲いかからせる事ができるんだったよな」
クリプトンが狂気に満ちた笑みを浮かべる。山に集まった魔物の数が例年の比ではない事を、ここに来るまでに自分の目で確認した。それらが一斉に襲い掛かれば、どんな相手でも死は避けられない。
「げはははは……死ねクソガキがぁぁぁぁ!!!!」
自分を破滅へと追い込んだ黒髪の新人冒険者を頭に思い浮かべながら、クリプトンは躊躇なく箱を開けた。その瞬間、山一つを飲み込むような大量の薄い煙が箱から噴き出し始める。その勢いに若干狼狽えつつも、これによってあの忌々しい男を葬り去る事ができる、とクリプトンはほくそ笑んだ。
「こ、これで……ん?」
何かの気配を感じて振り向いた先に、ゴブリンが立っていた。Fランクの下級モンスター。普段であれば相手にもしない小物の魔物であるのだが今日はそうはいかなかった。じっとこちらを白目でうかがっているゴブリンの血管は膨張して浮き上がっており、低い唸り声をあげている口からは涎が垂れている。
「な、なんだこいつ?」
明らかに様子のおかしいゴブリンに、クリプトンがその場で後ずさりをする。だが、またしても不穏な気配を感じたクリプトンは慌てて周囲を見回した。いつの間にやら、数十匹の魔物に取り囲まれている。しかも、全員があのゴブリンと同じように普通ではない。
「そ、そうか! お前らがあのガキを殺す魔物だな! よ、よし! あいつは街にいる! さっさと行って殺して来い!!」
不気味に思いながらもなんとか虚勢を張りつつ、クリプトンが街の方角を指さした。
ガチンッ。
「……へ?」
一瞬、何が起こったのかわからず、クリプトンが間の抜けた声を上げる。気づけば、ゴブリン同様低ランクの魔物であるホワイトウルフが、近くで口元から血を滴り落としていた。そこで初めて自分の腕の違和感に気づいたクリプトンが緩慢な動きで視線を向ける。肘から先がなくなっており、そこから噴水のように血が噴き出していた。
「あ、が!! お、俺の腕がぁぁぁぁぁぁ!!」
クリプトンは噛みちぎられた腕を抑えながら、地面を転げまわる。ホワイトウルフ如きの攻撃に気づかず、あろうことか腕を持っていかれるなんて、絶対にありえない。おかしい、おかしすぎる。
「お、お前ら!! あ、あのガキを殺すんじゃねぇのかよ!!」
クリプトンがおびえた表情を浮かべながら魔物達に向かって叫ぶが、まるで反応を示さない。完全に自我を失った彼らの目には、クリプトンが美味しそうな肉塊にしか映っていなかった。
「まさか……あのくそアマ、だましやがったのか!?」
これを使えば誰でも簡単に殺せるとあの女は言っていた。自分の手を汚さず復讐を果たせると。それを信じてここまで来たというのに。
「くそ!! くそぉぉぉ!! この俺様が……こんなところで……こんなところでぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
魔物達はやかましく騒ぎたてる目の前の’餌’に向けて一斉に動き出す。その動きに一切の迷いはない。
何かを咀嚼する音が響き渡ったのも束の間、森にはまた静寂が広がった。
*
「……魔物達の様子がおかしい?」
自分の部屋でギルドスタッフの観測チームから話を聞いていたサガットが眉をひそめた。今夜にでも魔物大暴走が起こるという報告自体は別段驚く事でもなかったのだが、問題はその後に受けたものだった。
「遠目で確認しただけなので確かな事は言えませんが……繁殖期で狂暴化したというよりは、どちらかというと正気を失っているという感じがしました」
「ふむ……」
サガットが顎髭をなぞる。自分がギルド長になってから何度も魔物大暴走の脅威に見舞われてはいるが、そんな報告は初めてだった。
「今回はこれまでよりも魔物の数が多いという話だったな」
「はい。フェルティリーダの森からモントホルンへ流れ込んだのが原因で、そうなったのだと思われます」
フェルティリーダの森は『恵みの森』の正式名称だ。王国騎士団が調査に出る事となった異変の影響が、こういう形でガンドラにも及んでいた。
「それに加えて魔物の異変か……」
「はっきり言って看過できる問題ではありません。……ここは『完全封鎖』をすべきかと思います」
観測係の提案に、サガットが渋い顔を見せる。
「……それほどの緊急事態か」
「決して軽視していい状況ではないかと」
神妙な面持ちで観測係が答えた。サガットは考えを巡らせながらゆっくりと背もたれに寄り掛かる。
「……あれをすると市民の不安を煽る事になる、とローゼンバーグ卿にどやされるんだがな。致し方あるまい」
「市民の命には代えられません」
「わかっている。余り猶予もないという事で、早速これから『完全封鎖』の体制に」
バーンッ!!
方針が決まりかけたところで、ギルド長室の扉が乱暴に開かれた。自然と、サガットと観測係の視線がそちらへと向く。そこには真剣な表情の颯空と、狼狽している受付嬢のパルムの姿があった。
「……なんだお前は? 今、大事な話をしているところなんだ。早急に立ち去れ」
「そ、そうですよ! まずいですってサクさん……!!」
颯空を知らない観測係の男が冷たい声で言い放つ。だが、颯空は男に目もくれず、必死に引き止めるパルムの手を振り払ってサガットの前に立った。
「おっさん、理由を聞かずに街を出る許可をくれ」
「なっ……!?」
あまりの口ぶりに観測係の男が目を見開く。パルムが顔を押さえて下を向いた。そんな彼女にサガットが目で合図を送ると、パルムは心配そうな顔で颯空を一瞥し、自分の持ち場へと戻っていく。
パルムがいなくなったところで、観測係の男が険しい顔を颯空へと向けた。
「お、お前この人を誰だと思ってるんだ!? 全ての冒険者ギルドを取り仕切るサガット総ギルド長だぞ!? それをおっさん呼びとは……しかも、街から出たいだと!? 状況がわかってるのか!?」
「魔物大暴走だろ? わかってるよ。だから、来たんだ」
「ふ、ふざけるな! わかってるなら今すぐ他の冒険者に倣って魔物大暴走に備えろ!!」
声を荒げる観測係の男の言葉に、颯空が小さくため息を吐く。自分が非常識なのは百も承知だ。だが、それを気にしている余裕はない。申し訳ない話ではあるが、強引な手を取らざるを得なかった。
「おい! 聞いているのか!? お前は……!!」
「悪い。少し黙っててくれ」
その言葉と共に、颯空が溢れんばかりに魔力を解き放つ。まだ魔力不全の影響で完全には魔力を練り上げられないものの、観測係の男を黙らせるには十分だった。
横やりが入らない事を確認した颯空が再びサガットの方へ向き直る。
「……今回は普段とは違う。とはいっても、ここ最近、この街へ来たお前にはわからない話ではあるがな」
「何が違うんだ?」
「通常であれば、各門を閉鎖し、街から出る事を禁じるのだが、今回に限っては俺自らが防護壁を張る。そうなると、南門以外からは物理的に街へに出入りができなくなってしまうぞ」
「ってことは、おっさんが防護壁を張る前ならまだ街から出られるってわけだよな?」
「……まぁ、そういう事だな」
サガットが渋々といった感じで答えた。
「だったら、さっさと許可を」
「お前が街を出る事は認められない」
颯空の目をまっすぐに見ながらサガットは言い放った。颯空の顔が僅かに歪む。
「……なんでだ?」
「今朝言っただろう? お前にはBランク冒険者が抜けた穴を埋めてもらう、と。魔物大暴走が起こった今、お前はこの街における最大戦力だ。いなくなってもらっては困る」
観測係の男が驚いた顔でサガットの方を見た。こんな名も知れない者を、冒険者ギルドの頂点に立つ男が最大戦力だと認めた。さきほどの規格外の魔力といい、この男は一体何者だというのか。
「……要は群がってる魔物が問題なんだろ?」
しばらく考えた後、颯空が静かな声で言った。
「俺はこれから『炎の山』へと向かうつもりだ。その道中、目にした魔物は蹴散らす」
「は? な、何を言っているんだ……!?」
「…………」
あまりに荒唐無稽な言葉に、観測係の男は颯空の正気を疑う。だが、サガットは真面目な顔で聞いていた。
「……今回の魔物は様子がおかしいと報告を受けているが?」
「関係ねぇ。邪魔するものは排除するだけだ」
何の迷いもなく言い切る颯空に、サガットは大きくため息を吐く。
「……一匹でも多く魔物を仕留めろ。それが条件だ」
「ギ、ギルド長!?」
「言われるまでもねぇよ」
颯空の答えを聞いたサガットは、手早く許可証を作り、颯空に渡した。それを受け取った颯空は脇目も振らずにギルド長室から出ていく。
「い、いいのですか!?」
颯空がいなくなるや否や、観測係の男が慌ててサガットに詰め寄った。当の本人は引き出しから葉巻を取り出し、呑気に火をつける。
「心配するな。『完全封鎖』は行う」
「い、いえ……それを心配しているわけではないのですが……!!」
「あいつは約束を破るような男ではない。片っ端から魔物を倒していくだろう。俺達はあいつが仕留めそこなった魔物をゆっくり始末すればいい。至急、全ての冒険者を南門へ集めろ」
「わ、わかりました……」
納得できないとはいえ、総ギルド長に命じられば首を縦に振る事しかできない。ゆっくりと紫煙をくゆらせるサガットに頭を下げ、観測者の男は足早にギルド長室を後にした。
普段のようにふんぞり返りながらある事はしない。保護色になるようなマントを羽織り、息をひそめて移動していく。
「……ここら辺でいいだろ」
茂みに隠れ、一息ついたところでクリプトンは懐から黒い小箱を取り出した。これは昨夜出会った紺のローブを着た怪しげな女からもらったものだ。
「この'呪いの箱'ってやつを、魔物がたくさんいる場所で開ければ、その魔物達を自分が思い描いた相手に襲いかからせる事ができるんだったよな」
クリプトンが狂気に満ちた笑みを浮かべる。山に集まった魔物の数が例年の比ではない事を、ここに来るまでに自分の目で確認した。それらが一斉に襲い掛かれば、どんな相手でも死は避けられない。
「げはははは……死ねクソガキがぁぁぁぁ!!!!」
自分を破滅へと追い込んだ黒髪の新人冒険者を頭に思い浮かべながら、クリプトンは躊躇なく箱を開けた。その瞬間、山一つを飲み込むような大量の薄い煙が箱から噴き出し始める。その勢いに若干狼狽えつつも、これによってあの忌々しい男を葬り去る事ができる、とクリプトンはほくそ笑んだ。
「こ、これで……ん?」
何かの気配を感じて振り向いた先に、ゴブリンが立っていた。Fランクの下級モンスター。普段であれば相手にもしない小物の魔物であるのだが今日はそうはいかなかった。じっとこちらを白目でうかがっているゴブリンの血管は膨張して浮き上がっており、低い唸り声をあげている口からは涎が垂れている。
「な、なんだこいつ?」
明らかに様子のおかしいゴブリンに、クリプトンがその場で後ずさりをする。だが、またしても不穏な気配を感じたクリプトンは慌てて周囲を見回した。いつの間にやら、数十匹の魔物に取り囲まれている。しかも、全員があのゴブリンと同じように普通ではない。
「そ、そうか! お前らがあのガキを殺す魔物だな! よ、よし! あいつは街にいる! さっさと行って殺して来い!!」
不気味に思いながらもなんとか虚勢を張りつつ、クリプトンが街の方角を指さした。
ガチンッ。
「……へ?」
一瞬、何が起こったのかわからず、クリプトンが間の抜けた声を上げる。気づけば、ゴブリン同様低ランクの魔物であるホワイトウルフが、近くで口元から血を滴り落としていた。そこで初めて自分の腕の違和感に気づいたクリプトンが緩慢な動きで視線を向ける。肘から先がなくなっており、そこから噴水のように血が噴き出していた。
「あ、が!! お、俺の腕がぁぁぁぁぁぁ!!」
クリプトンは噛みちぎられた腕を抑えながら、地面を転げまわる。ホワイトウルフ如きの攻撃に気づかず、あろうことか腕を持っていかれるなんて、絶対にありえない。おかしい、おかしすぎる。
「お、お前ら!! あ、あのガキを殺すんじゃねぇのかよ!!」
クリプトンがおびえた表情を浮かべながら魔物達に向かって叫ぶが、まるで反応を示さない。完全に自我を失った彼らの目には、クリプトンが美味しそうな肉塊にしか映っていなかった。
「まさか……あのくそアマ、だましやがったのか!?」
これを使えば誰でも簡単に殺せるとあの女は言っていた。自分の手を汚さず復讐を果たせると。それを信じてここまで来たというのに。
「くそ!! くそぉぉぉ!! この俺様が……こんなところで……こんなところでぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
魔物達はやかましく騒ぎたてる目の前の’餌’に向けて一斉に動き出す。その動きに一切の迷いはない。
何かを咀嚼する音が響き渡ったのも束の間、森にはまた静寂が広がった。
*
「……魔物達の様子がおかしい?」
自分の部屋でギルドスタッフの観測チームから話を聞いていたサガットが眉をひそめた。今夜にでも魔物大暴走が起こるという報告自体は別段驚く事でもなかったのだが、問題はその後に受けたものだった。
「遠目で確認しただけなので確かな事は言えませんが……繁殖期で狂暴化したというよりは、どちらかというと正気を失っているという感じがしました」
「ふむ……」
サガットが顎髭をなぞる。自分がギルド長になってから何度も魔物大暴走の脅威に見舞われてはいるが、そんな報告は初めてだった。
「今回はこれまでよりも魔物の数が多いという話だったな」
「はい。フェルティリーダの森からモントホルンへ流れ込んだのが原因で、そうなったのだと思われます」
フェルティリーダの森は『恵みの森』の正式名称だ。王国騎士団が調査に出る事となった異変の影響が、こういう形でガンドラにも及んでいた。
「それに加えて魔物の異変か……」
「はっきり言って看過できる問題ではありません。……ここは『完全封鎖』をすべきかと思います」
観測係の提案に、サガットが渋い顔を見せる。
「……それほどの緊急事態か」
「決して軽視していい状況ではないかと」
神妙な面持ちで観測係が答えた。サガットは考えを巡らせながらゆっくりと背もたれに寄り掛かる。
「……あれをすると市民の不安を煽る事になる、とローゼンバーグ卿にどやされるんだがな。致し方あるまい」
「市民の命には代えられません」
「わかっている。余り猶予もないという事で、早速これから『完全封鎖』の体制に」
バーンッ!!
方針が決まりかけたところで、ギルド長室の扉が乱暴に開かれた。自然と、サガットと観測係の視線がそちらへと向く。そこには真剣な表情の颯空と、狼狽している受付嬢のパルムの姿があった。
「……なんだお前は? 今、大事な話をしているところなんだ。早急に立ち去れ」
「そ、そうですよ! まずいですってサクさん……!!」
颯空を知らない観測係の男が冷たい声で言い放つ。だが、颯空は男に目もくれず、必死に引き止めるパルムの手を振り払ってサガットの前に立った。
「おっさん、理由を聞かずに街を出る許可をくれ」
「なっ……!?」
あまりの口ぶりに観測係の男が目を見開く。パルムが顔を押さえて下を向いた。そんな彼女にサガットが目で合図を送ると、パルムは心配そうな顔で颯空を一瞥し、自分の持ち場へと戻っていく。
パルムがいなくなったところで、観測係の男が険しい顔を颯空へと向けた。
「お、お前この人を誰だと思ってるんだ!? 全ての冒険者ギルドを取り仕切るサガット総ギルド長だぞ!? それをおっさん呼びとは……しかも、街から出たいだと!? 状況がわかってるのか!?」
「魔物大暴走だろ? わかってるよ。だから、来たんだ」
「ふ、ふざけるな! わかってるなら今すぐ他の冒険者に倣って魔物大暴走に備えろ!!」
声を荒げる観測係の男の言葉に、颯空が小さくため息を吐く。自分が非常識なのは百も承知だ。だが、それを気にしている余裕はない。申し訳ない話ではあるが、強引な手を取らざるを得なかった。
「おい! 聞いているのか!? お前は……!!」
「悪い。少し黙っててくれ」
その言葉と共に、颯空が溢れんばかりに魔力を解き放つ。まだ魔力不全の影響で完全には魔力を練り上げられないものの、観測係の男を黙らせるには十分だった。
横やりが入らない事を確認した颯空が再びサガットの方へ向き直る。
「……今回は普段とは違う。とはいっても、ここ最近、この街へ来たお前にはわからない話ではあるがな」
「何が違うんだ?」
「通常であれば、各門を閉鎖し、街から出る事を禁じるのだが、今回に限っては俺自らが防護壁を張る。そうなると、南門以外からは物理的に街へに出入りができなくなってしまうぞ」
「ってことは、おっさんが防護壁を張る前ならまだ街から出られるってわけだよな?」
「……まぁ、そういう事だな」
サガットが渋々といった感じで答えた。
「だったら、さっさと許可を」
「お前が街を出る事は認められない」
颯空の目をまっすぐに見ながらサガットは言い放った。颯空の顔が僅かに歪む。
「……なんでだ?」
「今朝言っただろう? お前にはBランク冒険者が抜けた穴を埋めてもらう、と。魔物大暴走が起こった今、お前はこの街における最大戦力だ。いなくなってもらっては困る」
観測係の男が驚いた顔でサガットの方を見た。こんな名も知れない者を、冒険者ギルドの頂点に立つ男が最大戦力だと認めた。さきほどの規格外の魔力といい、この男は一体何者だというのか。
「……要は群がってる魔物が問題なんだろ?」
しばらく考えた後、颯空が静かな声で言った。
「俺はこれから『炎の山』へと向かうつもりだ。その道中、目にした魔物は蹴散らす」
「は? な、何を言っているんだ……!?」
「…………」
あまりに荒唐無稽な言葉に、観測係の男は颯空の正気を疑う。だが、サガットは真面目な顔で聞いていた。
「……今回の魔物は様子がおかしいと報告を受けているが?」
「関係ねぇ。邪魔するものは排除するだけだ」
何の迷いもなく言い切る颯空に、サガットは大きくため息を吐く。
「……一匹でも多く魔物を仕留めろ。それが条件だ」
「ギ、ギルド長!?」
「言われるまでもねぇよ」
颯空の答えを聞いたサガットは、手早く許可証を作り、颯空に渡した。それを受け取った颯空は脇目も振らずにギルド長室から出ていく。
「い、いいのですか!?」
颯空がいなくなるや否や、観測係の男が慌ててサガットに詰め寄った。当の本人は引き出しから葉巻を取り出し、呑気に火をつける。
「心配するな。『完全封鎖』は行う」
「い、いえ……それを心配しているわけではないのですが……!!」
「あいつは約束を破るような男ではない。片っ端から魔物を倒していくだろう。俺達はあいつが仕留めそこなった魔物をゆっくり始末すればいい。至急、全ての冒険者を南門へ集めろ」
「わ、わかりました……」
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