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第二話 僕と吉川さんは婚約者!?
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「お嬢様、皆様、学校に到着いたしました」
助手席のレミさんがそう伝えてくると、吉川さんがサッと僕の腕から離れた。
やっぱ臭かったのかなぁ……
嫌われちゃったかなぁ……
両側のドアが開き、ひなは右側から、吉川さんは左側から車を降りた。僕がひなと同じく右側から降りようとしたとき、右側のドアが閉められた。右側のドアを閉めた運転していた背中までまっすぐに伸ばした黒い髪のやっぱり黒のスーツを来た女の人が「左から降りろ」と目で合図してきたので、仕方なく左側から降りた。
先に降りていたひなは運転手の黒髪の女性に目がずっと向いている。もしかして、女同士の方に行っちゃうのか?
車を左のドアから降りた僕はというと、背伸びする間もなく左腕を吉川さんに組まれていた。かすかに腕に当たる柔らかな感触が、僕の視線を釘付けにしている。柔らかい感触の源である吉川さんのその胸は、控えめでもなく、かと言って大きすぎることもなく、吉川さんにピッタリのサイズに見える。と言っても服の上からだから実際はどれくらいあるのかはわからない。けど、この柔らかい感触はやっぱり気持ち良い。
なんて考えたらひなが僕を睨んでた。もしかして鼻の下伸びてた?
なんて思ってたら、左側からクスクスと小さな笑い声が聞こえてきたので左を見てみると、吉川さんが顔を真っ赤にして笑ってた。吉川さんが笑うとこんな感じなんだ。なんかすごく得した気分!
「お兄ちゃん、予鈴まで十分しかないよ!」
ひなが校舎裏の通用口で僕たちを呼んでる。
やばい、急がないと!
吉川さんに目で合図して、二人で通用口まで走り上履きに履き替えると、レミさんがひなの分も含めて僕たちの靴を靴箱に閉まっておいてくれるとのことなので、ここは甘えておくことにした。
だけど、レミさんやあの運転手の人って一体何者なんだろう?――考えても仕方ないからこれを考えるのは後回し。
教室が一階のひなと階段で別れて、僕と吉川さんは教室に急いだ。吉川さんに廊下を走らせるわけには行かないので、なるべく急いで、でも走らない程度で教室に向かう。B組の教室が見えて、その次が僕たちのA組の教室。
教室に入ろうと扉に手をかけた時に、突然吉川さんに引っ張られた。その反動で僕は後ろに倒れそうになるのをなんとかこらえたところで、吉川さんに右頬にキスされた。
何が起こったのか目をパチクリさせてると、クラスの扉が開いて、吉川さんは女子に囲まれ、僕は男子に詰め寄られる事に。
「ねえ成川くん、今のはどういう事なのか説明してもらおうか?」
と僕に凄んできたのは、クラスの中でも最も吉川さんが大好きだと公言している、サッカー部副主将の戸川彰。まぁクラスでは一番モテる男子。対して僕は全く持てない男子代表。
そりゃ凄まれるよねと思ってたら、女子から黄色い声が上がった。なんだなんだと男子もそちらへ移動する、とそこへ担任で現国教師の菅原あかね先生がきた。
「ほらほら、お前らさっさと席につけ!もうボームルームの鐘鳴ってんぞ!」
菅原先生、なんでも昔は泣く子も黙るレディースのリーダーをやってたらしく、今でもその時の口調が出るときがある。それが今のようにチャイムが鳴ってるのに生徒が騒いでるときや、理不尽に反発してくる生徒が出たとき。
そして、菅原先生の目が廊下の端っこまで追い詰められていた僕に向いた。
「お、なんだ成川が今回の原因か?珍しいな」
と、僕の肩に左腕を回してくる菅原先生。菅原先生、美人だし背も高いしスタイルも良いから普通にしてるときはモデルさんみたいに見えるときとあるんだけど、今はちょっと悪戯っ子のような表情で、赤いスーツにタイトな膝上までのスカート、そこから伸びる引き締まった足には茶色のストッキングに包まれて、肩上で揃えた髪を頭を振って奥へやった先生はニヤリと笑って、
「大人しいからちょっと心配してたんだけど、成川もやるときはやるんだなとアタシは安心したよ」
と豪快に笑いながら僕の肩をバンバン叩く。ちょっと痛いんだけど、先生が笑うとすごいドキッとする。先生の匂いは吉川さんとはまた違った大人の女性の匂いというか、化粧品の匂いなのかな。
と教室を見たら吉川さんと目があった。吉川さん、少し頬を膨らませてムッとしてる。これはやばいかも。
「せ、先生。ホームルームですよね、教室戻らなきゃ」
「おっとそうだった!ま、成川ももう少し自分に自信持った方が良いぞ。いいもん持ってんだから」
先生はそう言って教室に戻っていく。
――せんせい、いいもん持ってるってなんのことですか?――
「コラァ、成川!さっさと教室に入れ!」
という菅原先生の声に、教室内は爆笑。
先生、それはあまりに理不尽だよ――
☆☆☆
「――アッバース朝で製紙文化が伝わったのは唐の捕虜から教わった。ここ試験に出すぞー。チェックしとけよー」
世界史の白髪の「お茶の水博士」という渾名を持つ板倉先生がそういったところで、四時限目終了のチャイムがなった。
「今日はここまで。今日はみんな目が血走っとるぞ。勉強は大事だがたまには休息も取れよ」
と、板倉先生がずいぶんと勘違いしたことを言い授業が終わる。今日の日直が「起立」「礼」と、いつもの儀式をやり終えて板倉先生がクラスからいなくなった途端、男子の目がまるで肉食獣が獲物を捉えたように変わり、教室の前側の席な僕はすぐに教壇まで追い詰められる。これまでかと思ったその時、誰かに左腕を引っ張られた。そこには女子が集まって吉川さんを守るように陣取っている。
突然獲物を失った男子たちは僕の前に陣取った赤い縁の眼鏡と左右のおさげが特徴のクラス委員長の宮崎栞さんに詰め寄る形になる。
「おい委員長、成川を渡せ!」
柔道部で体は大きいが喧嘩っ早い矢野大介君が委員長に凄んで詰め寄るけど委員長は一歩も引かない。二人がバチバチとにらみ合いをしている間に、僕は女子たちに腕と体を引かれて入り口のドアのところにいる吉川さんのところまで引かれていった。
ちょうどドアだから背を低くして出ればバレないだろう……。
「矢野、成川が吉川と逃げるぞ!」
卓球部の田中誠君にバレた。さすが全国大会優勝者。あんな小さいピンポン玉を目で追ってるだけあって目はいいんだよね。どうするかなあ。
色々思案していると女子が教室の二つのドアを占拠したようで、男子が出れないと騒いている。
「男子、いい加減に吉川さんは諦めなさい!吉川さんは成川くんと婚約したのよ!二人の幸せをアンタたちには絶対邪魔させないんだから!」
吹奏楽部だからなのか、それとも元々声が大きいのか、委員長の声が教室を超えて廊下まで響いた。
い、委員長……それはあまりに恥ずかしいというか、僕たち婚約したことになるの?
目が点になってる子は僕だけではなくクラスの男子や廊下に出てた他のクラスの生徒達、そしてC組から出てきたばかりの菅原先生。
そして次の瞬間、男子たちの「何イィッッ!」という声と女子たちの「キャーッッ!」という黄色い悲鳴が二階の校舎に木霊した。
あ、こりゃ本気で逃げなきゃマジでヤバそう。
僕は吉川さんの手を引いて走り出そうとしたけど吉川さんが足をもつれさせたので、僕はそのまま吉川さんをお姫様抱っこする。吉川さんの「キャッ」という悲鳴か驚きの声かを上げるけど、今はそんなことに構ってる余裕はないのでそのまま走って逃げ出した。
「よ、吉川くん、どこに行くの?」
「喋らないで舌噛むよ」
「うん。あ、講堂裏に行って」
「わかった。しっかり捕まってて」
「うん!」
吉川さんが僕の首に手を回してぎゅっと捕まってくる。とりあえず吉川さんの言う講堂裏に行こう。
走り出した僕に菅原先生が何か言ってきたようだけど、よく聞こえなかった。とりあえずお叱りは後でちゃんと聞きますから今は見逃して!
助手席のレミさんがそう伝えてくると、吉川さんがサッと僕の腕から離れた。
やっぱ臭かったのかなぁ……
嫌われちゃったかなぁ……
両側のドアが開き、ひなは右側から、吉川さんは左側から車を降りた。僕がひなと同じく右側から降りようとしたとき、右側のドアが閉められた。右側のドアを閉めた運転していた背中までまっすぐに伸ばした黒い髪のやっぱり黒のスーツを来た女の人が「左から降りろ」と目で合図してきたので、仕方なく左側から降りた。
先に降りていたひなは運転手の黒髪の女性に目がずっと向いている。もしかして、女同士の方に行っちゃうのか?
車を左のドアから降りた僕はというと、背伸びする間もなく左腕を吉川さんに組まれていた。かすかに腕に当たる柔らかな感触が、僕の視線を釘付けにしている。柔らかい感触の源である吉川さんのその胸は、控えめでもなく、かと言って大きすぎることもなく、吉川さんにピッタリのサイズに見える。と言っても服の上からだから実際はどれくらいあるのかはわからない。けど、この柔らかい感触はやっぱり気持ち良い。
なんて考えたらひなが僕を睨んでた。もしかして鼻の下伸びてた?
なんて思ってたら、左側からクスクスと小さな笑い声が聞こえてきたので左を見てみると、吉川さんが顔を真っ赤にして笑ってた。吉川さんが笑うとこんな感じなんだ。なんかすごく得した気分!
「お兄ちゃん、予鈴まで十分しかないよ!」
ひなが校舎裏の通用口で僕たちを呼んでる。
やばい、急がないと!
吉川さんに目で合図して、二人で通用口まで走り上履きに履き替えると、レミさんがひなの分も含めて僕たちの靴を靴箱に閉まっておいてくれるとのことなので、ここは甘えておくことにした。
だけど、レミさんやあの運転手の人って一体何者なんだろう?――考えても仕方ないからこれを考えるのは後回し。
教室が一階のひなと階段で別れて、僕と吉川さんは教室に急いだ。吉川さんに廊下を走らせるわけには行かないので、なるべく急いで、でも走らない程度で教室に向かう。B組の教室が見えて、その次が僕たちのA組の教室。
教室に入ろうと扉に手をかけた時に、突然吉川さんに引っ張られた。その反動で僕は後ろに倒れそうになるのをなんとかこらえたところで、吉川さんに右頬にキスされた。
何が起こったのか目をパチクリさせてると、クラスの扉が開いて、吉川さんは女子に囲まれ、僕は男子に詰め寄られる事に。
「ねえ成川くん、今のはどういう事なのか説明してもらおうか?」
と僕に凄んできたのは、クラスの中でも最も吉川さんが大好きだと公言している、サッカー部副主将の戸川彰。まぁクラスでは一番モテる男子。対して僕は全く持てない男子代表。
そりゃ凄まれるよねと思ってたら、女子から黄色い声が上がった。なんだなんだと男子もそちらへ移動する、とそこへ担任で現国教師の菅原あかね先生がきた。
「ほらほら、お前らさっさと席につけ!もうボームルームの鐘鳴ってんぞ!」
菅原先生、なんでも昔は泣く子も黙るレディースのリーダーをやってたらしく、今でもその時の口調が出るときがある。それが今のようにチャイムが鳴ってるのに生徒が騒いでるときや、理不尽に反発してくる生徒が出たとき。
そして、菅原先生の目が廊下の端っこまで追い詰められていた僕に向いた。
「お、なんだ成川が今回の原因か?珍しいな」
と、僕の肩に左腕を回してくる菅原先生。菅原先生、美人だし背も高いしスタイルも良いから普通にしてるときはモデルさんみたいに見えるときとあるんだけど、今はちょっと悪戯っ子のような表情で、赤いスーツにタイトな膝上までのスカート、そこから伸びる引き締まった足には茶色のストッキングに包まれて、肩上で揃えた髪を頭を振って奥へやった先生はニヤリと笑って、
「大人しいからちょっと心配してたんだけど、成川もやるときはやるんだなとアタシは安心したよ」
と豪快に笑いながら僕の肩をバンバン叩く。ちょっと痛いんだけど、先生が笑うとすごいドキッとする。先生の匂いは吉川さんとはまた違った大人の女性の匂いというか、化粧品の匂いなのかな。
と教室を見たら吉川さんと目があった。吉川さん、少し頬を膨らませてムッとしてる。これはやばいかも。
「せ、先生。ホームルームですよね、教室戻らなきゃ」
「おっとそうだった!ま、成川ももう少し自分に自信持った方が良いぞ。いいもん持ってんだから」
先生はそう言って教室に戻っていく。
――せんせい、いいもん持ってるってなんのことですか?――
「コラァ、成川!さっさと教室に入れ!」
という菅原先生の声に、教室内は爆笑。
先生、それはあまりに理不尽だよ――
☆☆☆
「――アッバース朝で製紙文化が伝わったのは唐の捕虜から教わった。ここ試験に出すぞー。チェックしとけよー」
世界史の白髪の「お茶の水博士」という渾名を持つ板倉先生がそういったところで、四時限目終了のチャイムがなった。
「今日はここまで。今日はみんな目が血走っとるぞ。勉強は大事だがたまには休息も取れよ」
と、板倉先生がずいぶんと勘違いしたことを言い授業が終わる。今日の日直が「起立」「礼」と、いつもの儀式をやり終えて板倉先生がクラスからいなくなった途端、男子の目がまるで肉食獣が獲物を捉えたように変わり、教室の前側の席な僕はすぐに教壇まで追い詰められる。これまでかと思ったその時、誰かに左腕を引っ張られた。そこには女子が集まって吉川さんを守るように陣取っている。
突然獲物を失った男子たちは僕の前に陣取った赤い縁の眼鏡と左右のおさげが特徴のクラス委員長の宮崎栞さんに詰め寄る形になる。
「おい委員長、成川を渡せ!」
柔道部で体は大きいが喧嘩っ早い矢野大介君が委員長に凄んで詰め寄るけど委員長は一歩も引かない。二人がバチバチとにらみ合いをしている間に、僕は女子たちに腕と体を引かれて入り口のドアのところにいる吉川さんのところまで引かれていった。
ちょうどドアだから背を低くして出ればバレないだろう……。
「矢野、成川が吉川と逃げるぞ!」
卓球部の田中誠君にバレた。さすが全国大会優勝者。あんな小さいピンポン玉を目で追ってるだけあって目はいいんだよね。どうするかなあ。
色々思案していると女子が教室の二つのドアを占拠したようで、男子が出れないと騒いている。
「男子、いい加減に吉川さんは諦めなさい!吉川さんは成川くんと婚約したのよ!二人の幸せをアンタたちには絶対邪魔させないんだから!」
吹奏楽部だからなのか、それとも元々声が大きいのか、委員長の声が教室を超えて廊下まで響いた。
い、委員長……それはあまりに恥ずかしいというか、僕たち婚約したことになるの?
目が点になってる子は僕だけではなくクラスの男子や廊下に出てた他のクラスの生徒達、そしてC組から出てきたばかりの菅原先生。
そして次の瞬間、男子たちの「何イィッッ!」という声と女子たちの「キャーッッ!」という黄色い悲鳴が二階の校舎に木霊した。
あ、こりゃ本気で逃げなきゃマジでヤバそう。
僕は吉川さんの手を引いて走り出そうとしたけど吉川さんが足をもつれさせたので、僕はそのまま吉川さんをお姫様抱っこする。吉川さんの「キャッ」という悲鳴か驚きの声かを上げるけど、今はそんなことに構ってる余裕はないのでそのまま走って逃げ出した。
「よ、吉川くん、どこに行くの?」
「喋らないで舌噛むよ」
「うん。あ、講堂裏に行って」
「わかった。しっかり捕まってて」
「うん!」
吉川さんが僕の首に手を回してぎゅっと捕まってくる。とりあえず吉川さんの言う講堂裏に行こう。
走り出した僕に菅原先生が何か言ってきたようだけど、よく聞こえなかった。とりあえずお叱りは後でちゃんと聞きますから今は見逃して!
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